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第6回恵比寿映像祭 TRUE COLORS:アーティストたちの言語

February 19, 2014(Wed)|

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オープニングレセプション

2009年にはじまり、各回ごとにテーマを変え、映像表現の可能性を提示してきた恵比寿映像祭。今年は「TRUE COLORS」というテーマでさまざまな映像表現が映し出す現代社会、その多様性について考察を試みている。

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左から第5回恵比寿映像祭地域連携プログラム参加作家の毛利悠子、第6回恵比寿映像祭出品作家のタリン・ギル、ピラー・マタ・デュポン、ナルパティ・アワンガ

東京都写真美術館の地下1階から3階まで、全館にわたる展示空間を歩いてみると、まず言語の多様さに驚かされる。耳に入ってくる言葉が変われば、そのロジックもまた新しいので、色々な方向から価値観を刺激された。それでは、いくつかの作品をピックアップしてご紹介していきたいと思う。




アークティック・パースペクティヴ・イニシアティヴ|Arctic Perspective Initiative


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アークティック・パースペクティヴ・イニシアティヴ(マルコ・ペリハン、マシュー・ビーダーマン)「ᐃᐱᒃᑐᖅ (イピタック)―氷原と凍土、海原の向こうの研ぎ澄まされた感覚」2014再構成/発色現像方式印画、シングルチャンネル・ヴィデオ(HD、サウンド、カラー)、バックライトプリント他/作家蔵
Courtesy: Arctic Perspective Initiative, Zavod Projekt Atol, CTASC


2007年にマルコ・ペリハン(Marko PELJHAN)とマシュー・ビーダーマン(Matthew BIEDERMAN)によって設立された国際的な非営利団体、アークティック・パースペクティヴ・イニシアティヴ(以下 API)。

マルコ・ペリハン(1969年、スロヴェニア生まれ)は、2010年にYCAMで制作・発表された「polar m」(YCAM, 2010)でカールステン・ニコライとコラボレーションを行っていたので、記憶に残っている方も多いかと思う。

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中央2人:左からマシュー・ビーダーマン、マルコ・ペリハン

ペリハンは、1995年より、オープンソースとメディアを基盤とした技術開発のためのグローバルなネットワーク「パクト・システムズ」を組織し、1997年よりテレコミュニケーション、気象観測システムなどにフォーカスした極地移動ラボプロジェクト「Makrolab」を実施。一貫してインディペンデントな情報の受発信とシステムの開発に携わっているコンセプチュアルアーティスト、メディアーティストだ。
日本では、「polar」(キャノン・アートラボ, 2000)、「open nature」(ICC, 2005)、「OPEN SPCE 2009」(ICC)、「polar m」(YCAM, 2010)などで発表している。

APIは、北極圏に暮らす人々のためにオープン・オーサリングや通信のインフラを創造することを目的として設立されたグループ。特徴的なのは、イヌイット族をはじめとする現地の人々と継続的にコミュニケーションをとり、人々が必要とする通信、観測、電力、建築などを開発してきたプロジェクトだということ。

展示室には、風車や飛行装置、航空写真、野菜を栽培するシステムの図解、データ・ディスプレイ装置から操作できるスクリーン映像などが展示されている。テレビの前に置かれた巨大なクッションには、ぜひ座ってみて欲しい。不思議と落ち着き、APIのドキュメンタリビデオが見られる。アート、科学、情報、地域、社会が等価に結びついた、とても今日的なプロジェクトだ。


西京人|Xijing Men


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西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)「ようこそ西京に-西京入国管理局」
2012/ヴィデオ(HD、サウンド、カラー)/作家蔵

国境を超えた活動を行っているという点では、日本の小沢剛、中国のチェン・シャオション(CHEN Shaoxiong)、韓国のギムホンソック(Gimhongsok)によるユニット、西京人のことにもふれたい。
西京人は、映像、インスタレーション、パフォーマンスなどの作品を通して、仮想の都市国家、西京国を建国し、新たな国家のモデルを示すアートユニット。展示スペース「ようこそ西京に-西京入国管理局」に入るには、「輝くような笑顔を浮かべる」、「歌の一節を歌う」、「すてきな踊りを踊る」のいずれかを行わなければならない。審査を通過すると、中でドローイングや映像作品などが見られる。(こちらの審査、そんなに難しくないのでご安心を!)

