Search results for:

写真をメディウム(媒体)としたアートとファッションのフュージョン(融合)に挑戦するヴィジュアルマガジン『アートフュージョン 01』

20140314artfusion

アートビートパブリッシャーズが編集を担当する新しいヴィジュアル・マガジン、『ART FUSION(アートフュージョン)』が創刊する。
『ART FUSION』は、フォトアートを中軸にファッションとアートを積極的にフュージョン(融合)させるマガジン。世界の最先端で活躍するアーティスト/フォトグラファー/ファッションデザイナーやブランドなどをフューチャーし、、2010年代後半のイメージ・クリエーションのトレンド・セッターを目指している。

創刊号となる01号では、鈴木親×真鍋大度(ライゾマティクス)、篠山紀信×金森穣(ノイズム) 、小山泰介×名和晃平等、様々なアートのジャンルを牽引するアーティストたちがコラボレーションを繰り広げていく。

はたしてどのようなクリエーションが生まれるのか、楽しみにしたいマガジンだ。

現在、リトルモアウェブサイトより予約が可能となっている。

ほか最新情報は公式Facebookページにて。



創刊号中面イメージ

sample


創刊号アーティスト・ラインナップ

[ 鈴木親×真鍋大度(ライゾマティクス) ]
テクノポップユニットPerfumeのプロジェクトで、文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門の受賞はじめ、国内外で高い評価を得たライゾマティクス。
ライゾマティクスの真鍋大度が3Dスキャンデータ化した女優・福島リラの動きを、写真家・鈴木親がモード・フォトグラフィーに封印する。

[ 篠山紀信×金森穣(ノイズム) ]
写真界の巨人・篠山紀信が、「全ての瞬間が完璧な美しさ」と讃える、金森のダンスと金森率いるダンスカンパニーNoismの舞台をとらえた、濃密なコラボレーション。

[ 小山泰介×名和晃平 ]
若手写真界を代表する写真家・小山泰介と、国際的な活躍も目覚ましい現代彫刻家/アーティスト・名和晃平。2011年の初コラボレーション作品「SANDWICH Textures」の続編となる作品を発表。

その他、ヴィヴィアン・サッセン / マイ・チュー・ペレ / オノデラユキ×森永邦彦(アンリアレイジ) / 横田
大輔 / イナ・ジャン / タイヨー・オノラト&ニコ・クレブス / ベッティナ・ランス 等



Information

Artfusion
https://www.facebook.com/artfusionmagazine

定価:本体2000円(+税) ISBN 978-4-89815-385-7
B4変型(265mm×333mm)/103ページ/日英バイリンガル
編集=アートビートパブリッシャーズ// 発行=大伸社// 発売=リトルモア
ISBN 978-4-89815-385-7

初版 2014年3月28日発行
エディトリアル ディレクション:後藤繁雄
エディター:後藤繁雄 + 深井佐和子
エディトリアル スタッフ:佐藤友莉 後藤桜子 趙知海 小池アイ子
アートディレクション:functive
グラフィック・テクスチャー:名和晃平                                    デジタル・タイポグラフィ:真鍋大度

シーンを切りひらくデジタルアーティストたちが集結!
Super Flying Tokyo カンファレンス・レポート vol.1

20140224_sft_0013

「Flying Tokyo」といえば、CBCNET読者にはおなじみ、ライゾマティクス真鍋大度が中心となり、親交の深い海外アーティストを招いてデジタル・クリエイティブの最先端シーンを紹介するイベントだ。さて今回はスペシャル版「Super Flying Tokyo」、世界に名立たるスーパースター総勢6名を招へいし、2日間にわたって開催されたカンファレンスとワークショップだ。各地で脚光を浴びるアーティストたちだが、彼らの言葉に直接触れると、その試みは単なる最新テクノロジーにのみならず、思想やアイデア、また個人のアイデンティティすらも刷新していることがわかる。本稿では、2月1日にラフォーレ原宿で開催されたカンファレンスの模様をレポートする。

Text by Arina Tsukada
photo: Shizuo Takahashi, tadahi




市場リサーチとテクノロジーの探求、そして飽くなき好奇心


20140224_sft_9486
Byeong Sam Jeon 「Creative Convergence: Art+Technology+Business」

トップバッターを飾ったのは、韓国ソウルでロボット&ニューメディア・コンテンツ会社「KoIAN」のCEOを務めるメディアアーティスト、Byeong Sam Jeon(ビョンサム・ジョン/以下、ビョン)。ビョンと真鍋がはじめて出会ったのは今年夏に開催される札幌国際芸術祭2014での下見企画とのこと。個人のアートワークと、会社のビジネス・ブランディング、マーケティング・リサーチなどを見事に操るビョンだが、そのモチベーションの源は自らの好奇心。プレゼンにおいても、快活な口調と参加者を引き込む仕掛けで会場を湧かせていた。

20140224_sft_P1040367

ビョンが指針とするテーマは「Watch + Connect + Actualize」。TVマニアだった子どもの頃にTVケーブルとバスケットを分解し、新たなデバイスを作り出した自身の経験を例にたとえた。その後の義手制作、ロボット制作のプロセスなどから、「Watch(よく観察する)」、「Connect(関係ないものと接続する)」そして「Actualize(実現させる)」ことへの飽くなき挑戦について語ってくれた。どんな突飛な発想でもActualizeの鍵を握るのは、その徹底したリサーチ力。新しいテクノロジーや次なるトレンドを深く理解すること、大衆が何を求めているかを観察すること、そして新しいものごとを掘り進めるプロセスを楽しむことだ。片目には顕微鏡、片目には望遠鏡を身につけて、自身の内と外を相互に見る視野をもつ。あとは、ペンとブラシとハンマー、そして本を両手に抱えて、ものづくりを楽しもうというのがビョンからのメッセージだった。

20140224_sft_0018

入場時に配られたひとつの風船。これはビョンが仕掛けた遊びのひとつ。自身の名前や連絡先を書いた紙を風船に入れ、その場でふくらませて会場の遠くへ飛ばし合う。すぐそばにいる、まだ見ぬ誰かとも気軽にConnectしようと呼びかけた。


異分野領域と接続するプラットフォーム、クリエイティブ・シーンを形成する


20140224_sft_9615
Filip Visnjic「Connecting the dots (•-•-•)」

続くプレゼンターは、セルビア・ベオグラード出身、現在ロンドン在住のFilip Visnjic(フィリップ・ヴィスニジック)。フィリップはテクノロジーアートの最大手メディア「CreativeApplications.Net」を主宰するほか、世界中のテクノロジストが集うフェスティバル「Resonate」のオーガナイザー、「HOLO Magazine」の編集ディレクターも務めるなど、この分野のクリエイティブ・シーンを形成する立役者のひとり。これまで、各領域の実践者たち同士のネットワークを生むプラットフォームづくりにまい進してきた人物だ。

20140224_sft_9610

この世界とは、人間の活動とはいかなるものか? フィリップはAmazonの膨大な倉庫を例にたとえた。ありとあらゆるカテゴリの中からモノがオーダーされ、自分の家まで発送されるプロセス、まるで魔法のような出来ごとだが、これらはいまの世界そのものだという。デザイン、テクノロジー、サイエンス、アート、それらすべてが我々の環境をつくり、世界はいつだって新しく変わり続けている。
要するに、この社会は既にあらゆる領域が相互に関係し合っている。にもかかわらず、教育においては理系と文系が分断され、更にその先では自然科学か応用科学か、はてまた人文学かと選択肢が狭まっていく。アーティスト、サイエンティストは独自の領域で活動していくしかない。そこにフィリップは異議を唱えた。これからは、新しいシーンを生み出す集合体を作らねばならない。生産的な「scenius(※ブライアン・イーノによる造語で、天才=geniusと対比して”シーン”を生み出す集合的な創造力を指す)」を育む必要性を訴えたのだ。

20140224_sft_0536

元々のキャリアスタートは建築領域だったというフィリップ。建築物と空間に生じるインタラクションや、都市空間における人々の移動など、さまざまなスペースの複雑性と対峙してきた。自然と関心は人と人が集うプラットフォームに移行し、組織やクリエイター同士のインキュベーション、また2012年からは教育やワークショップ、カンファレンスを行なう「Resonate」をベオグラードで始動するに至る。今年4月開催のResonateでは真鍋大度と後述するカイル・マクドナルドとのコラボレーション作品も発表されるとか。気になる方はぜひチェックを。


アイデアや制作過程はシェア、アイデンティティすらも解放するOpenness


20140224_sft_9716
Kyle McDonald「Do it with everyone」

3番目のプレゼンターは、メディアアートやopenFrameworks(oF)界の超注目株Kyle McDonald(カイル・マクドナルド)。早くからクリエイティブ・コーダーとしてめきめき頭角を発揮し、NYを拠点に世界中のコーダーへ影響を与えてきたカイルだが、最も注目したいのはoFコミュニティにも広く通じる「Openness」への柔軟な考え方だ。カイルが気鋭のコーダーであることは誰しも認めるところだが、一体「作品」と呼べるものはどこまでが彼のテリトリーなのか? アイデンティティはどこにあるのか? それは本人すらもわかっていないという。そもそも、あらゆる制作過程やアイデアをシェアし、オン/オフライン問わず友人から仲間を集めるカイルにとって、そんな質問を問うこと自体がナンセンスなのかもしれない。

20140224_sft_9694

「このなかで、デザイナーは何人いる?プログラマーは?アーティストは?」
カイルは客席に呼びかけた。彼にとって、ある程度セグメントされた人々が集うこの会場は格好のコラボレーション相手だ。もっとも、その範囲は世界中に広がっているが。
「これから説明するプロジェクトは、それぞれどんな人々と仕事したかで振り分けています」。その言葉通り、カイルのデスクトップのフォルダには、「w amateurs」「w friends」「w followers」「w art institutes」などの名前が並んでいる。「w amateurs」とは、単なる”プロ”の対義語ではなく、金銭が発生しなくともpassionをもってものをつくる人たちだという。制作にあたって、コードは複数人で分担しながら書いていくのが基本。そこでいくつかの指示を出すと、各自がそれぞれにコメントを付け加えていくので、オンライン上でディスカッションが生まれ、アイデアが共有されていくのだ。

20140224_sft_0558

「はじめて顔の3Dセンサー《DIY 3D Scanning》を開発したときは、使い道も決めないままにオンラインで共有してみました。すると、システムが勝手にシェアされていって、たくさんの人々から動画が送られてきたんです。ショートフィルムのイントロ、MV、それに表情でDJやタイピングができるとか、眉毛を使ってTwitterに投稿するとか、僕だけでは思いつかないアイデアがどんどん出てきました」

20140224_sft_9727

続いて「w friends」フォルダから出てきたのは、自身の顔を友人の顔にペーストするアプリ《Face Substitution Research》。この頃から、顔をマテリアルにして遊ぶことへの興味が湧いてきたという。そのほかにも、ファッションデザイナーとコラボし、3Dスキャンで自分のカラダにぴったりフィットするジーンズをカットする《Open Fit Lab》や、「w followers」のフォルダには、その名の通りTwitterのフォロワーから飛んで来るメンションやDMによって発展したプロジェクトが並ぶ。


最近では、カイルのTwitterアカウント(@kcimc)にDMを送ると、内容がそのままカイルのTLに投稿される《Going Public》を実施。プロジェクト期間は誰が発信しているのか全くわからない状態に陥り、彼のTwitterアイデンティティは完全に消失していた(ちなみに、筆者のTwitterにも某M氏によって突然日本語のメンションが飛んできた/上図)。
一方、世界中のアート機関とも協同で作品を制作するカイル。日本においては、「YCAM最高!みんな行った方がいいよ!」とのこと。


《Light Leaks》2013 | Kyle McDonald + Jonas Jongejan

20140224_sft_0741

今回、真鍋がぜひ紹介したいと依頼した作品はこちらの《Light Leaks》。3台のプロジェクターと50個のミラーボールを使ったこの作品は、ライトをミラーボールに投射し、多方向に反射した様々な光のパターンを5、6台のカメラで撮影してアクティブに解析。そのデータを使って光の反射をモデリングするという幻想的なインスタレーションだ。本作は2日目のワークショップで、参加者と共に実践された。

「これを作ったのは誰か? 何をもってアーティストと呼ぶのか? 自分でもわからなくなってきました。でも、インターネット上にある不確かなアイデンティティに興味があるんです」
そう締めくくるカイルの言葉には、既存の概念から解き放たれた、どこまでもオープンなクリエイティブのあり方が見えてくる。

まだまだ目白押しの後半戦はレポートVol.2で。お楽しみに!

Information


http://www.rhizomatiks.com/event/superflyingtokyo/

第一線で活躍するデジタルアーティストが集結「SUPER FLYING TOKYO」カンファレンスとワークショップを開催

2014年2月1日(土)13:00-19:00 @ラフォーレミュージアム原宿にて

バーチャルをリアライズする方法としてのドローイングマシン – Sonice Development インタビュー

Sonice-Development_Emerging-Colorspace_02

Emerging Colorspace – 2013

ある日、SENSELESS DRAWING BOTの共同制作者である菅野氏と、メッセージをやりとりしていて不意に「そういえばこれ知ってる?」とリンクが送られてきた。リンク先を見てみると、ディバイスが壁に吸い付いた状態でドローイングを行う、見たことのないドローイングマシンの画像が目に飛び込んできた。さらにそこから他の作品ページもチェックしてみると、他にもドローイングマシンを制作しているようで、どうやら自分たちと同じようなことをしている境遇にありそうな制作者について非常に興味がわきはじめた。さらに調べ、どうやら菅野氏の現在の活動拠点であるベルリンにスタジオがあるらしいということを突き止め、トントン拍子で話が進み、スタジオを訪問しインタビューを敢行する運びとなった。

彼らはSonice Developmentという二人組のチームで、主にハードウェアのプログラミングなどを担当するジュリアンはベルリンで開催されている「retune」というメディアアート/デザイン系のカンファレンスイベントを主催してるオーガナイザーでもあり、その活動が非常に気になる二人組だ。そんな彼らのスタジオで、作品のコンセプトや制作のモチベーションなどについて、菅野氏と詳しく聞いてみた。

TEXT: yang02






Sonice Developmentのはじまり – Facade Printerについて


yang02: まず初めに、Sonice Developmentについて教えて下さい。(2人のバックグラウンドやsonic developmentがはじまったキッカケなど)

Michael Haas:(以降 Michael) Sonice developmentはジュリアンと僕(マイケル)の二人のチームです。最初はファサードプリンタープロジェクトのプロトタイプの制作を僕と、2011年までいたもう一人のメンバー、マーティンではじめたのが元々のきっかけです。僕とマーティンはカールスルーエ(ドイツ)の大学でプロダクトデザインを学んでいて、2008年に当時アウグスブルク(ドイツ)の大学でメカトロニクスを学んでいたジュリアンが僕らとベルリン出会い、ファサードプリンターのニューバージョンを制作しようということで2009年にSonice developmentはスタートします。それは同時にテクノロジーを用いて、屋外での大規模なコミュニケーションの新しい方法としての「ファサードプリンター」を開発する会社を設立することが目的でもありました。

Sonice_Facadeprinter_P_fmt
Julian Adenauer(以降 Julian): ファサードプリンターは、離れた距離からショットガンが壁に向かって一発づつペイントボールを打ち付けていき、大きな絵を完成させます。それはある種、ファサードをペイントするための新しい形態のディバイスであり、夢の様な装置です。そしてショットガンから放たれ、壁に打ち付けられて飛び散るインク、それは人々にスリルとか、タブーとか、いろんな感情を誘発させることに気づきました。これはテクノロジカルな話ではないのだけど、とても重要なことだと思います。それで、会社を設立して2年目は500台のファサードプリンタを売るというようなビジネスプランを立て、展覧会を開催することで、それらを売ってお金をつくることを考えたのですが、誰も買おうとはしなかった。(笑)

So Kannno(以降 So): オーディエンスは見るだけで十分だと思ったんでしょうかね?

Julian: そう、その通り!マシンに興味を示した何人かは実機を買えるのか聞いてきたけど、結局そんな大金は払えないって。実際、このマシンは材料費だけで€2,000ぐらいするので。もちろん制作費もかかってくるので€10,000ぐらいで売らなければいけない。それで、僕たちは本当はただ新しいモノをつくりたいのであって、それを売ってビジネスしたいわけではないんだってことに気付いた。

Michael: もしお金を稼ぎたいならお金が好きじゃないといけませんよね?でも僕たちはまず新しいものをつくることが好きだった。テクノロジーを革新させる新しいアイデア、美学を追求していくことは得意だったけど、そこで出来たものや知識を使うことには優れてなかったんです。なので僕らの創作を活かす他の方法を考えはじめました。例えばもっとアートよりのフィールドだったり、、、でも今はもうそれから10年ぐらいは経ってるからちょっとはマシなビジネスマンになってるかな(笑)。やっぱりお金は好きだし、お金を稼ぐことは重要ですよね。

Sonice_Facadeprinter_C_fmt
プロトタイプの次に製品版として開発されたFacadeprinter。プロトタイプからかなりコンパクトになり持ち運びが用意に

yang02: ところで普段はどうやって資金を得ているのですか?

Julian: Sonice Developmentは始まったばかりの小さい会社で、まだお金を稼ぐのはそれほど得意ではないです。コンペティションで賞を獲ったことがキッカケで、ファウンダーからの出資を得て会社を設立して、ほとんどの場合はアートインスタレーションでお金を得ています。会社としての運営はそれほど上手くできていませんが、オラファー・エリアソンや、アニッシュ・カプーアのスタジオと同様に、ぼくたちもアートカンパニーとして会社を運営していますし、今は会社をうまくまわすために、仕事を上手にこなしていくノウハウを蓄積していきたいと思っています。


なぜドローイングマシーンをつくるのか


yang02: ドローイングマシンを制作している理由(モチベーション)はなんですか?

