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「問い」を生み出し、未来のシナリオをデザインする
「スペキュラティヴ・デザイン」について紹介した書籍が刊行

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「スペキュラティヴ・デザイン」について紹介した初の日本語版書籍が、ビー・エヌ・エヌ新社より刊行された。

企業のための問題解決、商品の売上向上。「デザイン」と聞くとこうしたことを思い浮かべる人がほとんどだろう。しかし、現代の私たちが直面する課題の多くはもはや解決不能で、これらを克服するためには、私たちの価値観、信念、考え方を変えるしか他に手はない。

本書は、「問い」を生み出し、未来のシナリオをデザインすることで、今ある世界に別の可能性を提示する「スペキュラティヴ・デザイン」について紹介している。
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のデザイン・インタラクティブ学科で10年にわたって教鞭を執り、「スペキュラティヴ・デザイン」の提唱者として世界的に注目を集めている著者が、アート・小説・イラスト・写真・映画などあらゆる領域を引証しながら、未来をスペキュレート〈思索〉する視点について紹介する。

コンセプチュアル・デザインとは何か、という一般論から始まり、科学技術の進歩の影響について批評的に考察するツールとしてデザインを用いる方法、そしてスペキュラティヴ・デザインの表現形態へと話を進めていく。

著者(アンソニー・ダン、フィオナ・レイビー)の作品はもちろん、Superflux、スプツニ子!など、スペキュラティヴ・デザイン実践者の事例も豊富に紹介。デザインの持つ「もうひとつ」の力を提唱する。

著者の一人、アンソニー・ダンが2014年に京都工芸繊維大学で行った講義記録が日本語字幕付きでアップされているので、こちらもぜひチェックしてみてほしい↓



スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。—未来を思索するためにデザインができること
アンソニー・ダン
ビー・エヌ・エヌ新社
定価 ¥3,240
(2015年12月1日16時15分時点の価格)
売上げランキング: 1083


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本書では、このリストの「B」の部分について紐解いていく。

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Information

スペキュラティヴ・デザイン
http://www.bnn.co.jp/books/7933/

ISBN:978-4-8025-1002-8
定価:本体 3,000円+税
仕様:A5判/280ページ
発売日:2015年11月25日
著者:アンソニー・ダン、フィオナ・レイビー
監修:久保田晃弘
翻訳:千葉敏生
寄稿:牛込陽介[takram London]


目次
[日本語版序文]
スペキュラティヴ・デザインの今日的意義 
― 久保田晃弘
[日本語版特別寄稿]
スペキュラティヴ・デザインに見る夢   
― 牛込陽介(Takram London)

第 1 章 ラディカル・デザインを超えて?
第 2 章 非現実の地図
第 3 章 批評としてのデザイン
第 4 章 デザインという名の巨獣
第 5 章 方法論の遊び場:虚構世界と思考実験
第 6 章 物理的なフィクション:ようこそ「ごっこ遊び」の世界へ
第 7 章 非現実性の美学
第 8 章 現実と不可能の狭間
第 9 章 スペキュラティヴ・エブリシング

【レポート】Adobeプレゼンツ!クリエイティブの祭典
「Adobe MAX 2015」 はお値段以上の満足

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2015年10月3日から7日まで、カリフォルニア州ロサンゼルスで開催された、「Adobe MAX(以下MAX)」のレポートをお届けする!
初参加のMAXは聞きしに勝る神イベントであった。
ちなみに2013年のレポートはこちら

さて、このMAX。名前は聴いたことがあるけれど、具体的にどんな内容なのかを知る人は少ない。そこで今回はMAX入門編と題し、その概要をご紹介。

text by Akiko Saito


Adobe MAXとは何なのか

主催は、PhotoshopやIllustratorなど、デジタル・クリエイティブに欠かせないソフトウェアを提供しているAdobe社。
MAXは毎年秋季に主催しているクリエイター向けのカンファレンスイベントだ。世界中からAdobe製品にまつわる人々が一堂に会する、年に一度のお祭り。250以上のセミナーやセッションが行われる。今年はこれまで最大規模の、世界60カ国から6,000人が参加した。

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こちら、基調講演の会場「Microsoft Theater」。

一言で言うとAdobeが開催する「クリエイティビティ」の祭典。今年の舞台はロサンゼルス。
基調講演はMTVのVMA受賞式なども行われる「マイクロソフト・シアター」(旧NOKIAシアター)にて、セミナーはすぐお隣の「ロサンゼルス・コンベンション・センター」にて行われた。

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ロサンゼルス・コンベンション・センター

イベントのターゲットは、Adobe製品のユーザーであるクリエイターたち。世界中から集結した彼らが手掛けるジャンルはデジタル全般。そのジャンルはグラフィックからモバイル、フォトビデオ、写真などさまざまで、所属する組織も民間のデザイン会社から政府、非営利組織までいろいろだ。

MAXの催しはおよそ5種類に分けられる。


1. エグゼクティブやセレブリティたちが登壇する基調講演

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日替わりで行われる基調講演。初日はAdobeの役員ら、各製品の担当者が登壇し、Adobeの新しい取り組みについて発表を行う。

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この方がAdobeの社長さんです。米Adobe社長兼CEO シャンタヌ・ナラヤン

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今回の目玉は、デスクトップとモバイルをクラウドでシームレスに繋ぐシステムによって、どこにいても作品を制作し、共有することができる、Adobe Creative Cloudを通じた「コネクテッド クリエイティブ キャンバス」の構想。

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Adobe Creative Cloudを契約している人には、作成したファイルをクラウドで共有する「CreativeSync」という新サービスが提供される。アドビが注力している、独立した機能を持ったモバイルアプリーー外出先でもサクっと画像レタッチが出来る「PhotoshopFix」や、写真をベクターデータに変換してくれる「Adobe Capture CC」で作成したファイルを、自宅のデスクトップや、遠隔で作業している同僚などが引き継ぐ事が出来るというわけだ。その時、それぞれのメンバーが設定したアセットを保存して使う事もできるので、チーム全体がアセットを共有して統一されたトンマナのクリエイティブが可能になる。

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全体的に、今年のトレンドはモバイル環境でもデスクトップと遜色ないクリエイティブが行える環境をAdobeが作ろうとしていることだった。そのため、「Photoshop CC」、「Illustrator CC」、「Premiere Pro CC」などもタッチでのオペレーションに対応を開始。いまコンテンツはWebではなくモバイルで見られる時代と言われているが、制作環境もモバイルに移行しつつあるのかもしれない。壇上ではMicrosoftの新製品「Surface Book」やiPad ProとApple Pencilを使ってデモが行われ、その作業性はデスクトップにも追いつきそうな勢いであった。

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写真をドロップして、アプリ「Photoshop Mix」や「Photoshop Fix」などで編集したものをその場でレイアウト。iPadやiPhoneを使ってレイアウトデザインができるカンプ用アプリ「Adobe Comp CC」。

などなど、当日の発表についてはこちらの速報をどうぞ!


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基調講演の二日目は、コンテンツ・メーカーたちによるもの。「華麗なるギャツビー」などを手がけた映画監督のバズ・ラーマンが壇上に上がった。すごくエネルギッシュな人で、なにかとイスに座りたがらず、やたらと立ち上がっているのが面白かった。

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バズとAdobe製品の出会いについても語ってくれた。映画を作るにあたってはビジュアルスクリプトとミュージカルスクリプト、普通の脚本が必要になるが、バズ自身はスケッチが苦手。そこで映画「ロミオ+ジュリエット」を作るとき、ビジュアルのイメージを伝えるために、写真を切り抜いてコラージュするビジュアルブックを作っていた。するとビジュアルエフェクトを手掛ける友人が、「Photoshopというものがある」と教えてくれた。初めてPhotoshopを見たときに「すごいコラージュマシーンだ!」と感激したという。ハリウッド映画の監督がデジタル・クリエイティブについて語っているのを見るのはなかなか新鮮な体験である。

最後、彼は観客に向かってこう言った。「みなさん、僕はみなさんの役に立ちたいんです。そのためにはいったいどうしたらいいのかずっと考えていました。是非僕に質問をしてください。そうしたらみなさんの役に立てる」と。恐るべきサービス精神!そして「それは間違っている、と人に言われて抑えられるのはクリエイティビティではない」と観客を鼓舞して去っていった。


2. プロフェッショナルたちによるセミナー

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ジョシュ・ヒギンズ

開催されるセッションの数は250以上。Adobe製品のTipsを紹介するセッションから、Facebookのクリエイティブ・ディレクターであるジョシュ・ヒギンズや、Macのアイコンのデザインで知られ、現在はPinterestに在籍するSusan Kareによるセッションまで。初心者にもマニアにも興味深いセミナーが行われた。

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Adobeの名物エヴァンジェリスト、「Photoshopの伝道師」ことRussell Brown

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シアトルのインフォグラフィックのデザイン・カンパにー「Killer Infographics」のセッションより

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「ゴーン・ガール」などを手掛ける、ハリウッドで活躍するエディターが制作フローを紹介するセミナー


3. 新製品に触って試せる「コミュニティパビリオン」

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「コミュニティパビリオン」会場

「Community Pavilion」は、各メーカーが新製品などを引っさげ出展する展示ブースとコミュニケーションの場。休憩のためのラウンジも備え、講演やセッションの合間に楽しめる仕掛けがいろいろ用意されている。

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6日朝に発表された、タブレットPCとして注目を集める「Surface BOOK」が早くも登場!触って試すことができる。

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こちらは360度のポートレイトを撮影してもらえる「360 Bullet Photo」。撮影したポートレイトはWebからダウンロードする。

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アナログなクリエイティビティの出展も多かった。これはシルクスクリーンのポスター

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ストラタシス社による3Dプリンタ作品。インクジェット紫外線硬化方式で、積層がわからないくらいの滑らかさ。


4. Adobe社員が現在開発中のプロジェクトをリーク!「スニーク・ピーク」

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MAXの名物になっている「スニーク・ピーク」は、Adobe社内の研究者やクリエイターたちが最新プロジェクトをリークするプレゼンテーション。いま取り組んでいる最中の、キレキレのプロジェクトが紹介される。今年は人工知能によるプロジェクトが多く紹介された。

オリジナルのフォントを直感的に作成「Project Faces」

こちらはAdobeのエバンジェリスト、リー・ブリムロー氏による「Project Faces」。フォントの太さ、斜体、ヒゲなどをスライドで調整することで、直感的な操作によってオリジナルのフォントを作ることができる。

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リー・ブリムロー氏

撮影した写真から消失点を自動で取得「Project Dollhouse」

こちらは、モバイルで撮影した写真からパースペクティブを自動的に取得し、ベクターデータで描画するもの。

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モバイルで撮影した写真から、、

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自動的にパースペクティブを取得。その場で犬を合成した。

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2Dの写真から3Dデータを起こし、3Dプリンタで印刷できる「Photoshop 3D Portraits」

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そっくり

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街で見かけたフォントを、、

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人工知能で解析して突き止める「Deep Font / Font Capture」

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ビッグデータを参照し、消去される確率が高いものをスライド操作だけで消してしまう「Defusing Photobombs」

「スニーク・ピーク」での発表は、詳しくはicsさんのウェブサイトに完璧にまとまっているのでそちらをどうぞ!


5. ネットワーキングのためのパーティ

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アメリカのカンファレンスは、セッションと同じくらいパーティにも気合が入っている。

5日の夜はコミュニティ・パビリオンにて軽食とビールなどが振る舞われるパーティ「Sponsor Welcome Reception & Meet the Teams」が開催された。18時になると同時に、会場にはお酒と軽食のカウンターが登場。フランクな雰囲気だ。来場者はビール片手に出展者らとの会話を楽しむ。

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Adobeのソフトウェア開発担当者がなんでも質問に答えてくれるコーナーも。このコスチュームは今回のために調達したそう。

みっちりと講演とセミナーを受講した後、6日の夜はお待ちかねのお祭り騒ぎ。さながらフェスの様相で、イベント空間にインスタレーションを展示したり、ロックバンドの演奏を行う「Beer Bash」が開催。もちろんビールも軽食も無料で振る舞われる。

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NY発の体験型エンターテイメント「FUERZABRUTA(フエルサブルータ)」がショーを行ったのは驚きだった。

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みんな写真撮りまくりです

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このために作られた鏡と光のインスタレーション


ホスピタリティとサービス精神

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Adobe MAXが他のカンファレンスイベントとは違うところ。それはホスピタリティ。会場にある、飲み物や食べ物の豊富さ、そして新サービス「Adobeストック」1年分や、FUJIFILMのミラーレス一眼「X-T10」を来場者全員にプレゼントするなど、すさまじいサービス精神を感じる。

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まさかカメラがもらえるなんて、、。詳細はブログ「カンファレンスに出席したらカメラをもらった 〜AdobeMAXがすごい〜」をどうぞ

膨大なセッションと、新製品の情報を会場で熱狂しながら聞く体験、そしてこのサービス精神に触れると、1600ドル(およそ19万円)という参加費用も納得だ。
ちなみに広告やクリエイティブのイベントだと、このお値段はザラ…。
これまでに体験したことがないほどのもてなしぶりだった。

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ロサンゼルスのまちをプロフォトグラファーとめぐる「フォトツアー」も開催

Adobe MAX2015は一度来てみると毎年来続けたくなる、不思議な魅力をもったイベントである。来年の開催は、11月にサンディエゴで。次回はあなたも是非!

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ちなみに2015年11月11日(水)には日本版クリエイターの祭典「Adobe Live -Best of MAX-」が開催!
様々なフィールドで活躍するクリエイターが集結、デザイン、Web、映像、写真など、それぞれ独自のテクニックやノウハウをご紹介。
Adobe社のエキスパートによるCreative Cloudの最新Tipsやワークフローのご紹介もあります!
詳細はWebサイトにて

Information

ADOBE MAX 2015
http://max.adobe.com/

October 3-7, 2015 Los Angeles, CA.


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Adobe Live -Best of MAX-

http://www.event-web.net/adobelive2015/max/

劇的に変化を続けるクリエイティブ環境において、Creative Cloudが現場にどのような効果をもたらすのか、最新情報や事例を交えながら紹介していきます。

日時:2015年11月11日(水)
11:00-18:15 セッション
18:15- ビアバッシュ
(受付開始 10:00)
会場:東京ミッドタウンホール(六本木)
定員:800名
参加費:無料(事前登録制)
※お申込み多数の場合は抽選とさせていただきます。
主催:アドビ システムズ 株式会社

出演:
オープニングアクト:エンターテインメント集団「白A」
アドビセッション:佐分利 ユージン(アドビ システムズ 株式会社 代表取締役社長)ほか
ゲストセッション:原野 守弘(株式会社 もり)

その他のスピーカー詳細は公式サイトにて

カタリスト(触媒)の時代を目指すアルスエレクトロニカ
アルスエレクトロニカフェスティバル 2015 レポート後編

2015年9月3日から5日間の日程で開催された、2015年のアルスエレクトロニカフェスティバルが閉幕しました。
ここ数年、アートのもつクリエイティビティを社会の中でどう活かしていくか、という方向へ大きく変化してきたアルスエレクトロニカのステートメントが、はっきりと輪郭を得た年になったように感じます。

今年もフューチャーラボのアーティストである小川秀明さんへのインタビューを中心に、前編後編の2回に分けて、その流れをたどってみたいと思います。

前編のインタビュー本編に続き、後編では過去の小川さんのインタビューも振り返りながら、今年のフェスティバルの背景について考えます。


Article by Haruma Kikuchi (UNIBA INC.)
Images from Ars Electronica


「アートシンキング」を社会の力に


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アルスエレクトロニカ フューチャーラボ 小川秀明さん
credit: Florian Voggenender

2015年のフェスティバルは、それを目にした多くの人にとって、現在のアルスエレクトロニカの目指す方向がよりはっきりと実感できる機会になったかも知れません。小川秀明さんが2014年のインタビューで語っていたひと言に、その方向性が端的に表現されているように思います。

「アートが刹那的な飾りやエンタテイメントでなく、未来を切り開くための力であることを実践してゆく」
ー 2014年9月9日 CBCNET内記事 : 小川秀明 インタビュー 前編


アートのもつクリエイティビティを社会の中でどう活かしていくか、というテーマは、「アート・テクノロジー・社会」を志向するアルスエレクトロニカにとって、重要な位置を占めるものです。特にここ数年、アートの領域以外のパートナーと積極的に協力関係を築いたり、フェスティバル全体のテーマとして社会性を強調するなど、いっそう力を入れてきているように見えます。
そして、アルスエレクトロニカが外部を志向して、サイエンス(科学)やインダストリー(産業)とより深い関係を持っていく中で、自身の価値を「アートシンキング」にあると自覚していくプロセスがありました。2014年のインタビューで、小川さんがその言葉との出会いを紹介しています。