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西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)「ようこそ西京に-西京入国管理局」
2012

彼らの活動は、アートによって諸々の問題を越えたレベルのことを考えていくものだそうで、「言語や国が違おうが、かなりやばい何かが邪魔をしようが、考え得る手段を使って越境する!そう、アートという、自由な生き方のためにね。」と言いきる。(※ART iT掲載 ブログより転載)
展示スペースからも、潔さと清々しいユーモアが伝わってくる。
作品は地下1 階展示室のほか、恵比寿ガーデンプレイスのセンター広場にも展示されている。


カミーユ・アンロ|Camille HENROT


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カミーユ・アンロ「偉大なる疲労」2013 © ADAGP Camille Henrot Courtesy Silex Films and Kamel mennour, Paris

ワシントンの国立スミソニアン博物館での特別研究員としての調査を通じて制作されたカミーユ・アンロの「偉大なる疲労」は、第55回ヴェネツィア・ビエンナーレで銀獅子賞を受賞した映像作品。インターネットから閲覧できる国立博物館の膨大なアーカイヴや収蔵品のイメージを用いて、宇宙の始まりから神話の世界、生命の歴史、現代社会を物語っている。スクリーンに映し出されたパソコンのウィンドウは、まるで鏡の中の鏡のように広がり、コンピュータの世界と宇宙を重ねる。語り部にラッパーの声を入れているのも興味深い。長大な歴史の叙事詩のような映像を見ていると、ラッパーが現代の吟遊詩人のように思えてくる。人の語りはもっとも原初的で、過去から地続きのメディアなのかもしれない。


ナルパティ・アワンガ a.k.a. オムレオ|Narpati Awangga a.k.a. oomleo


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ナルパティ・アワンガ a.k.a. オムレオ「旅するTHIS」2014 ヴィデオ(サイレント、カラー)、アクリル製オブジェにデジタルプリント、ステッカー/サイズ可変

ジャカルタを拠点に活動しているナルパティ・アワンガは、ピクセル・アート作家、GIFアニメーション作家、ウェブ / グラフィック・デザイナ―、マルチメディア関連の技術者、マンガ家、カラオケオーガナイザー、MC、DJなどと、さまざまな肩書きをもつアーティスト。オープニングレセプションの際に話をうかがったところ、インターネットやゲームが大好きで、以前は一日の大半をパソコンの前で過ごすこともあったそう。出展作「旅するTHIS」では、ピクセル・アートをアクリル製オブジェによって立体的に表現。飛行機に乗って外国に行ってみたいと考えた主人公「THIS」の旅という寓話的設定で、初めてナラティブな構成を試みたという。


スーザン・ヒラー|Susan HILLER


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スーザン・ヒラー「最後の無声映画」2007, 紙にエッチング(1/24点組)British Council Collection

文化人類学を学んだスーザン・ヒラー の「最後の無声映画」は、今までに見たことがないタイプの作品で、とても新鮮だった。展示作品は、世界各地の消滅あるいは消滅が危惧される言語の音声記録を用いた映像作品と、各言語のオシロスコープ図(音の波形)。スクリーンに投影されるのは、真っ暗な画面と白い字幕の文字のみで、声の主を見ることはできない。

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スーザン•ヒラー「最後の無声映画」British Council Collection, Courtesy: Timothy Taylor Gallery, London

スーザン・ヒラーは、鑑賞者が暗闇の中で対峙させられるこの断絶を “Silence” of the image(イメージの沈黙)になぞらえているという。新しい方法で知覚することを促すような作品。まったく耳に新しい言語の響きにも驚かされた。


下道基行|SHITAMICHI Motoyuki


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下道基行「torii」2006-2012/発色現像方式印画/作家蔵

フィールドワークをベースにした制作活動を行い、不可視の物語や些細な日常の瞬間を、写真やイベント、インタビューなどの手法によって編集することで顕在化させるアーティスト、下道基行。今回はアメリカ・台湾・ロシア・韓国などに、日本の植民地時代の遺構として残る鳥居を撮影したシリーズ「torii」を展示している。写真のほかに市販されている鳥居の葉書も並べ、独特の切り口で歴史の残され方、あるいは忘却されていく課程を見せている。下道基行の写真は、まるで過去も現在も未来もそこにある、タイムレスな風景に見えるから不思議だ。


ジョウシン・アーサー・リュウ|Jawshing Arthur LIOU


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ジョウシン・アーサー・リュウ「コラ」2011-2012/ヴィデオ・インスタレーション(3K、サウンド、カラー)/作家蔵

4Kのプロジェクターを使った超高解像度映像でチベットのカイラス山を映し出していたジョウシン・アーサー・リュウの「コラ」。チベット仏教やヒンズー教、ジャイナ教、ボン教の聖地であるカイラス山の映像にCGを重ね、実写以上にリアルな風景をつくり出している。作品が撮られた背景には、2007年に愛娘を亡くしたジョウシン・アーサー・リュウがカイラス山の神秘に惹かれ、撮影に至った経緯があったという。低く飛ぶ鳥のような目線で追う風景、山々に向かってひざまずく巡礼者の姿を見ているうちに、この場所に着地したような気持ちになってくる。


デイヴィッド・ホックニー|David HOCKNEY


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デイヴィッド・ホックニー「ジャグラーズ、2012年6月24日」 2012/18チャンネル・ヴィデオ・インスタレーション(サウンド、カラー)/ 作家蔵 Courtesy of Hockney Pictures and Pace Gallery © David Hockney