Julian: いい質問ですね。まず僕達は決してドローイングマシンをつくることに限定して活動しているわけではないです。でも一種のドローイングマシンであるファサードプリンターを作ることからスタートし、今日まで開発してきた多くの作品はドローインマシンでした。限定してドローイングマシンをつくる集団として活動しているわけではなく、たまたまつくってきたものがそうだったので、それは少しおもしろく感じています。僕はバーチャル/デジタルな世界とフィジカルな世界が交差することに興味があって、ドローイングマシンづくりはそのすごく良い例だと思います。誰もが持ってる家庭で使われている最も一般的な普通のプリンターは、まさにデジタルデータをフィジカルなもに変換する装置です。

Sonice_TheWild_1_fmt
Michael: 描くことはテクノロジーに直接的に依存していて、この直接的な結びつきが美的感覚を生み出します。人がつくりあげたヴィジュアルと新たなテクノロジーによって生産される生産物との関係に僕は興味を惹かれます。ファサードプリンターにおいては、”粗っぽさ”が人々を惹きつけました。またグラフィックデザイナーたちはペンキが飛び散る視覚的な荒っぽさのような、偶発的なエラーやそのような素材を好んだり、時には必要としたりします。僕たちのドローインマシンをつくる興味もそのような美的感覚を追求したいというところからきているでしょう。

So: ノイズの美学というのはありますよね

Michael: そうですね。そしてノイズというのはとても複合的な要素です。たとえばこの作品は”Umblella Display”といって、これもある種のドローイングマシンだといえると思ってます。ただの”物理的なアニーション”でもありますが、常に何かを描き続けてるとも捉えることができます。そしてそれはマルチメディアであり聞くことも出来る。物理的な音も含まれるということが重要です。「ドローイングマシン」というキーワードは単純に、僕たちはそれを使って「なにを表現しているか」ということを説明するための便利な言葉であって、ステレオタイプな考え方で以って「ドローイングマシン」という限定的な意味のフレームに押し込めるための言葉ではありません。




yang02: 自分の手でドローイングをしたりすることはありますか?

Michael: 僕はデザイナーですけどいつも何かを組み立てたりしているので、ドローイングはあまり得意ではないですね(笑)

Julian: 僕はクリスマスにスケッチをするための本を買いましたね。それと、この机のスケッチは僕が描きましたよ。

Yang02+So: (笑)

So: ところで、ジュリアンがプログラミングを担当して、マイケルがマシンの設計をしてるという役割分担なんですか?

Julian: はい、そうです。ほとんどのプログラミングとエレクトロニクス、回路の設計は僕の役割で、マイケルはデバイスのデザイン、設計をしています。

Michael: 彼はエンジニアで、僕はデザイナーということでしょうね。開発はもちろん一緒に進めていって状況をシェアしながらつくっていきますが。でも僕たちはボディー&ソウルの関係といえるかもしれません。僕はプロダクトをつくると、動かす部分が必要になってきます。だから彼は私のパートナーなんです。

Julian: 僕はプログラミングでビットやバイトを操作するけど、単純にピクセルを動かすのではなく、物理的にモノを動かすことに興味があります。そして彼はプロダクトデザイナーだったので、動きはつくれない、フィジカルなモノのデザインに長けている。そして彼はモノが動くことに関心があったので、僕たちは共に仕事をするようになりました。


新しい作品「Vertwalker」について


vertwalker_horizontal
yang02: 新作のドローイングマシン”Vertwalker”について少し詳しく教えて下さい。ファサードプリンターはデータたから具象的な絵を描くプリンターのようなものでしが、新作のドローイングマシンは抽象的にランダムに描きますよね?そこの違いなどについて是非詳しく。

Michael: ファサードプリンターではよく「私のロゴをプリントしてよ」って皆オーダーしてくるんだけど、僕はそれが嫌いだった。”Vertwalker”はだたの道具で、この道具を新しい作品として思いつき、「Emerging Colorspace」という作品において、道具として使用し、昨年ロンドンで発表しました。
このマシンは、現在の自分のポジションを判断することができませんが、「何をすべきか」ということは分かっています。動きの法則はとてもシンプルで、四方に付いてる距離センサーが壁を探し出し、回転して一直線に進むアルゴリズムで動いてます。壁の近くまでくるとまず回転する方向を割り出し、ランダムに決められた角度まで回転し、また壁に接近するまで一直線に進みます。そうしてこのマシンは動きのパターンをペンで直接ビジュアライズしていきます。またその場で起こった全てのエラーもそのままビジュアライズします。

yang02: このマシンにとって”エラー”とはどういったことを指しますか?

Michael: 見てください、ここはラインが太くなっていきますが、ここでは細くなっていきます。これはマシンによる一種のエラーで、例えば、コンピューター上で理想的に計算されるラインは全て同じ太さで描かれます。でも実際にはそうはいきません。これが、ただのコンピューター上での演算が、現実世界に落とし込まれるということです。僕はこれを”ミス”っていうんだけど、ジュリアンはいつも「これはミスじゃない」て言うんです。でもつまり、これが僕たちが本当に追求している部分だし、僕はこれらのエラーを求めている。これがバーチャルなものをリアライズするということなのです。

Julian: 「Emerging Colorspace」ではマシンは17mの白い壁に沿って動き続け、絵は長い時間をかけて、常に少しづつ変化していきました。1日目、2日目、描かれる色や形、全てが変化していき、鑑賞者は常に変化する、違う表情の作品を見ることになります。そのような作品を鑑賞することは非常に興味深い。そう、マシンだけではなく、描かれるものも全て作品なんです。

Sonice_Trial_Record_1_fmt

yang02: ドローイングは直接壁に描かれているんですか?

Julian+Michael: YES

yang02: キャンバスに描かせてそれを売るということは考えなかったんですか?

Michael: もし描かれたアートワークを購入したければ、キャンバスではなく、全ての工程をセットで購入してもらいたいです。我々がVertwalkerとそのバックアップマシンを用意して、購入者が家の壁のために絵を購入したのなら、僕たちがデザインや色を考えたりします。例えば「Kyoto Color Space」といった具合にね。それがこの作品で意図するところで、紙を貼ってその上をVertwarlerが数時間走って絵を完成させて、それをオンラインオークションで売るというようなことはしません(笑)それに、そこはこの作品におけるポイントだとは感じていません。

Sonice-Development_Emerging-Colorspace_01
12130542976_44bf2bfb4c_b
ブラッシュアップのため改良中の新作のメカ部分を解説するジュリアン



カンファレンスイベント“retune”について



yang02: オーガナイズしているretuneというイベントについて教えて下さい。あのイベントはジュリアン一人でオーガナイズしてるのですか?また、キュレータではなく、アーティストがあのようなイベントを企画することは本来アーティストの仕事ではないと思うので、ともて興味深いのですが、イベントを企画するモチベーションはどこからきますか?

Julian: はい、これはチームのプロジェクトではなく、僕が単独にオーガナイズしてるイベントです。アーティストを招聘してイベントを企画運営することは単純に好きだし、すごく楽しんでやっていますよ。昨年の開催が二年目で、今年が三回目になります。第一回目の開催ではメインのオーガナイザーがもう一人いたのですが、彼は辞めてしまって二回目からは僕がメインで全体のオーガナイズを行い、アーティストとコンタクトを取るスタッフがもう一人いて、イベント当日現場で一緒に働いてくれるスタッフがたくさんいます。ストレスフルで大変な仕事でもありますが、人と仕事をするのは好きです。

retune14
ジュリアンが主催するcreative technology conference “retune“。9/26~28に開催される今年のretune.14のウェブサイトは既にティザーが公開されていて告知が始まっている。

yang02: イベント運営資金はどうやって得ているのですか?

Julian: ほとんどはチケットの売上で運営資金をまかなっていて、十分な額ではないですが、スポンサーシップでも資金を得ています。スピーカーにはそれほど多くはないですがギャラを支払い、その他、支出はほとんどフライトコストに費やされます。今年はいくつか支援金の申請をしたいと思ってるんですが、まだそれを準備するための十分な時間が確保できてませんね。

yang02: スピーカーはどうやって選んでいるんですか?

Julian: 基本的には僕の好みで決めてるところがありますが、毎回トピックを設定します。今年はまだ決めてませんが、一つのトピックを選んでディスカッションを行い、そこにふさわしい人物をピックアップします。

So: 僕は前回のretuneに参加しました。近年どのカンファレンスに行ってもある程度同じトピックで、同じスピーカーが登壇したり、内容に偏りがあるのですが、retuneはより広い考え方で多様な人選になっていて、それがすごくいいなと感じました。

Julian: そうですね。retuneというタイトルの裏には”retune yourself”というコンセプトがあって、参加者が新しいチャンネルを自分でチューニングしていければいいなという思いがあります。

Retune 13
Retune 13
Retune 13
Retune 13


Julian: 自分をどのように定義するかについて、近年”アーティスト”という言葉の意味は曖昧で変わっていってると思うので、僕は自分自身をアーティストと呼べるかわかりません。アートインスタレーションをつくって展示しているのは確かですが、自分のことを”アーティスト”とは呼びたくないですね。

So: じゃあ何て呼ぶのが適切?

Julian: 「ジュリアン」

Julian+So: (笑)

Julian: でも、今日のアーティストは実に多様です。絵を描いたり彫刻をつくるだけでなく 、マシンをつくったりソフトウェアを開発するアーティストもいますよね。



今後のプロジェクトについて


yang02: 最後に今つくってる新作や新しいプロジェクト、今後について、何かあれば教えて下さい

Julian: 次の大きなプロジェクトとしては、ホテルのエントランスで2年間のインスタレーション展示があります。僕たちにとっては信じられないほど長い期間で、前回の展示は30日間、ファサードプリンターの展示は1日マシンを動かす程度でした。なので、ぼくたちにとっては全く新しい経験になるのでとても楽しみにしています。

Michael: とにかく、僕はこれまででベストな作品になると確信しています。「Emerging Colorspace」から「Reacting Colorspace」といった具合に、ロンドンの展示からは飛躍的な進化をとげるでしょう。単にマシンが動く軌跡のビジュアライゼーションに、鑑賞者による壁をノックするインタラクション(マシンにとってのインプット)が加わり、その影響がドローイングに反映されることになる。これはこのマシンが次のレベルに進むためのとても良いステップになると思ってます。僕もとても楽しみです。

Julian: 現在トラッキングシステムの導入も進めていて、複数台のドローイングマシンが演出された振り付け的な動作を行い、少なくとも20mはある巨大な壁面上で、ダンスをするように自由に動き回るシステムを組みたいと思っています。壁面上をダンスするロボットを早く見てみたいですね。ネット上に展示に関する情報はまだどこにもないんですが、3月にドイツのブログサイトから取材のオファーがあったので、そのビデオやドキュメントが公開されると思います。それともちろん僕たちのサイトにも、作品についてアップする予定です。

yang02: 進化したVertwalker、楽しみにしてます!今日は本当にどうもありがとうございました。


Sonice Developmentのスタジオや作品、インタビューの様子


Information

SND_Adenauer-Haas Sonice Development
http://sonicedevelopment.com/

ベルリンを拠点に活動するJulian Adenauer(左)と Michael Haas(右)二人組のアーティスト/開発者。ドローイングマシン、インタラクティブインスタレーションの制作を軸に、デジタルとフィジカル、テクノロジーとアート、アイデアと実存性という二項対立の境界をまたぐ作品を制作している。

あらゆるものが電子楽器に – DIYシンセサイザーボード “Ototo”

ototoinuse1

ロンドンを拠点に自身もアーティストとして活動しているYuri SuzukiMark McKeagueらによるクリエイティブ&インベンション カンパニー “DENTAKU“が開発したDIYシンセサイザーボード “Ototo”が現在Kickstarterで制作資金を募っている。

“Ototo”はオールインワンの音楽開発キットで、電子工作の知識がなくても自分なりの電子楽器を作ることができる。

まずは以下、Kickstarterでのプロジェクトビデオを見てもらえるとその面白さが伝わるだろう。




dff40b118e9e008390a5c15307389bb9_large

Ototoはシンセサイザーであり、オンボードには12のタッチセンシティブなインプット、また様々なセンサーを4つのインプットから入力することができる。伝導性のある素材をOtotoにつなげることによってタッチセンサーのインプットとすることができる。身の回りにあるあらゆるオブジェクトを使って、ユニークが楽器を作ることができるのだ。


83bbd087095f8485bf31791612d94c6c_large


またUSBでPCやiOSデバイスに繋ぐことによってMIDIコントローラーとしても使うことができる。
以下はAbletonを使ったデモ。




果たしてどういった楽器や作品が作れるのだろうか?
以下のビデオではこれまで開催されてきたワークショップで、参加者たちによるユニークな作品たちを見ることができる。




729b2a59b8d501b619fab718e2c6e72b_large
Ototoの主の機能は以下。
・12 のコネクター付きタッチキーボード
・4 のセンサーインプット
・オンボードスピーカー、ヘッドフォンアウトプット
・AAバッテリー(単三バッテリ)2つ、もしくはmicro USB接続で稼働
・コーディングの必要は無し
・128 Mbit フラッシュメモリー

またスライダーや光センサーなど7つのセンサーが開発されていて、好きなものをOtotoに接続することができる。

productoverview2

各種センサーたち

音との新しいインタラクション方法を生むのにはまだ技術的なハードルが高く、より直感的にアイディアを形にする目的でOtotoは開発された。
2013年から開発が進められ、ワークショップなども通じて、数多くのプロトタイプが制作された。以下のビデオでは、開発段階のOtotoのドキュメンテーション。制作背景やOtotoのコンセプトなどが語られている。




そして一般のひとにも使ってもらえるようプロダクション段階に入り、Kickstarterでのキャンペーンがスタートした。現在残すところ9日で86%の達成率、あともう少し!
45ポンド以上からOtotoのキットが手に入る。ぜひ興味あるKicstarterで詳細をチェックして、バッカーになってほしい。






第6回恵比寿映像祭 TRUE COLORS:アーティストたちの言語

20140219_yebizo17

20140219_yebizo01

オープニングレセプション

2009年にはじまり、各回ごとにテーマを変え、映像表現の可能性を提示してきた恵比寿映像祭。今年は「TRUE COLORS」というテーマでさまざまな映像表現が映し出す現代社会、その多様性について考察を試みている。

20140219_yebizo02
左から第5回恵比寿映像祭地域連携プログラム参加作家の毛利悠子、第6回恵比寿映像祭出品作家のタリン・ギル、ピラー・マタ・デュポン、ナルパティ・アワンガ

東京都写真美術館の地下1階から3階まで、全館にわたる展示空間を歩いてみると、まず言語の多様さに驚かされる。耳に入ってくる言葉が変われば、そのロジックもまた新しいので、色々な方向から価値観を刺激された。それでは、いくつかの作品をピックアップしてご紹介していきたいと思う。




アークティック・パースペクティヴ・イニシアティヴ|Arctic Perspective Initiative


20140219_yebizo03

アークティック・パースペクティヴ・イニシアティヴ(マルコ・ペリハン、マシュー・ビーダーマン)「ᐃᐱᒃᑐᖅ (イピタック)―氷原と凍土、海原の向こうの研ぎ澄まされた感覚」2014再構成/発色現像方式印画、シングルチャンネル・ヴィデオ(HD、サウンド、カラー)、バックライトプリント他/作家蔵
Courtesy: Arctic Perspective Initiative, Zavod Projekt Atol, CTASC


2007年にマルコ・ペリハン(Marko PELJHAN)とマシュー・ビーダーマン(Matthew BIEDERMAN)によって設立された国際的な非営利団体、アークティック・パースペクティヴ・イニシアティヴ(以下 API)。

マルコ・ペリハン(1969年、スロヴェニア生まれ)は、2010年にYCAMで制作・発表された「polar m」(YCAM, 2010)でカールステン・ニコライとコラボレーションを行っていたので、記憶に残っている方も多いかと思う。

20140219_yebizo04
中央2人:左からマシュー・ビーダーマン、マルコ・ペリハン

ペリハンは、1995年より、オープンソースとメディアを基盤とした技術開発のためのグローバルなネットワーク「パクト・システムズ」を組織し、1997年よりテレコミュニケーション、気象観測システムなどにフォーカスした極地移動ラボプロジェクト「Makrolab」を実施。一貫してインディペンデントな情報の受発信とシステムの開発に携わっているコンセプチュアルアーティスト、メディアーティストだ。
日本では、「polar」(キャノン・アートラボ, 2000)、「open nature」(ICC, 2005)、「OPEN SPCE 2009」(ICC)、「polar m」(YCAM, 2010)などで発表している。

APIは、北極圏に暮らす人々のためにオープン・オーサリングや通信のインフラを創造することを目的として設立されたグループ。特徴的なのは、イヌイット族をはじめとする現地の人々と継続的にコミュニケーションをとり、人々が必要とする通信、観測、電力、建築などを開発してきたプロジェクトだということ。

展示室には、風車や飛行装置、航空写真、野菜を栽培するシステムの図解、データ・ディスプレイ装置から操作できるスクリーン映像などが展示されている。テレビの前に置かれた巨大なクッションには、ぜひ座ってみて欲しい。不思議と落ち着き、APIのドキュメンタリビデオが見られる。アート、科学、情報、地域、社会が等価に結びついた、とても今日的なプロジェクトだ。


西京人|Xijing Men


20140219_yebizo05
西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)「ようこそ西京に-西京入国管理局」
2012/ヴィデオ(HD、サウンド、カラー)/作家蔵

国境を超えた活動を行っているという点では、日本の小沢剛、中国のチェン・シャオション(CHEN Shaoxiong)、韓国のギムホンソック(Gimhongsok)によるユニット、西京人のことにもふれたい。
西京人は、映像、インスタレーション、パフォーマンスなどの作品を通して、仮想の都市国家、西京国を建国し、新たな国家のモデルを示すアートユニット。展示スペース「ようこそ西京に-西京入国管理局」に入るには、「輝くような笑顔を浮かべる」、「歌の一節を歌う」、「すてきな踊りを踊る」のいずれかを行わなければならない。審査を通過すると、中でドローイングや映像作品などが見られる。(こちらの審査、そんなに難しくないのでご安心を!)