「アートシンキングは、『現在』というよりは『未来』のためのものと考えています。そもそも、自分たちは何をしているのか。世界、社会は今後どうなってゆくのか。そして、そもそも『人』は一体何を考えているか。」
ー 2014年9月9日 CBCNET内記事 : 小川秀明 インタビュー 前編


「アートシンキング」は、私たち自身が誰で、どこにいるのかを問いかける、アートのもつ力の重要な側面です。その力が、社会の現在地について言及し続けるアルスエレクトロニカの取り組みを支えてきました。
そして社会(人類?)にとって未知の課題をとらえ、解決を目指すためにはアートシンキングが必要だ、というのがアルスエレクトロニカのスタンスです。アートのもつ問いかける力と、社会を建設する実践とが一緒になってはじめて可能になることがある。アルスエレクトロニカが産業の中にコラボレーション相手を求める理由はそこにあるのでしょう。
その戦略は、アートとインダストリーの互いに異なる発想法を合わせることによって、価値を生み出そうというものです。「アートシンキング」と、社会を実際に形づくる力(「デザインシンキング」)を結ぶ軸の上に、アルスエレクトロニカと企業との共同プロジェクトをイメージすることができるでしょう。

なにより「アートに触発された企業が形づくる未来」というヴィジョンが、現在のアルスエレクトロニカを動かしているように見えます。それは、人間の創造性に信頼と期待を寄せる、素晴らしくスリリングで、楽しげな未来についての提案だと思います。

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アルスエレクトロニカセンター
credit: Martin Hieslmair



アートとインダストリーの橋渡し


社会を「実装」している主役が企業だとすれば、企業の思い描くヴィジョンが、未来の社会を直接形づくることになる。アルスエレクトロニカは、そこにインスピレーションを与える存在になろうとしているように見えます。企業に対して思考のフレームやインスピレーションを提供することで、アートとインダストリーが相互補完的な関係をつくっていく戦略です。

2015年のフェスティバルに登場したメルセデスと博報堂は、その戦略に共感したアートとインダストリーの越境者たちと言えるでしょう。

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Deep Space 8Kで紹介されるF015
credit: Florian Voggeneder

メルセデスとのコラボレーションは、2014年に開始しています。今年はその成果として同社のオートノマス・ビークル(自動運転車)のコンセプトカー「F015」が、コミュニケーションの問題に焦点を当てる存在として、未来のモビリティ(移動)というテーマ展示に加わりました。

Ars Electronica FuturelabのMartina Mara氏のプレゼンテーションによれば、メルセデスはオートノマス・ビークルのコミュニケーション上の課題を、「車と搭乗者」「車と環境」「車と他の移動体(自転車や歩行者など)」の3つ関係に分類し、それぞれ研究していると説明しています。
例えば、歩行者に対してこれから静止して道を譲る意志があることを、人間の運転者が乗る車であればジェスチャーやアイコンタクトで伝えることができます。しかし、オートノマス・ビークルがそれらを伝えるための「言語」は、現在の交通マナーの中にはまだ存在しません。あるいは、人が手のひらを前に突き出す「止まれ」のジェスチャーに機械が反応するだろう、という期待(交通社会における規範)は、まだ確立していません。

2012年からFuture Labによって開発が続けられている、Spaxels(スペクセルズ)という群体クアドロコプターとその関連技術が、メルセデスとのコラボレーションにおいて重要な役割を果たしています。Spaxelsはタンジブルインターフェイスの流れを汲む、ビットとアトム(情報空間と物理空間)のあいだを新しい方法でつなぐメディアとして研究が続けられてきました。物理世界のフィードバックを情報空間へ返すという操作や、その反対のことを、数十機のクアドロコプターが群体飛行によって空中で実現します。
そのFuture Labの技術が、オートノマスが社会に登場する様子をシミュレートし、検討するために活用されています。

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Spexelsをジェスチャーで制止するMartina Mara氏
Credits: Mercedes-Benz

今年のフェスティバルで行われたFuture Labのデモンストレーションでは、地上走行するタイプの(より現実の都市を走る自動車に近い)新しいオートノマスマシン「Shared Space Bots」が紹介されました。複数のマシンが互いの状況を認識しながら、それぞれの目的に応じて走行し、未来の交通環境をシミュレートします。
注目すべきなのは、これらが実際に走行するマシンとして実装されることで、「人」と「オートノマス」のあいだでインタラクションを行う環境全体をシミュレートできるようになる、という点です。オートノマスが「交通状況を把握」して「人にシグナルを送り」、そのことによって「マシンが人に道を譲ることができる環境」を実現する。その新しい規範の開発に、タンジブル・インターフェイスが応用されています。

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Shared Space Bots
credit: Mercedes-Benz

日本で新しく規制の対象になったドローンの問題は、ドローンとその周辺環境のあいだにコミュニケーションを行う成熟した言語がないために、飛行自体を制限せざるを得なかったという面があります。ドローンの可能性をひらくためには、危険を減らし、ドローンが社会に受け入れられるための準備を進めていくしかありません。
メルセデスは、自社の製品が将来の交通規範に受け入れられるようにするための準備を、自ら進めようとしています。そして、その研究に最も適したパートナーとして、アルスエレクトロニカを選んだのでしょう。


未来を生きるのための「キット」開発


私たちがさまざまな新しい難局に出会ったとき、それを柔軟に解きほぐし、受け入れていくために頼れるものは何なのか。それを生み出すためのアルスエレクトロニカの取り組みは、日本の博報堂をパートナーに展開してきています。

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博報堂 鷲尾和彦氏
credit: Florian Voggeneder

博報堂とアルスエレクトロニカのコラボレーションは、2013年の「Future Rock Show」という実験的なプログラムに始まり、現在まで「Future Innovators Summit」と名前を変えながら継続してきています。また2014年には「FUTURE CATALYSTS」というアルスエレクトロニカと博報堂の継続的なパートナーシップも発表されました。アルスエレクトロニカのもつ資産を活かしながら、日本の企業や地域とともにイノベーションを起こしていくためのコラボレーションです。

※Future Rock Show、Future Innovators Summitについては、2013年、2014年の記事を参照
2013
CBCNET内記事 : Ars Electronica Festival 2013 「The Future Rock Show」レポート & 小川秀明氏インタビュー

2014
CBCNET内記事 : 小川秀明 インタビュー 前編
CBCNET内記事 : 小川秀明 インタビュー 後編

プレスリリース 博報堂、世界的なクリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ」と提携

この一連の取り組みの最初期から、未来をつくるには「問いかけ」が重要になるというテーマが一貫しています。
Future Innovators Summitの重要性は、3年のうちにほぼフェスティバルのミッションと重なり合うまでに大きくなりました。2015年のFuture Innovators Summitは「Post City Kit」というフェスティバルと同じテーマを冠し、未来を生きるための「Kit」を開発しようというゴールを設定して実施されています。

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ポストシティ・キットのキーヴィジュアル
credit: Florian Voggenender

「Kit」を開発しようという今年の提案は、ここ数年をかけてたどり着いた、未来を生きる方法のデザインの、ひとつの到達点なのではないかと思います。重要な点は、「Kit」というあり方それ自体が、繰り返し活用できるフレームとしてデザインされていることです。未知の課題に対応するために「Kit」を活用しながら生きていく、という振る舞い方のモデルとして提案されている。そして、そのモデルに対して「Interface」でも「Solution」でも「System」でもなく、「Kit」という呼び名を採用することで、いくつかのイメージを避けようとしているように見えます。
例えば「Interface」をモデルにして人と街(人々が住む場所)を考えると、街と人の「あいだにある何か」を作っていくというイメージが強くなる。あるいは、「System」をモデルにすると、人が何か「大きな全体」に属していて、その全体を最適化していくイメージになる。一方「Kit」では、人が主役として、課題に取り組む最前線に出ていくことになる。「Kit」は誰かに所有されなくてはいけない、だから個人がその主体として前面に出てくるというイメージです。
ひとりひとりが新しい課題に直面しても前進できる判断力と実践力を持ち、多くの人たちの力を合わせることで大きな課題を解消していくイメージが、「Kit」という呼び名に込められているように感じます。

小川さんのインタビューで重要なキーワードとしてたびたび登場する「触媒(カタリスト)的なアート」という在り方が、このモデルをデザインするに至る背景として重要でしょう。まず人がいて、人と人をつなぐもの(触媒=カタリスト)がある、という世界のありようは、個人が持つ小さなツール群が、ひとりひとりを行動に導き、新しい状況を皆で受け入れていくための力になる、というヴィジョンでもあるように思います。
2011年の時点で、小川さんがカタリストについて語っています。

「僕流に言うともう『メディアアート』ではなくて、もしかしたらメディアラボでもなくて、『カタリストラボ=触媒研究所』ってことを最近考えています。 間違えて、大爆発おこしちゃう事もあるかもしれないけど(笑)。」
ー 2011年9月 Interview with Hideaki Ogawa @ Ars Electronica Festival 2011, Linz



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フューチャーラボの入るアルスエレクトロニカセンター・メインデッキ
credit: Martin Hieslmair

アート作品が、どんな新しい世界を見せ、その世界とどう対話していこうとしているのか。特にメディアアートは、新しい「技術的な事態」によって私たち自身が変化していくことを示してきたように思います。その意味で、メディアと人との関係に焦点が当てられてきました。そして、メディアアートが、モノと人のあいだ(インターフェイス)について語り尽くしてしまった時点がある。2011年のインタビューはその飽和感が背景にありました。

モノと人のあいだを問題にする「インターフェイス」ではなく、人と人のあいだを問題にする「カタリスト」として取り組もうとしたとき、人や課題を一般化せずに、個別の事態を扱うことが重要になってきます。カタリストは、具体的な人と人のあいだにこそ、何かを起こさなくてはならないからです。人とテクノロジーを対立的に捉えるのではなく、人とテクノロジーが溶け合った中で全体が機能することを目指したときに、新しいモデルである「Kit」への道のりが始まったのではないでしょうか。
「カタリスト」の活躍する世界は、そこに暮らすひとりひとりが、自分自身の「Kit」を持つことによって、主役となって社会を形成していく世界でしょう。その「Kit」は、取り組む課題や、人の個性によって、さまざまなバリエーションを持たざるを得ないし、そうであったほうが良い。その意味で、インターフェイスよりも、「Kit」がより有効になってきます。

メルセデスと博報堂のケースはその始まりであり、今後、より多くの課題にフォーカスが当たっていくことになるのでしょう。社会が自らの変化を受け入れるときに、必ず葛藤が起こる、その乗り越えのために、アートの力を応用しようというアルスエレクトロニカの取り組みは、企業だけでなく国連や政府などもパートナーにしながら、広がっていくはずです。そのありようそのものが、いまの時代にカタリスト的な状況をつくりだすカタリストのように見えます。

そのプロセスのただ中で活動をしてきた小川さんは、今後半年間、博報堂との共同事業である「FUTURE CATALYSTS」に注力し、今年のアルスエレクトロニカで起こったことを日本でも実践に移していきたいと語っています。引き続き注目したいと思います。

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credit: Florian Voggeneder


Profile

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UNIBA INC.
ユニバ株式会社は、”さわれるインターネット(Embodied Virtuality)”の会社です。
インターネットとコンピュータを、道具ではなく、見て、触れて、遊びたおすためのメディアととらえています。
メディアアートとオープンテクノロジに根ざすプロダクションとして、その楽しさを追求しながら、ブランディング、キャンペーン、プロモーションの制作をしています。
http://uniba.jp/

デザイン、アートのためのプログラミング環境/言語「Processing」開発者であるベン・フライ、ケイシー・リース自身による入門書が日本語化

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ビジュアルデザイナーやアーティストのためのオープンソースのプログラミング環境/言語である「Processing」を、その開発者自身がプログラミング初学者に向けて解説した入門書の日本語版「Processing – ビジュアルデザイナーとアーティストのためのプログラミング入門」がBNN新社より刊行された。

Processingは、文系と理系、デザインとエンジニアリング、感性と論理という両軸における領域横断接続をもたらし、〈ハイブリッド〉な才能を産み出す環境/言語。
視覚芸術の文脈の中では、造形・動き・インタラクションをプログラミングするための力が養われ、ソフトウェアを作り出すためのリテラシーが身につく。 また、プログラミング教育の必要性がますます高まる現在、導入が極めて手軽であり、理系ではない人たちに向けて作られているProcessingは、プログラミング自体の学習にも非常に適している。

第一線の制作の場でも、教育の場でもプログラミングの環境として広く認知されており、開発者であるベン・フライ、ケイシー・リースによるProcessing入門の決定版となっている。また、日本語版オリジナルコンテンツとして、付録「Processing 3の新機能」や幸村真佐男、杉原 聡、真鍋大度、和田 永のインタビューも収録。

バージョンは、最も利用されているProcessing 2.0と、最新版の3.0に対応。
600ページ超のProcessing入門の決定版!
限定2,000部ということなので、気になる方はお早めに。

私がかつてMITで運営していた大学院のスタジオには、ユニークな才能が多く集まりました。彼らは、表現の手段としてコンピュータを扱うという根源的なバランスの課題を抱えていました。プログラミングをすることが、自分のデザイン的・芸術的な欲求の邪魔になることは望まない一方で、新しい視覚的な発見を導く小さな道すじを探る高度なコードをためらいなく書きました。この2つの知性のあり方は絶え間なく対立しますが、彼らの結論はシンプルでした。「どっちもやる」のです。
ー ジョン・マエダ(序文より抜粋)


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ビー・エヌ・エヌ新社 (2015-09-20)
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Information

Processing
ビジュアルデザイナーとアーティストのためのプログラミング入門

http://www.bnn.co.jp/books/7770/

■日本語版オリジナルコンテンツ
・付録「Processing 3の新機能」
・インタビュー:幸村真佐男、杉原 聡、真鍋大度、和田 永

ISBN:978-4-86100-950-1
定価:本体7,000円+税
仕様:B5判変型/688ページ
出版社: ビー・エヌ・エヌ新社 (2015/9/20)
発売日:2015年09月20日
著者:ベン・フライ(Ben Fry)、ケイシー・リース(Casey Reas)
監訳者:中西泰人
翻訳者:安藤幸央、澤村正樹、杉本達應

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アートのもつクリエイティビティを社会の中でどう活かしていくか
アルスエレクトロニカフェスティバル 2015 小川秀明氏インタビュー

2015年9月3日から5日間の日程で開催された、2015年のアルスエレクトロニカフェスティバルが閉幕しました。
ここ数年、アートのもつクリエイティビティを社会の中でどう活かしていくか、という方向へ大きく変化してきたアルスエレクトロニカのステートメントが、はっきりと輪郭を得た年になったように感じます。

今年もフューチャーラボのアーティストである小川秀明さんへのインタビューを中心に、前編後編の2回に分けて、その流れをたどってみたいと思います。

前編では2011年から4回目となった最新インタビューをご覧下さい。

Article by Haruma Kikuchi (UNIBA INC.)
Images from Ars Electronica


アルスエレクトロニカ 小川秀明氏インタビュー


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菊地:よろしくお願いします。まず、今年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルのトピックとしてどんなものがあるか、伺えますか。

小川:今年は3つの大きなハイライトがありました。ここポストシティ(郵便局集配所跡地)、アルスエレクトロニカ・センター、OKセンターの3つの場所で、それぞれアートとインダストリーの関係、アートとサイエンスの関係、アート自体が今なにを模索しているのか、その大きな3つのテーマが会場ごとにあったかなと思います。共通しているのはもちろん「社会性」です。
さらに飛躍させて言うと、アート×ガバメントといった事象まで含んでいるのかなと思います。今回すごくタイムリーだったのが難民問題です。いま1万2千人ほどのシリアからの難民が、オーストリアを通過してどんどんドイツに入っています。ここリンツもまさにその課題に直面しています。実は、我々が2010年に再生したリンツのタバコ工場が500人ほど収容できる難民キャンプになっていたり、ここPost Cityも正式に受け入れ先になることが決まりました。
社会がダイナミックに動いているなかで、このフェスティバルがただのフェスティバルではなく一種の社会実験として何ができるのかということを、全体としては体現したのではないかなと思います。

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賑わうメイン会場 POST CITY Exhibition
credit: tom mesic

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Spaceship Earth Exhibition アルスエレクトロニカセンター
credit: Florian Voggeneder

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Voxel Posse / Universal Everything (UK)
credit: Universal Everything

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ゴールデンニカ受賞作 Temps Mort / Idle Times / Alex Verhaest (BE) OKセンター
credit: Alex Verhaest

菊地:ポストシティ展の中で、シリア難民だけでなく、ネパールの地震の話など社会問題がクローズアップされていますね。

小川:今回のサブタイトル「Habitats for the 21st Century」は「21世紀、人はどこで生きるか」という問いです。いま、予測できない課題や局面に対してどうやって「レジリエンス(弾力性、回復力、抵抗力)」をもつかがすごく問われている時代で、地球上で起こっている問題に触れています。この街=ポストシティは、世界中の街をコンパクトに凝縮させたエキシビションとして、あたかも街を歩き回るかのように体験できるというのをコンセプトにしています。ぼくらはこれをポップアップシティと呼んでいます。街がポップアップして、今日(フェスティバル最終日)で消えて無くなってしまう。そういう実験的な街なんです。
去年のフェスティバルは既存の街にアイディアをインストールしていくという手法でしたが、今年は今ぼくたちを取り囲む問いに基づいて、街自体を作っていきました。さまざまな社会課題に対するクリエイターたちの活動を通して、これからの街「ポストシティ」を考える大きなフレームになったんじゃないかなと思います。

菊地:ポストシティ展では、メルセデスとの取り組みも紹介されています。将来、自動運転車が街に入ってきたときにどういう新しいルールとやマナーが必要なのか、という現実的な問題に、フューチャーラボが共同で取り組んでいます。

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リンツ市内の広場で披露されたメルセデスのコンセプトカー F015
credit: Florian Voggeneder


The F 015 Luxury in Motion Future City.

