「アジアのクリエイティブ」という言葉を耳にしたとき、あなたなら何を想像するだろうか?
シンガポール、タイ、中国、インドネシアなど、いずれもダイナミックな経済成長を遂げる国々において、各国のクリエイティブ産業も負けじと勢力的な展開を見せているようだ……が、その実情はいかなるものか? まだまだリアルな情報は入手しにくいところが日本人の実感かもしれない。一方、バラエティに富んだ国の風土を基軸に、グローバルな視点を持って活躍するアジア人はいまや数知れず。まだ見ぬ新たな才能が次々と芽吹き始めている。
そんな折り、アジア10都市のクリエイティブを総括する展覧会「CREATIVE©ITIES」が昨年12月に台湾高雄市で開催された。とある出会いから台湾へと招かれた筆者より、熱気溢れるアジアレポートをお届けしたい。
Text: Arina Tsukada
12月某日、成田を出発。離陸から3時間程であっさり到着してしまった台湾桃園国際空港。うーん、近い。琉球諸島の西南に位置するこの島国は、真冬でも比較的温暖な気候でなんとも過ごしやすい(しかし、街ゆく人々がダウンや分厚いコートを羽織っているのは冬のオシャレだろうか…)。空港からバスに乗り継ぎ、1時間ほどで台北駅に到着。フライトの都合で台北泊を余儀なくされた筆者だったが、翌朝早々に新幹線に乗り込み、展覧会開催地である高雄市へ向かった。
台湾の南に位置する高雄市は、台北駅から新幹線で1時間半ほど。今回、筆者が招かれた「CREATIVE©ITIES」展覧会は、高雄市が主催する「 Kaohsiung(高雄)Design Festival」の一部として催されたもの。会場は、元々は砂糖倉庫だったという広大な敷地を利用したカルチャー施設「Pier-2 Art Center」だ。この施設だが、とにかく広い。いくつもの倉庫群に分かれ、いたるところでイベントや展覧会が開催されている。修学旅行中の学生も見受けられ、観光文化施設にもなっている様子。場内にはストリーミングラジオやライブを運営するカフェなどもある。
突如、ガンダム?トランスフォーマー?のようなものが出現
後述するが、台湾ではこうした元倉庫や工場を利用した広大な文化施設が複数存在し、いずれも市や国などの公的機関が運営しているケースが多い。台北市にある「華山1914」はその最たるものだろうか。横浜の赤レンガ倉庫を想像してもらえれば近いと思うが、いずれもそのスケールと100年前の建造物が持つ趣には圧倒される。
さて、本題となる「CREATIVE©ITIES」の展覧会へ。会場へ一歩足を踏み入れると、ご覧の通り、スペース一面がアジア・パシフィック10都市のクリエイターたちのショーケース作品で埋め尽くされている。ここでの参加都市は、高雄(台湾)、バンコク、北京、香港、クアラルンプール、マニラ、ソウル、シンガポール、シドニー、そして東京だ。今回のメインキュレーターは、シンガポールのクリエイティブを牽引する人物、Jackson Tan。彼は自身のアートチームPhunk StudioやデザインスタジオBlack Designを主宰する気鋭のシンガポール人クリエイター。母国語の英語、中国語も自在に操り、いまやアジア諸国に活躍の場を拡げている。他国の公営による大型展覧会において、彼のような外国人クリエイターが抜擢されることも、国境を超えた活動の実積が裏付けられるだろう(ちなみに本展のプレスカンファレンスはすべて中国語)。
各都市からは「City Curators」によって選出された、自国を代表するCity Creators各10〜30名、総勢12,000もの作品画像が集められた。東京からのクリエイターは稲葉英樹、中島秀樹、artless川上俊、NOSIGNER太刀川英輔、関祐介などのデザイナーをはじめ、greenz.jpやWIRED Japanなどのメディア代表者、DRESSCAMPやWrittenafterwardsなどの気鋭ファッションブランドのデザイナーたちなど、多彩なラインナップがそろった。
メイン会場を抜けると、アジア・パシフィック10都市にまつわる様々なコンテンツが続く。各都市でフィールドレコーディングされた「都市の音」を聞くことのできるエリア、気候や様々な情報をインフォグラフィックで表すスクリーニングゾーンなどなど。特に興味深かったのは、都市の人口、政治、産業、外国人居住者数、クリエイティブ産業従事者の割合、世界における報道自由指数などを集めたインフォマップだ。こうした10都市の情報を総合的に見る機会に恵まれると、いかに隣国の知識をなんとなくでしか持ち合わせていないことに気が付く。いやはや、知れば知るほど世界は面白い。
(左から)空間デザイナーの関くん、キュレーターのJackson、東京City Curatorの矢部さん(ubies)、なぜか内股な筆者
ここから先は余談、台湾の旅レポを。
内覧会後は、CREATIVE©ITIESメンバーとおいしい火鍋を共にし、深夜営業のマッサージ店でリラックス(台湾に来たならマッサージは絶対受けろと豪語された)。そして、なんといっても忘れちゃいけない、台湾といえば夜市(Night Market)である。この夜市、平日だろうが毎日深夜2時頃まで営業している(市によって時間帯は異なる)。台湾には「夜食」の文化があり、夕飯を食べたあとでも、夜10時頃にふらっと訪れたりもするんだとか。しかし、いくら食べても安いしうまい。これぞ美食の国・台湾である。担々麺、水餃子、からすみなんかはもちろんのこと、時には発酵した魚卵、餅米with豚の血&ビーナッツ和え(名称不明)など異形のブツも薦められるが、これもまた美味。毎日お祭り気分で楽しいことこの上ないのだが、ひとつ気になる点といえば誰もアルコールを摂取していないこと。こんなに酒の肴ばかりなのに、なぜ…、と、尋ねると、お酒はお店や家で飲むものらしい。タイのカオサン通りなんかはお酒に溢れていると聞くが、慣習の違いなのだろうか。往生際の悪い日本人はコンビニでビールを購入するのをオススメする。もうひとつ、台北市Raohe Street Night Marketの入り口にある胡椒餅は最高に旨いので、台湾に行ったらぜひチェックを。
ところ変わってこちらは台北市内。先述した、旧倉庫地帯を活用した複合文化施設「華山1914」である。とにかく写真のような大きな倉庫が並んでおり、個々の部屋にはカフェやBAR、書店、ショップ、施設内には映画館も併設している。「GEISAI TAIWAN」や「Taiwan Designers’ Week」などの大型イベントの開催地でもあり、台北市内で何かイベントを起こすならココ、といった印象。FabCafe台湾もこの中にある。
台北を案内してもらったTaiwan Designers’ Week主宰のBenさんには、「台湾に来たら、温泉も山も海もある。市内にいると忙しいから、週末は美しい景色を見なきゃ!」と、まっとうな人間らしいアドバイスを頂いた。島国特有のゆるやかさは、温暖な気候と豊かな自然環境によるものも大きいだろう。隣国、台湾の魅力はまだまだ尽きない。
Information
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CREATIVE©ITIES
アジア10都市プロジェクトは今後も巡回予定!
https://www.facebook.com/creativecitiesproject