20140219_yebizo06
西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)「ようこそ西京に-西京入国管理局」
2012

彼らの活動は、アートによって諸々の問題を越えたレベルのことを考えていくものだそうで、「言語や国が違おうが、かなりやばい何かが邪魔をしようが、考え得る手段を使って越境する!そう、アートという、自由な生き方のためにね。」と言いきる。(※ART iT掲載 ブログより転載)
展示スペースからも、潔さと清々しいユーモアが伝わってくる。
作品は地下1 階展示室のほか、恵比寿ガーデンプレイスのセンター広場にも展示されている。


カミーユ・アンロ|Camille HENROT


20140219_yebizo07
カミーユ・アンロ「偉大なる疲労」2013 © ADAGP Camille Henrot Courtesy Silex Films and Kamel mennour, Paris

ワシントンの国立スミソニアン博物館での特別研究員としての調査を通じて制作されたカミーユ・アンロの「偉大なる疲労」は、第55回ヴェネツィア・ビエンナーレで銀獅子賞を受賞した映像作品。インターネットから閲覧できる国立博物館の膨大なアーカイヴや収蔵品のイメージを用いて、宇宙の始まりから神話の世界、生命の歴史、現代社会を物語っている。スクリーンに映し出されたパソコンのウィンドウは、まるで鏡の中の鏡のように広がり、コンピュータの世界と宇宙を重ねる。語り部にラッパーの声を入れているのも興味深い。長大な歴史の叙事詩のような映像を見ていると、ラッパーが現代の吟遊詩人のように思えてくる。人の語りはもっとも原初的で、過去から地続きのメディアなのかもしれない。


ナルパティ・アワンガ a.k.a. オムレオ|Narpati Awangga a.k.a. oomleo


20140219_yebizo08
ナルパティ・アワンガ a.k.a. オムレオ「旅するTHIS」2014 ヴィデオ(サイレント、カラー)、アクリル製オブジェにデジタルプリント、ステッカー/サイズ可変

ジャカルタを拠点に活動しているナルパティ・アワンガは、ピクセル・アート作家、GIFアニメーション作家、ウェブ / グラフィック・デザイナ―、マルチメディア関連の技術者、マンガ家、カラオケオーガナイザー、MC、DJなどと、さまざまな肩書きをもつアーティスト。オープニングレセプションの際に話をうかがったところ、インターネットやゲームが大好きで、以前は一日の大半をパソコンの前で過ごすこともあったそう。出展作「旅するTHIS」では、ピクセル・アートをアクリル製オブジェによって立体的に表現。飛行機に乗って外国に行ってみたいと考えた主人公「THIS」の旅という寓話的設定で、初めてナラティブな構成を試みたという。


スーザン・ヒラー|Susan HILLER


20140219_yebizo09
スーザン・ヒラー「最後の無声映画」2007, 紙にエッチング(1/24点組)British Council Collection

文化人類学を学んだスーザン・ヒラー の「最後の無声映画」は、今までに見たことがないタイプの作品で、とても新鮮だった。展示作品は、世界各地の消滅あるいは消滅が危惧される言語の音声記録を用いた映像作品と、各言語のオシロスコープ図(音の波形)。スクリーンに投影されるのは、真っ暗な画面と白い字幕の文字のみで、声の主を見ることはできない。

20140219_yebizo10-2
スーザン•ヒラー「最後の無声映画」British Council Collection, Courtesy: Timothy Taylor Gallery, London

スーザン・ヒラーは、鑑賞者が暗闇の中で対峙させられるこの断絶を “Silence” of the image(イメージの沈黙)になぞらえているという。新しい方法で知覚することを促すような作品。まったく耳に新しい言語の響きにも驚かされた。


下道基行|SHITAMICHI Motoyuki


20140219_yebizo11
下道基行「torii」2006-2012/発色現像方式印画/作家蔵

フィールドワークをベースにした制作活動を行い、不可視の物語や些細な日常の瞬間を、写真やイベント、インタビューなどの手法によって編集することで顕在化させるアーティスト、下道基行。今回はアメリカ・台湾・ロシア・韓国などに、日本の植民地時代の遺構として残る鳥居を撮影したシリーズ「torii」を展示している。写真のほかに市販されている鳥居の葉書も並べ、独特の切り口で歴史の残され方、あるいは忘却されていく課程を見せている。下道基行の写真は、まるで過去も現在も未来もそこにある、タイムレスな風景に見えるから不思議だ。


ジョウシン・アーサー・リュウ|Jawshing Arthur LIOU


20140219_yebizo12
ジョウシン・アーサー・リュウ「コラ」2011-2012/ヴィデオ・インスタレーション(3K、サウンド、カラー)/作家蔵

4Kのプロジェクターを使った超高解像度映像でチベットのカイラス山を映し出していたジョウシン・アーサー・リュウの「コラ」。チベット仏教やヒンズー教、ジャイナ教、ボン教の聖地であるカイラス山の映像にCGを重ね、実写以上にリアルな風景をつくり出している。作品が撮られた背景には、2007年に愛娘を亡くしたジョウシン・アーサー・リュウがカイラス山の神秘に惹かれ、撮影に至った経緯があったという。低く飛ぶ鳥のような目線で追う風景、山々に向かってひざまずく巡礼者の姿を見ているうちに、この場所に着地したような気持ちになってくる。


デイヴィッド・ホックニー|David HOCKNEY


20140219_yebizo13
デイヴィッド・ホックニー「ジャグラーズ、2012年6月24日」 2012/18チャンネル・ヴィデオ・インスタレーション(サウンド、カラー)/ 作家蔵 Courtesy of Hockney Pictures and Pace Gallery © David Hockney

1960年代にイギリスのポップアートの中心地となったロイヤル・カレッジ・オブ・アートに在籍し、1964年からはロサンゼルスに活動拠点を移し、絵画、ドローイング、版画、写真からオペラの舞台美術まで、幅広い分野で活動してきたデイヴィッド・ホックニー。出展作「ジャグラーズ、2012年6月24日」は、18台の固定カメラで同時に撮影したパフォーマンスの映像を、18台のモニターに映し出したもの。モニター間で生じるずれや絵巻物のように並ぶフッテージは、ホックニーが80年代に制作していたポラロイド・コラージュ、フォト・コラージュを想起させた。一人のアーティストの作品に60年代のダブローから今のアートまでの変遷が見てとれる。


アンリ・サラ|Anri SALA


20140219_yebizo14
アンリ・サラ「ギヴ・ミー・ザ・カラーズ」2003/ヴィデオ・プロジェクション(HD、サウンド、カラー)/作家蔵
Courtesy of Marian Goodman Gallery, New York; Galerie Chantal Crousel, Paris; Hauser & Wirth Zürich London; Johnen/Schöttle,Berline, Cologne, Munich

最後にご紹介するのは、今回の展覧会タイトル「TRUE COLORS」とも親和性が高いテーマをもつアンリ・サラの「Dammi i colori(Give me the colors)」。1974年に共産主義体制時代のアルバニアに生まれ、90年代に体制の崩壊と移行を体験したアンリ・サラは、絵画の文学士号を取得した後、フランスでビデオ制作、映画の監督手法を学ぶ。2003年に発表された出展作は、2000年にアルバニアの首都、ティアラ市の市長に就任した政治家のエディ・ラマによる再生・復興政策が施された街の様子を映している。そのプロジェクトとは、建物の外装をカラフルに塗装するというもの。カメラが車の窓から色とりどりのビルを映し、車に同乗した元画家であり、サラの友人でもあるエディ・ラマが都市の現状と未来像について語る。

20140219_yebizo15
アンリ・サラ「片言」2004/9分38秒/ウォロフ語 ※上映プログラム作品

アンリ・サラは制作において「Syntax」(構文・統語論)を重視しており、中でも言語にスポットをあてているという。また、音にも深い関心を抱いており、その関心は初期の作品「インテルヴィスタ」では「音の不在」、後に「言語としての音」、「音楽になる音」へと移行している。(参考文献:美術手帖 No.963 2012年2月号)
その翻訳作業のような行為のたしかさ、そして世界の再構築方法がきわめて新しく、とても感銘を受けた。ぜひまた日本で見る機会が訪れたらと思う。




「トゥルー・カラーズ」というテーマのもと、グローバリゼーションによる世界の均質化・標準化に疑問を投げかけている本展。館内を歩くと、アーティストたちがそれぞれの言語で時に刺激的に、時にユーモラスに、緩急をもって語りかけてくるようなところがとても面白かった。

20140219_yebizo16
ベン・ルイス「グーグルと知的財産」2012/89分/英語(日本語字幕付)

展示のほか、メディア・アーティスト、藤幡正樹の初期アニメーション作品集「おくりもの― 藤幡正樹 」(2/20、2/23 ゲストトークあり)、「電子書籍化の波紋「グーグルと知的財産」」(2/22 関連シンポジウムあり)などの上映プログラムや、「蓮沼執太個展」、sawako、yatooらによる「color into silence」など、地域連携プログラムも豊富だ。本稿ではほんの一部しか紹介することができなかったので、ぜひ他のプログラムもチェックしてみてほしい。

Text by Yu Miyakoshi


Information

第6回恵比寿映像祭 トゥルー・カラーズ
http://www.yebizo.com/

会期:平成26年2月7日(金)~2月23日(日)[ 2月10日(月)、17日(月)を除く15日間 ]
開館時間:10:00~20:00 ただし平成26年2月23日(最終日)のみ18:00まで
料金:入場無料
※定員制の上映プログラム、イヴェント等については有料

会場:東京都写真美術館 全フロア/恵比寿ガーデンプレイスセンター広場ほか
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL:03-3280-0099
e-mail:yebizo_info@syabi.com
JR恵比寿駅東口より徒歩約7分・東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分(動く通路利用)

主催:東京都/東京都写真美術館・東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化 財団)/日本経済新聞社
共催:サッポロ不動産開発株式会社
後援:J-WAVE 81.3FM/オーストラリア大使館/駐日韓国大使館 韓国文化院
協賛:ケベック州政府在日事務所/台北駐日経済文化代表処 台北文化センター/サッポロビール株式会社/東京都写真美術館支援会員
協力:イスラエル大使館/NECディスプレイソリューションズ株式会社/東芝ライテック株式会社/東芝エルティーエンジニアリング株式会社/マックレイ株式会社/KyotoDU/ぴあ株式会社/ 株式会社北山創造研究所/株式会社トリプルセブン・インタラクティブ/ 株式会社ロボット

雑食系ツールキット「vvvv」日本初の入門解説書「vvvvook プロトタイピングのためのビジュアルプログラミング入門」刊行

vvvv_cover_0117

なんでもできるツールキット「vvvv」の日本初の入門解説書「vvvvook プロトタイピングのためのビジュアルプログラミング入門」が刊行された。

vvvvは様々な機能を持った「部品」を線で繋ぐことで、表現のアイデアを素早く形にできる「ビジュアルプログラミング」と呼ばれるスタイルの開発ができるWindowsアプリケーション。ビジュアルプログラミングによる開発環境として知られるMax/MSP、Pure Data、Quartz Composerなどと同様に視覚的にプログラムを作る事ができる。
インタラクション・2D/3Dアニメーション・リアルタイムグラフィックス・オーディオビジュアル・データビジュアライゼーション・フィジカルコンピューティングなどなど、あらゆるメディアコンテンツを制作できるドイツ生まれのvvvvは、ヨーロッパを中心に世界中で使われているが、日本ではまだそれほど普及していないのが現状だ。

ちなみに、「vvvv」の読み方は「ブイブイブイブイ」「ブイフォー」「フォーブイ」などいくつかの呼び方があり「ブイフォー」と呼ぶひとが多い印象。

本書の前半では、vvvvを使用した作品例に始まり、インストール手順、基本的な操作方法、vvvvプログラミングの基礎等を解説。後半になると、メディアやデバイスを用いたラピッドプロトタイピングの方法や、リアルタイム性を重視した音に同期した映像作品の制作プロセス、インターネット上のデータを利用したビジュアライゼーションの方法を紹介。最後の章では上級者向けの機能についても解説している。

その他、vvvvユーザーのジュリアン・ヴュリエ(プログラマー)、中田 拓馬(インタラクションデザイナー、映像演出家、VJ)、エリオット、ウッズ(メディアアーティスト、テクニカルデザイナー)のインタヴューも掲載。著者は伊東 実氏、星 卓哉氏。

コンピュータを使った表現や作品制作に興味を持っている人、メディアやデバイスを使ったプロトタイピングを手軽にやってみたい人、新しい開発環境を試してみたい人など、興味のある方はぜひ、本書と共にvvvvを始めてみてほしい。

本誌の刊行を記念してCBCNETの読者2名様へプレゼント!詳しくは記事後半へ。

20140212_vvvv01

20140212_vvvv02

20140212_vvvv03

20140212_vvvv04

20140212_vvvv05

20140212_vvvv06




CBCNETの読者へ本書を2名様へプレゼント。
詳細は以下を御覧ください。

読者プレゼント : 「vvvvook -プロトタイピングのためのビジュアルプログラミング入門 」

本書を、抽選でCBCNETの読者2名様へプレゼントいたします!

プレゼント概要
応募手順:
CBCNET Facebookページの応募用ページよりご応募ください。

応募用Facebookページ

※Facebookへのログインが必要です。
※キャンペーンのFacebookアプリは「Crocos懸賞」を利用しております。
※当選者にはFacebook経由でご連絡いたします。

応募締切:2014年 2月 20日 21:00
協力:BNN新社

ご応募お待ちしております!



Information

vvvvook -プロトタイピングのためのビジュアルプログラミング入門
http://www.bnn.co.jp/books/6211/

vvvvook -プロトタイピングのためのビジュアルプログラミング入門
伊東 実 星 卓哉
ビー・エヌ・エヌ新社
売り上げランキング: 3,245



■目次
vvvvグループからのメッセージ

CHAPTER 1 Introduction
1-1. vvvv?
1-2. vvvvを使用した作品例
1-3. vvvvの情報の入手先
1-4. vvvvのダウンロードとインストール
1-5. サンプルプログラムの紹介

INTERVIEW 01 Julien Vulliet

CHAPTER 2 Basics
2-1. vvvvとビジュアルプログラミング
2-2. vvvvのGUIと基本操作
2-3. vvvvプログラミング
2-4. チュートリアル

INTERVIEW 02 Takuma Nakata(中田拓馬)

CHAPTER 3 Rapid Prototyping
3-1. ラピッドプロトタイピングとは
3-2. メディアを扱う
3-3. カメラの利用と映像解析
3-4. IO

INTERVIEW 03 Elliot Woods

CHAPTER 4 Case Study
4-1. 音に同期した映像
4-2. インターネットのデータを利用する

CHAPTER 5 Advanced
5-1. vvvvの上級者向け機能
5-2. v4pファイルの正体
5-3. シェーダプログラミング
5-4. プラグイン
5-5. これからのvvvv

著者プロフィール

伊東 実(いとう みのる)
1985年生まれ、北海道札幌市出身。公立はこだて未来大学システム情報科学部情報アーキテクチャ学科卒。株式会社GKテック所属。企業との先行研究や提案プロジェクト、ミュージアムの展示物制作などを日々行っている。主な展示物に日本科学未来館『Geo-Scope』、国立民族学博物館『ことばスタンプ』など。

星 卓哉(ほし たくや)
情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科修了。主にメディア・アートをはじめとした新領域の表現分野でのリサーチ、作品制作、展覧会企画、ワークショップ企画など多角的に活動。現在は、研究活動として、データジャーナリズムの一般的普及を目指したオンラインプラットフォームの開発を行っている。

アジア10都市における、クリエイティブの現在とは?
「CREATIVE©ITIES」in 台湾レポート

20140129_taiwan_creativecities01

「アジアのクリエイティブ」という言葉を耳にしたとき、あなたなら何を想像するだろうか?
シンガポール、タイ、中国、インドネシアなど、いずれもダイナミックな経済成長を遂げる国々において、各国のクリエイティブ産業も負けじと勢力的な展開を見せているようだ……が、その実情はいかなるものか? まだまだリアルな情報は入手しにくいところが日本人の実感かもしれない。一方、バラエティに富んだ国の風土を基軸に、グローバルな視点を持って活躍するアジア人はいまや数知れず。まだ見ぬ新たな才能が次々と芽吹き始めている。
そんな折り、アジア10都市のクリエイティブを総括する展覧会「CREATIVE©ITIES」が昨年12月に台湾高雄市で開催された。とある出会いから台湾へと招かれた筆者より、熱気溢れるアジアレポートをお届けしたい。

Text: Arina Tsukada




12月某日、成田を出発。離陸から3時間程であっさり到着してしまった台湾桃園国際空港。うーん、近い。琉球諸島の西南に位置するこの島国は、真冬でも比較的温暖な気候でなんとも過ごしやすい(しかし、街ゆく人々がダウンや分厚いコートを羽織っているのは冬のオシャレだろうか…)。空港からバスに乗り継ぎ、1時間ほどで台北駅に到着。フライトの都合で台北泊を余儀なくされた筆者だったが、翌朝早々に新幹線に乗り込み、展覧会開催地である高雄市へ向かった。

20140129_taiwan_creativecities02

台湾の南に位置する高雄市は、台北駅から新幹線で1時間半ほど。今回、筆者が招かれた「CREATIVE©ITIES」展覧会は、高雄市が主催する「 Kaohsiung(高雄)Design Festival」の一部として催されたもの。会場は、元々は砂糖倉庫だったという広大な敷地を利用したカルチャー施設「Pier-2 Art Center」だ。この施設だが、とにかく広い。いくつもの倉庫群に分かれ、いたるところでイベントや展覧会が開催されている。修学旅行中の学生も見受けられ、観光文化施設にもなっている様子。場内にはストリーミングラジオやライブを運営するカフェなどもある。

20140129_taiwan_creativecities03

突如、ガンダム?トランスフォーマー?のようなものが出現


後述するが、台湾ではこうした元倉庫や工場を利用した広大な文化施設が複数存在し、いずれも市や国などの公的機関が運営しているケースが多い。台北市にある「華山1914」はその最たるものだろうか。横浜の赤レンガ倉庫を想像してもらえれば近いと思うが、いずれもそのスケールと100年前の建造物が持つ趣には圧倒される。

SONY DSC

さて、本題となる「CREATIVE©ITIES」の展覧会へ。会場へ一歩足を踏み入れると、ご覧の通り、スペース一面がアジア・パシフィック10都市のクリエイターたちのショーケース作品で埋め尽くされている。ここでの参加都市は、高雄(台湾)、バンコク、北京、香港、クアラルンプール、マニラ、ソウル、シンガポール、シドニー、そして東京だ。今回のメインキュレーターは、シンガポールのクリエイティブを牽引する人物、Jackson Tan。彼は自身のアートチームPhunk StudioやデザインスタジオBlack Designを主宰する気鋭のシンガポール人クリエイター。母国語の英語、中国語も自在に操り、いまやアジア諸国に活躍の場を拡げている。他国の公営による大型展覧会において、彼のような外国人クリエイターが抜擢されることも、国境を超えた活動の実積が裏付けられるだろう(ちなみに本展のプレスカンファレンスはすべて中国語)。

20140129_taiwan_creativecities05

各都市からは「City Curators」によって選出された、自国を代表するCity Creators各10〜30名、総勢12,000もの作品画像が集められた。東京からのクリエイターは稲葉英樹、中島秀樹、artless川上俊、NOSIGNER太刀川英輔、関祐介などのデザイナーをはじめ、greenz.jpやWIRED Japanなどのメディア代表者、DRESSCAMPやWrittenafterwardsなどの気鋭ファッションブランドのデザイナーたちなど、多彩なラインナップがそろった。