1960年代にイギリスのポップアートの中心地となったロイヤル・カレッジ・オブ・アートに在籍し、1964年からはロサンゼルスに活動拠点を移し、絵画、ドローイング、版画、写真からオペラの舞台美術まで、幅広い分野で活動してきたデイヴィッド・ホックニー。出展作「ジャグラーズ、2012年6月24日」は、18台の固定カメラで同時に撮影したパフォーマンスの映像を、18台のモニターに映し出したもの。モニター間で生じるずれや絵巻物のように並ぶフッテージは、ホックニーが80年代に制作していたポラロイド・コラージュ、フォト・コラージュを想起させた。一人のアーティストの作品に60年代のダブローから今のアートまでの変遷が見てとれる。


アンリ・サラ|Anri SALA


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アンリ・サラ「ギヴ・ミー・ザ・カラーズ」2003/ヴィデオ・プロジェクション(HD、サウンド、カラー)/作家蔵
Courtesy of Marian Goodman Gallery, New York; Galerie Chantal Crousel, Paris; Hauser & Wirth Zürich London; Johnen/Schöttle,Berline, Cologne, Munich

最後にご紹介するのは、今回の展覧会タイトル「TRUE COLORS」とも親和性が高いテーマをもつアンリ・サラの「Dammi i colori(Give me the colors)」。1974年に共産主義体制時代のアルバニアに生まれ、90年代に体制の崩壊と移行を体験したアンリ・サラは、絵画の文学士号を取得した後、フランスでビデオ制作、映画の監督手法を学ぶ。2003年に発表された出展作は、2000年にアルバニアの首都、ティアラ市の市長に就任した政治家のエディ・ラマによる再生・復興政策が施された街の様子を映している。そのプロジェクトとは、建物の外装をカラフルに塗装するというもの。カメラが車の窓から色とりどりのビルを映し、車に同乗した元画家であり、サラの友人でもあるエディ・ラマが都市の現状と未来像について語る。

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アンリ・サラ「片言」2004/9分38秒/ウォロフ語 ※上映プログラム作品

アンリ・サラは制作において「Syntax」(構文・統語論)を重視しており、中でも言語にスポットをあてているという。また、音にも深い関心を抱いており、その関心は初期の作品「インテルヴィスタ」では「音の不在」、後に「言語としての音」、「音楽になる音」へと移行している。(参考文献:美術手帖 No.963 2012年2月号)
その翻訳作業のような行為のたしかさ、そして世界の再構築方法がきわめて新しく、とても感銘を受けた。ぜひまた日本で見る機会が訪れたらと思う。




「トゥルー・カラーズ」というテーマのもと、グローバリゼーションによる世界の均質化・標準化に疑問を投げかけている本展。館内を歩くと、アーティストたちがそれぞれの言語で時に刺激的に、時にユーモラスに、緩急をもって語りかけてくるようなところがとても面白かった。

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ベン・ルイス「グーグルと知的財産」2012/89分/英語(日本語字幕付)

展示のほか、メディア・アーティスト、藤幡正樹の初期アニメーション作品集「おくりもの― 藤幡正樹 」(2/20、2/23 ゲストトークあり)、「電子書籍化の波紋「グーグルと知的財産」」(2/22 関連シンポジウムあり)などの上映プログラムや、「蓮沼執太個展」、sawako、yatooらによる「color into silence」など、地域連携プログラムも豊富だ。本稿ではほんの一部しか紹介することができなかったので、ぜひ他のプログラムもチェックしてみてほしい。

Text by Yu Miyakoshi


Information

第6回恵比寿映像祭 トゥルー・カラーズ
http://www.yebizo.com/

会期:平成26年2月7日(金)~2月23日(日)[ 2月10日(月)、17日(月)を除く15日間 ]
開館時間:10:00~20:00 ただし平成26年2月23日(最終日)のみ18:00まで
料金:入場無料
※定員制の上映プログラム、イヴェント等については有料

会場:東京都写真美術館 全フロア/恵比寿ガーデンプレイスセンター広場ほか
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL:03-3280-0099
e-mail:yebizo_info@syabi.com
JR恵比寿駅東口より徒歩約7分・東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分(動く通路利用)

主催:東京都/東京都写真美術館・東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化 財団)/日本経済新聞社
共催:サッポロ不動産開発株式会社
後援:J-WAVE 81.3FM/オーストラリア大使館/駐日韓国大使館 韓国文化院
協賛:ケベック州政府在日事務所/台北駐日経済文化代表処 台北文化センター/サッポロビール株式会社/東京都写真美術館支援会員
協力:イスラエル大使館/NECディスプレイソリューションズ株式会社/東芝ライテック株式会社/東芝エルティーエンジニアリング株式会社/マックレイ株式会社/KyotoDU/ぴあ株式会社/ 株式会社北山創造研究所/株式会社トリプルセブン・インタラクティブ/ 株式会社ロボット


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