小川:我々フューチャーラボが持っている技術は、コミュニケーションの技術です。メルセデスの興味のポイントも、これから考えなきゃいけないのは車だけのことではないというところです。どう車と人がインタラクションするのかとか、車と環境が全体としてどう機能すべきなのかというのが、大きな研究課題でした。
我々の持っているコミュニケーション・リサーチに興味を持ってもらって、共同研究を進めています。

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歩行者に道をゆずるサインとして道路上に横断歩道を表示
credit: Mercedes-Benz

菊地:コミュニケーションの例として、車の前面に光の横断歩道を出して、歩行者に対して「通っていい」というサインを出すものがありました。
車の外側にいる人やモノとの関係や、車と乗っている人の関係の中に、どうやって新しい言語をつくるかという課題があるときに、過去のロボットへの取り組みやスペクセルズを持っているアルスエレクトロニカとやるからこそ、メルセデスとしても研究を深められる部分があるのでしょうね。

小川:そうだと思いますね。すごく光栄だったのは、このコンセプトカーのヨーロッパ初お披露目がアルスエレクトロニカ・フェスティバルだったことです。フランクフルトモーターショーが2週間後にあるのですが、従来メルセデスの最新の、最先端のヴィジョンは、そちらで発表していたはずです。社会を形づくっていくために必要なヴィジョンをそれに適したパートナーと一緒に一般市民も含めて展開してゆく。そんな企業側のポジティブな兆しをこちらも感じました。

菊地:お互いに必要としている、いい関係に見えますね。

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木のセグウェイ The Cargo Cult: A parable of desire / Peter Moosgaard (AT)
credit: tom mesic

小川:そうですね。
もうひとつ重要だったことは、メルセデスのF015だけではなくて、いろんなモビリティを一緒にフューチャー・モビリティとして紹介したことです。多様性の中に自動運転車があるからこそ、その価値やポジショニングがわかってくる。これがメルセデスのコンセプトカー、トヨタのコンセプトカー、って感じで未来の車だけが並んでいたら、たぶん怖いと思うんですよね(笑)。
そうではなくて、フューチャー・モビリティの中に木のセグウェイがあったり、アーティスティックな視点と混ざった状態で提示していく。そこは意図的にキュレーション、デザインしたつもりです。
ポストシティ展のキュレーションとして、ポストシティ・キットというコンセプトをFUTURE CATALYSTSとして開発しました。キットというのは「a collection」のことで、ある目的のためにコレクションされたものを言います。例えばメディカルキットは、医療のためのキット。ポストシティ・キットは「これからの街」のためのキットで、アイディア、ストラテジー、プロトタイプ、ツールなどがひとつに詰まったコレクションです。この展示空間には、ツールボックス=ポストシティ・キットのいろんな要素が入っています。(詳細は http://www.aec.at/postcity/en/postcitykit/


菊地:話はすこし変わりますが、大阪のナレッジキャピタルがポストシティ展に加わっています。

小川:今回見てもらいたかったのが、街の多様性です。世界で起こっている街づくりのヒントを集めたいと思いました。
そういう意味で、大阪のナレッジキャピタルも、いま世界中で行われているクリエイティブセンターの先駆的な事例、ストラテジーだと思います。
去年から、ナレッジキャピタルと共同で、我々アルスエレクトロニカのいろんなフレーバーを大阪に持ち込んでいくというArs Electronica in the Knowledge Capitalというプログラムを続けてきました。今回はその逆の流れで、ナレッジキャピタルがどんなクリエイティブセンターを志向しているのか、どんな研究をしているのかを紹介しています。
日本ではなかなか出会えないヨーロッパの一般市民との交流やアルスエレクトロニカの市民参加の枠組みを体感することで、ナレッジキャピタルの持っている可能性やこれからのステップが確認できたというフィードバックをいただきました。


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2014年に大阪のナレッジキャピタルで行われたトークイベント
Credit: Emiko Ogawa


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大阪ナレッジキャピタルブース
credit: tom mesic

菊地:会場内の通路に、「大阪へのショートカット」というサインがありました。

小川:そうなんです。会場内には実際の街のようにサインがあって、スパイラルフォールズとか、カンファレンススクエアとか、イーストアベニュー、ウェストアベニューとか。ファッションディストリクトとかですね。ネーミングは今回ぼくを中心に決めました(笑)。
最初ドイツ語で名前をつけようという話もしていたんですけど、外国人にはわかりづらいので。外国人にもわかる単語を街の中に配置して、何かしら想起できるように名付けました。

菊地:足もとに出てきたときに、興味を引かれるものがありました。
看板も、心なしか大阪のエリアは日本ぽいですか?

小川:ナレッジキャピタルさん自身がサイネージをつくってますからね。それも面白いなと思っていて、大阪のところだけ独特のサイネージコミュニケーションがある。外国人からすると見たことないサイネージで。でもそれも多様性のひとつかなと思っています。

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サインは道路標識のようなデザイン
credit: Martin Hieslmair

菊地:会場全体が、ドイツ語圏のネーミングマナーで統一されていたら、もっと入りづらかったかも知れません。

小川:そうですね。もちろんサインをぜんぶ統一するとかもできたんですけど。ニューヨークに行ったらチャイナタウンなど様々な地域があるわけだし、今のグローバルな都市というのはエリアとかディストリクトに固有のフレーバーがあって、そこに住んでいる人たちの文化の集合が空気感としてあります。そこに表出するがリアリティだし「この空白エリアはなんだろう?」と思ったら、たぶん政治的になんかあったのが理由かも知れないし(笑)。
それも含めて、ポップアップシティが浮き上がっているわけです。


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フェスティバルはシリアから押し寄せる難民の問題に、ヨーロッパ全体が揺れる中行われた
credit: Martin Hieslmair


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難民キャンプに使われた実物のテント
credit: tom mesic

菊地:フューチャーイノベーターズサミットについても聞かせて下さい。
去年に続いて、2回目がありました。今年はどうだったでしょうか。

小川:去年は、「変わるために必要なこと」という抽象的なテーマだったのに対して、今年は「ポストシティ・キットを開発しよう」というテーマでした。
どちらかというとゴールがクリアで、わかりやすかったと思います。
3つのサブテーマ「インフォームド・トラスト – 自律型マシンの世界で」「フューチャー・シチズン – これからの街で生きて行くときにいかにスマートになるべきか?」「フューチャー・レジリエンス – どんなレジリエンスを私たちは創造すべきか?」のポストシティ・キットを開発しました。
フューチャーイノベーターズサミットは、アルスエレクトロニカと博報堂との共同事業「FUTURE CATALYSTS」として昨年立ち上げた新しい取り組みです。アルスエレクトロニカの環境を最大限に活かすために二つの考えがあって、ひとつ目は、会議室ではない、ご覧いただいた通り「森の中」でディスカッションするように、場所性を生かすこと。どうやって彼らを通常のモードから緊張をほぐして、違うモードにしていくかというのが重要なポイントです。

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Future Innovators Summit グループCが議論をしているテーブル
credit: tom mesic


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PostCity会場では古い設備を包み込むように木々が生い茂っていた
credit: tom mesic

小川:ふたつ目はアーティストや、特定のトピックだけに興味を持っている人たちだけではない人たちが混ざり合うことで生まれる、クリエイティブなコリジョン=衝突を志向している、ということですね。
いままでの融合モデルは、こういうモデル(ふたつの円が一部重なり合っている集合部分:図)が多かった。それだと、重なっている部分だけで話をしがちなんですよね。周辺にあるものが全部なくなってしまって、クロスするところしか見ていない。だけど衝突すると、ぶつかり合って粉々に散らばった領域を観ることができる、という意味で、そういったやり方であえてディスカッションするようにしています。全体のプログラムは、博報堂と共同開発しています。当日のファシリテーションも博報堂のメンバーが担当しています。

20150929_ars-ogawa-interview01-32 融合モデル(コラボレーションとクリエイティブ・コリジョン)

そのあたりが上手く機能するようにしつつ、アルスエレクトロニカがただのショーケースとか、インスピレーションをもらえる場所ではなくて、そこから何か生み出される場所になる、という意味で2年目やって、文化になりつつあると思います。
文化になるというのは、去年フューチャーイノベーターズサミットに参加した5名ほどのイノベーター達が自主的に戻ってきて、コミュニティになってきている。フューチャーイノベーターズサミットというスクールを通して、新しいムーブメントが生まれそうな気がしています。
また来年もやる予定ですし、東京やアジア圏での展開も構想しています。フューチャーイノベーターズサミットが未来をプロトタイプする場として育ってくれるといいなと思っています。


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グループAのメンバー Marcus Fiege (DE), Matthias Danzmayr (AT)
credit: Florian Voggeneder


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Future Innovatros Summit グループAの最終プレゼン
credit: Florian Voggeneder

菊地:フューチャーイノベーターズサミットは、去年とかなり形式が変化していますね。6チームが3チームになっていたりとか、会場のバリエーションも去年と比べると少ないですね。

小川:そうですね。基本的なレシピはずらさないようにして、それ以外に関しては、去年の反省を活かしています。去年は6チームがパラレルに動いてファシリテーターがすごく大変だった。実質的に快適にできる3チームにするのと、会場もころころ変えないで、イノベーターたちも疲れないようにしてます。

菊地:来年以降も楽しみですね。
フェスティバル全体としてはいかがでしょう。

小川:今年はおかげさまで、好評でしたね。雰囲気がいいというか。会場とか、全体としてのステートメントがすごくいい感じにまとまっていて。ここ(ポストシティ)に来れば今年のヴィジョンが一望できるので、アルスエレクトロニカがなにをしたいのか分かりやすかったのではと思います。

菊地:そうですね、いち来場者としても同じ印象を持ちました。
会場で言うと、リンツのオーケストラがコンサートホールではなくポストシティの地下(旧鉄道ターミナルホール)で演奏していました。場所が違うということで、例年とエネルギーの発散の仕方も違ったのかなという印象でした。


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Bruckner Orchester Linz (AT)
かつて鉄道コンテナを引き入れていた地下ターミナルホールでリンツ市オーケストラが演奏した
credit: tom mesic


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ターミナルホールの壁面は巨大なビデオスクリーンに
credit: Florian Voggeneder

小川:そうですね、やっぱりそのフレーミングはとても重要だなと思っています。毎回同じことを言っているかも知れませんが、アーティストの表現力は疑いないので、そのクリエイティビティを社会の中にフレーミングしていくスキルが必要です。
そこは日本ではまだあまりやられていない部分かなという気がしますね。日本にはいいアーティストやキュレーターがたくさんいますけど、展示の展開先としてはどうしてもホワイトボックスが多い。今回見てもらうとわかるんですけど、アートをどうやって社会にフレーミングしていくのか、というのは、人間の創造性を俯瞰的な視点をもって社会にどう展開させていくのかということです。
そういった視点がもっと広がると、社会の中のアートがもっとクリアになってくると思います。そこに参加する市民のひとたちも、サービスとかプロダクトだけではないモードが世の中にあるんだ、というマインドセットになってくれるといいなと思いますね。

菊地:初めてポストシティ会場に来たときに、郵便局の黄色いマークの下にフェスティバルのポスターが掲げてあるのが目に入ってきました。あれは日本で言うと赤いT字のポストのマークの下にフェスティバルのポスターがあるっていうことですよね。

小川:そうですね。


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PostCity会場外観 郵便局のシンボルの下にフェスティバルのポスターが掲示してある
photo by Ars Electronica


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かつて郵便配達車が通用していた集配所入口
credit: Florian Voggeneder

菊地:「ポストシティ」のインストール先として、みんなが郵便局だと思っているところをあえて選ぶ、ということですね。日本の状況に置き換えて考えると、すごいことだなと感じます。

小川:郵便局の巨大配送センターの中に、これからの街のシミュレーションがある、というイメージですよね。これはいろんな意味で面白くて、ポストセンターはいわゆるコミュニケーションの集積地でもあったわけです。歴史的に。
この場所も1.5年前までは2000人の従業員が働いていました。今は郊外の新しいセンターに移動しています。なぜかというと、かつては郵便が貨物で運ばれていたので、ロケーション的に駅に近いここが集積地として作られたんですが、いまは車で配送するのがメインになってきた。それから、インターネットでものを買うことが増えていて、この施設では追いつかなくなったというのがある。
最初、手紙を使わなくなったから物量も減ったのかなと思ったんですけど、逆なんですよね。デジタル革命が、人と人の繫がりかたとか、人とモノの繫がりかたをすごく変容させています。そういう意味でポスト(郵便)という一時代を支えた通信の象徴的なところで、これからの市民がつながり合うフレームワークとしての街、現在進行形の実験としての街、というのを見せることができたのは、すごく面白い作業なんじゃないかなと思います。


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the former postal service’s letter & parcel distribution center from SEPT 2, 2015
旧郵便集配所の巨大な設備
credit: tom mesic

菊地:一時代を終えた施設で、「次の」街を描くという意味でもポストですし。だじゃれなんですよね(笑)?