20140129_taiwan_creativecities06

SONY DSC

SONY DSC

SONY DSC

メイン会場を抜けると、アジア・パシフィック10都市にまつわる様々なコンテンツが続く。各都市でフィールドレコーディングされた「都市の音」を聞くことのできるエリア、気候や様々な情報をインフォグラフィックで表すスクリーニングゾーンなどなど。特に興味深かったのは、都市の人口、政治、産業、外国人居住者数、クリエイティブ産業従事者の割合、世界における報道自由指数などを集めたインフォマップだ。こうした10都市の情報を総合的に見る機会に恵まれると、いかに隣国の知識をなんとなくでしか持ち合わせていないことに気が付く。いやはや、知れば知るほど世界は面白い。

20140129_taiwan_creativecities18

(左から)空間デザイナーの関くん、キュレーターのJackson、東京City Curatorの矢部さん(ubies)、なぜか内股な筆者



ここから先は余談、台湾の旅レポを。

20140129_taiwan_creativecities11

20140129_taiwan_creativecities12

内覧会後は、CREATIVE©ITIESメンバーとおいしい火鍋を共にし、深夜営業のマッサージ店でリラックス(台湾に来たならマッサージは絶対受けろと豪語された)。そして、なんといっても忘れちゃいけない、台湾といえば夜市(Night Market)である。この夜市、平日だろうが毎日深夜2時頃まで営業している(市によって時間帯は異なる)。台湾には「夜食」の文化があり、夕飯を食べたあとでも、夜10時頃にふらっと訪れたりもするんだとか。しかし、いくら食べても安いしうまい。これぞ美食の国・台湾である。担々麺、水餃子、からすみなんかはもちろんのこと、時には発酵した魚卵、餅米with豚の血&ビーナッツ和え(名称不明)など異形のブツも薦められるが、これもまた美味。毎日お祭り気分で楽しいことこの上ないのだが、ひとつ気になる点といえば誰もアルコールを摂取していないこと。こんなに酒の肴ばかりなのに、なぜ…、と、尋ねると、お酒はお店や家で飲むものらしい。タイのカオサン通りなんかはお酒に溢れていると聞くが、慣習の違いなのだろうか。往生際の悪い日本人はコンビニでビールを購入するのをオススメする。もうひとつ、台北市Raohe Street Night Marketの入り口にある胡椒餅は最高に旨いので、台湾に行ったらぜひチェックを。

20140129_taiwan_creativecities13

20140129_taiwan_creativecities14

ところ変わってこちらは台北市内。先述した、旧倉庫地帯を活用した複合文化施設「華山1914」である。とにかく写真のような大きな倉庫が並んでおり、個々の部屋にはカフェやBAR、書店、ショップ、施設内には映画館も併設している。「GEISAI TAIWAN」や「Taiwan Designers’ Week」などの大型イベントの開催地でもあり、台北市内で何かイベントを起こすならココ、といった印象。FabCafe台湾もこの中にある。

台北を案内してもらったTaiwan Designers’ Week主宰のBenさんには、「台湾に来たら、温泉も山も海もある。市内にいると忙しいから、週末は美しい景色を見なきゃ!」と、まっとうな人間らしいアドバイスを頂いた。島国特有のゆるやかさは、温暖な気候と豊かな自然環境によるものも大きいだろう。隣国、台湾の魅力はまだまだ尽きない。

Information

20140129_taiwan_creativecities17 アジアの”いま”をもっと知るための一冊、好評発売中

『アジアを熱くするクリエイター150人 ASIAN CREATIVES』
企画・編集: ubies
価格: 3,800円(税別)
発行元: パイ インターナショナル
http://www.ubies.net/asiancreatives


CREATIVE©ITIES
アジア10都市プロジェクトは今後も巡回予定!
https://www.facebook.com/creativecitiesproject


Red Bull Music Academy15周年を記念した長編ドキュメンタリー『What Difference Does It Make? A Film About Making Music』



※本編が無料配信で公開となりました。(2014/2/18)


Red Bull Music Academy が創立15周年を記念して、ドイツの映画監督ラルフ・シュメルバーグとともに、音楽家として生きることの真髄を描いた長編ドキュメンタリー映画『What Difference Does It Make? A Film About Making Music』を制作。この映画の日本語字幕版が、2月18日、Red Bull Music Academy日本公式サイトにて無料配信される。
【応募受付終了】本作のプレミア試写会へCBCNET読者3組6名様をご招待!

本作では、ブライアン・イーノ、エリ カ・バドゥ、リー・ペリー、ナイル・ロジャース、Q ティップ、ラキム、リッチー・ホウティンなどの人生を描き出しながら、音楽で生きる人々の日々の挑戦を写し出している。

監督はカンヌ映画祭でゴールドライオン賞や映画平和賞などを受賞し、2012年にはドイツの年間クリエイティブ・リーダーに選出された経験を持つ映画監督ラルフ・シュメルバーグ。

撮影は2013年にニューヨークで開催されたRed Bull Music Academy内で行われた。ユニークな視点を持つ監督のレンズを通して、音楽の枠を超え、誰もが抱えうる人生そのものにおける問いを探求した内容に昇華されている。
CBCNETでもその模様をレポートしてるので合わせてご覧頂きたい。

2014年は東京で開催されることが決定し、さらなる注目を集めるRed Bull Music Academy(関連リンク)、彼らのスピリットが詰まったドキュメンタリーとなるだろう。
この映画のプレミア試写会にCBCNET読者3組6名様をご招待!詳細は以下。


※予告編

読者プレゼント : 『What Difference Does It Make? A Film About Making Music』プレミア試写会のご案内(完全招待制)

20140128_rbma-mov022月17日(月)ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催されるレッドブル・ミュージック・アカデミー15周年記念の長編ドキュメンタリー映画『What Difference Does It Make? A Film About Making Music』のプレミア試写会に3組6名様をご招待致します。

プレゼント概要
応募手順:
CBCNET Facebookページの応募用ページよりご応募ください。

応募用Facebookページ


※Facebookへのログインが必要です。
※キャンペーンのFacebookアプリは「Crocos懸賞」を利用しております。
※当選者にはFacebook経由(登録されてるメールアドレスへ)でご連絡いたします。

応募締切:2月11日 18:00
協力:レッドブル・ジャパン

日時:2014年2月17日(月)開場19:30/開演20:00 予定
MC:ピーター・バラカン
劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷8F http://www.ttcg.jp/human_shibuya/
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 ココチビル8F
お問い合わせ:0120-527-526(レッドブル・ジャパンお客様相談室)

※招待状の送付はございません。当日受付にてお名前を確認させて頂きます。
※席数に限りがございます。お申込み頂いた方は必ずご参加お願い致します。
※当日はお飲物をご用意しております。20歳以上が証明できる身分証をご持参の方にのみアルコール類をご提供致します。受付で身分証をご呈示頂きます。

ご応募お待ちしております!


Information

Red Bull Music Academy15 周年 長編ドキュメンタリー
『What Difference Does It Make? A Film About Making Music』

www.redbullmusicacademy.jp

出演:ブライアン・イーノ、エリカ・バドゥ、リー・ペリー、ナイル・ロジャース、Q ティップ、ラキム、 リッチー・ホウティン他
監督:ラルフ・シュメルバーグ
時間:90分
配信日時:2014年 2月18日(火) 詳細は近日発表。

フィンランドの放射性廃棄物処理場「オンカロ」のドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』UPLINKにより吹き替え版を2月10日まで無料配信中

20140123_100000_1

映画配給会社アップリンク2011年 4月に公開し話題となったドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』を、イデオロギーを超えて原子力発電所について考える映画として、本編吹き替え版全編を YouTube にて2月10日まで無料配信している。


本編は原発から生まれる高レベル放射性廃棄物の処理をめぐり、未来の地球の安全を問いかけるドキュメンタリー。
フィンランドは脱原発国ではなく、現在4基の原子炉が操業中で今後 2 基を建設予定。総発電量のうち原発による電力は約30%。そのうえで、高レベル放射性廃棄物いわゆる「核のゴミ」を出すならその処分まできちんとしよう、トイレのないマンションではなく、マンションにはトイレを作ろう、ということで、 世界で初めて地下処分場選定が最終決定した国だ。

この処理場、通称「オンカロ」は、2020年に操業開始を予定しており、最大 9000 トンの核のゴミを収容できる。原子炉1基からは年間約20トンの核のゴミが排出されるため、合計6基の原子炉で 50~60年間運転する場合に発生する量の受け入れに対応できる事になる。ちなみに日本には50基の原子炉があり、現在すべて運転停止中。また、これまでの核のゴミは地上に保管されている。

ぜひまだご覧になってなく興味ある方この機会にご覧いただきたい。

20140123_100000_2

監督マイケル・マドセン


20140123_100000_3

20140123_100000_4

20140123_100000_5

20140123_100000_6

Information

映画『100,000 年後の安全』
マイケル・マドセン監督
(2009 年/79 分/デンマーク, フィンランド, スウェーデン, イタリア)
日本語吹き替え版ナレーション:田口トモロヲ

【映画配信ページ】http://www.uplink.co.jp/100000/2014/
【配信期間】2014年1月22日(水)正午 12 時 ~ 2月10日(月)正午 12 時


★DVD『100,000年後の安全』発売中
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B005Y375CY/uplink_jp-22/ref=nosim

【DVD特典】
☆視覚障害者対応日本語音声ガイド付
☆DVD封入特典:劇場パンフレットダイジェスト版(24Pフルカラー)
イントロダクション―未来のみなさんへ―/プロダクション・ノート/監督インタビュー/オンカロとは─フィンランドにおける最終処分場のサイト選定経緯─/放射性廃棄物に関する基礎知識/あとがき(アップリンク社長・浅井隆)

タイポグラフィーから眼鏡のデザインを作るブランド「TYPE」が誕生 – Helvetica と Garamond からスタート

20140120_type

Wieden+Kennedy Tokyoがブランド全体を設計した眼鏡ブランド「TYPE(タイプ)」がリリース。タイポグラフィから眼鏡のデザインを作るというコンセプトを持った眼鏡ブランドとして1 月30日より販売される。

書体(typeface)を選ぶように、眼鏡のデザインを選ぶ。TYPE の各プロダクトの名前は「Helvetica Regular」や「Garamond Bold」といった書体の名前がつけられ、フレームのデザインはその書体からインスピレーションを受けデザインされている。

TYPEは、タイポグラフィと眼鏡に、デザイン的、機能的、様々な共通点があるという着想から誕生した。文書によるコミュニケーションにおいて、私たちは書体(typeface)を使って言葉を綴る。 書体のデザインが文章のもつメッセージの伝わり方に影響を及ぼすように、眼鏡のフレームの微妙なデザインの違いは、それをかける人の印象に影響を与える。時には空気のように自然に、そして時にはその人の個性を引き立たせるアイテムとして。

20140120_type02

何百年にもわたるタイポグラフィの歴史の中で、たくさんの書体が誕生した。第一弾として普遍性と個性を持ち合わせた 2 つの書体【 Helvetica | Garamond 】から 眼鏡ブランド TYPE はスタート。Weight(フレームの太さ)は【 Light | Regular | Bold 】から、カラーは【 Black | Tortoise(べっこう)| Clear 】から選ぶことができる。レンズは全種類【 眼鏡 | サングラス 】に対応している。全 36 種、価格は24,150円となっている。

TYPEのもう一つの特長は、オンラインでお気に入りの 5 本を自宅に取り寄せ、無料で 5 日間お試しができる点。お気に入りの服と合わせたり、身近な人の意見を聞いたりして、気の済むまで眼鏡選びを楽しむことができる。そして、お気に入りが決まったらオンラインで注文し、自宅に商品が届く。

ブランドローンチに合わせて 1月31日 (金) ~ 2月2日 (日) の3日間、原宿・VACANTにてポップアップストアがオープンする。 ブランドの世界観とともに、いち早く TYPE のプロダクトに触れ、購入することができる。インターネット販売は2014年1月30日(木) よりTYPE公式サイトから、メガネ通販サイトOh My Glassesのサービスを通して購入することができる。

また、Pop-up Store の会期中、タイポグラフィーの世界に関係の深いクリエイターによるゲストトークショーも開催される。現在決定しているゲストは、大原 大次郎、大日本タイポ組合、橋詰 宗、長谷川 踏太。ゲストスピーカーは今後も増える予定。

タイポグラフィから眼鏡デザインを生み出すという、今までになかった眼鏡ブランド「TYPE」にぜひご注目頂きたい。

20140120_type03

20140120_type04

20140120_type05

20140120_type06


Information

タイポグラフィーから眼鏡のデザインを作るブランド
TYPE

http://type.gs

TYPE Pop-up Store
日 時 : 2014 年 1 月 31 日 ( 金 ) ~ 2 月 2 日 ( 日 ) 12 : 00 – 20 : 00 ( 最終 は 17 : 00 まで )
会 場 : Vacant( 東京都渋谷区神宮前 3-20-13 )
http://www.vacant.vc/d/39

TYPE Guest Talk Show
Pop-up Store の会期中、タイポグラフィーの世界に関係の深いクリエイターによるゲストトークショーを開催します。ゲストスピーカーは今後も増える予定ですが、現在決定しているゲストは以下の通りです。(詳細後日発表)
・大原 大次郎
・大日本タイポ組合
・橋詰 宗
・長谷川 踏太 … and more.

-色を見ること、そして体験することの意味- ドイツで開催されたオラファー・エリアソン展

1401_olafur_08

Olafur Eliasson Infinite colour double polyhedron lamp, 2011 Foto: Jean Vong © 2011 Olafur Eliasson

ドイツには「Goslarer Kaiserring」と呼ばれる賞がある。日本語にすれば、「ゴスラーの皇帝の指輪」という賞。それは現代アートを対象としており、国籍を問わず国際的に活躍するアーティストに与えられている。2013年にその賞を受賞したのは、アイスランドの血を引くデーンマーク人アーティストのオラファー・エリアソンだった。賞はドイツ中部にある小都市「Goslar(ゴスラー)」が世界的なアーティストに賞を与え、その栄誉を広く顕彰するもの。また賞の授与だけでなく、それに合わせて受賞者の展覧会が開催されることになる。こうして小さな地方都市ゴスラーでは、オラファー・エリアソンの展覧会が開かれることになった。

1401_olafur_07
Olafur Eliasson Sunset kaleidoscope, 2005 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

「Goslarer Kaiserring」の母体となるゴスラーという街だが、その名前を知っている人は多くないだろう。世界遺産に指定されている街とはいえ、人口5万人足らずの小さな地方都市だからだ。ただし世界遺産に指定されているように、この都市は素晴らしい文化遺産を持っている。それは美しい街並。かつては銀山で栄えていたこともあり、ゴスラーの街は皇帝が居城を構えるほどに栄えていた。街で目にするのは石畳の道、鱗状に貼られた屋根、そして木組みの家など。16世紀や17世紀の家々が残る街では、中世の世界さながらの風景を見ることができるだろう。「Goslarer Kaiserring」はこうした街に対照的ともいえる現代アートを持ち込んでいる。

1401_olafur_03
Olafur Eliasson Your space embracer, 2004 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert © 2004 Olafur Eliasson

そもそも「Goslarer Kaiserring」は、伝統が今も生きる街で現代アートを広め、親しんでもらうために設立されたもの。1975年に始まった賞は、第一回目のヘンリー・ムーアを皮切りに毎年、国際的に活躍するアーティストに与えられている。その受賞者のリストを見れば、ドイツの一地方で行われる小さな賞でないことがわかるだろう。そこに挙がるのはヨゼフ・ボイスやゲルハルト・リヒターといったドイツの現代アート界の代表者たち。それに加えてジェニー・ホルツァーや、クリスチャン・ボルタンスキー、マシュー・バーニーといった世界的な巨匠の名前が続く。この賞は現代アートの新しい時代を切り開いた人物たちに授与されてきたのだ。

1401_olafur_04
Olafur Eliasson Your space embracer, 2004 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert  © 2004 Olafur Eliasson

もちろん、授賞式に合わせて開催される展覧会は賞の添え物としてあるわけではない。この街で開催される受賞者の展覧会は現代アートの普及だけでなく、受賞者の業績を紹介するものでもある。今回オラファー・エリアソンは、「Eine Feier, elf Räume und ein gelber Korridor (祝典、11の部屋と黄色の廊下)」と呼ばれる展覧会を行った。その名の通り、これは美術館にある11の部屋と廊下を使ったもの。各部屋には写真作品、インスタレーション作品、映像作品といった多岐に渡る作品が展示されている。そして、初期の90年代から今年2013年までの作品が揃っており、展示は小規模な回顧展と言えるだろう。そのためアーティストの全貌までとはいかないにせよ、彼の足跡を辿ることができるのだ。

1401_olafur_09
Olafur Eliasson Liquid matter life study, 2011 Photographer: Studio Olafur Eliasson

展覧会が開かれているのは、街の中心部にある古めかしい美術館。その小さな建物に一歩足を踏み入れると、まずはその廊下に驚かされることになる。目に映るのは一面黄色に染まった空間だ。これは1997年の「Yellow corridor(黄色の廊下)」と呼ばれる作品。廊下の明かりは全て取り替えられ、黄色の明かりとなっている。廊下の壁や木製の扉など廊下にあるものは全て黄色に照らし出され、黄色と黒しか色を見分けることは出来ない。来場者は美術館に入ってオラファー・エリアソンの作品と出会うやいなや、強烈な体験を浴びせかけられる。もちろんこの作品は来場者を強烈に展覧会へと惹き付けることだろう。またそれだけでなく、作品体験が彼の作品のなかで重要な役割を果たしていることに気付かせてくれる。

1401_olafur_02
Olafur Eliasson Yellow corridor, 1997 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

こうした作品体験だが、特に本展で色の体験が強調されている。その中でも印象的なのは2010年の作品「Colour Experiments(色の実験)」。この作品は「Yellow corridor」の発展を遂げた形と言える。展示室に架けられているのは幾つかの丸いキャンヴァス。その形に合わせて色が塗られている。白色と黒色と紫色、別のものには白色と黄色と赤色といったように、キャンヴァス上に広がるのはそれらの色が混じり合ったグラデーション。しばらくすると、このカラフルな色彩はたちまち黄色と黒色の2色に変ってしまう。なぜなら部屋の照明が定期的に黄色へと変ってしまうためだ。見る対象は何も変わることはない。変ったのは照明の色だけ。にも関わらず、作品の色はたちどころに変化したように見えるのだ。

