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懐かしくも新しい響き、ラジカセ・メロトロン化計画始動! – インスタレーション展 + ライブパフォーマンスレポート
November 27, 2013(Wed)| Article by Yu Miyakoshi
画像提供:VACANT
最近ほとんど姿を見かけることがなくなったアナログ機器。アナログがデジタルに置き換わりすっかり便利になったのに、時々無性にそういったものの魅力に惹かれてしまうことがあるのは、何故でしょうか。レコードプレーヤーしかり、ブラウン管テレビしかり。また、アナログ機器を用いたOpen Reel Ensemble のパフォーマンスや、大友良英氏のターンテーブル演奏にも、言葉に尽くせぬ魅力があります。
先日、原宿のVACANTで行われたサウンド・インスタレーション「ラジカセ・メロトロン化計画」も、アナログな魅力にあふれたイベントでした。本イベントはVACANTが企画し、「東京文化発信プロジェクト」が主催する「サウンド・ライブ・トーキョー 2013」の公募プログラム「サウンド・ライブ・トーキョー・フリンジ」のひとつとして実施されたものです。
松崎順一著「ラジカセのデザイン!」より 青幻舎刊 画像提供:松崎順一
ラジカセ・メロトロン化計画とは?
「ラジカセ・メロトロン」のアイデアのもとになった「メロトロン」は、1960年代に登場した、各鍵盤に内蔵された録音済みテープをリアルタイムに再生するという、世界初の “サンプル・プレイバックキーボード” のこと。ノスタルジックでサイケデリックな音色を奏で、ビートルズやレディオヘッド、ヴィンセント・ギャロ、カニエ・ウェストなど、数多くのミュージシャンから愛用されてきた、サンプラーの元祖といわれる楽器です。
「ラジカセ・メロトロン」は、そのメロトロンの機構を元にしたオリジナルの巨大音楽装置。テクニカルエンジニアの小林ラヂオ氏と家電蒐集家の松崎順一氏が長年暖めてきた企画が、今回のイベントによって実現しました。
ラジカセ・メロトロン 画像提供:VACANT
今回のインスタレーションでは、メロトロンの内部に組み込まれていたテープのかわりに、ラジカセが音を再生します。ステージの真ん中に置かれたキーボードの鍵盤のひとつひとつに壁にかけられたラジカセが割り当てられており、キーボードから37台のラジカセが制御できるようになっています。
会場構成を手掛けたのは、さまざまなエネルギーを相互に変換する装置を作り、ライブや展示を行う堀尾寛太氏。堀尾氏は大友良英氏の「大友良英リミテッド・アンサンブルズ」に参加した経験もある、アナログ機器を用いたサウンド・インスタレーションの文脈を知るアーティスト / エンジニアです。
アナログ ⇄ デジタルを行き来するパフォーマンス
PC-8001(写真手前)とテープレコーダー
(写真中央)画像提供:VACANT
パフォーマンスは、堀尾氏が会場のあちこちに仕掛けた昭和家電や、1979年にNECから発売されたパソコン「PC-8001」を動かすパフォーマンスからスタート。驚いたのは、「PC-8001」にカセットテープレコーダーが接続されていたこと。当時はパソコンの記憶媒体としてカセットテープが使用されていたそうです。堀尾氏は、このテープレコーダーの音を「PC-8001」に入力し、そこで得られた数字のデータを使ってラジカセ・メロトロンを動かす、というパフォーマンスを行いました。アナログからデジタルへの移行を物語る、貴重なパフォーマンスでした。
堀尾氏の後は、嶺川氏が登場。1995年にデビュー後、国内外で8枚のアルバムを発売し、坂本龍一氏とともに「細野晴臣トリビュート」や「PENGUIN CAFE ORCHESTRA -tribute-」に参加した嶺川氏は、今年約13年ぶりにダスティン・ウォングとのアルバム「Toropical Circle」を発売したばかり。今回のライブには、テープに音源を吹き込む段階から参加していました。
嶺川貴子氏 画像提供:VACANT
そしてついに聞こえてきたラジカセの音は、普段は耳にしない、静けさを宿したような音でした。音が耳にささってくるようなことがなく、耳が音の方にひき込まれていくという感覚です。
演奏の途中には、小林氏と松崎氏がラジカセのテープを入れ替えるという、人力のサンプリングのような作業も行われていました。
ラジカセから聴こえてくる水の流れる音や遠くでアコーディオンが鳴っているような音、鳥の鳴き声などの音と、即興的なピアニカやラインベル、メロディーパイプ※1 の演奏。それらの音が和音を生成し、森の中にいるような音の空間をつくり出していました。何とも表現できない独特な音の世界は、「ラジカセ・メロトロニカ」といってもいいかもしれません。
メディアありきの音楽
パフォーマンス終了後、メンバーの皆さんから話をうかがいました。
– 今日はありがとうございました。今回の企画はどなたのアイデアだったのですか?
小林 : 原案自体は僕が高校生ぐらいの頃からずっとやりたいと思っていて、松崎さんとの出会いがあり、やっと実現できたという感じです。
– ラジカセの音が耳に心地良かったです。
松崎 : そうなんです。デジタルの音はカクカクしていて、低音やドンシャリ系の音には向いているんですけれど、ラジカセは音のカーブが柔らかく、人間の耳に優しい音が出せるんです。特に1970〜1980年代の日本製のラジカセが良いので、今回はすべて当時のものを整備して使っています。嶺川さんが録音に使用したラジカセも40年ぐらい前のものです。
– 堀尾さんは参加してみていかがでしたか?