小川:そう、だじゃれが連鎖するようになっていて(笑)。
もう一個あそこにポストあって、実はポストカード送れるんです。ポストシティ・キット・スタンプラリーというもので、ロゴマークを自分で作れるんです。各会場でスタンプが転がっていて、それを使ってカードをデコレートすると自分だけのポストシティ・キット・ロゴマークを作れる。それをそこのポストから送れる、ということになっていて。
参加者ができるのは、自らの手で散らばっている情報を編集して、自分だけのキットを作って、そのポストシティ・キット・カードを、ポストシティから、ポストサービスで送れるっていう。それもだじゃれなんですけど(笑)。

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ポストシティ・キット・スタンプラリー ポストとスタンプ

菊地:郵便システムは、道路を通すことと同じように、インフラとして整備されたものですが、だじゃれによってその歴史にも繋がっているわけですね。

小川:そうですね。さっきの話に戻ると、やっぱりアートとインダストリーという意味でもここ(郵便局集配所跡地)を選んだのは良かったと思います。
僕らが去年からアート×インダストリーの中でアートシンキングの重要性を言っている訳は、やっぱり「誰が社会をシェイプしているのか」ということだと思うんです。ぼくらは自分たちが主役となって、市民として社会を変化させているんだと信じたいけど、それはリアリティじゃなかったりする。政治家も自分は世界を変える!といって立候補するんだけど、何を変えているのかな、と疑われていたり。結局、社会に本当につながって、責任と影響力を持って形づくっているのは企業だったりします。
さっき道路の話がありましたけど、例えば、車が道路を作っているんです。そう考えると企業というのは、世の中のデマンドのミラーだと思うんですね。ニーズがなければその企業は存在しないということです。
いま企業が描く未来のヴィジョンが、人と社会にとって本当に重要なのかということを、常に問いかけつづける触媒としてアートがすごく重要だと思っています。
近年、サステナビリティという20年間くらい言われていたバズワードが変容しようとしていて、まさにFISのテーマにもなった「レジリエンス」のように、どうやって危機を機会ととらえてクリエイティビティに変換できるか、抵抗力をもつことができるか、という時代に変化していると感じます。
サステナビリティってすごくロマンティックというか、あるといいなと思うんですが、リアリティは違っている。状況が刻々と変化している中では、持続可能って、実は理想にすぎない。「レジリエンス」というのはそうじゃないモードで、いわゆる360度、空も地面も含めて、ちゃんと見とかなきゃいけないということです。そのときにアートシンキングというのは、やっぱりパワフルで、「レジリエンス」を議論するときにとても重要な視点なんじゃないかなと思います。このポストシティの郵便局という環境に、これからのモビリティやロボティクスなどいろいろなイノベーティブな技術が集まっていますが、それを見たときに、あらためてアートシンキングの可能性を感じることができました。

菊地:今年の小川さん個人の作品や、仕事についても紹介していただけますか。

小川:
今回のメインの仕事は、このPost Cityを生み出すこと。一個だけ新しいものとしてはFOCUSというプロジェクトです。


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FOCUS 自分の好きな画像でバッジをつくることができる
credit: Martin Hieslmair


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FOCUS
credit: Martin Hieslmair

菊地:大阪でも展示されていた作品ですね。

小川:そう。小さなツールですけど、この会場で発見した皆さんのフォーカスがバッチになるというものです。
フェスティバルを訪れる人の視点ってそれぞれ違うんですよね、さきほどのポストシティ・キットが人それぞれであるように。そう考えたときに、どうやってオーディエンスがプロデューサーになっていけるか、というコミュニケーションデザインがすごく重要です。
そう考えると、この会場にはぼくが制作した3つ触媒的プロジェクトがあります。Shadowgram、FOCUS、そして先ほどのポストシティ・キット・スタンプラリー。この3つは、来場者が自分の目線で、自分の力で、ここで感じた自分の物語を編集するための、触発のツールです。

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Shadowgram に自分の影とメッセージを貼り付ける
credit: tom mesic

菊地:マイニングツールですね。
それが目抜き通りにいきなり3つ置いてある、という。

小川:おっしゃる通りですね。ポストシティについて考えるためのカタリスト。その触発のツールが公共空間に置いてあるということですね。

菊地:最後に、今後の予定を聞かせて下さい。

小川:このポストシティを日本に持って行く、というのがこれから半年間ぼくがやることかなと思っています。
いま日本も、東京と地方の問題をはじめ、自分たちが住む場所に対してすごく意識が高まっている。先ほどの「レジリエンス」の重要性は、まさに日本が3.11のときに体感した部分だと思うんです。
ポストシティは、アーバンデザインの視点での試みではありません。ポストシティ「キット」という視点を持てば自分自身がアクターとして何ができるかというマインドセットを触発できるのではと思っています。それをポストシティ東京という枠組みのように、ポストシティ(都市名)として様々な場所に展開していきたい。そこでしかできないキットをディスカッションするのが面白いと思うし、ローカルな課題を共有するとともに、世界共通の課題を議論できるかも知れない。そういった場づくりをこの半年間、今回の成果をもとに、日本に展開したいなと思っています。


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Post City会場に隣接するリンツ駅
credit: Florian Voggeneder

菊地:それはFUTURE CATALYSTSとしてですか?

小川:そうですね、FUTURE CATALYSTSとしてですね。
仕掛けていきたいなと思っています。

菊地:去年、一昨年くらいに伺っていたお話の通りに、どんどん社会に関わりを、アートシンキングをもって広がっていっているなと感じました。

小川:1年に1回の連載みたいになっていますけど、言っていることは以前からほとんど変わっていないと思います。実践を進めてどんどん形になってきていて、ついには街までつくっちゃった、という感じで(笑)。

菊地:数年をかけたアップデート版という感じもしました。
今年プレゼンでおっしゃっていた、Inspired in Linzというのはすごくわかりやすいと思います。インスピレーションの深さをどんどん追求していると。

小川:Inspired in Linzというのは、Made in Japanと違っていて、そこへの愛着とか、エモーショナルな部分があって。僕はそれはすごく重要だなと思っています。ポイントはInspired in Japan(国)じゃないということ。Inspired in(街)ということです。その地域ユニットと人の関係がやっぱり、重要になっている。街自体が、クリエイターとかイノベーターとかを受け入れる、抱擁する装置としてますます重要性を持っていると思いますね。

菊地:ありがとうございました。


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インストール前のPost City会場
credit: Florian Voggeneder

(2015年9月4日 ポストシティ会場にて)



Profile

ogawa小川秀明 (おがわ・ひであき)
アルスエレクトロニカ フューチャーラボ・クリエイティブカタリスト

Futurelab : http://www.aec.at/futurelab/en/
h.o (エイチドットオー) : http://www.howeb.org/
ogalog : http://ogalog.blog.so-net.ne.jp/






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UNIBA INC.
ユニバ株式会社は、”さわれるインターネット(Embodied Virtuality)”の会社です。
インターネットとコンピュータを、道具ではなく、見て、触れて、遊びたおすためのメディアととらえています。
メディアアートとオープンテクノロジに根ざすプロダクションとして、その楽しさを追求しながら、ブランディング、キャンペーン、プロモーションの制作をしています。
http://uniba.jp/

台湾と日本を繋ぐデザインフェスティバルが開催
「Ensouler Design Festival」の10日間

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文/庄野祐輔
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台湾と日本の関係が歴史的に深いものだということを知っている人は多いだろう。東日本大震災の時、台湾の人々が手厚い援助を行ってくれたことも記憶に新しい。しかし彼らの人々の日本に対する気持ちには、親日と一言で表現しきれないものがある。それが一体なんなのか、10日間ほどの滞在で少しだけ垣間見ることができた。

台湾へ渡航するきっかけはリンさんという人物との出会だった。友人の紹介で自己紹介のつもりで会いに行った上野のカフェで、彼は常に笑いを絶やさない。彼はこの夏、台湾でデザインフェスティバルを行うのだという。それも参加するのは若い人たちばかりで、映画祭などを手がけてきたプロデューサーの彼にとってもはじめての試みであった。

彼の「それでは台湾に来てくれますか」という言葉に、誘われるがままに台湾へと向かうことになった。そこらじゅうに甘い食べ物の匂いが漂い、片言の日本語を話す人々がたくさんいる国。異国でありながらも、どこか懐かしさを感じるのはアジアという共通項があるからだろうか。それでいて、彼らは自分たちの歴史や文化の核を、しっかり手離さないでいるように見えた。

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フェスティバルの会場は金融街の中心に位置する誠品書店信義店。誠品書店は24時間経営の書店として始まり、現在では100万以上とも言われる書籍のラインナップだけでなく、雑貨、食品、家具など選りすぐられたさまざまな洗練された商品が並ぶ巨大なストア。台湾で最も知的なスポットして、世界のプロフェッショナルからの視察が絶えない。日本の蔦屋書店に影響を与えたことでも知られる、カルチャーの発信地である。

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その最上階にあるのが、145坪の展示用のスペースと、フォーラムが開催できる客席の設置されたスペースだ。そのスペースを最大限に用いて行われたのがデザインフェスティバル「Ensouler Design Festival」だった。その「Ensouler」とは「魂を吹き込む人」という造語で、優秀なデザイナーは、魅力的な作品を生み出すだけではなく、個性や魂を込めることによりブランドと社会の架け橋になるものだという思いが込められている。展示は「平面作品」「ブランドアイデンティティ」から構成され、作品を鑑賞するだけではなくデザイナーの思考や制作過程を観客たちに示すことが意図されていた。開催初日のオープニングセレモニーで、CMYKの4色のインキをフェスティバルの看板に注ぎ込むパフォーマンスの様子が新聞の一面に取り上げられるなど、台湾中の多くのメディアから注目を集めた。

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オープニングセレモニーでの、CMYK4色のインキをフェスティバルの看板に注ぎ込むパフォーマンス

10日間の開催の間には、さまざまなテーマでフォーラムが連日のように開催され、ものづくりの世界に貪欲な若者たちが多く集った。また夜にはクリエイターやVIPを招いたパーティが会場を移して行われた。クリエイターが自分の活動を報告するスピーチを行い、熱心に意見交換や交流が行われていた。台北中の看板や並木をなぎ倒して去っていった台風のために、後半の日程は中止になってしまったのだが。台湾の人々はとにかく写真撮るのが好きなようで、フェスティバルのために作られたパネルを背景に、主催者や登壇者たちと次々と記念撮影を行っていたのが印象的だった。

今回の展示には多くの日本の作家も招かれている。Behance Japan Tokyo Communityから参加していたのは、広島をベースに活動するIC4 Design、羊毛を用いた彫刻作品を制作する澁木智宏や、イラストレーターの牧かほりなど。企業とのさまざまなコラボレーションプロジェクトを手がけるSpeakerの西山眞司も参加した。

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日本の作家が集められたセクションの展示風景

台湾のクリエイターの作品で目に留まったのは、デザイン事務所のFive Metal Shop。地元の漁業メーカーをリ・ブランディングした実例を展示しており、CIだけでなく写真やイラストなどを洗練されたイメージで統合したウェブサイトや冊子などを制作。ローカリティを残しながらも、そのブランドにグローバルなクオリティを付加することに成功していた。

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Five Metal Shop 展示風景

また、フェスティバルのCMも製作したK4s Motion Studioの映像は、短い尺を繰り返すGIFアニメの特性を利用したシュールさの中にも笑いが込められている作品。普段の映像仕事をまとめたショーリールも非常にクオリティが高く、台湾モーショングラフィック界の国境を越えたパワーとエネルギーを感じさせてくれた。

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K4s Motion Studioが展示していたGIFアニメの作品


K4s Motion Studioが製作したフェスティバルのCM

他にも書籍のデザインやイラストレーション、プロダクツからCIの事例までさまざまなクリエイションが並ぶ。とりとめがないようにも見えるが、台湾を彩る異なる方向性を生のまま展示空間に閉じ込めた見本市のようなものと考えれば、その雑多さも合点が行く。夜のパーティでの、台湾のクリエイターたちのとてもまっすぐな、また誇らしげなプレゼンテーションを聞いて、語ることを避けがちな日本人との落差を感じながらも、伝えようとする意思を持つことの大事さも改めて思い知らされた。

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海外、それも初めての国となればなんらかのカルチャーショックを受けることは多いが、滞在10日間の中でとりわけ印象に残ったのは台湾の人々の私たちに接してくれる姿勢の優しさだった。
台湾には日本人が統治時代に作ったという建物がたくさん残っていて、またその時代の影響により上の世代には日本語が話せる人々が多い。そうした事実は有名だが、さまざまな場所やタイミングで、そうした日本と台湾との繋がりの歴史についての逸話を聞かせてもらう機会があった。自分よりも年下であろう台湾の若者たちから、そうした話を聞かされるたびに、彼らの文化の中に多くの日本が痕跡を残しているということを知った。その歴史にはきっと良い面も悪い面もあっただろう。しかしすくなくとも、それが台湾と私たちを繋いでいるひとつの縁なのだと思った。その縁を彼らは大切にしてくれていて、僕はそのことについて無知であったことを少し申し訳なく思った。しかしその縁が、知らないうちに日本と台湾の間をさまざまな形でつなぎ合わせ、人と人を出会わせている。そのことについて私たちよりも深く理解しているのが台湾の人々なのだということが、この旅で分かったことである。


Information

Ensouler Design Festival
http://www.edf.com.tw
期間:2015年7月31日~8月9日
会場:台北誠品信義店六樓展演廳 

Profile

庄野祐輔
1976 年、兵庫県生まれ。
デザイナー/編集者。 在学中に音楽雑誌「COLLIDER」を創刊・発行。 卒業後はフリーランスの立場でデザインと編集の二軸を中心に活動。 デザインでは、ファッションのクライアントをメインに、 編集では、クリエイティブ全般に関する書籍の企画制作を行っている。 世界のインターネット文化の情報を伝えるインディペンデントマガジン「MASSAGE」を不定期で発行する。
http://www.yusukeshono.com
http://www.themassage.jp

アートの新しいミッションをつくっていく – アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ 小川秀明 インタビュー 後編

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Story Weaver – The Crane Returns a Favor / Maki Namekawa, Chiaki Ishikawa, Emiko Ogawa, Naohiro Hayaishi, Tetsuro Yasunaga, Hideaki Ogawa (JP)

アルスエレクトロニカ・フューチャーラボに所属する日本人アーティストの小川秀明さんをご存じでしょうか。近年、大阪でのイベントシリーズの実施や、博報堂との共同プロジェクトFuture Catalystsの開始など、以前にも増して精力的に日本で活動されています。

今回、2014年9月のアルスエレクトロニカ・フェスティバルで収録された、未公開の単独インタビューを前編・後編の2回にわたってご紹介します。メディア・アートの祭典として有名なアルスエレクトロニカが近年見せている変化、なかでも企業とのコラボレーションや、日本を含めた外国で活動を展開する背景が語られた貴重な内容です。

後編は、2014年のフェスティバルで起こった変化と、今後の展望について語っていただきました。


Article by Haruma Kikuchi (UNIBA INC.)
Images from Ars Electronica




菊地:既にお話いただいたところもあるんですが、今年のテーマ、「C – What it takes to change」に小川さん個人としてどう取り組まれたのか、またフェスティバルが終わった今のタイミングでの感想をいただけますか。

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2014年のフェスティバル会場となったリンツ中心市街地 / Photo: Heimo Pertlwieser


小川:今年のフェスティバルでぼくが担当したのが、先ほどから出ている「FIS」(Future Innovators Summit)これもFuture Catalystsとしてのプロジェクトです。「未来をプロトタイプするシステム」がコンセプトで、アーティスト ・デザイナー、サイエンティスト・エンジニア、社会活動家、起業家など多様なイノベータたちが、 アルスエレクトロニカ・フェスティバルを舞台に、未来への創造的な問い掛けを生み出すサミットとなりました。


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Future Innovators Summitの参加者、日本からは森翔太、筧 康明、和田永らが参加した / Photo : Florian Voggeneder




ブレックファーストセッション、ランチボックスセッション、ティータイムセッションなどをリンツの街の様々な場所で展開し、夏休み中の学校をイノベータのプロジェクトルームに仕立てました。

6つに分かれたグループに博報堂からのファシリテータとメンターも参加し、カフェや、レストラン、修道士の施設、銀行のロビー、文化センターのステージ、映画館といった、街の日常生活を舞台に刺激的なサミットを進行させました。

「街が創造の触媒になる」そんなプロジェクトになったと思います。

菊地:今年のフェスティバルの小川さんの仕事としては、FISのほかに、鶴の恩返しがありますね。




小川:くたびれながらやりましたけどね(笑)。リンツにも、数少ないながらも日本人の方々が生活していて、それぞれクリエイティブな仕事をされています。

リンツ在住のピアニストの滑川真希さんを中心に、作曲家の石川智晶さん、そして小川絵美子さんが中心になって始まったのがこのプロジェクト、Storyweaverです。そこに、日本在住の早石直宏さん(ヴィジュアルプログラミング)、安永哲郎さん(プロデュース)、そして、ディレクションに僕が参加しました。


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“Story Weaver”のスクリーニングの様子 / Photo: tom mesic


真希さんもぼくらも、外国での生活がだいぶ長くなっていて。日本に対してどんなことができるか、というのは日頃から考えてるんですよね。

真希さんがやりたかったのは、誰もが知っている日本の物語、昔話みたいなものを異なる文化の人たちにも伝えたいということでした。Deep Spaceという巨大映像体験環境を利用して、物語を言葉で伝えるのではなくて、体験化して伝えられないかがチャレンジでした。

菊地:アルスエレクトロニカの文脈で、日本ローカルなナラティブが出てくるというのは、すごく感動的でした。

小川:プロジェクトが始まる前は、日本の皆さんから、なんで鶴?みたいな反応でした(笑)。
でも、一つ一つの表現や絵に、自分たちが感じる日本の美意識のヒントみたいなものを散りばめようということは意識しました。

結果的にピアノを弾くことで織られて行く体験型紙芝居みたいに仕上がって、この物語を知っている人も、知らない人も、ここでの体験から、日本の何かを感じてもらえれば幸いだなと思います。

菊地:日本人が文学として距離をおいている対象というよりは、もうちょっと深いところにあるものを思い出す感じがしましたね。表現としても、反物の柄の場面とかは、ディープスペースならではの形で、素晴らしいなと思いました。

話は戻しまして、学校にしても、アーケードにしても、その場所である、ということの重要さが今年のフェスティバルでは特に感じると思います。

小川:そうですね、マリエンドーム(教会)の展示が象徴的でしたね(http://www.aec.at/c/en/dom-exhibit/)。

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Buddha on the Beach / Photo: tom mesic


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Mariendom / Photo: tom mesic


夜散歩していてあんなのがあったら気持ちいいだろうし、中に入ったらすごい作品がたくさん入ってるし。普段見ている風景が変わってしまう。そしてLip Dub(リップダブ)。

※リップダブは既存の楽曲に合わせて口パクするパフォーマンスをビデオに収録するプロジェクトのこと

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LipDub – Take a Chance, Take a Change! / Photo: Martin Hieslmair

街を舞台に一つの映像物語を作ろうというプロジェクトで、同時多発的に市民が起こすアクション、パレードが様々なカメラで撮影され、それらが一つの映像に仕上がるというものです。市民が参加することで、街の風景が変わってしまうアルスエレクトロニカ・フェスティバルならではの参加型プロジェクトだったと思います。これこそ、ことしのフェスティバルテーマ「C…what it takes to change」のCがCitizen(市民)だというステートメントと言えますね!