1401_olafur_06
Olafur Eliasson Colour experiment no. 23, 2010 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

オラファー・エリアソンは、こうした色を取り扱った作品について興味深い文章を書いている。2006年に書かれた『SOME IDEAS ABOUT COLOR(色についての幾つかの考え)』で触れているのは、光が網膜の表面で反射する際に色が姿を表すこと。それは色そのものがあるのではなく、見る際に色が生まれること意味する。つまり、彼の作品にある強い体験とは、普段気にも留めないような「色を見ること」が何なのかを気付かせることに繋がっているのだ。そして、さらに一歩踏み込んで、「鑑賞者が美術作品を体験する自分自身を体験すること」といった作品体験についての彼の考えを書き記している。彼が目指すのは2重構造となった体験。それでは一体この2重構造の体験は何を意味するのだろうか。

1401_olafur_05
Olafur Eliasson Colour experiment no. 23, 2010 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

そもそも見る際に色が生まれるということは、個人によって色の見え方に違いがあることを意味する。なぜなら、光の状況、言い換えるなら、見る者の状況によって色の見え方は変わるためだ。見る人物とその周りの状況を含めた色の認識こそが、オラファー・エリアソンが述べる2重構造の体験と言えるだろう。ここには色を眺める二つの視点がある。一つは私の視点、もう一つは周りの状況を含めた視点。彼は作品体験を通じて二つの視点を生み出すことを促す。それは同時に作品を見る私が取り込まれた状況を気付かせることにもなる。私はどのような状況にいるのか、それは展示室にいる鑑賞者を意味しているわけでないのだ。

1401_olafur_10
Olafur Eliasson Welt, 2013 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

オラファー・エリアソンが生み出すのは、こうした私たちの周りにあるものを気付かせる作品。例えば、2013年の作品「Welt(世界)」はまさにその最たる例と言えるだろう。これは美術館の窓を取り替えて、窓に紫色のグラデーションを付けた作品。そのため、鑑賞者は窓のみを見る訳ではない。そこには色の無い透明な部分から透けて見えるゴスラーの風景が見える。古めかしい石組みの建物や石畳の建物といった美術館の外に広がる風景。ここで作品は美術館に閉ざされることは無い。「世界」という作品の名前のとおり、外に広がる風景も作品の重要な一部。こうして作品は私たちの周りに広がるその世界の存在を強く意識させてくれるのだ。

1401_olafur_01
Olafur Eliasson Sunset kaleidoscope, 2005 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

このようなゴスラーの展示で、2005年の作品「Sunset kaleidoscope(太陽の万華鏡)」は特に印象に残る作品だった。作品が置かれているのは明かりの無い真っ暗な空間。そこに入ると僅かな明かりをもたらす小さな窓が見える。特殊な形をしたその窓を覗き込むと見えるのはゴスラーの街並。だがそのままの風景ではなく、窓に取り付けられた黄色の円、古めかしい建物、道行く人々は、窓の内部に取り付けれた鏡の反射によって、万華鏡の模様となって現れる。作品を見る者は美しい模様となったゴスラーの街を体験することになるだろう。そして強く意識するに違いない。中世の雰囲気が残るゴスラーの街でオラファー・エリアソンの作品を見ているのだと。

1401_olafur_11
Foto: Heike Göttert, photogeno, Goslar von der Verleihung – mit Olafur Eliasson und
Dr. Oliver Junk, Oberbürgermeister der Stadt Goslar (Mitglied der Kaiserring-Jury).

今回ゴスラーという地方都市で開催された「Goslarer Kaiserring」。そこでは作品の持つ強い体験性によって、難解と思われがちな現代アート作品を街に住む人々に親しませることに成功していた。そして同時に展示で感じさせたのは作品の外に広がる世界。それが現代アートと対照的な中世の佇まいを残す街ゴスラーということは言うまでもないだろう。この極端とも言える現代と伝統の両極はここでは溶け合っている。街は現代アート作品を迎え入れ、一方現代アート作品は街を取り込んでいた。今回賞に合わせて開催された展示は、まさに「Goslarer Kaiserring」に相応しいもの。おそらく今までで最もこの賞の背景を理解し、その上で自らの表現を貫いた素晴らしい展示に違いないだろう。

Article by Hayashi Kiyohide

Information

「Eine Feier, elf Räume und ein gelber Korridor」
会期: 2013年10月12日~2014年1月26日
会場: Mönchehaus Museum Goslar
アドレス: Rosentorstraße 27 38640 Goslar
ホームページ:http://www.moenchehaus.de/moench/ausstelg.html

“自然を再構築する”オーディオビジュアル・アーティスト、黒川良一が目指すもの|インタビュー in ベルリン

20140114_ryoichi-kurokawa_07_oc_01
『oscillating continuum』Audiovisual sculpture, 2013
“Turbulences II”, Villa Empain, Brussels, 2013 / Photo courtesy of RYOICHI KUROKAWA


ベルリンを拠点に、緻密なプログラム設計と叙情的な映像美が融合する先鋭的なオーディオビジュアル表現を次々と発表し、世界各国で目覚ましい活躍を続けるアーティスト・黒川良一。彼の生み出す卓越したビジュアルには、いわば自然界におけるフラクタルや流体の現象と、数学や物理の美に相似を感じる瞬間にも似た、究極的な美しさが存在する。その軸には、彼が10年来変わらず抱き続けてきたテーマがあった。

今回、昨年9月からベルリンに移住したメディアアーティスト菅野創を聞き手に、黒川の作品テーマから新作への挑戦、また制作スタイルにまつわるインタビューをベルリン市内のカフェで行なった。

Interviewer: 菅野創 Text: 塚田有那




菅野 : まずはじめに聞いてみたいのですが、ベルリンって、どうですか?

黒川 : 東京やロンドンに比べると、いい意味でもゆるいですよね。コンペティティブな感じがしないというか。ゆっくりものを考えたり、つくれたりする場所だと思います。逆に東京で生活しているひとからすると、ベルリンはゆっくりすぎてつまらないんじゃないかな。ちょうど最近、トレプトーという地区にある倉庫街の一角にスタジオを移したんですが、そこにはアーティストが多く集まっています。全体のジャンルとしては、どうかな、ミュージシャンやサウンド系のアーティストが多い気がします。

菅野 : 以前はブリュッセル在住だったとのことですが、初めて海外に移住されたのはいつ頃?

黒川 : 20歳くらいに大学を1年休学してパリに住んでいました。その後日本に戻ってからは、京都の同大学に通っていた高木(正勝)くんや青木(孝允)くんらとよく遊んでいて、自然と皆がそれぞれの道を歩き出した感じですね。2005,6年頃からヨーロッパの公演に呼ばれることが増えて、どうにも必要に迫られて移住を決めたのがきっかけです。はじめはブリュッセルに2年、それからベルリンに移って現在4年目です。

20140114_ryoichi-kurokawa_01_ground_01

20140114_ryoichi-kurokawa_02_ground_02
『ground』Audiovisual installation, 2011
“Catastrophology”, Arko Art Center, Seoul, 2012
Courtesy of Arko Art Center / Photo by Young Ha Cho


菅野 : 作品のソフトウェア・システムについて教えてもらうことは可能でしょうか。オーディオビジュアルをやるアーティストは、プログラムで映像をジェネレートすることが多い気もするんですが、黒川さんの作品は映像の実写の質感とプログラミングっぽい質感が混ざったような、不思議な印象を受けます。

黒川 : とてもシンプルですよ。基本は2chの映像が中心で、プログラムと映像素材を混ぜていることが多いです。最終的な出力はMaxMSPを使うこともあれば、発表する度に最適なものに変えています。UIも全て自分で書いていますね。

菅野 : 大規模なインスタレーション展示を設計することもあると思うんですが、建築的な空間設計はどうされているんですか?以前のCBCNETインタビューを拝見したとき、その展示設計の図面すらも美しくて驚きました。

黒川 : それもすべて自分ひとりですね。特に建築的なノウハウがあるわけではないのですが、個人的に建築のエンジニアリングが好きで。オヴ・アラップセシル・バルモンドらの設計に共感することも多いです。バルモンドは今では世界的にも有名な方ですが、以前、あるキュレーターに僕と考え方が似ているエンジニアがいると教えられたのが興味を持ったきっかけです。

20140114_ryoichi-kurokawa_03_mol_01
『mol』Audiovisual installation/concert, 2012 (Installation version)
“Scopitone”, Le Lieu Unique, Nantes, 2012 / Photo courtesy of Anthony Luco


菅野 : オーディオビジュアルのコンサートやパフォーマンスの場合、アーティストが舞台上に立つかどうかで見え方も変わってくると思うのですが、黒川さんの作品は本人が登場しない場合もありますよね。

黒川 : ミュージシャンのライブだったら、自分らの手癖を見せるというか、パフォーマンス自体がアトラクティブになると思うんです。青木(孝允)くんと2人でやっていた頃は表に出ていましたが、僕ひとりの場合は作品によりけりですね。
はじめヨーロッパに来た頃は、若いアジア人がこういうジャンルのパフォーマンスをしているというだけで引きがあったようで、そこに注目がいくのが嫌だったんです。僕が何人かよりも、純粋に作品を観てほしいと思って。

菅野 : 以前、書籍『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』(註*)で、岩井俊雄さんと池田亮司さんの対談を読んだとき、当時TENORI-ONを発表したばかりの岩井さん曰く、(TENORI-ONは)はじめてビジュアルとサウンドが同時に出せるものができたと。ひとりのプレイヤーが映像と音を簡単に操れることによって、ライブの身体性がより強固になったというようなことを語っていたんですね。一方、池田さんは「音の振動こそが身体性だ!」とすかさず返し、僕が感じる限り、おそらく完全な対立状態になっていて(笑)。
僕もその頃は身体性について色々と考えていたんですが、数年経ってみて、いまは”出音”自体に興味が湧いてきたんです。だから、いま話されたような「作家の主体性」をあえて除外する方法には共感できます。たとえば、サウンドインスタレーションの展示の場合、アーティスト本人はそこにいなくとも、ライブと同じような体験を演出することはできるんですよね。

黒川 : そうですね。また、オーディオビジュアル自体、ヨーロッパは歴史が長いので、パフォーマンスにしても既に色々なヴァージョンが提示されていると思います。

註*…正式書籍名は『ポスト・ テクノ(ロジー)ミュージック—拡散する「音楽」、解体する「人間」』(監修:久保田晃弘、他/大村書店)

20140114_ryoichi-kurokawa_04_syn
『syn』Audiovisual concert, 2011
“Nemo”, Le Centquatre, Paris, 2013 / Photo courtesy of Quentin Chevrier


菅野 : そもそもの質問なんですが、黒川さんの作品には圧倒的なビジュアルの美しさがあると思います。昔から、視覚的に惹かれる対象などはあるのでしょうか?

黒川 : 若い頃は、ビジュアル的に惹かれるものなら何でも見ていました。現代美術やインダストリアル・デザイン、ファッション、建築、映画まで、当時は本質もわからず、とにかく種々雑多に見ていましたね。ひとつ言えるとすれば、自分の感覚にとって美しいと思うものは「現象そのもの」なんです。

菅野 : 「現象」というと? 自然現象をモチーフとされている印象がありますが。

黒川 : たとえば、「火が燃えている」こともひとつの現象ですよね。目の前に見えている現象そのものに興味があります。僕の作品のテーマは一貫していて、ひとつは「自然の再構築」、そして「共感覚」なんです。すべての作品はこの両方、またはどちらかでしかないですね。2003年にリリースした作品が『COPYNATURE』というタイトルなのですが、コンセプトはそれから変わっていません。
作品に使うビジュアル素材も、基本的にはすべて自分で撮影しています。2年前には、『Octfalls』という作品のために、アイスランドで2週間、滝を撮り続けていました。

20140114_ryoichi-kurokawa_05_octfalls_01

20140114_ryoichi-kurokawa_06_octfalls_02
『Octfalls』Audiovisual installation, 2011
“One of a thousand ways to defeat entropy”, 54th Venice Biennale, Arsenale Novissimo, Venice, 2011
Photo courtesy of RYOICHI KUROKAWA



菅野 : 「共感覚」(*註)をテーマとしているとのことですが、それはいつから?

黒川 : 映像と音から同時に与える感覚刺激を追求していることに対して、作品を観た方からこの知覚現象を教えてもらいました。「共感覚」とは、脳の混線状態によって生じる現象として脳科学の分野でも様々な研究対象となっていますが、そうした体験を導くことをひとつの主題にしています。

*共感覚…あるひとつの感覚刺激により異なる種類の感覚が想起される知覚体験である。感覚間の結びつきのあり方は人によって異なるが、たとえば、文字に色を、音に香りを、形に味を感じたりと、通常は直接結びつくことはない感覚が文字通り同時(共)に想起される珍しい現象。(引用:SYNAPSE Lab レポート

20140114_ryoichi-kurokawa_08_oc_02
『oscillating continuum』Audiovisual sculpture, 2013
“Turbulences II”, Villa Empain, Brussels, 2013 / Photo courtesy of RYOICHI KUROKAWA




菅野 : フランス・ナントのフェスティバル(SCOPITONE)で展示されていた『oscillating continuum』を拝見したんですが、作品クレジットを「sculpture」と表記しているのが印象的でした。

黒川 : そうですね、あれはサウンドインスタレーションそのものをオブジェクトにするのがひとつの目的でした。

菅野 : 黒川さんの作品は、ある程度の音量と視界の占有率によって構成される部分が大きかったと思うのですが、あの『oscillating continuum』は観賞すべき向きもなく、オーディオビジュアルでありながら、強い“モノ感”がありました。それって、どうしてもスクリーンとスピーカーに頼ってしまうオーディオビジュアルのあり方を崩そうとしているのかな、と。「音と映像を彫刻する」というコンセプトで、フォーマットを構築されようとしているように感じたんです。
もうひとつ、僕も色々な場所で作品を展示していると、ついその展示方法について考えてしまいます。いかに(作品を持って)空港を通過するか、とか…。

黒川 : 作品の再現可能性は常に考えますね。ただ、発想の第一段階では頭に入れないようにして、アイデアの核を最初に固めています。けれど、どうしても規制が入ることはある。この規制がかかったときほど、クリエイティビティが発揮されると思うんです。いかに完璧に再現できるかを考える結果、元のものよりもいい感じになることが多いんですね。作品制作におけるリミッターは必要だと思うんです。

菅野 : 超参考になります!! ほかに、いま手がけている新作について伺えますか?

黒川 : 「自然の再構築」だけをテーマに、去年からは音も映像もない彫刻作品を手がけています。昆虫などの生物の造形をラインとパーティクルのみで構築するテストを続けていて、最終的には3Dプリントでモデリングしたものを出力しようと調整しているところです。アイデアはミニマルミュージックというか、極限までムダを絞ってみて、最小構成要素で自然物を再現できるかがテーマです。種は基本的に生物のストラクチャーが美しいものを基準に選んでいます。

菅野 : ラインとパーティクルのみにしたのはどうしてですか?

黒川 : コンピュータ上で設計する際のミニマルな要素ということもあるし、今までのビジュアルで使っていたものを立体化させた感じです。1年以上経ってまだテスト段階なんですが、全く納得がいかなくて、マテリアルも吟味しているところです。

20140114_ryoichi-kurokawa_09_r5h
『rheo: 5 horizons 』Audiovisual installation, 2010
“scopic measure #13”, YCAM, Yamaguchi, 2011
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media / Photo by Ryuichi Maruo (YCAM)


菅野 : ひとくちに「自然」といっても様々ですが、セレクトする対象は何なのでしょうか?

黒川 : 「動きのある自然」にアトラクティブなものを感じます。静的な景色よりも、光の運動だったり、水の流れや風の動きがわかるもの、煙、火山などでしょうか。
僕の作品づくりの根幹には、「自然現象にOrder(秩序)を与える」ということがあります。言い換えれば、自然からエントロピーを減らす作業。自然はカオスに向かうけれど、まずそれを撮影して映像に落とし込むことで、エントロピーは減る。それから更にプログラムなどで映像を生み出す際に、Orderをつけていくことを意識しています。「Order/Disorder」はひとつのテーマでもありますね。

塚田 : なるほど、ようやくいま『Rheo』のライブを観たときの印象が言語化された気がします。あの作品では正に、広大な地平線を撮影した映像と、その風景の構成要素をラインで結ぶ映像が交互にやってきて、パッと地平線の写真に戻る瞬間、こちらも目の瞳孔がぐっとひらくというか、強力なダイナミズムを感じました。

黒川 : 視認性の問題は意識していますね。特に、「アブストラクトなもの」と「視認性があるもの」との間でゆらぐ浮遊感を大事にしているんです。その境界を揺さぶる感じというか。たとえば映画でも、はっきり何が動いているかわかる映像よりも、なんだかわからないものに引き込まれたときの気持ち良さが好きだったりします。

20140114_ryoichi-kurokawa_10_oc_3drender_01

20140114_ryoichi-kurokawa_11_oc_3drender_04

20140114_ryoichi-kurokawa_12_oc_str
『oscillating continuum』制作前の共有資料

菅野 : ちなみに、作品制作はどのようなプロセスで進むのでしょうか?