堀尾 : もともと僕もよく大型ゴミを直して遊んでいて、「PC-8001」も捨てられていたものでした。でも、家電の歴史や文脈は知らなかったので、今回すごく勉強になりました。松崎さんにはもっと色々教わりたいですね(笑)。
松崎 : 今カセットテープは、80年代に比べると、1〜2%しかつくられていないんです。音楽ってダウンロードして聴くだけだと味気ないじゃないですか。だからメディアを操作することも楽しいんじゃないかな、ということも広めていきたいですね。
– 嶺川さんはいかがでしたか?
嶺川 : 今回は音の重なりを想像しながら、ラジカセに入れるテープに音を録音しました。それで作曲みたいなことをして、オリジナルの楽譜のようなものをつくったんです。本番ではご機嫌斜めなラジカセがあって、その通りには演奏できなかったんですけれど(笑)。松崎さんがおっしゃっていたのですが、ラジカセって元の所有者によって全然違う音がするらしいんです。ロックをかけていたラジカセとクラシックをかけていたラジカセでは、全然違う音がする、と。そういった意味でも、ラジカセと対話するような感じで、とてもいい体験をさせていただきました。
嶺川氏オリジナルの楽譜
– ラジカセ・メロトロン化計画、次はどのようなことを考えられていますか?
小林 : 機材的には増殖、拡大、拡散、大音量化等々に加えて、システムの信頼性・設置の簡便性の向上ですね。コンテンツ・演奏・パフォーマンスは、また嶺川さんに御苦労して頂いて次のステップを踏むのを希望しています。しかし違うステージがあっても良いと思うので、誰かラジカセ・メロトロンみたいな面倒臭い楽器で何かしたいという方は、私にコンタクトして下さい。
– それは楽しみですね!今日はお疲れさまでした。素敵なパフォーマンスをありがとうございました。
ライブを聴くまでは「ラジカセ・メロトロン」というものがどんなものなのか、まったく想像できなかったのですが、実際に聞いてみたらとても新鮮でひき込まれる音でした。アナログとデジタルを掛け合わせた試みは、これからもおもしろくなりそうです。
最後に、小林氏も言及されていましたが、ラジカセ・メロトロン計画に参加してみたい、というミュージシャンやパフォーマーなどの方がいましたら、kobaradi[ at ]gmail.com (小林ラヂオ) までコンタクトしてみてください。 また、松崎氏が整備したラジカセは、デザインアンダーグラウンド(DUG)のホームページやVACANT(在庫に限りあり)などで購入可能です。本当に良い音が聴けるラジカセなので、そちらもぜひチェックしてみてください。
※1 メロディーパイプ:蛇腹のパイプ状の楽器。振り回すと風が鳴るような不思議な音をたて、回転数を増やすことで倍音を出すこともできる。
Article by Yu Miyakoshi
Information
BOOMBOX-MELLOTRON PROJECT/ラジカセ・メロトロン化計画http://www.boombox-mellotron.com/
平成25年9月28日(土)、29日(日)
会場:VACANT 2F(東京都渋谷区神宮前3-20-13)
ラジカセ・メロトロン制作:小林ラヂオ、松崎順一 (DESIGN UNDERGROUND)
会場構成:堀尾寛太
ライブ出演:松崎順一、小林ラヂオ、堀尾寛太
ライブスペシャルゲスト: 嶺川貴子
企画・制作:VACANT
Profile
松崎順一家電蒐集家、Design Underground主宰。東京・足立区をホームグラウンドとして、2003年より1970年代以降の近代家電製品を主として、日々国内・海外を問わず近代家電製品(主にラジカセ)の蒐集・整備・カスタマイズや、家電を使用したイベント企画・ラジカセを使用した展示などをおこなう。主な著書に写真集『ラジカセのデザイン!』(青幻舎)、そのDVD版がユニバーサル・ミュージックより発売中。2013年『メイド・イン・ジャパンのデザイン! 70年代アナログ家電カタログ』(青幻舎)を発刊。
小林ラヂオ
エレクトリックアバンギャルド集団。1991年横浜で創業し、現在は渋谷をベースに、テクノロジークロスオーバーなガジェットの企画・制作をおこなう傍ら、イベントやプロジェクトのテクニカルエンジニアとしても活動する。使用するガジェットはブザーからマイコンボードに限らず、割箸から鉄骨、輪ゴムから内燃機関など多岐にわたり、その用途も音楽や映像の範疇にとどまらず、前人未踏の開発を日々おこなっている。
堀尾寛太
アーティスト、エンジニア。音、光、運動、位置などさまざまなエネルギーを相互に変換する装置を作り、ライブや展示をおこなう。また、電子デバイスのエンジニアとして、コマーシャルな展示・映像・プロトタイピングなどのプロジェクトに参加している。主なプロジェクトに『sun and escape』(大阪築港赤レンガ倉庫、2005)、『round trip+EM#3』(Sónar – MACBA、2006)、『Sony Tablet Two Will』(2011)、DVD『viewKoma2』(2011)、『speed switching』(2011、NTTインターコミュニケーションセンター)など。
嶺川貴子
’95年『CHAT CHAT』でデビュー。『Maxi On』など国内外8枚のアルバムを発売。その後『細野晴臣トリビュート』で坂本龍一氏と「風の谷のナウシカ」のカヴァーVo.や『PENGUIN CAFE ORCHESTRA -tribute-』などコンピCDへの参加が続く。そして今年5月に約13年ぶりとなるアルバム『Toropical Circle』を元PONYTAILのギタリスト、ダスティン・ウォングとの共作として発表。