菊地:最後に、今後に向けてのお話をいただけますか。

小川:結局ぼくらができるのが、社会に仕掛けていくことです。実験室の中でできることではなくて、やっぱり社会、外気に触れさせて展開していくということにアートの可能性を感じています。

Future Catalystsというのは、まさにそういう触媒として機能できるプログラムになると思います。だから、そういうことに興味がある人がいらっしゃれば、企業でもいいし、行政でもいいし、一緒にやりたい。これはぼくらにとっても本当に実験的なことだから、何が生まれるのかわからないし、日本という場所で、そういうことができるといろんな発見があると思います。リンツではない、リンツでは見られない風景とか光景が見られるのかなというのを期待したいなと思っています。

菊地:小川さん個人としてそういうところが特に大きくなりそうな一年になりそうですか。

小川:そうですね。いま考えているアートシンキングを、どうやって具現化させていくのか、それは一番大きな興味事項です。アートの新しいミッション、役割をつくっていきたいですね。

いろんな面白い人たちが、企業の中にもいると思っています。そういう人たちとこのプログラム(Future Catalysts)を通じて出会って、そのままでは何も起こらなかったところに、触媒として機能することができるんじゃないかと期待しています。
誰もが化学反応に参加できるという考えが、とても重要です。その手助けになるようなフレームを作っていきたいです。

菊地:
ありがとうございました。

取材日:2014年9月9日
フェスティバル会場になった小学校(Akademisches Gymnasium Linz)近くのカフェKonditorei Cafe Leo Jindrakにて、リンツァートルテを頬張りながら


今年のアルスエレクトロニカは「POST CITY」というテーマのもと、9月3日〜7日にオーストリア・リンツにて開催される。興味ある方は公式サイトから詳細をご覧頂きたい。

http://www.aec.at/postcity/en/

Profile

ogawa小川秀明 (おがわ・ひであき)
アルスエレクトロニカ フューチャーラボ・クリエイティブカタリスト

h.o (エイチドットオー) : http://www.howeb.org/
ogalog : http://ogalog.blog.so-net.ne.jp/






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UNIBA INC.
ユニバ株式会社は、”さわれるインターネット(Embodied Virtuality)”の会社です。
インターネットとコンピュータを、道具ではなく、見て、触れて、遊びたおすためのメディアととらえています。
メディアアートとオープンテクノロジに根ざすプロダクションとして、その楽しさを追求しながら、ブランディング、キャンペーン、プロモーションの制作をしています。
http://uniba.jp/

歴史を読み解き、未来へのヴィジョンを発信していく – アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ 小川秀明 インタビュー 前編

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Credit: Florian Voggeneder

アルスエレクトロニカ・フューチャーラボに所属する日本人アーティストの小川秀明さんをご存じでしょうか。近年、大阪でのイベントシリーズの実施や、博報堂との共同プロジェクトFuture Catalystsの開始など、以前にも増して精力的に日本で活動されています。

今回、2014年9月のアルスエレクトロニカ・フェスティバルで収録された、未公開の単独インタビューを前編・後編の2回にわたってご紹介します。メディア・アートの祭典として有名なアルスエレクトロニカが近年見せている変化、なかでも企業とのコラボレーションや、日本を含めた外国で活動を展開する背景が語られた貴重な内容となっています。

前編は、フューチャーラボの膨大な活動のうち、最新の事例をまとめてご紹介いただいています。

Article by Haruma Kikuchi (UNIBA INC.)
Images from Ars Electronica




菊地:1年ぶりのインタビュー、よろしくお願いします。まずはここ1年のフューチャーラボの活動について伺えますか。2013年はSpaxels(スペクセルズ)とKlangvolke ABC(クラングボルケABC)が象徴的だったというお話がありました。(2013年のインタビューはこちら

小川:そうですね、まず最初に、Spaxelsが「Smart Atoms」という研究テーマとして進化し、伸びているというのがあります。




MITの石井先生もRadical Atoms (ラディカル・アトムズ)という形で先駆的に取り組んでいますが、いわゆる現実空間のなかにプログラム可能な、スマートなアトムというものをどう考えて、それをどう具現化していくのか、という試みがいま世界中で起きています。

今年のフェスティバルでは、この分野の探求について、三つの代表的な活動が紹介されていたように思います。一つは石井先生のMITタンジブルメディアグループの活動、次にフューチャーラボの活動、そして、慶應大学の筧さんの研究活動です。筧さんのグループは、日常の中のモノゴトを観察して積み上げて、それらをプログラム可能な視点で再構成しているのに対して、フューチャーラボはSpaxelsをきっかけに、その可能性を因数分解しているように感じます。

我々は、メルセデスベンツとも共同研究を進めており、ロボットや自動制御可能な物が今後どうなっていくのだろうというパフォーマンスを、ベルリンでお披露目しました。



次に、アルスエレクトロニカの雰囲気を日本でも体感してもらえるような場作りを、積極的に展開しはじめたことです。例えば、Ars Electronica in the Knowledge Capitalというプログラム。大阪梅田のナレッジキャピタルは企業、研究機関、大学などによるオープンラボ形式で構成されていて、一般の人たちのフィードバックが得られるイノベーションセンターになっています。たとえば、大手前学園のスイーツのラボとか。面白いですよね。我々のプログラムは、春、夏、秋、冬と季節ごとにこの大阪のイノベーションハブにイベントを展開するもので、アルスメンバーと海外アーティスト、そして日本人アーティストによる、トーク、ワークショップ、展覧会イベントとして定着しつつあります。

第一回目は、Golan Levin(ゴラン・レヴィン)、エキソニモ、Gerfried Stocker(ゲルフリート・ストーカー)とぼくで、テーマは”CODE – the language of our time”。 3ヶ月間のミニ展示と、3日間のスペシャルプログラムで構成されています。第二回目は、Oron Catts(オロン・カッツ)、福原志保さん率いるBCL、日本のバイオアートを牽引する岩崎秀夫さん、そして僕で、テーマは”HYBRID –living in paradox”。実は両方とも、過去のアルスエレクトロニカ・フェスィバルのテーマなのですが、 アルスエレクトロニカが探求してきたテーマを再訪問することで新しい線となり、議論を広げてゆくようなプログラムを意識しています。東京ばかりに集中していた、メディア・アートのイベント、コミュニティを大阪にも仕掛けて行きたいと思っています。

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Credit: Knowledge Capital

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Credit: Knowledge Capital

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2015年1月に開催された「Ars Electronica in the Knowledge Capital vol.02 HYBRID Living in Paradox アート x 生命科学の探求展」の様子 / Credit: Knowledge Capital

そして、新たな活動というのであれば、博報堂と開始した、Future Catalysts(フューチャー・カタリスツ)があります。「未来への触発」をテーマに、アートが刹那的な飾りやエンタテイメントでなく、未来を切り開くための力であることを実践してゆくプロジェクトが始まりました。アートが産業や行政と対等に向き合い、新しいソーシャル・コモンズ(社会の中の共有財産)を生み出して行く。そんなことを考えています。

以前からぼくたちアルスエレクトロニカは「社会の中のアート」と言い続けてきましたが、いよいよそれが何なのか説明できるようになってきているような気がしています。ここ1年はそれを深め、言語化する作業を行ってきました。

その背景にある考え方として、ぼくらが使っている言葉、「アートシンキング」が新たな発見です。今年のフェスティバルカタログにも書いているのでぜひ読んで下さい。

デザインシンキングは企業の中で製品やサービスを創造してゆくためのデザインプロセスです。多くの産業が必要とするイノベーティブな手法ですが「現在」の課題を解決するためのものとも言えます。

アートシンキングは、「現在」というよりは「未来」のためのものと考えています。そもそも、自分たちは何をしているのか。世界、社会は今後どうなってゆくのか。そして、そもそも「人」は一体何を考えているか。このような本質的な問い掛けが、企業や行政のヴィジョンとかストラテジー構築の部分に効能があるような考え方です。

デザインシンキングとアートシンキングは、両方があるからこそ、イノベーションを触発してゆくものだと考えています。ただ今まで、アートシンキングの存在自体があまり議論されてなかったように思えます。アートの本来の力は、決して、イメージ戦略のためや、広告の演出、依存を生み出すようなものではありません。「問い掛け力」なんだと思います。その哲学的な視点が日本の産業や行政と出会い、ものづくりや社会システムを創造してゆけたなら、どんなことが起こるでしょうか。

繰り返しになりますが、結局今まで、企業にとってのアートの位置づけを考えたときに、どうしても演出やデコレーションだったと思うんですよね。広告でも、なんかぼくら格好いいことやってますよ、というところでどうしても終わって、企業の中に哲学の中枢に積極的に入っていくものではなかった。いわゆるCSR活動(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)と呼ばれているものは、どうしても飾りの域を超えなかったと思います。

でも今ぼくらが考えているのは、飾りとしてのアートの作用ではなくて、もっと企業や行政の中の哲学とか、ヴィジョンとか、イノベーションの部分にアーティストが入っていける枠組みを考えることです。それはおそらくCSRじゃないものです。社会にとっての共有の財産とか、価値みたいなものを一緒につくれるような動きに作用できるような、そういう発想が少しでもできるのではないかなという仮説を考えています。

いま、Future Catalysts 博報堂×アルスエレクトロニカを中心にしながら、実践し始めている、というところです。

菊地:そういった活動も、世界の様々な情報や人が集い、35年間、実験をつづけてきたアルスエレクトロニカだからこそできること、と思います。

小川:アルスエレクトロニカが何をもっているかといえば、歴史です。我々のオンラインアーカイブは、これらの情報を一般公開し、誰もが活用できるようにしています。近年、メディア表現のテクノロジーの敷居はどんどん下がってきていて、昔だったら時間をかけて探求、研究してやっとできたものが、すぐに実現できてしまう。それは別に悪いわけじゃなく、もちろん時代とともに進化していて、同じように見えて全く異なるものとして捉えることもできるけれど、知らないよりは知っていたほうがいい。参照することは重要です。そこにどんな新しさがあるのかしっかり見つめることで、作品の意味も深まります。

そして、その歴史の読み解き方や、それらを踏まえた未来へのヴィジョンを考え、発信してゆこうとする姿勢がアルスエレクトロニカにはあると感じます。

菊地:アルスエレクトロニカの参照、もしくはリンクさせていく力は、本当にすごいですよね。
今年のビッグコンサートナイトでは、リンツのオーケストラがスタンバイしている後ろで、1960年代のラジオ局で活動していた電子音楽家、Daphne Oram (ダフネ・オラム)やエリゼ・マリー・ペイド (Else Marie Pade)の当時のビデオが流れていました。コンサート全体でいうとオーケストラと初期の電子音楽が交互にミックスされているような状態です。自然にやっているように見えて、すごいことだと思います。

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Big Concert Night / Photo: Florian Voggeneder


小川:今年は、Roy Ascott (ロイ・アスコット : 今年から新設されたプリ・アルスエレクトロニカのヴィジョナリー・パイオニア・オブ・メディアアート部門の受賞者)のような先駆者や、Future Innovators Summit (FIS)のメンターの人たちもそうですが、アルスエレクトロニカがもつユニークでクリエイティブなものをもう一回再考する、そこに足りない、とりきれていなかったものに対して、ちゃんとスポットを当てる作業をしていると思います。ロイ・アスコットとかは、アルスエレクトニカが始まる前の1979年よりも前の時代からメディアアートにすごく大きな影響、インスピレーションを与えた人です。そこにも今年はちゃんとリンクできたのではないかと思います。

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Roy Ascott (UK) Photo: tom mesic

更に、先駆者と、新しい世代のイノベータたちが出会う場を作ってみよう、と形にしたのが、先ほどのFuture Catalystsが中心になって実現したFISです。象徴的なシーンとして、石井さん(石井裕/MIT:FISにメンターとして参加)とか、ゴラン・レヴィンとイノベータたちが一緒にランチを取りながら議論したり。オリビエロ・トスカーニ(Oliviero Toscani:同じくメンター)とイノベータたちが修道院の庭で意見交換するとか。やっぱり双方にとってインスピレーションになるようなところを、アルスエレクトロニカ・フェスティバルという空間に作れたのが良かったです。

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Future Innovators Summit – Oliviero Toscani

ビッグコンサートナイトの話も、全部リンク力ですよね。どう点と点を繋ぎ合わして、それにアクセスできる状況を作れるのかですね。


取材日:2014年9月9日
フェスティバル会場になった小学校(Akademisches Gymnasium Linz)近くのカフェKonditorei Cafe Leo Jindrakにて、リンツァートルテを頬張りながら

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ogawa小川秀明 (おがわ・ひであき)
アルスエレクトロニカ フューチャーラボ・クリエイティブカタリスト

h.o (エイチドットオー) : http://www.howeb.org/
ogalog : http://ogalog.blog.so-net.ne.jp/






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UNIBA INC.
ユニバ株式会社は、”さわれるインターネット(Embodied Virtuality)”の会社です。
インターネットとコンピュータを、道具ではなく、見て、触れて、遊びたおすためのメディアととらえています。
メディアアートとオープンテクノロジに根ざすプロダクションとして、その楽しさを追求しながら、ブランディング、キャンペーン、プロモーションの制作をしています。
http://uniba.jp/

グルーヴィジョンズによる3年ぶりの展覧会 – 作品集やアプリ「chappie」もリリース

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2015年6月19日から8月23日まで、東京・表参道、GYRE 3F / EYE OF GYREにて、デザインスタジオgroovisionsによる展覧会「groovisions firstlight」が開催される。


本展はgroovisionsとし7年ぶりとなる作品集「groovisions highlight」(パルコ出版)、書籍「groovisions 100 tools ~グルーヴィジョンズの道具大全~」(扶桑社)、iPhoneアプリ「chappie」の同時リリースを記念した展覧会となる。ガジェットからアウトドアまでgroovisionsの選ぶ道具を紹介する書籍「groovisions 100 tools」の内容を反映させたセレクトショップのような展示構成になるという。いくつかは実際に購入も可能で、今回の展示にあわせたオリジナル商品も登場。作品集の内容を反映させた最新のグラフィックのインスタレーションや自分のチャッピーを作れる無料アプリを使用したインタラクティブな展示も予定されているという。

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また本日(2015年6月18日)iPhoneアプリ「chappie」の配信が開始。グルーヴィジョンズのオリジナルキャラクターである「chappie(チャッピー)」がiPhoneアプリになって登場。一つの表情から髪型や服装によって無限のバリエーションを生み出す「人型グラフィックデザインシステム」のチャッピーは、1993年の誕生以来、これまで広告、展示会、CDリリースなど幅広いジャンルで活躍しており、その特徴的なビジュアルは、誰しも一度は目にしたことがあるのでは。

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本アプリはBOOSTER (PARCOが運営するインキュベート・クラウドファンディング) にて応援プロジェクトとしてスタートし、無料アプリとしてリリースとなった。
100個以上のパーツからイメージを選び、自分だけの「chappie」アイコンを作ることができる。細部までこだわってデザインされたパーツの数々を組み合わせれば、かなりの再現度で自分のプロフィール画像を作ることができるので是非試してほしい。
またアプリ制作は「THE GUILD(ギルド)」によって手がけられ、誰でも直感的に使いこなせる心地よいインターフェイスとなっている。

展覧会の会期は8月23日までで、入場無料となっている。書籍は展示会にて先行販売の予定となっている。
書籍、アプリ、展覧会と1993年以来、グラフィックや映像をはじめ、様々な領域で活躍し続けるgroovisionsの世界を堪能できる機会となろうだろう。

まずは自分の「chappie」を作ってみよう〜!