黒川 : 既に20個くらいある作品のアイデアをプロデューサーと共有しているんです。そこでは、実現可能かどうか、バジェットの関係も含めて議論しています。バジェットを用意するのは彼らの役目で、僕は彼らが各所へプレゼンするための資料を用意しています。資料はコンセプトやモデリング/レンダリング画像、テクニカル面での必須要素、それに応じた費用などが主ですね。制作に関しては、僕自身でやっていましたが、昨年からアシスタントにも入ってもらっています。

菅野 : そんなシステムが!! マネジメントは展覧会やフェスティバルのブッキングのみかと思っていました。もう少し詳しくお聞きしたいです。

黒川 : マネジメントというよりプロデュースに近いです。僕の所属しているところ以外では、ダムタイプや高谷(史郎)さんが所属しているEpidemicなども有名ですね。バジェットは作品ひとつに対してですが、ヨーロッパはアートプロデューサー的な大金持ちも多いので、パトロン的に出資してくれることもあったり、2つのプロダクションが共同プロデューサーにあたることもあります。国や市のミュージアムや団体などの公的資金である場合も多いですね。巡回展なども特に縛りはなく、展示の度にクレジットを入れるくらいでしょうか。そういう制度はヨーロッパに多いので、日本人のアーティストもトライしてみるといいと思います。

菅野 : 日本でもYCAMなどが委嘱作品をつくることはありますが、こうした”所有されない”アートに特化したプロデュース・カンパニーというのはあまり例がない気がします。日本は特に広告が強いので、アーティストはそれぞれ広告仕事で稼ぎながら自分の作品をつくるパターンが多いのかなと。

黒川 : 今のプロデューサーとは、彼らはフェスティバルも主催しているので、何度か招待を受けたことをきっかけに契約に至りました。他のプロデューサーの作品をつくることもあるので特に縛りはないのが利点でしょうか。日本にこうした仕組みができてもおかしくないと思いますが、たとえば海外のプロデューサーを共同プロデューサーとして迎えて、マネジメントする方法があってもいいんじゃないかと思います。

菅野 : とても参考になりました。貴重なお話をありがとうございます。

20140114_ryoichi-kurokawa_13


黒川良一インタビュー : 流転する空間、拡張する知覚

Profile

黒川良一
1978年、大阪生まれ。ベルリン在住。現代美術、メディアアートの分野で活動。マルチチャンネルの映像、音響の3次元的な現象により、新しい共感覚的体験を導く作品を制作している。1999年よりビデオおよびサウンド作品の制作を開始し、以来映像、音楽をとりまく国内外の様々なアートフェスティバルにおいてインスタレーション展示、オーディオビジュアル作品のスクリーニングを行う。『rheo: 5 horizons』がアルス・エレクトロニカ2010のDigital Music & Sound Art部門で大賞にあたるGolden Nicaを受賞するなど、国際的な評価を得ている。
http://www.ryoichikurokawa.com

菅野創
CBCNETでベルリンブログ連載中。
http://kanno.so/

真鍋大度、MIKIKO、ジェイソン・ホワイトら、伝説のステージを生んだクリエイターが登場!FITC Tokyo 2014 開催直前特集

20140108_fitc_01

今年も国際的なクリエイティビティのカンファレンス、FITC Tokyoの季節がやって来た。
2002年にカナダで始まったこのイベントでは、デジタルクリエイティブ領域で活躍するクリエイターたちが制作プロセスやインスピレーションソースについて語る。PARTYの清水幹太氏をして、「FITCには“開発者魂というバーバル”がある」と言わしめた、言葉の壁を超えてアイデアを共有できるイベントだ。
今年はどんなスピーカーが揃っているのだろう?さっそく気になるスピーカー陣をチェックしてみよう。

今年のFITCは、ステージに関わりの深いクリエイターたちが登壇!


昨年は真鍋大度氏、ザッカリー・リバーマン氏、カイル・マクドナルド氏など、openFrameworks(oF)コミュニティのスターが勢揃いしたFITC。今年は昨年にひきつづき登壇する真鍋氏に加えて、Perfumeの演出・振付で知られるMIKIKO氏、プロジェクションマッピングを取り入れたAMON TOBINのライブ・パフォーマンス「ISAM LIVE」を手掛けたクリエイティブ・スタジオLeviathanのジェイソン・ホワイト氏など、ステージに関わりのあるクリエイターが目立っている。ここ数年で、音楽とビジュアルを等価に扱うオーディオビジュアルパフォーマンスや、リアルアイム性のあるステージのディレクションという概念がすっかり浸透した。彼らはその隆盛に大きく貢献してきた。今年のFITCでは、そんなステージやパフォーマンスにまつわるクリエイティブの最も新しい状況を目撃することができそうだ。


20140108_fitc_02

1. 真鍋大度
http://daito.ws/


Eyeo Festival、Sonar Festival、Ars Electronica、STRP Biennale、Scopitone Festival、 Transmedialeなど、海外でも積極的に講演や作品発表を行う真鍋大度氏。2013年12月に行われたPerfume 4th Tour in DOME 「LEVEL3」や紅白歌合戦のテクニカル・ディレクションが記憶に新しい。今やリアルタイムムーブメントを取り入れた舞台設計やインスタレーションの最重要人物といえる存在だ。その真鍋氏のプレゼンテーションのタイトルが「最近やったアートワーク、広告ワーク」と銘打たれていることに注目してほしい。真鍋氏にとっては、最近手掛けたワークがもっともエキサイティングであり、その内容には本番直前まで徹底的に手を加え続けるということだろうか。


Perfume NEW ALBUM 「LEVEL3」 (Teaser)

Perfume Global Site Project #003、カンヌライオンズ2013でのパフォーマンス、2020年東京オリンピック招致のプレゼン、東京都現代美術館の「うさぎスマッシュ展」に展示された株式市場(東証一部)のデータを可視化・可聴化したインスタレーションなどなど、2013年も多数のプロジェクトを手掛けた。真鍋氏が今考えていることを知るには、生のトークが最も有効。ぜひとも会場で、その内容を確かめたい。

20140108_fitc_03

2. MIKIKO
http://artist.amuse.co.jp/artist/mikiko/


多種多様なダンス経験を元に、Perfumeなどの演出振付家として活躍するMIKIKO氏。Perfumeのステージには、いたるところにMIKIKO氏のアイデアが生きている。Perfumeのダンスを十数年にわたり指導してきたMIKIKO氏は、Perfumeメンバーのカリスマ的存在であり、今やファンにも“MIKIKO先生”と慕われる存在だ。自らが全ての演出や映像のディレクションを担当したPerfume 4th Tour in DOME 「LEVEL3」で16万人を動員し、初のPV集「Perfume Clips」の予約購入がAmazonのベストセラーの1位にランクインするなど、とどまるところを知らないPerfume人気。そのムーブメントを、オリジナリティ溢れる振付けやGlobal Site Project、ライブの演出が盛り上げてきたことはいうまでもない。


Perfume 「ポリリズム」 from LIVE DVD「Perfume LIVE@東京ドーム1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11」:PerfumeとMIKIKO氏、ライゾマティクスが初のコラボレーションを行った記念すべきライブ公演

今回MIKIKO氏が語ってくれるのは、Perfumeをめぐる演出のコンセプト、制作プロセスなどといった、今、最も気になる部分。真鍋氏も“パフォーマーに対してどう指示するかは、演出にMIKIKOさんが入っているからできていること”と語っている。どんなに技術者が優れていても、優秀なパフォーマーが揃っていても、その間をつなぐ演出家がいなければ、圧巻のステージは実現できないのだ。これまであまり詳しく語られてこなかった、演出とテクニカル、両方面からの話に注目が高まる。


20140108_fitc_04

3. ニール・メンドーサ
http://neilmendoza.com/


デジタルとメカニカルテクノロジーを駆使し、まるで錬金術のようにモノやスペースに命を吹き込んでしまうメンドーサ氏。彼は is this good? というクリエイター集団の創立メンバーでもあり、アーティストや企業などと連携し、マジカルなインタラクティブアートを手掛けている。まずは、下の動画をご覧になってみてほしい。


Escape by Anthony Goh and Neil Mendoza

動画の中で首をかしげているロボットは、ジャンクの電話とArdiuno Miniで構成された“モバイルフォンバード”。設定された番号に電話がかかってくると、動いたり鑑賞者に話しかけたりする。メンドーサ氏はオックスフォード大学で数学とコンピューターサイエンスの修士号を取得し、ゲーム開発や数値解析などのさまざまな分野で活躍。数々の作品がサイエンスミュージアムや博物館などに展示されている。セッションでは、制作プロセスとその過程で生じる課題、遊び心のあるテクノロジーによって人とつながる方法についてレクチャーする。


20140108_fitc_05

4. ジェアード・フィックリン
http://www.frogdesign.com/


ジェアード・フィックリンは、FROGDESIGN.COM に籍を置く技術設計者。タッチ、マルチタッチ、音声、ジェスチャーなどのインプットを伴うインタラクション技術に注力し、HP、Microsoft、AT&T、LG、SanDisk、MotorolaをはじめとするクライアントにUXデザインを提供してきた。下のビデオはTED2012で行われたプレゼンテーションの模様だが、こちらはクライアントワークではなく、音楽を炎や光などに視覚化する、彼の趣味だという。


Jared Ficklin: New ways to see music (with color! and fire!) 翻訳付のビデオはこちら

プレゼンテーションでは、昨今のデジタルライフスタイルの変化や小型のコンピュータデバイスの普及にともなう設計方法への影響から、将来的なコンピューティングパターン、新しいインタラクションやデジタルエクスペリエンスへの取り組み、方法などについて語る。
また彼は、インタラクティブに特化したフェスSXSW Interactiveにて開催される SXSW Interactive Opening Party(別名:フロッグパーティ)の開催を長年サポートしてきた人物でもある。2013年のSXSW Interactiveには、真鍋氏も参加していた。この機会に、フィックリン氏の豊かなクリエイティブの世界に触れてみたい。


20140108_fitc_06

5. ジェイソン・ホワイト
http://lvthn.com/


プロジェクションマッピングを用いたビジュアルパフォーマンスの先駆けとなったAMON TOBINの “ISAM” ライブを手掛けたことで知られるクリエイティブ・ディレクターのジェイソン・ホワイト氏。 イリノイ・インスティテュート・オブ・アートを卒業後、Filmworkers、Lift Motion Designを経て2010年にクリエイティブスタジオ Leviathan を共同設立し、瞬く間に業界のトップへと登りつめた。


Splinter Cell: Blacklist E3 Launch / Client: Ubisoft

プレゼンテーションでは、AMON TOBINのコンサートビジュアルや、ヒューレット・パッカード、Ubisoftなどの事例を紹介し、Leviathanならではのメソッドやコンサートビジュアルの企画・製作の課題、未来のビジュアル体験を生み出す革新的なアプローチについて語ってくれる。


20140108_fitc_07

6. 徳井直生
http://qosmo.jp/


クリエイター集団「Qosmo」代表。また個人名義でもプログラミングを駆使した音楽・インスタレーション作品を発表するなど、多岐に渡る活動を展開している徳井直生氏。次回のプレゼンテーションのテーマは、シリコンバレーにあるアクセラレータ 500 startups 発のビデオメッセージアプリ「unda」。


Unda – Fast, Fun and Free Video messaging with your friends

Vine、 Instagram、Snapchat、そしてLineが人気を集めている今、ノンバーバルなビジュアルコミュニケーションはどのような未来を描いていくのだろうか?徳井氏がunda創業者 / CTOとしての経験をふまえ、次世代コミュニケーションツールをデザインする上で必要となるであろう考え方、その未来像について語る。


そのほか、イラストレーター / デザイナーのサラ・ブレーク「意図と願望の法則」、ゲームエバンジェリストのアンディ・ホール(Adobe)「モダンなウェブをモダンなツールで創ろう!Modern Tools for the Modern Web」、Flashコンテンツ制作で知られる開発者のグラント・スキナー「CreateJSでよりインタラクティブに」といったプレゼンテーションが予定されている。

20140108_fitc_08
またFITCには、登壇者をはじめとするクリエイターや業界人が集い、充実したネットワーキングをはかることができる。直にインスピレーションを刺激し合えるというカンファレンスならではの醍醐味を、ぜひ会場で味わってみてほしい。さらに、詳細はまだ発表されていないが、レクチャー後にはパーティの開催も予定されているとのこと。開催情報のアップデートを楽しみに待ちたい。


Information

FITC Tokyo 2014
http://fitc.ca/event/tk14/
https://twitter.com/fitctokyo
https://www.facebook.com/fitctokyo

開催日:2014年2月15日(土)-16日(日)13:00~18:35
会場:日本科学未来館 ( http://www.miraikan.jst.go.jp/ ) みらいCANホール
東京都江東区青海2-3-6

チケット販売価格:
【早期割引料金】
一般
2 day Ticket ¥13,000
1 Day Ticket ¥7,000

グループチケット(4名以上)
2 day Ticket ¥12,000

学生早期割引
2 day Ticket ¥7,000
1 Day Ticket ¥3,500

スピーカー:
ニール・メンドーサ
サラ・ブレーク
真鍋 大度
ジェイソン・ホワイト
MIKIKO
アンディ・ホール
グラント・スキナー
ジェアード・フィックリン
徳井直生

新進気鋭のグラフィックデザイナー/アートディレクターYOSHIROTTENの作品集“GAS BOOK 28”がリリース、2年ぶりとなる個展も開催

YOSHIROTTEN_01

現在開催中のYOSHIROTTENによる個展”PUDDLE”より – Photo : Lee Basford

国内外を問わず、音楽や ファッションのシーンにおいて数多くのグラフィック制作やアートディレクションを手がけ注目を集める YOSHIROTTEN(ヨシロットン)の作品集「GAS BOOK 28 YOSHIROTTEN」がガスアズインターフェイスよりリリース。

YOSHIROTTENは現在東京を拠点にしながらも、NY, BERLIN, SYDNEYなど世界中にクライアントを持ち、グラフィックデザイナー、 アートディレクター、グラフィックアーティストとして注目を集める気鋭のアーティストだ。

その独特の世界観とスタイルは多くの人の目を引き、ACE HOTEL NEW YORKの内装、BOYS NOIZE、DJ HELL、STEVIE WONDERなどの海外ミュージシャンのジャケットデザインからJAXA COSMODEとの商品企画、OPENING CEREMONYでのハロウィンコスチュームデザイン、ファッションブランドへのテキスタイルやTシャツのデザイン提供やルックブック制作、ファブリックブランドGALAのディレクションなど幅広く活動している。

YOSHIROTTEN_03
JOHN LAWRENCE SULLIVAN – BLACK PANTHER / T-shirts


音楽ユニット 「YATT」のメンバーであり、常に音楽とビジュアルのクロス オーバーを体現してる人物である。 グラフィックアーティストとして展覧会のための作品やZINEの制作などにも 積極的に取り組み、ベルリン発のアート誌「LODOWN」88号では、YOSHIROTTENの作品が表紙を飾り、インタビューも掲載された。

今回発売された作品集ではYOSHIROTTENが過去5年間に制作したアートワークからMUSIC、 FASHION、ZINEなどのカテゴリー別に掲載。多様性がありながらも 一貫して強いインパクトを持ち、世界中のアーティストやクライアントから信頼されるビジュアルを堪能できる一冊となっている。

また、ガスアズインターフェイスが運営する西麻布 CALM & PUNK GALLERY (カームアンドアパンクギャラリー)では2013年12月13日(金) ~2014年1月13日(月)の間、YOSHIROTTENにとって2年ぶりとなるソロエキシビジョン‘‘PUDDLE’’ を開催している。 会場では、YOSHIROTTENによる新作アートワークが展示され、GAS BOOK 28の販売も行われる。

ぜひこの機会にYOSHIROTTENのイマジネーションの世界に触れてほしい。

※追記:ソロエキシビジョン‘‘PUDDLE’’ の会期延長
会期 : 12月13日(金)~2014年1月13日(月)
休廊:2013.12.30 – 2014.01.06 までは休廊

僕はYOSHIROTTENの作品がとても好きなんだ。彼の作品は独自な魅力があって、思いもよらぬ捻り がある。 それは今ホットなネオ・サイケのイメージからくるものかもしれない。そういったフィールドにおいて彼 は最も面白いものを作っている一人だということを言っておきたい。 彼の構図はとても強く均整が取れていて、伝統的な3:2の比率に沿っている。それは見る者にとって 気持ちがいいんだ。全く新しくて見た事のない組み合わせのヴィジュアル・リミックスも興味深い部分 だ。ネオ・サイケ・トライバルと呼んでいいかもしれない。 刊行を再開したGASBOOKの新刊として、彼の作品集を見るのがとても楽しみだよ。
MAROK (LODOWN MAGAZINE)


YOSHIROTTEN_04

GALA – 2013


YOSHIROTTEN_09
Smile Mirror Ball, Parsonal Work, 2011


YOSHIROTTEN_10
JAXA COSMODE x FUGAHUM x YOSHIROTTEN / Dress


Information


YOSHIROTTEN_02GASBOOK 28 YOSHIROTTEN
発売日 : 2013年12月12日(木)
定価 : 本体 3,500円 + 税(予価)
ISBN:978-4-9904726-2-7
頁数 : 64ページ 版 型 : 横 22.6cm × 縦 28.6cm
発行 / お問合せ:ガスアズインターフェイス株式会社
WEB :http://gasbook.net/in/
購入はこちら:http://www.hellogasshop.com/products/detail.php?product_id=836



Exhibition Information


YOSHIROTTEN_06YOSHIROTTEN EXHIBITION “PUDDLE”

会期 : 12月13日(金)~2014年1月13日(月)
休廊:2013.12.30 – 2014.01.06 までは休廊

会場 : CALM & PUNK GALLERY
〒106-0031 東京都港区西麻布 1-15-15 浅井ビル 1F 開場時間 : 12:00 – 19:00 ※月曜休廊
入場 : 無料
www.calmandpunk.com/




Profile

YOSHIROTTEN_07YOSHIROTTEN

1983年3月生まれの日本人。現在東京を拠点にしながらも、NY, BERLIN, SYDNEYなど世界中にクライアントを持ち、グラフィックデザイナー、 アートディレクター、グラフィックアーティストとして今もっとも勢いの あるアーティストである。ACE HOTEL NEW YORKの内装やBOYS NOIZE, DJ HELL, STIVIE WONDERなどの海外ミュージシャンのジャケットデザイ ンからJAXA COSMODEとの商品企画やデザイン、OPENING CEREMONY でのハロウィンコスチュームデザイン、JOHN LAWRENCE SULLIVAN, Insght,などへのテキスタイルやTシャツのデザイン提供、AMBUSH®, SILAS, JUVENILE ROLL HALL CALL等のルックブック制作、ファブリック ブランドGALAのディレクションなど幅広く活動している。 また音楽ユニット ‘YATT’のメンバーであり、常に音楽とビジュアルのクロス オーバーを体現してる人物である。 グラフィックアーティストとして展覧会のための作品やZINEの制作などにも 積極的に取り組み、ベルリン発のアート誌「LODOWN」最新号 (No.88) では、YOSHIROTTENの作品が表紙を飾り、インタビューも掲載された。
http://yoshirotten.com/

カルチャーマガジンMASSAGEが5年ぶりに復活 – 特集は「インターネットカルチャー」

20131219_massage9-7

MASSAGEは2004年に創刊されたインディペンデント・カルチャー・マガジン。雑誌のコアとなるコンセプトは文化における〈出来事〉。文化がさざ波のように生み出す様々な動き、その目に見えるものの背後にある関係性、それによって引き起こされるさまざまな物事と、そこで生きる人々のマインドをレポートし続けている。そんなMASSAGEが5年ぶりに発売される。

9号目となる本号の特集は「インターネットカルチャー」。2010年代に入り、インターネットの文化はリアルとは異なる独自の文化を育て始めている。 Tumblrにはじまり、Soundcloudやbandcamp の登場など、表現の受容の変化とともにその表現自体も独自の進化を遂げ、いくつかの重要な動きや、作品が生み出されている。5年のブランクを経て復活したMASSAGEは、ネットで生まれ、ネットで増殖している文化の一部をヴィジュアルと音楽という2つの軸で紹介する。

また、発刊を記念した展示「INTERNET CULTURE SHOP」が1月10日よりTOKYO CULTUART by BEAMSにて開催、本号も先行販売される。

FEATURE : INTERNET CULTURE


今やヴィジュアルはネット上で即座に共有される。そのような性質のヴィジュアルは、よりコミュニケーションの手段に近づいていると言える。この章では MEGAZORD、FOURFIVEX、FERÉSTEC、JOE HAMILTON、LUKE WYATT、ENRICO BOCCIOLETTI、KIM ASENDORF、KEVIN HECKART、RYDER RIPPSなど、Tumblr 黎明期に作品をアップしてネット上で多大な影響を与えたアーティストやSEAPUNKのイメージを形作ったCGアーティスト、グリッチアートやネットアートを制作するアーティストなど、ネット上に作品を展開し、またネットの影響を作品に色濃く反映しているアーティストをそのヴィジュアルと共に紹介する。

20131219_massage9-2
20131219_massage9-3
1312_MASSAGE24
20131219_massage9-4

MUSIC ON INTERNET


近年のネット上の音楽は、レコードバイヤーがレコード棚を作る感覚で自ら自分のジャンルを作り出している。それは一種のネット上のジョークであるが、それだけではなく、そうした遊びが音楽を取り巻く文化全体を楽しめるもの にしているとも言える。妄想が増殖していくさまは、ネットならではであろう。この 10 年代に流行したジャンル、 VAPORWAVE、SEA PUNK、GORGE、WITCH HOUSE、CLOUDRAP / TRILLWAVE の5ジャンルから、その音を取り巻く文化をディスクレビューと共に紹介する。

その他にも、MIXTAPE、JAPANESE HIPHOP ON INTERNET、JAPANESE NET LABEL DICTIONARY、CASSETTE TAPEといった企画や、執筆陣も幅広く、DJ ぷりぷり、水野勝仁、UCNV、ヌケメ、ばるぼら、荻原 梓、tomad、近藤真弥、ECDなど多数。


本号の発刊を記念した TOKYO CULTUART by BEAMS での展示では、「インターネット・カルチャーショップ」をテーマに、掲載アーティストとオリジナルテキスタイルを制作。それを用いたアイテムと、インターネット的表現をプロダクツに昇華したブランドのアイテムの数々を販売する予定だ。

アート、デザイン、カルチャー、音楽などあらゆるものを巻き込みながら変化し続け、実体を掴みにくい「インターネットカルチャー」を知る絶好の一冊となるだろう。展示とともに楽しみにしたい。


20131219_massage9-5
20131219_massage9
20131219_massage9-8

Information

MASSAGE 9
http://www.themassage.jp/

概要 ページ数/ 256P CD 付き 判型/ B5 変形 価格/ 1,800 円 発売日/ 2014.1.10

CONTENTS
FEATURE : INTERNET CULTURE

INTERVIEW:MEGAZORD / FOURFIVEX / FERÉSTEC / JOE HAMILTON / LUKE WYATT / ENRICO BOCCIOLETTI / KIM ASENDORF / SUBTRANÇA / KEVIN HECKART / KILLIAN LODDO / JAMES HOWARD / THEREISAMAJORPROBLEMINAUSTRALIA / RYDER RIPPS / MANUEL FERNANDEZ / BADSMELLINGBOY
MEDIA:O FLUXO / TEENWITCH / LOGO
ARTWORK:BACON / FUKIN

MUSIC ON INTERNET
INTERVIEW:INTERNET CLUB / FORTUNE500 / BEER ON THE RUG / ULTRADEMON / LIL INTERNET / NOAH23 / PIFF GANG / 徳利

その他の企画
MIXTAPE / JAPANESE HIPHOP ON INTERNET / JAPANESE NET LABEL DICTIONARY / CASSETTE TAPE / デモテープ試聴対談 石黒景太×ぽえむ
INTERVIEW:DESTROOY / 辺口芳典 ARTWORK:NANOOK / IPPI

協賛:ガスアズインターフェイス株式会社

会期:1/10 ~ 2/5
会場:TOKYO CULTUART by BEAMS
東京都渋谷区神宮前3-24-7 3F
http://www.beams.co.jp/shops/detail/tokyo-cultuart-by-beams
Reception Party 1/10 17:00~20:00 §✝§ Live 19:00 START

ARTIST:FERÉSTEC / JOE HAMILTON / SUBTRANÇA / FOURFIVEX / MANUEL FERNANDEZ / ENRICO BOCCIOLETTI ≈ SPCNVDR / JAMES HOWARD / FUKIN
BRAND:SHALLOWWW / TIMEFLY / FABIEN MOUSSE / SHOOP CLOTHING / GLITCHAUS / COAT BY NUKEME AND UCNV

インターネットの自由とヤミが交差する「インターネットヤミ市」ベルリンで行われるトランスメディアーレ 2014にて開催決定!

20131217_yami3-05

「行かないと買えない、残念なEC」として、インターネットに関するあらゆるものが売り買いされるフリマ「インターネットヤミ市」の第3回目の開催が決定。

過去2回、東京で開催され、大きな反響を呼んだヤミ市。今回はなんと初の海外遠征バージョン!ドイツ・ベルリンで開催されるヨーロッパでも最大級のメディアアートフェスティバル「トランスメディアーレ 2014」のクロージングイベントとして実施される。

「トランスメディアーレ2014」の開催期間は、2014年1月29日から2月2日まで。
テーマは「afterglow(=デジタルの余韻)」ということで、デジタル時代以降の表現の在り方を問う作品が紹介され、またプレイベントとして世界中から70 名以上のアーティストやプログラマーが集うイベント「Art Hack Day Berlin」が開催される。

今回のヤミ市は、文化庁メディア芸術祭 海外メディア芸術祭等参加事業の一環で開催されるもので、企画ディレクターである伊藤ガビン氏が「exodus from formal internet」(正しいインターネットからの脱出)として企画を構成。
参加作品は、IDPW『どうでもいいね!』や、エキソニモ/渋家/Maltine Records『VideoBomber』などが選出されており、その関連イベントのひとつとして、ヤミ市も実施される。

現在、広く一般から出店希望者を募集している。
ベルリンまでの渡航費は自費となるが、「日本のインターネットをドイツ人に見せつけたる!」という意気込みのある方やヨーロッパ在住の方は是非!

メイン出店者はドイツ近辺やヨーロッパのインターネットフリーク達。
国や地域によってそれぞれ異なる「インターネット感」が、海を超えてぶつかり合い、文明衝突的状況が立ち上がるだろう。

出店に関する詳細等は公式サイトにて。
※英語サイトはこちら、English Website below.
http://berlin.yami1.biz/

W+K Tokyo制作のヤミ市をテーマとしたドキュメンタリー↓


前回のヤミ市の様子↓
20131217_yami3-06

20131217_yami3-07

20131217_yami3-08

インターネットヤミ市

インターネットおじさんをベルリンにアップロードしよう!


また、「みんなの力でインターネットおじさんをベルリンにアップロードしよう!」という便乗企画も発生。
インターネットヤミ市の会場で生まれた「リアルインターネットおじさん」をベルリンに送るべく、Gumroadを利用したクラウドファンディングを実施。「リアル・RT」や「リアル・バナー」「リアル・FTP」などファンディング金額によってユニークな特典がある。
目標金額は20万円、ぜひ応援したいかたは以下のサイトから。

インターネットおじさんからのメッセージ

関連:インターネットおじさんについて

「インターネットヤミ市2」レポート
センボーのブログ » インターネットヤミ市とか


Information

インターネットヤミ市3 in Berlin
(日)http://berlin.yami1.biz/jp/
(英)http://berlin.yami1.biz/

日時:2014年 2月2日(日)
場所:Haus der Kulturen der Welt (transmediale内) http://www.hkw.de/

主催:IDPW (http://idpw.org)
協力: 文化庁メディア芸術祭 海外メディア芸術祭等参加事業/transmediale/W+K Tokyo


トランスメディアーレ2014
会期 : 「トランスメディアーレ2014」 2014年1月29日(水)~2月2日(日)
    プレイベント「アートハックデイ」 1月27日(月)~29日(水)
会場 : 世界文化の家 Haus der Kultured der Welt (ドイツ・ベルリン)
入場料 : 70euro~(チケットの種類によって異なる)
http://www.transmediale.de


IDPWとは
20131217_yami3-04
主催のIDPW(通称:アイパス)は「100年前から続く、インターネット上の秘密結社」として、国内10数名のメンバーを中心に「インターネットを、現場に降臨させる」活動を行う団体。毎月恒例のパーティにて様々な実験を行い「インターネットヤミ市」「どうでもいいね!ボタン」「テキストパーティ」などを発明。「どうでもいいね!ボタン」は第17回文化庁メディア芸術祭にて新人賞を受賞。


トランスメディアーレとは
「transmediale(トランスメディアーレ)」は 1988 年から始まった「ビデオフィルム・フェスト」を前身とし、展覧会、シンポジウム、映像作品の上映、ワークショップなどで構成されたメディアアート・フェスティバルで、毎年ドイツ・ベルリンで開催されています。フェスティバルの名の通り、分野を超えた表現が集う場を目指し、毎回異なるテーマを設定した上で、様々な視点から現代文化を再考し続けています。25 周年を迎えた 2012 年からは、アーティスティック・ディレクターとして Kristoffer Gansing(クリストファー・ガンシング)氏が就任しています。
2014 年のテーマは「afterglow(=デジタルの余韻)」。“デジタル時代におけるデジタル以前の時代の名残” あるいは “ポスト・デジタル時代におけるデジタル時代の名残” を意味しています。 メディアアートの黎明期にインターネットはメインテーマの一つでしたが、現在私たちの生活は、スマートフォン等でネットに常時接続された状態で、インターネットは不可視(あってあたりまえの存在・十分に行き渡り・透明化した存在)なものになっています。この変化を検証するような、かつて描かれた未来像を取り入れた作品や、高度な技術が浸透した時代の DIY を感じさせる作品が集まります。インターネットヤミ市は本フェスティバルのクロージングイベントとしての開催になります。


文化庁メディア芸術祭 海外メディア芸術祭等参加事業
http://jmaf-promote.jp/global/index.html

子供や学生にプログラミングを教えるためのプログラム『Hour of Code』キャンペーン

hourofcode2

現在開催中の「Computer Science Education Week」の一環としてcode.orgによって子供や学生にプログラミングを教えるためのプログラム『Hour of Code』がリリースされている。「Computer Science Education Week」はK-12(幼稚園から高校まで)にむけてコンピューター・サイエンスに興味を持ってもらうためのアニュアル・プログラム。

Hour of Code』は子供や学生にプログラミングの一歩目を学んでもらうプロジェクト。
そして、このプロジェクトのキャンペーンが米国らしくなんとも豪華で、展開している映像やインタビュービデオシリーズを見ているだけでも面白いのでご紹介。

こちらはプロジェクト前にリリースされたティザー。


豪華なメンバーによるちょっとしたプログラミングの考え方を伝えるショートクリップがいろいろリリースされている。

マーク・ザッカーバーグが教えるrepeat loops。


ビル・ゲイツが教えるIf statements


オバマ大統領も登場。

NSAなど多くの情報関連のモメゴトが多いのもあってかネガティブな意見もチラホラ。

Nasまで登場。



と、かなり大々的にプログラミング教育へ向けてのキャンペーンを展開。

そして肝心のそのプログラムはcode.orgで公開されている。


たとえば最初のレッスンでは”Angry Birds”を例に、前方へ進め、右へ曲がれ、など簡単な命令を組み合わせてクリアしていくという、遊びながらプログラミング的な考えを学んでいく形式になっている。ほかにも多様なレッスンが用意されていおり、こうしたレッスンを多くの学校や機関で開催し「コードを勉強する1時間」を作ることを推進している。こちらはボランティアの翻訳によって多くの言語で提供されており、日本語もある。
http://learn.code.org/hoc/1

hourofcode5

またこのプログラムの一環としてprocessing言語を使った「Hello Processing」というインタラクティブ・チュートリアルのウェブサイトもリリース。
教育目的に作られ、多くのビジュアルやメディア・アート表現にも利用されているprocessingの最初の一歩がわかりやすく説明されている。

hourofcode4


hourofcode3
インタラクティブ・チュートリアルとなっており、ビデオで解説がありながら、コード、実行結果もリアルタイムで見ることができる。


プログラミング教育を促進するキャンペーンとしては大きな規模となっており、昔から小学校の教室にコンピューターがあることも珍しくない米国のこうした取り組みから学ぶことも多いだろう。日本やコンピューターが日常的に無い国でもこうしたプログラムを通じて「コードを勉強する1時間」を以前より格段に導入しやすくなっており、将来的な産業や経済の活性化につなげるため世界中でこうした流れが増えていくだろう。

最後に『Hour of Code』を取り上げたCNETの特集がわかりやすく全体をまとめているので紹介しておきたい。




http://code.org/

https://www.facebook.com/Code.org

日本のアート、デザイン、カルチャー情報を世界に発信「+81 Japan Creative Association USA」NYにて発足

20131205_plus81-us
東京発グローバル・ヴィジュアル・マガジン「+81」の編集・制作やクリエイティヴ・カンファレンス「 Graphic Passport」の企画・運営を行う「+81Creatives」は、2013年12月4日よりアメリカ合衆国ニュ ーヨーク市にて、「+81 Japan Creative Association USA」を発足する。

ジャンルを問わず、センス(美意識)を切り口に若い世代を中心に日本の現代アート、デザインなどのカルチャー情報を世界に広めていくためのプロジェクトだ。

また、現代作家と日本伝統工芸技術とのコラボレーションによる作品の商品化と認知を広めていく役目も担う。

日本人クリエイターがNYで活動するための拠点となるStudioの設置、作品発表としての場となるGallery、作品を商品化し販売するStoreを提供し、その全体のプロセスを紹介していくMagazineを発行するなど、活動の場を広げるための、トータル・プロデュースをおこなっていくプロジェクトとなる。

また、12月5日よりGalleryのオープンとなる第1回目の展覧会「HIDEKI NAKAJIMA & HIDEKI INABA GRAPHIC EXHIBITION」がスタートする。
NYに滞在中の方は、是非、立ち寄ってみてほしい。

w_hideki

Information

+81 Japan Creative Association USA
http://www.plus81.us/
http://www.facebook.com/plus81.usa


「HIDEKI NAKAJIMA & HIDEKI INABA GRAPHIC EXHIBITION」
DEC 5, 2013 – JAN 26, 2014
Venue Hours: From 12:00 To 19:00
Venue: ZAKKA&+81 JAPAN CREATIVE GALLERY
Address: 155 Plymouth St, Brooklyn, NY 11201 Phone: (718) 801-8037

『エキソニモの「猿へ」』を読み解く 〜 水野勝仁:《DesktopBAM》がミスると猿がキーキー叫ぶ

exonemo_1311

2013日12月1日まで福岡のギャラリー、三菱地所アルティアムにて開催されているエキソニモによる個展『エキソニモの「猿へ」』。今回の展覧会は初期から現在までの代表作を含む作品を再構成し、新たな切り口からエキソニモの魅力に迫る回顧展とも言える機会となっている。

今回、本展やエキソニモの作品を読み解いていくために、ICCでのインターネット・リアリティ研究会で共にし、自身のブログでもエキソニモの作品について考察を数多く執筆している水野勝仁さんに今回の個展を通じて見えてきたものを伺ってみた。
CBCNETでの過去の連載やブログなどと紐付け、少し違った視点での興味深い考察となっている。

インターネット創世記から普通の人は素通りしてしまうようなところに隙間を見つけ、価値をひっくり返してしまうエキソニモの作品たち。彼らの作品や活動をより深く楽しむための手がかりになればと思う。
また、メディア芸術カレントコンテンツのサイトにも水野さんによる展覧会全体のまとめも上がっているのでこちらも合わせてご覧頂きたい。




《DesktopBAM》がミスると猿がキーキー叫ぶ


1泊2日の福岡旅行で「エキソニモの猿へ」を3回見に行きました。その3回目にそれは起きました。

動きをミリセカンド単位で決められたマウスカーソルがデスクトップを自由自在に演奏していく《DesktopBAM》が「ミス」をしたのです。軽快にビートを刻んでいくカーソルのクリックする位置がズレ、普段は起動しないiPhotoが立ち上がり、これまで何回か見ていたときとは異なる音が鳴っています。「《DesktopBAM》がミスった!」と、私は即座に撮影しました。これがその映像です。





撮影をしながら、会場の人に「《DesktopBAM》がミスりました」と伝えにいこうかなどうか迷いました。いや、ミスっているので音もいつもと違うから、係の人もすぐ来るはずだと思っていましたが、結局、誰も来ませんでした。そうしているうちに《DesktopBAM》はiPhotoを終了して、いつもの演奏に戻って行きました。なので、その時《DesktopBAM》がミスったのを見ていたのは、私ただ一人でした。「奇跡」と出会った気がしました。

私はこのときまでに5回ほど《DesktopBAM》を通しで見ているから、そのとき目の前のMacbook Airで起こっていることがいつもとは異なることがわかりました。けれど、はじめて《DesktopBAM》を見た人は、それが「ミス」なのかどうかもわからないではないでしょうか。そもそも「カーソル」がヒトの手を介さず動いている時点で怪しいので、そこに興味がいってしまって、それが「正常」に動いているのかはわりとどうでもいいことなのかもしれません。


過去の《DesktopBAM》のライブの様子

《DesktopBAM》をつくったエキソニモにとってはどうでなのでしょうか。彼らにとっては「ミス」は喜ばしいもののような気がします。そこまで言えなくても、少なくとも受け容れられるものと考えているような気がします。いやいや、「水野さんが見たのは、ミスでも何でもなくて、単に起こることだよ」と言われるような気もします。エキソニモのひとりである千房けん輔さんはCBCNET内にある「センボーのブログ」で次のように《DesktopBAM》について書いています。

カーソルのオートメーションは、GUIの上で動いているだけに、その瞬間瞬間のマシンの状態によって、かなりタイミングが変わってしまうのだ。走らせるたびに、毎回微妙に挙動が違うし、それが音楽を演奏するようなシビアさには追いついていない。でもその拙い感じが、僕らとしてはBambaataaが一生懸命つなぐレコードの如く、いいグルーブを生んでいると思っている。


ここで書かれているように、《DesktopBAM》は「コンピュータ」のように「完璧」に演奏をこなすことが稀な作品だったわけです。その後、マシンのスペックがあがってほとんど失敗することがなくなったとブログに書かれています。しかしそれでも、《DesktopBAM》は「完璧」でなく「ときたま」ミスるわけですが、それは「ミス」なのでしょうか。コンピュータはプログラムによって与えられた条件を遂行していくだけで、そこに生じたちょっとしたズレが引き起こす一連の挙動を「ミス」と考えるのは、見ている人の勝手な想像にすぎないとも言えます。

千房さんが「センボーのブログ」の前にCBCNETの「Dots & Lines」で連載していたエッセイに「ウィ~ア~ヒュ~マンビ~イング」と題されたスパム防止で使われる「CAPTCHA」を使って書かれた回があります。CAPTCHAで結構な長さのテキストが提示されていて、それを読み取って、下のテキスト欄に入力するようになっているですが、これが意外と難しい。ちょっとでも間違うと「あなたはロボットです」とコンピュータに言われる。間違う度に「あなたはロボットです」と言われる。でも、ウェブページの「ソース」を見ると、そこにまるまるそのテキストが書いてあったりします。それをコピペして「Submit」すれば「GOOD JOB!」と褒められます。そして、「ウィ~ア~ヒュ~マンビ~イング」のページの最後には、

● 人間っていつも表層ばかり見ていますが、ロボット達はソースの方を見てるんですよね。それではまた!!