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groovisions 100 tools ~グルーヴィジョンズの道具大全~
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扶桑社
売り上げランキング: 9,887



Infromation


【展示会】
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会期:2015年6月19日(金)〜8月23日(日)
11:00〜20:00
*8月17日(月)のみ休館
会場:EYE OF GYRE / GYRE 3F
(東京都渋谷区神宮前5-10-1)
入場料:無料
http://gyre-omotesando.com/
 
【作品集】
groovisios highlight

発売日:2015年7月7日
(上記展示会にて先行販売予定)
ソフトカバー: 224ページ
出版社: パルコ出版
価格:¥3,600(税抜き)
 
 
【書籍】
groovisions 100 tools

発売日:2015年6月23日(金)
(上記展示会にて先行販売予定)
ソフトカバー: 224ページ
出版社: 扶桑社
価格:¥1,600(税抜き)
 
 
【iPhone アプリ】
chappie

配信日:2015年6月18日(木)
無料
http://groovisions.com/chappie/


Profile


chappie
chappie(チャッピー)とは、1994年にデザインスタジオgroovisions(グルーヴィジョンズ)が製作した、人間のかたちのグラフィックデザインです。チャッピーは、直立で正面を向いた基本形があり、髪型や服装、肌や目の色を変えることで、世界中の誰にでもなることができます。そのため、特定の年齢や性別、人種などは設定されていません。チャッピーには同一平面上に複数体ならべるための細かいルールが設定されていますが、そうしたルール、システム全体をチャッピーと称することもできるようです。
コンピュータのデータとして生まれたチャッピーは、次第に様々なブランドのキャンペーンなどに採用されるようになります。1997年には等身大マネキンが作られ、その後1999年には、ソニーミュージック・エンタテインメントより歌手としてCDデビューを果たし、シングル3枚、アルバム1枚を発表しました。現在でも、企業や学校のイメージキャラクターを務めたりと様々な分野で活動しています。

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東京のデザイン・スタジオ。グラフィックやモーショングラフィックを中心に、音楽、出版、プロダクト、インテリア、ファッション、ウェブなど多様な領域で活動する。 1993年京都で活動開始。PIZZICATO FIVEのステージヴィジュアルなどにより注目を集める。 1997年東京に拠点を移動。以降の主な活動として、リップスライムやFPMなどのミュージシャンのCDパッケージやPVのアートディレクション、100%ChocolateCafe.をはじめとする様々なブランドのVI・CI、『Metro min』誌などのアートディレクションやideainkシリーズなどのエディトリアルデザイン、『ノースフェイス展』など展覧会でのアートディレクション、MUJI TO GOなどキャンペーンサイトのデザイン、NHKスペシャル シリーズジャパンブランドや日テレ NEWS ZEROでのモーショングラフィック制作などがあげられる。
http://groovisions.com/

アジールがディレクションを行うオルタナティブギャラリー「SOBO」がオープン

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アジールがディレクションを行うオルタナティブギャラリー「SOBO」が神保町駅から徒歩5分の場所にオープンする。

1996年以来さまざまなデザイン/アートディレクションを手がけてきたアジール。
今回、2015年6月より映像、Web、建築、写真など各ジャンルのスタッフ7名を加えた新しい体制となり、さらに、オフィスを神保町へ移転し、デザインオフィスにギャラリーと撮影スタジオ機能を加え、複合的なオルタナティブスペースの運営を行うという。

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ギャラリーでは、写真家、ペインター、プログラマーなど、エッジなアーティストによる展示を毎月2回のペースで紹介していく。

6月5日より始まる最初の展示はデザイナー・米山菜津子が手がける出版プロジェクト『GATEWAY』。創刊号は漫画家の今日マチ子やファッションデザイナーの中里周子が参加し、凝った仕様の装丁も話題になっている。今回、こけら落としの展覧会として、『GATEWAY』の世界観をまるごとギャラリー空間に再現する。

参加予定作家は、野田祐一郎×檜垣健太郎、松本直也、石井絵里×今日マチ子、中里周子×小濵晴美×小山田孝司。6月13日には下西風澄×中里周子による「瞬間への感性と、ファッションについて」と題したトークイベントも予定されている。

また今後の「SOBO」での展示作家にはBACON、岡村優太(グループ展)、ucnv(企画展)、中馬聰、後藤武浩、高木考一、NNNNY、谷口暁彦、MANなど、なかなかユニークなメンバーが予定されているとのことで、今後の展開を楽しみにしたい。

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その他、撮影スタジオとしても使用可能。
詳細は公式サイトにて。



Information

アジールがディレクションを行うオルタナティブギャラリー「SOBO」
http://sobo.tokyo/

SOBO : Twitter
SOBO : Facebook



SOBO OPENING EXHIBITION : GATEWAY 2015 06

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会期
2015 6.5 [FRI] – 6.17 [WED] / 12 – 8PM(最終日-6PM)/ 月火休廊
at SOBO Gallery

デザイナー・米山菜津子が手がける出版プロジェクト『GATEWAY』
http://yyypress.tokyo

参加予定作家
野田祐一郎 × 檜垣健太郎
松本直也
石井絵里 × 今日マチ子
中里周子 × 小濵晴美 × 小山田孝司

オープニングレセプション
2015.6.5 [FRI] 7-9PM(入場無料)

ギャラリートーク
2015.6.13 [SAT] 15:30-17:00
下西風澄 × 中里周子 《瞬間への感性と、ファッションについて》
(入場無料 / 予約優先)
予約申込は公式サイトより

企画
YYY PRESS / 服部円

Asyl / SOBO

メンバー:
Asyl
佐藤直樹 Art Direction/Painting
中澤耕平 Art Direction/Design
菊地昌隆 Art Direction/Design
古屋蔵人 Directior
竹田大純 Design/Development
たきぐちがめ Management/Development
小阿瀬直 Architect
長生まり Accounting

SOBO
後藤武浩 Photograph/DP
高木考一 Photograph
いしいこうた Management/Curator

ずっと画面の真ん中に指をタッチしながら見るミュージックビデオ – 安室奈美恵 「Golden Touch」




安室奈美恵によるニューアルバム「_genic」収録曲「Golden Touch」のミュージックビデオが公開された。

ビデオではまず「ここをタッチしながらご覧ください」とメッセージからスタートする。
スマートフォンなどのモバイルデバイスが普及した現在、私達は画面をタッチすることに対して違和感を持つことが無くなった。このビデオでは楽曲タイト­ル「Golden Touch」の“Touch(タッチ)”をコンセプトに、タブレット端末などの閲覧環境を想定し、指で画面の真ん中をタッチしながら見ることでいろいろなタッチを「擬似体験」するミュージック・ビデオとなっている。もちろんデスクトップ・モニタでも問題なく体験ができるが(指紋がつくのと、若干腕がしんどくなる)タブレット端末推奨だろう。

フォーマットは単純なムービー形式なのだが、この「指でタッチする」という一つの「仕掛け」によってインタラクティブ性を感じられる作品へと変容する。

本作品の制作はクリエイティブディレクターの川村真司氏、清水幹太氏らが率いるクリエイティブ・ラボ「PARTY NY」と、NYとLAを拠点とする映像プロダクションLOGANによるもの。また全編、ニューヨークで撮影・編集されたとのこと。

様々な「タッチネタ」のシーンや独特の色彩も合わさり、不思議なミュージックビデオとなっている。指を置かないとわからないので、ぜひ体験しながら見てほしい。

また清水氏のTwitterによると今後さらなる展開があるようだ、そちらも楽しみにしたい。



監督:川村真司コメント
「Golden Touch」というタイトルと、印象的な歌詞を聞いた時、視聴者が実際に映像をタッチできるような騙し絵的な 体験を作れないだろうかと考えました。映像なのにインタラクティブな感じがする不思議なミュージックビデオが完成 したかなと感じています。ぜひビデオを触って楽しんでください!

実際には触っていないのに、触っているような気がするような体験を作るために様々な試行錯誤をしました。どのくら いズームすれば押しているような気がするか、どのくらいのスピードで画面がスライドしたら物体を倒しているように 感じるか。科学実験をしているような気持ちでいろいろ試すのがとても楽しかったです。



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Golden Touch Music Video Staff Credit


PARTY NY
http://prty.nyc

DIRECTOR: Masashi Kawamura
PRODUCER: Jamie Kim
DESIGNER: Jamie Carreiro, Qanta Shimizu, Tom Galle, Eiji Muroichi
TALENT: Lolli (disco dog)

LOGAN EAST PRODUCTION
http://www.logan.tv

DIRECTOR: Kenji Yamashita
PRODUCER: Catherine Yi
AD+ EDITOR: Matt Anderson
DESIGNER: Rick Kuan
LEAD 2D ANIMATOR: Adam Stockett, Lu Liu, Mike Costabile
2D ANIMATOR: Rick Kuan, Nate Mullkien, Jingky Gilbert, David Lee
CELL ANIMATOR: Simon Ampel
LEAD COMPOSITOR: Eric Concepcion, Lu Liu
COMPOSITOR: Livio Huang
JR COMPOSITOR: Felicia Guest
3D ARTIST: Livio Huang, Warren Heimall
VFX SUPERVISOR: Eric Dehaven
COLORIST: Adrian Seery
COORDINATOR: Peter Rynsky, Kaori Watanabe
PA: Brian Criss, Erica Dillman
DP: Dylan Steinberg
AC: Alexa Carrol
STORYBOARD ARTIST: Roger Hom
LEAD PROP STYLIST: Maggie Ruder, Cat Navarro
PROP STYLIST: Courtney Dawley
ASSISTANT PROP STYLIST: Jason Jaring, Miles Debas, Phillip Kadowaki, Ellen Burke, Elizabeth Flogd, Brian Goodwin
KEY HAIR AND MAKEUP: Jodi King
HAIR AND MAKEUP: MyAnh Nguyen
FRAME MODELS NY AGENT: Jordan Morris
FRAME MODELS NY TALENT: Daniel Jones, Jake Dean Taylor, AJ Clarke
TALENT: Jacqueline Reyes, Phillip Kadowaki
SPECIAL THANKS: Alan Bibby, Madison Brigode, Ariella Amrami, Shuyi Wu, Rachel Rardin

PRODUCTION COMPANY: Logan
PROJECT MANAGEMENT: EPOCH Inc.
AGENCY: PARTY NY

Information

安室奈美恵 / 「Golden Touch」 (from New Album「_genic」)

Namie Amuro Official Website : http://namieamuro.jp
Namie Amuro Official Facebook :https://www.facebook.com/NamieAmuroOfficial
Namie Amuro Official YouTube : http://www.youtube.com/user/AmuroNamiech
Namie Amuro Dimension Point Official Website : http://dimension-point.jp

インディペンデント・カルチャー・マガジン「MASSAGE 10」
オンラインとフィジカルな現実が入れ子状に繋がり合うインターネットカルチャーの「いま」を紹介

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前号にて5年の休止を経て復刊したインディペンデント・カルチャー・マガジン「MASSAGE」の第10号が発売される。

今回は前回に引き続き、インターネットカルチャーの文脈上で新しい表現を追求しているアーティストを紹介。2次元と3次元という異なる手法で作られた作品群をそれぞれ紹介し、その特性とオンラインとフィジカルな現実が入れ子状に繋がり合う今の状況について紹介する。

また、文章として、水野勝仁『ポスト・インターネット的表現と「調整レイヤー」という不恰好なメタファー』、谷口暁彦『「彫刻とポスト・インターネット」のための覚え書き”』も収録されている。

Part1: Digital Painting


Parker ItoやJon Rafmanらによるプロジェクト「Paint FX 」など原始的な描画ツールや効果を用いてつくられた作品群は、「ミームとしての絵画」という新しくも古いコンセプトを含んでいる。それはまた、 ネット上で生まれた新しい美学といえるかもしれない。そうした文脈における幾つかの動きと、アーティストインタビューと作品を共に紹介する。

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Guillaume Hugon
パリにて応用美術を学ぶ。先鋭的なデジタルペインティングが集まるサイト「Phone Arts」を立ち上げ運営中。スマートフォン上でのみ制作された作品をサイトに掲載すると同時に、自身も同様の作品を手がけている。

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Jaakko Pallasvuo
ヘルシンキの美術アカデミーで学んだ後、ベルリンでの活動を経て、再びヘルシンキへ。平面、オブジェ、ビデオ、テキストなどジャンル横断的な作品を発表中。アート集団「Vibes」のメンバーでもある。

Part2: Image and Sculpture


イメージと現実の新しい関係性が、インターネット以降様々な形で問い直されてきている。彫刻というフィールドでも、イメージと現実の新しい繋ぎ方を探る方法が試されてきた。今回のMASSAGEでは、平面から立体へという大きなテーマの元、そうした新しいリアリティが平面だけでなく、立体へと波及しつつある状況を紹介する。

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Emilio Gomariz
スペインに生まれ、幼少より日本のアニメやゲームに親しむ。大学でインダストリアルデザインを学んだ後、「TRIANGULATION」というサイトを運営、多様なアーティストの作品を紹介する。自国の情勢悪化を機にロンドンへ移り、Mackitosh Labなど一連の作品群を発表。

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Tilman Hornig
ドイツのドレスデンにあるアートアカデミーでファインアートや彫刻を専攻。ガラス素材でスマートフォンやタブレットの形態をオブジェにした「Glass Phone」「Glass Book」などが代表作。

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Jack Fisher
イギリス、サウスポート生まれ。リーズ大学でファインアートを専攻し、現在は「365 sculptures」というプロジェクトでオブジェ等の作品を日々発表。

Part3: Experimental Music / Online Underground Label


更新し続ける音楽シーンの最先端は、今、オンライン上に存在している。 特に、エクスペリメンタルミュージックのシーンが、世界から注目を浴び、次々と新しい動きを生み出している。
本書では『新感覚の音楽「エクスペリメンタルミュージック」の現在』(文/荻原 梓)、『365日、1日1本カセットテープのある暮らし』(文/DIRTY DIRT 戸田)などのコラムを通じて、無数のクリエイターがひしめき合エクスペリメンタルミュージック界隈を紹介していく。


ファッションブランド「SHOOP」と「MASSAGE」がコラボアイテムを発売


今回の発刊に際して、スペインをベースに活動するファッションブランド「SHOOP」と、「MASSAGE」がこの春コラボレーションでキャップ一体型マスクとTシャツを発売。

ストリートカルチャーと音楽にイスピレーションを受けて独自のブランドの世界観を発展させてきた「SHOOP」と、 アートや音楽など多角的な視点からリアルタイムにアンダーグラウンドの文化をフォローし続けてきた「MASSAGE」誌とのクロスポイントである「音楽」をテーマに、 二つのブランドが合体した新しいロゴとデザインを制作。

またその融合を象徴するかのように「キャップ」と「マスク」という二つのアイテムを融合した斬新なプロダクツや、近未来のミュージシャンのツアー T シャツを想像しデザインした世界中の音楽ストリーミングサイトのIPアドレスをプリントしたTシャツを提案。

スペイン、日本と両者の拠点は異なるものの、独自の視点で活動を展開するこの両者の出会いにより生み出された新しいアイテムをぜひチェックしてみてほしい。

なお、本書は6月1日から発売となり、オンラインでも販売を予定している。目まぐるしく変容するインターネットカルチャーの「いま」を感じ取れる内容となっている、ぜひ手に取ってみてほしい。


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Information

MASSAGE 10
http://themassage.jp/

仕様 : Pages: 120 / 4C / B5 変形
言語 : Japanese / English バイリンガル
部数:10,000
値段:1,500 円(税抜)


SHOOP Clothing
http://www.shoopclothing.com
http://www.facebook.com/SHOOPclothing/

21世紀における、現象のアートとデザイン「Beyond the Display」ポスト・ディスプレイ時代のインスタレーション作品事例集 BNN新社より刊行

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ビー・エヌ・エヌ新社より、ポスト・ディスプレイ時代のインスタレーション作品事例集「Beyond the Display:21世紀における、現象のアートとデザイン」が5月25日に発売される。

インターネットの普及を経て、コンピュータなどのディスプレイ越しに共有された情報や知識が、アートやデザインの作品にも反映されるようになった現在、視覚芸術と科学技術がどのような結びつきを見せるのか。

本書では、2000年以降に作られたさまざまなテクノロジーを利用した、ディスプレイを超え出て現象を生み出すインスタレーションなどを通して、芸術とテクノロジーの関係を考察し、「アート&テクノロジー」「空間デザイン」「メディアアート」「スペキュラティブデザイン」「キネティックスカルプチャー」の最新作品およびプロジェクトを紹介している。
作品カテゴリを「光」「風」「音」「空間」「スカルプチャー」「パフォーマンス」「その他」と分け、個別の現象から複合的な現象を放つものまで網羅。A4判変型、192ページにおよぶ作品集となっている。

ART+COM Studios、池田亮司、Olafur Eliasson、Zimoun、United Visual Artists、 Universal Everything、スズキユウリ、スプツニ子!、Troika、真鍋大度+石橋素、宮島達男、Rafael Lozano-Hemmer、Random International、坂本龍一+高谷史郎、などこの分野で数々の秀作を世に出しているアーティストたちによる55作品/プロジェクトを掲載。
有名な作品やたびたび展示されている作品もあれば、初めて知る作品も多数、実際に展示があるときは足を運びたくなってくる内容となっている。

主にこの10年あまりで制作された作品たちが収録されているが、こうした「いままさに」進化している新たな芸術・インスタレーション形態たちは今後どのように継承、また、変化をしていくのか。そうした重要な課題に関しても考える機会となるかもしれない。
ぜひこの分野に関心がある方は手に取ってみてほしい。

発売は2015年05月25日。
また本誌の刊行を記念してCBCNETの読者 1名様へプレゼント!詳しくは記事後半へ。

Beyond the Display:21世紀における、現象のアートとデザイン
岩坂未佳
ビー・エヌ・エヌ新社 (2015-05-25)
売り上げランキング: 26,694



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Olafur Eliasson

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Olafur Eliasson

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Zimoun

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Zimoun

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Dan Goods, Nik Hafermass and Aaron Koblin

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Dan Goods, Nik Hafermass and Aaron Koblin

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Julius von Bismarck and Benjamin Maus

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Julius von Bismarck and Benjamin Maus

CBCNETの読者へ本書を1名様へプレゼント。
詳細は以下を御覧ください。

読者プレゼント : 「Beyond the Display:21世紀における、現象のアートとデザイン 」

本書を、抽選でCBCNETの読者1名様へプレゼントいたします!


プレゼント概要
応募手順:
以下フォームよりご応募ください。

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※応募受付終了しました、ご応募ありがとうございました!

※応募フォームはGoogleスプレッドシートを利用しています。
当選の場合のみ折り返しご応募いただいたメールアドレスへお知らせいたします。

応募締切:2015年 6月 2日 15:00
協力:ビー・エヌ・エヌ新社

ご応募お待ちしております!



Information

Beyond the Display:21世紀における、現象のアートとデザイン
http://www.bnn.co.jp/books/7575/

ISBN:978-4-86100-951-8
定価:本体3,800円+税
仕様:A4判変型/192ページ
発売日:2015年05月25日
編著者:岩坂 未佳
デザイン:水戸部 功


編著者プロフィール
岩坂 未佳
1979年東京生まれ。現代のアートやデザインに関する書籍の執筆、編集、翻訳を行う。立教大学を卒業後、英国サセックス大学大学院美術史および美術館キュレーティング専攻修士課程修了。現在は東京を拠点に活動。
http://www.shunkin.org


目次
序文──視覚芸術と科学技術のあいだ
■光
ジム・キャンベル/ Exploded View(Commuters)
オラファー・エリアソン/ Model for a Timeless Garden
オラファー・エリアソン/ Round Rainbow
キムチ・アンド・チップス/ Light Barrier
カールステン・ニコライ/ moiré rota
アレックス・ポサーダ/ The Particle
池田亮司/ spectra[london]

■風
ワウ/ BLOOM SKIN
ダーン・ローズガールデ/Flow 5.0
吉岡徳仁/Maison Hermès Window Display
ニルス・フォルカー/Thirty Three(Trente Trois)
キムチ・アンド・チップス/Lunar Surface

■音
ジモウン/329
リチャード・ギャレット/Before Me
ラファエル・ロサノ=ヘメル/Voice Array
ダイアン・ランドリー/Knight of Infinite Resignation
毛利悠子/鬼火
カールステン・ニコライ/wellenwanne lfo
三原聡一郎/  鈴

■空間
ランダム・インターナショナル/Rain Room
リチャード・ウィルソン/Turning the Place Over
ユナイテッド・ビジュアル・アーティスツ/Chorus
真鍋大度+石橋素/particles
三上晴子/欲望のコード
ユニバーサル・エブリシング/Communion
ルアーリ・グリン/Fearful Symmetry
マリ・ヴェロナキ/Fish-Bird
ロバート・ヘンケ/Fragile Territories

■スカルプチャー
チェ・ウラム/Scientific name: Anmopial Pennatus lunula Uram
トロイカ/Cloud
ゴラン・レヴィン、グレッグ・バルタス/Opto-Isolator
ダニエル・パラシオス/Waves
マリ・ヴェロナキ/Diamandini
宮島達男/Life(Rhizome) Series
ダン・グッズ、ニック・ヘイファマス、アーロン・コブリン/eCLOUD
アート・コム・スタジオ/Kinetic Sculpture – The Shapes of Things to Come
アート・コム・スタジオ/Kinetic Rain

■パフォーマンス
ラファエル・ロサノ=ヘメル/アモーダル・サスペンション―飛びかう光のメッセージ
ラファエル・ロサノ=ヘメル/Levels of Nothingness
ユナイテッド・ビジュアル・アーティスツ/Echo
クラウス・オーバーマイヤー、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ/Apparition
ワイカム インターラボ+安藤洋子/Reactor for Awareness in Motion(RAM)
高谷史郎/クロマ

■その他
ダニエル・シュルツ /ビッツビューティー/For Those Who See
ニクラス・ロイ/My Little Piece of Privacy
鳥光桃代/Inside Track
スズキユウリ、KIMURA /Breakfast Machine
スプツニ子!/菜の花ヒール
ダニエル・ロージン/Weave Mirror
ザ・ワーカーズ/After Dark
パク・ジョンホ/Boxes
ユリウス・フォン・ビスマルク、ベンヤミン・マウス/Perpetual Storytelling Apparatus
ユリウス・フォン・ビスマルク、ベンヤミン・マウス、リヒャルト・ヴィルヘルマー/Public Face
坂本龍一+高谷史郎/water state 1
ユークリッド(佐藤雅彦+桐山孝司)/指紋の池

プロフィール
クレジット

疾走するカオスとグリッチと可愛さ – DUB-Russell x 吉田恭之による新たなMV「BOSOZOKU」



モントリオール(カナダ)で開催されるメディアアートフェスELEKTRA16に出演するのに合わせ、BRDGのプロデュースによりDUB-Russellと映像作家・グラフィックデザイナー吉田恭之のコレボレーションによる新たなミュージック・ビデオが公開された。

押し迫るDUB-Russell節とそれに合わせ疾走する吉田恭之による映像と飛び跳ねる女の子、カオスさと可愛さが合わさった作品となっている。Creative Applicationscreators projectなどの海外メディアでも早速取り上げられている。
出演は水野しず、イラストは彼女とhima://によるもの。音楽はMax/MSPにより制作され、ビデオ制作にはDerivative TouchDesignerを使用している。

今後も彼らやBRDG含めて活動を楽しみにしたい。
以下、スクリーンショット、制作アプリのキャプチャや他参考映像も!

samune

ss1

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shot

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DUB-RUSSELLのMAXパッチ”HSU-003″ こちらからダウンロードすることもできる。詳しい開発の背景などはこちらのDub-Russellのインタビューもぜひ。

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TouchDesignerでの制作画面

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_TouchDesigner_yoshida003


以下は彼らによるライブセットの模様


以下はBRDGからリリースされた吉田による作品



Infomation
BOSOZOKU
Music : DUB-Russell (made with MaxMSP)
Video : Yasuyuki Yoshida (made with TouchDesigner)
Performer : Shizu Mizuno
Illustration : Shizu Mizuno, hima://
Camera : Yusaku Aoki

Produced by BRDG
brdg.tokyo
facebook.com/brdg.jp

幻想的な映像美 – 北海道出身の新世代女性アーティストNoahによる「Flaw」のMVが公開、ディレクターにはTAKCOM




英ガーディアン紙の選ぶNew Band Of The Weekにデビュー前に選出されるなど注目を浴びている北海道出身の新世代女性アーティストNoahによるニューアルバム『Sivutie』より、「Flaw」のミュージック・ビデオが公開された。

NOWNESSのウェブサイト上でプレミア公開され既に話題になっている本MVのディレクターはPerfumeや真鍋大度氏とのコラボレーションなどでも知られる映像作家のTAKCOM

実写とフォトグラメトリーという手法で撮られた高精細に3Dスキャンされたダンサーのグラフィックなどがミックスされ、神秘的なNoahの楽曲と重なり合いながら展開される幻想的な映像美をぜひご覧いただきたい。

同曲はflauのbandcampにて配信中、B面には「Doll (Kidkanevil Remix)」を収録されている。
アルバム『Sivutie』はflauより6/17にリリース予定、こちらも楽しみにしたい。

また、無料でリリースされた3枚目のミックステープは以下より聞くことができる。








NOWNESS: Noah: Flaw

The Guardian : New band of the week: Noah


Information


flau48 Noah『Sivutie』

3枚のミックステープがDazed & ConfusedやThe Japan Times、Noisey by VICEなどで紹介され、デビュー前より話題となっていた北海道出身の女性アーティストNoahが待望のファーストアルバムをリリースします。 『Sivutie』は白昼夢の光景を音像化した、彼女にとっての路地裏の世界。幼い頃から慣れ親しんだピアノ、教会から聞こえる聖歌隊のハーモニー、フランスの短編アニメーションのサウンドトラック、カリフォルニアのプロデューサーSELA.やヒューストンのラッパーSiddiqとの交流など、幼少の頃か ら現在に至る様々な影響をクラシック・マナーで咀嚼した美しくシネマティックなサウンドに仕上がりました。プールの水面を光がゆらめくようなドリーミーな アンビエントから神秘的なドローン/ノイズ、雪のようにピュアな歌声を繊細に重ね合わせ、時に官能的な瞬間さえ漂わすコーラスワークで力強く運ぶ夜の空気まで、過去4年間に作られた15の楽曲はそのまま空想の中で遊ぶ少女の成長の歴史となっています。英ガーディアン紙の選ぶNew Band Of The Weekへの選出、海外メディアからはAaliyah〜Jesse Ware、Lapaluxのメロウネス、Burialのメランコリーまでをも引き合いに出され注目を浴びる大型新人の登場です。

リリース詳細:
http://flau.jp/releases/48.html

タイトル:Sivutie
アーティスト:Noah
発売日:2015年6月17日
CAT#: FLAU48
Format:CD/Digital

tracklist:
01 sivutie
02 flexion
03 motion
04 unspoken
05 weak
06 (interlude – drøm)
07 fehér
08 times
09 pool garden
10 gorgeous death (noah remix)
11 blur
12 flaw
13 (interlude – doll)
14 tadzio
15 sivutie a reprise

Profile
noahNoah
北海道出身の音楽家。2009年より本格的に音楽活動をスタートさせ、Cokiyu 「Your Thorn」のリミックスで注目を浴び、flauと契約。子どもの頃から慣れ親しんできたピアノに加え、クラウドラップの新星Kitty (aka Kitty Pryde)のプロデューサーとしても知られるSELA.やヒューストンのVaporwaveラッパーSiddiqとの交流が、妖艶さと可憐さを併せ持ったNoahの独創的な個性を形作っている。「split with SELA.」「TWO」「MOOD」の3枚のミックステープに続くファーストアルバム「Sivutie」を今年6月にリリース。先行シングル「Flaw」がアメリカのNYLON Magazineで公開され、Moët Hennessy Louis Vuitton (モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン) 傘下のデジタルマガジンNOWNESSにてTAKCOMがディレクターを務めた同曲のミュージック・ビデオがプレミア公開されるなど、大きな注目を浴びている。これまでにÓlafur Arnalds、Kira Kiraらと共演。

Music Video Credit

ss2015-05-06 14.22.28

Director : TAKCOM
DOP : Hideyuki Hashimoto
Actor / Choreo : Yohei Suzuki
Post-production & VFX : McRAY
CG Producer : Akira Iio
CG Director : Akira Miwa
CG Designer : Ryoichi Kuboike、Shigeo Jahana
Compositor : Masaaki Sakamoto
Assistant Compositor : Chihiro Hagiwara
Colorist : Takahito Kurobe
CGI : Yasuhiro Kobari(Triple Additional)
CGI : Kazumasa Kimura(takcom studio)
Camera Assistant : Yu Otsuka
Photogrammetry Studio : AVATTA
Photogrammetry Scanning supervisor : Rowland Kirishima
Producer : Takahiko Kajima(P.I.C.S.)
Production manager : Yuka Tabei(P.I.C.S.)
Production : P.I.C.S.

Music written and produced by Noah
single edit by aus

Copyright © 2015 flau•TAKCOM•P.I.C.S.•McRAY

都市における表現の発展 – グラフィティ、ストリートカルチャーに関わる展覧会を企画してきた「SIDE CORE」のアーカイブ・ブックが刊行

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2012 年から「都市における表現の発展」をコンセプトに、グラフィティ、ストリートカルチャーに関連・影響がある有志のアーティストによる自主企画展覧会として活動をスタートさせた SIDE COREのアーカイブ・ブックが刊行される。

本書では、これまでに展覧会に参加した藤元明、EYE、竹内公太、MADSAKI、松原慈、ニコラ・ビュフ、大山エンリコイサム、 松岡亮、菊地良太、西山修平、コムロカタヒロ、小畑多丘、TENGAone、松下徹、yang02、15名のアーティスト・インタビューを中心に、展示会概要、寄稿文を収録。
今までSIDE CORE が領域横断的に歩み続けてきた軌跡を国内外に発信することを目的としている。

また刊行を記念して、5月1日 – 6日に 原宿にあるBLOCK HOUSE にてエキシビションが開催される。展示する作品はインタビュー作家を中心にスケッチ や試作品、小作品などの他に、アーカイブ・ブックの販売、オリジナル T シャツの販売も行う予定だ。

アーカイブ・ブックを読みながら鑑賞することで、アーティストの思考や過程が垣間見えるエキシビションを合わせてお楽しみいただきたい。


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“日本美術とストリートの「感性」” 展

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“身体/ 媒体/ グラフィティ” 展

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AT ART UWAJIMA 2013

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“公共圏の表現” 展


Information

SIDE CORE ARCHIVE BOOK “ATYPICAL FOOTPRINT”
http://www.sidecore.net/pressrelease/006.html

収録内容:
・過去4回の展覧会サマリー
日本美術とストリートの「感性」| 身体/媒体/グラフィティ | AT ART UWAJIMA 2013 | 公共圏の表現
15名のアーティストインタヴュー
藤元明 | EYE | 竹内公太 | MADSAKI | 松原慈 | ニコラ・ビュフ | 大山エンリコイサム | 松岡亮 | 菊地良太 | 西山修平 | コムロカタヒロ | 小畑多丘 | TENGAone | 松下徹 | yang02

・エッセイ
ポストモダン以降の日本美術と「ストリートの感性」:大山エンリコイサム
ATTEMPT TO RECONFIGURE”POST GRAFFITI”:荏開津広
身体/都市/スプレー缶:キャメロン・マキーン

・対談
和多利浩一(ワタリウム美術館館長)× 高須咲恵


判型:235mm×180mm/ ハードカバー/ 158頁
販売部数:限定500部
定価:2500円(税込)
発売日:2015年5月1日(金)


関連展示


会期:2015年5月1日(金)- 5月6日(水)12:00 – 20:00
(初日のみ19:00 オープン/ cafe bar は深夜02:00 まで営業)
会場:BLOCK HOUSE
http://blockhouse.jp/
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-12-9, 3F-4F
オープニング・パーティー:5月1日(金)19:00 –
参加作家:藤元明、MADSAKI、松岡亮、菊地良太、コムロタカヒロ、松下徹、 yang02、他

映像作家を紹介する年鑑「映像作家100人 2015」ミュージックビデオ、コマーシャル、アニメーション、メディアアート、日本の映像の10年を振り返る

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毎年恒例、優れた映像作家を紹介する年鑑『映像作家100人 2015』が4月20日に発売される。
なんと、今年で10年目となる。

10年前、ネットでの公開許可が下りないジレンマを抱えていたミュージック・ビデオ。純粋なテレビCMが尺や国境を超えることのなかった時代。映像は、コンテンツとリアルな世界を繋ぐ役割に、いかにして辿り着いたのか。

巻頭特集は、ジャンル毎に振り返る「日本の映像、この10年」。ミュージックビデオ、コマーシャル、アニメーション、メディアアートの4つのジャンルの10年(2005−2014)を年表化。1年毎の特徴、代表的な作品を掲載し、コラムで解説する。ライター陣はミュージック・ビデオは林永子、コマーシャルは河尻亨一、アニメーションは土居伸彰、メディアアートは渡邉朋也となっている。

紹介作家は、エーフォーエー/AC 部/ANSWR inc./新井風愉/bait/ボストーク/世界/千合洋輔/ユーフラテス/ファンタジスタ歌磨呂/フラッパー3/古屋遙/後藤武浩/浜根玲奈/針生悠伺/橋本大佑/橋本麦/東弘明/姫田真武/ひらのりょう/本郷伸明/細金卓矢/池田一真/稲本伸司/井上涼/伊東佳佑/岩永洋/冠木佐和子/加藤隆/賢者/Khaki/喜田夏記/北畠遼/近藤寛史/KOO-KI …など総勢100組。
鮮やかなカバー・グラフィックはスケブリこと杉山峻輔が手がけている。

日本の映像の10年を振り返りつつ、映像表現の今を紹介。
さらに、サンプル映像を収録した、52分のDVD付き。
ぜひ、手に取ってみてほしい一冊となっている。

本誌の刊行を記念してCBCNETの読者 2名様へプレゼント!詳しくは記事後半へ。

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CBCNETの読者へ本書を2名様へプレゼント。
詳細は以下を御覧ください。

読者プレゼント : 「映像作家100人 2015 」

本書を、抽選でCBCNETの読者2名様へプレゼントいたします!