と書かれています。《DesktopBAM》を見ていて、そこに「ミス」が起こったと認識した私はまさに表層しか見ていなかったのではないでしょうか。その「ソース」を見ると、カーソルの位置のちょっとしたズレによって起動したiPhotoを終了して演奏を続けていくことが書かれているかもしれません。《DesktopBAM》で表層の挙動に喜んだ私はとても人間的な「人間」なのでしょう、でも、このエッセイでは、CAPTCHAが見える表層だけを見ていると何度も間違えて「あなたはロボットです」と言われて、普段は見ない「ソース」を見ると「Human being」と褒められる。なんかヒトであることと、ロボットであることが逆転したかのように感じます。

sembo03_textWikipediaの「CAPTCHA」の項目には、「コンピュータがテストを監督することから、人間が監督する標準的なチューリングテストとの対比として、CAPTCHAはときに逆チューリングテストとも呼ばれる」と書かれています。ディスプレイの向こう側でキーボードを叩く存在がヒトであるかどうかを、コンピュータがテストする。これはどこかエキソニモの作品に通じるところがあります。エキソニモはコンピュータという「間違えない」とされているマシンが「ミス」をするようなギリギリのラインを作品化します。だから、エキソニモの「歴史はPCのクラッシュと共にあったわけ」です。それはコンピュータがヒトのような「ミス」をする存在になるということです。つまり、マシンがヒトとなるのです。ときおり「ミス」しながらカーソルを動かし続ける「ヒト」、キーボードを叩き続ける「ヒト」を具体化しているのがエキソニモの作品群と言えます。そしてそれらは、作品を構成するコンピュータに対して「ヒト」らしき存在を見ている人が見出だせるかどうかのテストとしても機能しています。特に、今回の展示の最終セクション「2009」に展示された《DesktopBAM》と連作「ゴットは、存在する。」シリーズには「マシンのヒト化」が強く出ています。《DesktopBAM》は既に見てきましたが、「ゴットは、存在する。」シリーズには重ねわせたふたつのマウスがカーソルを動かす《祈》、スペースキーの上に置かれたオブジェが「かみ」の変換候補をループさせる《迷》といった作品があり、これらも《DesktopBAM》と同じようにヒトが触れていないにもかかわらず、カーソルは動き、キーボードは押されていて、そしてそのタイトルからもコンピュータがヒト化されています。同時に作品が示すコンピュータの「ヒト化」を読み取れる「あなた」は「ヒトがつくってきた意味の世界で生きているヒトですよ」とチューリングテストの監督者=エキソニモに言われているようです。

しかし、今回の展示タイトルは「エキソニモの猿へ」です。2009年の《DesktopBAM》や「ゴットは、存在する。」から4年後の回顧展的個展のタイトルに「猿」が出てきます。そして、この「猿」という言葉自体をエキソニモのひとつの作品として考えてみると面白いのではないでしょうか。それはエキソニモの作品の延長に「猿」がでてくることを考えてみることです。《DesktopBAM》や《祈》、《迷》で使われているコンピュータはヒトがつくりだした「意味の世界」から解放されています。つまり、「祈」「迷」といった言葉が持つ意味はコンピュータ自体が行っている演算・行為とは関係ありません。そこにそれらの意味を見出すのはあくまでヒトであって、コンピュータ自体はヒトではなくて意味から解放された「猿」になっているのかもしれません。だから、コンピュータはカーソルを動かし続ける「猿」、キーボードを叩き続ける「猿」であるとも言えます。「あなた」は猿をヒトと間違えたことになります。もしかしたら、意味に囚われすぎているヒトやコードに縛られているコンピュータよりも猿のほうがチューリングテストの監督者に向いているのかもしれません。このように考えてくると、チューリングテストの監督者がエキソニモというヒトのユニットではなくなり、ヒトでもなくマシンでもなく、「表層」も「ソース」も関係ない猿がテストの監督者となって「キーキー」と叫びながら、ディスプレイの向こう側にいる存在を「ヒトなのか/コンピュータなのか/猿なのか」を決めているような不思議な感じになってきます。エキソニモの作品を通して「猿へ」メッセージを送り、猿にその存在のあり方をジャッジされる。

ヒトとコンピュータとの関係を考えていくと、最後は「猿」が出てきてしまう。それは「ヒト/コンピュータ」という二項対立を崩す力をもっていて、この世界に「コンピュータ」が出てきた意味を「猿」というヒトでもコンピュータでもない視点からもう一度考えてみたらと問いかけているようです。「猿」という視点がどういったものかはまだわかりません。でも、ヒトとコンピュータとを巡る思考が閉塞的な状況になっている今だからこそ、「猿」から考え始める価値はありそうです。


text by 水野勝仁

メディア芸術カレントコンテンツ:
http://mediag.jp/news/cat3/post-300.html

ブログ:
http://touch-touch-touch.blogspot.jp/

Information

13-07a-exonemoエキソニモの「猿へ」
http://artium.jp/exhi/next.html

会 期:2013年 11月2日(土) – 12月1日(日) ※休館日 11月19日(火)
会館:10:00 ~ 20:00 ※初日 11/2 のみ 18:00 スタート・入場無料
会 場:三菱地所アルティアム(イムズ 8F)
福岡県福岡市中央区天神1-7-11 イムズ8F


懐かしくも新しい響き、ラジカセ・メロトロン化計画始動! – インスタレーション展 + ライブパフォーマンスレポート

20131122_boombox-mellotoron01

画像提供:VACANT


最近ほとんど姿を見かけることがなくなったアナログ機器。アナログがデジタルに置き換わりすっかり便利になったのに、時々無性にそういったものの魅力に惹かれてしまうことがあるのは、何故でしょうか。レコードプレーヤーしかり、ブラウン管テレビしかり。また、アナログ機器を用いたOpen Reel Ensemble のパフォーマンスや、大友良英氏のターンテーブル演奏にも、言葉に尽くせぬ魅力があります。
先日、原宿のVACANTで行われたサウンド・インスタレーション「ラジカセ・メロトロン化計画」も、アナログな魅力にあふれたイベントでした。本イベントはVACANTが企画し、「東京文化発信プロジェクト」が主催する「サウンド・ライブ・トーキョー 2013」の公募プログラム「サウンド・ライブ・トーキョー・フリンジ」のひとつとして実施されたものです。

20131122_boombox-mellotoron02
20131122_boombox-mellotoron03
20131122_boombox-mellotoron04

松崎順一著「ラジカセのデザイン!」より 青幻舎刊 画像提供:松崎順一


ラジカセ・メロトロン化計画とは?


「ラジカセ・メロトロン」のアイデアのもとになった「メロトロン」は、1960年代に登場した、各鍵盤に内蔵された録音済みテープをリアルタイムに再生するという、世界初の “サンプル・プレイバックキーボード” のこと。ノスタルジックでサイケデリックな音色を奏で、ビートルズやレディオヘッド、ヴィンセント・ギャロ、カニエ・ウェストなど、数多くのミュージシャンから愛用されてきた、サンプラーの元祖といわれる楽器です。

「ラジカセ・メロトロン」は、そのメロトロンの機構を元にしたオリジナルの巨大音楽装置。テクニカルエンジニアの小林ラヂオ氏と家電蒐集家の松崎順一氏が長年暖めてきた企画が、今回のイベントによって実現しました。

20131122_boombox-mellotoron05

ラジカセ・メロトロン 画像提供:VACANT


今回のインスタレーションでは、メロトロンの内部に組み込まれていたテープのかわりに、ラジカセが音を再生します。ステージの真ん中に置かれたキーボードの鍵盤のひとつひとつに壁にかけられたラジカセが割り当てられており、キーボードから37台のラジカセが制御できるようになっています。
会場構成を手掛けたのは、さまざまなエネルギーを相互に変換する装置を作り、ライブや展示を行う堀尾寛太氏。堀尾氏は大友良英氏の「大友良英リミテッド・アンサンブルズ」に参加した経験もある、アナログ機器を用いたサウンド・インスタレーションの文脈を知るアーティスト / エンジニアです。

アナログ ⇄ デジタルを行き来するパフォーマンス


20131122_boombox-mellotoron06

PC-8001(写真手前)とテープレコーダー
(写真中央)画像提供:VACANT

展示の初日、ゲスト・パフォーマーに、ミュージシャンの嶺川貴子氏を迎え、この「ラジカセ・メロトロン」を使ったライブが行われました。
パフォーマンスは、堀尾氏が会場のあちこちに仕掛けた昭和家電や、1979年にNECから発売されたパソコン「PC-8001」を動かすパフォーマンスからスタート。驚いたのは、「PC-8001」にカセットテープレコーダーが接続されていたこと。当時はパソコンの記憶媒体としてカセットテープが使用されていたそうです。堀尾氏は、このテープレコーダーの音を「PC-8001」に入力し、そこで得られた数字のデータを使ってラジカセ・メロトロンを動かす、というパフォーマンスを行いました。アナログからデジタルへの移行を物語る、貴重なパフォーマンスでした。

堀尾氏の後は、嶺川氏が登場。1995年にデビュー後、国内外で8枚のアルバムを発売し、坂本龍一氏とともに「細野晴臣トリビュート」や「PENGUIN CAFE ORCHESTRA -tribute-」に参加した嶺川氏は、今年約13年ぶりにダスティン・ウォングとのアルバム「Toropical Circle」を発売したばかり。今回のライブには、テープに音源を吹き込む段階から参加していました。

20131122_boombox-mellotoron07

嶺川貴子氏 画像提供:VACANT


そしてついに聞こえてきたラジカセの音は、普段は耳にしない、静けさを宿したような音でした。音が耳にささってくるようなことがなく、耳が音の方にひき込まれていくという感覚です。
演奏の途中には、小林氏と松崎氏がラジカセのテープを入れ替えるという、人力のサンプリングのような作業も行われていました。

ラジカセから聴こえてくる水の流れる音や遠くでアコーディオンが鳴っているような音、鳥の鳴き声などの音と、即興的なピアニカやラインベル、メロディーパイプ※1 の演奏。それらの音が和音を生成し、森の中にいるような音の空間をつくり出していました。何とも表現できない独特な音の世界は、「ラジカセ・メロトロニカ」といってもいいかもしれません。

20131122_boombox-mellotoron08

メディアありきの音楽


パフォーマンス終了後、メンバーの皆さんから話をうかがいました。

– 今日はありがとうございました。今回の企画はどなたのアイデアだったのですか?

小林 : 原案自体は僕が高校生ぐらいの頃からずっとやりたいと思っていて、松崎さんとの出会いがあり、やっと実現できたという感じです。

– ラジカセの音が耳に心地良かったです。

松崎 : そうなんです。デジタルの音はカクカクしていて、低音やドンシャリ系の音には向いているんですけれど、ラジカセは音のカーブが柔らかく、人間の耳に優しい音が出せるんです。特に1970〜1980年代の日本製のラジカセが良いので、今回はすべて当時のものを整備して使っています。嶺川さんが録音に使用したラジカセも40年ぐらい前のものです。


Boombox-Mellotron Project “Experimentation” ラジカセ・メロトロン開発中の様子

– 堀尾さんは参加してみていかがでしたか?

堀尾 : もともと僕もよく大型ゴミを直して遊んでいて、「PC-8001」も捨てられていたものでした。でも、家電の歴史や文脈は知らなかったので、今回すごく勉強になりました。松崎さんにはもっと色々教わりたいですね(笑)。

松崎 : 今カセットテープは、80年代に比べると、1〜2%しかつくられていないんです。音楽ってダウンロードして聴くだけだと味気ないじゃないですか。だからメディアを操作することも楽しいんじゃないかな、ということも広めていきたいですね。

– 嶺川さんはいかがでしたか?

嶺川 : 今回は音の重なりを想像しながら、ラジカセに入れるテープに音を録音しました。それで作曲みたいなことをして、オリジナルの楽譜のようなものをつくったんです。本番ではご機嫌斜めなラジカセがあって、その通りには演奏できなかったんですけれど(笑)。松崎さんがおっしゃっていたのですが、ラジカセって元の所有者によって全然違う音がするらしいんです。ロックをかけていたラジカセとクラシックをかけていたラジカセでは、全然違う音がする、と。そういった意味でも、ラジカセと対話するような感じで、とてもいい体験をさせていただきました。

20131122_boombox-mellotoron09

嶺川氏オリジナルの楽譜


– ラジカセ・メロトロン化計画、次はどのようなことを考えられていますか?

小林 : 機材的には増殖、拡大、拡散、大音量化等々に加えて、システムの信頼性・設置の簡便性の向上ですね。コンテンツ・演奏・パフォーマンスは、また嶺川さんに御苦労して頂いて次のステップを踏むのを希望しています。しかし違うステージがあっても良いと思うので、誰かラジカセ・メロトロンみたいな面倒臭い楽器で何かしたいという方は、私にコンタクトして下さい。

– それは楽しみですね!今日はお疲れさまでした。素敵なパフォーマンスをありがとうございました。

20131122_boombox-mellotoron10

画像提供:VACANT

ライブを聴くまでは「ラジカセ・メロトロン」というものがどんなものなのか、まったく想像できなかったのですが、実際に聞いてみたらとても新鮮でひき込まれる音でした。アナログとデジタルを掛け合わせた試みは、これからもおもしろくなりそうです。

最後に、小林氏も言及されていましたが、ラジカセ・メロトロン計画に参加してみたい、というミュージシャンやパフォーマーなどの方がいましたら、kobaradi[ at ]gmail.com (小林ラヂオ) までコンタクトしてみてください。
また、松崎氏が整備したラジカセは、デザインアンダーグラウンド(DUG)のホームページやVACANT(在庫に限りあり)などで購入可能です。本当に良い音が聴けるラジカセなので、そちらもぜひチェックしてみてください。


※1 メロディーパイプ:蛇腹のパイプ状の楽器。振り回すと風が鳴るような不思議な音をたて、回転数を増やすことで倍音を出すこともできる。


Article by Yu Miyakoshi

Information

BOOMBOX-MELLOTRON PROJECT/ラジカセ・メロトロン化計画
http://www.boombox-mellotron.com/

平成25年9月28日(土)、29日(日)
会場:VACANT 2F(東京都渋谷区神宮前3-20-13)
ラジカセ・メロトロン制作:小林ラヂオ、松崎順一 (DESIGN UNDERGROUND)
会場構成:堀尾寛太
ライブ出演:松崎順一、小林ラヂオ、堀尾寛太
ライブスペシャルゲスト: 嶺川貴子
企画・制作:VACANT


Profile

松崎順一
家電蒐集家、Design Underground主宰。東京・足立区をホームグラウンドとして、2003年より1970年代以降の近代家電製品を主として、日々国内・海外を問わず近代家電製品(主にラジカセ)の蒐集・整備・カスタマイズや、家電を使用したイベント企画・ラジカセを使用した展示などをおこなう。主な著書に写真集『ラジカセのデザイン!』(青幻舎)、そのDVD版がユニバーサル・ミュージックより発売中。2013年『メイド・イン・ジャパンのデザイン! 70年代アナログ家電カタログ』(青幻舎)を発刊。

小林ラヂオ
エレクトリックアバンギャルド集団。1991年横浜で創業し、現在は渋谷をベースに、テクノロジークロスオーバーなガジェットの企画・制作をおこなう傍ら、イベントやプロジェクトのテクニカルエンジニアとしても活動する。使用するガジェットはブザーからマイコンボードに限らず、割箸から鉄骨、輪ゴムから内燃機関など多岐にわたり、その用途も音楽や映像の範疇にとどまらず、前人未踏の開発を日々おこなっている。

堀尾寛太
アーティスト、エンジニア。音、光、運動、位置などさまざまなエネルギーを相互に変換する装置を作り、ライブや展示をおこなう。また、電子デバイスのエンジニアとして、コマーシャルな展示・映像・プロトタイピングなどのプロジェクトに参加している。主なプロジェクトに『sun and escape』(大阪築港赤レンガ倉庫、2005)、『round trip+EM#3』(Sónar – MACBA、2006)、『Sony Tablet Two Will』(2011)、DVD『viewKoma2』(2011)、『speed switching』(2011、NTTインターコミュニケーションセンター)など。

嶺川貴子
’95年『CHAT CHAT』でデビュー。『Maxi On』など国内外8枚のアルバムを発売。その後『細野晴臣トリビュート』で坂本龍一氏と「風の谷のナウシカ」のカヴァーVo.や『PENGUIN CAFE ORCHESTRA -tribute-』などコンピCDへの参加が続く。そして今年5月に約13年ぶりとなるアルバム『Toropical Circle』を元PONYTAILのギタリスト、ダスティン・ウォングとの共作として発表。

Links