※応募受付終了しました、ご応募ありがとうございました!

プレゼント概要
応募手順:
以下フォームよりご応募ください。


※応募フォームはGoogleスプレッドシートを利用しています。
当選の場合のみ折り返しご応募いただいたメールアドレスへお知らせいたします。

応募締切:2015年 4月 28日 15:00
協力:ビー・エヌ・エヌ新社

ご応募お待ちしております!



Information


映像作家100人 2015
http://www.bnn.co.jp/books/7535/

ISBN:978-4-86100-984-6
定価:本体3,800円+税
仕様:B5判/256ページ
付属物:DVD-ROM x 1
発売日:2015年04月20日
編集:庄野祐輔、古屋蔵人、藤田夏海
デザイン:杉山峻輔

映像作家100人 2015 -JAPANESE MOTION GRAPHIC CREATORS 2015 (DVD-ROM付)
ビー・エヌ・エヌ新社 (2015-04-20)
売り上げランキング: 7,266




目次:
特集:
日本の映像、この10年
ミュージックビデオの10年/コマーシャルの10年/アニメーションの10年/メディアアートの10年

映像作家クリエイティブファイル:
エーフォーエー/AC 部/ANSWR inc./新井風愉/bait/ボストーク/世界/千合洋輔/ユーフラテス/ファンタジスタ歌磨呂/フラッパー3/古屋遙/後藤武浩/浜根玲奈/針生悠伺/橋本大佑/橋本麦/東弘明/姫田真武/ひらのりょう/本郷伸明/細金卓矢/池田一真/稲本伸司/井上涼/伊東佳佑/岩永洋/冠木佐和子/加藤隆/賢者/Khaki/喜田夏記/北畠遼/近藤寛史/KOO-KI/久保雄太郎/黒田賢/m7kenji/牧鉄兵/牧野惇/真鍋大度/ @まさたかP/マキシラ/水尻自子/森翔太/本山敬一/向純平/長添雅嗣/中村綾花/中根さや香/中田彩郁/新山哲河/西郡勲/ノガミカツキ/ぬQ/ODDJOB/大橋史/岡本将徳/大桃洋祐/onnacodomo/大月壮/パーティー/パワーグラフィックス/コトリフィルム/らっパル/最後の手段/斎藤俊介/坂本慎太郎/坂本渉太/坂脇慶/関和亮/関根光才/柴田大平/志賀匠/清水康彦/新宮良平/株式会社スタジオコロリド/スタジオ石/菅原そうた/菅俊一/杉山峻輔/田向潤/田中裕介/タンゲフィルムズ/谷口暁彦/畳谷哲也/チームラボ/時里充/土屋貴史(TAKCOM)/辻川幸一郎/若井麻奈美/ワウ株式会社/山田遼志/山田智和/山口悠野/シシヤマザキ/安田大地/YKBX/吉開菜央/ゆかい

映像作家ワークプロファイル

スマホで操作可能な犬用ウェアラブル・デバイス「Disco Dog」 -Kickstarterでキャンペーン実施中



クリエイティブラボ「PARTY NY」によって開発された犬用ウェアラブル・デバイス「Disco Dog」が現在クラウドファンディング「Kickstarter」にて開発資金を募っている。(4/13 まで)

DiscoDog-Stripe

Disco Dogは、愛犬用LEDベスト。 スマートフォンアプリ経由で様々なアニメーションや文字を表示したり、色を変えたりと、さまざまな操作が可能。 その名前の通り楽しさはもちろん、Disco Dogは愛犬の安全を考えて開発されており、 暗い場所で光るベストは夜道を散歩するときに車や自転車に注意を促すことができる。また愛犬が遠くに行きすぎてしまいスマホとの接続が切れてしまった場合は、自動的に「LOST DOG」(迷い犬)のメッセージが表示する機能も。

Disco Dog App

Disco Dogはプロジェクト発表以来、アメリカのテレビ番組で取り上げられ、SXSWに参加するなど話題となっているよう。
プロジェクトはまだベータ段階であり、現在開発資金を募っているKickstarterを通して80着限定でこのプロダクトを生産予定。今後プロダクトデザイン・モバイルアプリともに改良されていく予定で、Disco Dogのロンチ・イベントがニューヨークで行われるという。

Disco Dog Lost

「LOST DOG」(迷い犬)のメッセージ表示

Disco Dogは、256個のフルカラーRGB- LED、マイコン、BLE(BlueTooth Low Energy)チップで構成されており、3.7Vリチウムポリマー電池(再充電可能)から給電される。サイズは犬の背中の長さ、腕周りに応じて3サイズが現在用意されている。

簡易的な犬用のライトなどは市販でもあるが、散歩に新たな楽しみを与えてくれそうなDisco Dog。既に目標金額には達成しているが、4/13まで出資を募っているので興味有る方はぜひ!ちなみに300ドルからの出資でLEDベストを受け取ることができる、詳しい情報はKickstarterのページで。





ローコストかつ機能的なデザイン – LCC専用の成田空港 第3ターミナルがオープン



LCC(格安航空会社)専用のターミナルとなる成田空港 第3ターミナルが2015年4月8日オープンした。現在、ジェットスター、バニラエア、チェジュ航空など成田空港に乗り入れている14社のうち5社が利用する。
このターミナルのデザインを手掛けたのは、スカイツリーの設計を行った日建設計、無印良品で知られる良品計画、そして様々なデジタルクリエイティブを発信するPARTYの3社。

ターミナルの建設予算が通常のおよそ半分だったという本プロジェクトでは建築・デザイン面で徹底したローコスト空港となっている。
”more than 2 into 1”というキーワードのもと、ふたつ以上の機能をひとつに集約し、経済合理性が追求されている。予算の都合上、通常ターミナルで良く見かける動く歩道や電照式のサイン看板は設置されず、特徴的な陸上用のトラックが設置され、サイン表示を入れ、シンプルかつわかりやすい誘導となるようデザインされている。

また無印良品によるにソファベンチが約400台、国内空港最大のフードコートにはオーク無垢材のテーブル・椅子が導入されている。旅行者が快適に過ごせるように設置されたこのソファベンチは一般向けにも発売。(関連リンク:良品計画)

一般的にLLCのターミナルは不便な印象があるが、ローコストながら工夫されたデザイン性で新たな楽しみを与えてくれるだろう。
オリンピックに向けてこの第3ターミナルが新たな玄関口として多くの旅行者が行き来する場所となるのを期待したい。


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Photo: Kenta Hasegawa via prty.jp
NIKKEN SEKKEI + Ryohin Keikaku + PARTY

Project Credit

via http://prty.jp/

Creative Director : Naoki Ito

Designer : Chihiro Konno

Account Director : Hironori Onozaki

Director + Music Composer : Satoshi Murai (TYMOTE)

Director of Photography : Koho Kotake

Animators :
Yuuki Matsuoka (TYMOTE)
Shin Matsuoka

Sound Recorder : Yuta Oido (IMAGICA)

Vocals : nonchi (ALT)

Online Studio : Khaki

Producer :
Taro Mikami (CEKAI / GROUNDRIDDIM)
Takehiro Ikuta (ROVA)

Production : CEKAI

Stills Photographer : Kenta Hasegawa

Assistant : Masato Chiba

Nikken Sekkei Ltd :
Shinji Kaneuchi
Wataru Tanaka
Takao Goto
Yasumasa Hongo

Ryouhin Keikaku Co. Ltd. :
Tokunori Yoda
Atsushi Haruna
Noriyuki Tatsumi
Naoko Yano
Nobuyuki Tanimoto
Yusuke Koyama
Akira Katou
Daiki Saitou
Kazuaki Okamoto
Yoshihiro Kataoka
Masataka Wakisaka

Special Thanks :
Kuki Akaeda
Eri Kiuchi
Rumiko Nango

「世界制作のプロトタイプ」展に向けて
アーティスト・HOUXO QUE × キュレーター・上妻世海

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2010年代以降のインターネット文化を背景にした独自のアプローチによって、デザイン、ファッション、アートなどの分野で活動している14名の作家たちが集結するグループ展「世界制作のプロトタイプ」が、4月18日から日暮里・higure17-15casで開催される。この展覧会にあたり、ネット上で2万字に及ぶステートメント「世界制作のプロトタイプによせて」を発表したキュレーターの上妻世海(コウヅマ セカイ)氏と、同展の参加作家であり、4月17日からはOUT of PLACE TOKIOで自身の個展も開催予定のHOUXO QUE(ホウコォ キュウ)氏が、開催を控えるふたつの展示の話を中心に対談を行った。

Text by Yuki Harada (Qonversations)

10年代のインターネットはどう変わったか?


ー「世界制作のプロトタイプ」の開催に至るまでの経緯を教えて下さい。

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「≋wave≋ internet image browsing」展
>イベント詳細
上妻:僕は2010年にちょうど20歳だった世代なのですが、10年代の文化は面白くないという人が多いことに違和感を持っていました。僕自身はつまらないと感じたことはなかったし、それはおそらく見方の問題であって、既存の枠組みでは語り得ない状況が生まれてきているのではないかと。それを展示という形で表現しようとしたのが、2014年にTAV Galleryで開催した「≋wave≋」展(CBCNET内記事)で、その会場で出会ったのが、QUEさんでした。


QUE:同時期に僕が携わっていた「BCTION」という展覧会があったのですが、その一環として、exonemoの千房(けん輔)さんが「#BCTION #10F」というネット上のプロジェクトを行っていて、そこに画像を色々アップしていたのが上妻くんでした。興味を持って調べてみると、彼がネットをテーマにした展示を企画していることがわかり、会場に足を運んだんです。

上妻:これまでのインターネットには、サイバースペースという言葉が使われることが多く、「こちら側」と「あちら側」は別の世界だと考えられていました。ただ、08年に日本でTwitterが始まり、11年の震災などを経て、爆発的にユーザーが増える中でネットとリアルの間に密接なつながりが生まれました。「#BCTION #10F」がきっかけになったQUEさんとの出会いもまさにそうですし、クリエイティビティに影響を与える人との出会いというものを、ネットが加速させるという状況になってきた。

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#BCTION #10F」で投稿されたイメージ

QUE:震災以降は「こちら側」にないものを、「あちら側」で補完するという考え方が機能しなくなりつつあり、かつてのユートピアだったインターネットの世界に生きていた人たちが住処を奪われてしまった。千房さんは、「インターネットのモラトリアム期の終わり」と言っていますが、ネット黎明期から活動してきた人たちが、そうしたパラダイムシフトに戸惑う一方、上妻くんはそういったインターネットに対して、肌の感触が伴った見方が自然にできていたのかなと。

上妻:僕がもうひとつ感じているのは、新陳代謝の問題です。これまでサブカルチャーと呼ばれていたアニメやコスプレなどは、いまやメインカルチャーと言えるほど広がっています。一方で、「世界制作のプロトタイプ」に参加する作家たちの展示やイベントなどに足を運んでいると、お客さんの顔ぶれが毎回同じことに気づくんです。それだけパイが小さいということですが、そうした場に行くと、いつまで経っても自分が最年少から抜け出せない(笑)。

QUE:それは日本のストリートアートやライブペイントカルチャーも同様で、これまでは10代や20代前半が牽引してきた文化だったのに、いつの間にかプレイヤーが固定化していて、20代後半でも若手と言われるような状況になりつつある。

上妻:「世界制作のプロトタイプ」では、千房さんや田中(良治)さんなど、インターネット黎明期から活躍している人たちから、梅ラボやQUEさん、さらに若い世代に属するborutanext5らをミックスしています。もともと小さなカルチャーだからこそ、新陳代謝が起こり得る場をつくっていかないと、文化自体が滅びてしまう。そうした問題意識のもとで開催するのが、「世界制作のプロトタイプ」なんです。

SNS時代における絵画表現の位置づけ


ー「世界制作のプロトタイプ」と同時期には、QUEさんの個展も開催されますね。

QUE:個展では、現代社会の中で問うべき現実の断面を見せられればと思っています。一方、グループ展では、他者との関係性を意識しながら、プロトタイプのようなものを示し、それが個展にも還元されるという関係性を構築できればなと。今回の作品もそうですが、イメージとして容易に回収されない絵画を描きたいという思いが僕にはあります。最近は美術館でも撮影しSNSにアップロードができるようになりつつあり、鑑賞者のスマ―トフォン経由で拡散されていくことが多いですよね。本来絵画というのは、鑑賞者が作品と対峙している時間や心象の変化というものが大事だと思うのですが、絵画作品に限らずネット上ではイメージに触れただけで体験した気にもなりがちです。それを逆手に取り、例えば、ディスプレイに映し出されるものが捉えることができないものであったり、またはディスプレイそのものに関わっている作品がある状況を用意することで、イメージとして回収されにくい作品を提示したいと考えています。

上妻:本当に面白い体験をしている時には、写真として残すことを忘れてしまうことが多い気がします。後になってあの時のことを思い出そうとカメラロールを見たら、写真が一枚もなかった、みたいな(笑)。

QUE:確かにエキサイティングな瞬間はそうなのかもしれないけど、逆に僕らは、写真を撮ったり、Tumblrでリブログすることで、体験というものを自分の身体から切り離してしまっているような気もします。自分のリブログをすっかり忘れてしまっていたりするように。そういう意味では依然として「あちら側」は機能しづらくなっただけで、まだ在るようにも思う。僕はネットゲームが大好きで、ゲームの中では相手プレイヤーを銃で倒したり、超人的な身体で走り回っていて、自分の美意識を反映したアバターになれたり、その時は最高にカッコ良いオレになっています(笑)。でも、ゲームを消して、真っ黒なスクリーンに自分が映った瞬間、「一体こいつは誰だ?」と(笑)。でもこれはゲームだけではなくSNSにもそういった作用があるようにも思えるし、電車に乗っていて見渡したらみんなスマートフォンやタブレット端末を見ているように、いま人が世界を知覚している断面の多くはこのスクリーンで、その中に新しい人格が生成された瞬間に、それは自分ではなくなってしまう感覚がある。

上妻:コスプレの文化などがある日本は特に、ネット上でさまざまな人格を演じることに違和感を抱いていない気がします。だからこそ、日本ではTwitterの方がFacebookよりも先に受け入れられたのではないかと。

QUE:震災以降は、ネットとリアルの結びつきが強まったことでFacebookが力を増しましたが、最近はLINEが出てきて、さらに実名性をベースにしたクローズドなコミュニティが形成されています。それ以前の僕たちはサービスに合わせて、さまざまな自分を演じていたところがありましたが、そこでもポイントになるのはこれらは全てディスプレイを通しているということだと感じています。性質的に見ても、光の反射によって色を識別する印刷などのCMYKカラーモデルと、ディスプレイのバックライトによって色そのものを光として発するRGBカラーモデルは全く異なります。後者の特殊な環境だからこそアルターエゴやアバターがより生まれやすいのがディスプレイを通して形成された空間なのだと思います。そうしたデバイスの環境に加えて、社会そのものが持つ文化や慣習が作用し、現代の日本のインターネット文化が形成されていたのかなと。ただ、先述の実名性をベースにしたコミュニティの加速や、社会情勢の変化によりもう「あちら側」/「こちら側」といった二項対立が機能しなくなりだした。それはリンク先が消えたというよりも、隔てていた「 / 」が消えてしまったような状況で、だからこそいま目の前にある現実を揺さぶり、更新しなくてはいけないと考えています。

ネットで生成されたものを、リアルの場で具現化する 


ー上妻さんによる「世界制作のプロトタイプ」のステートメントでは、「2ちゃんねる・ニコニコ動画的なもの」から、「Tumblr・Soundcloud的なもの」への移行について言及されていましたが、これについてもう少しお話し頂けますか?

上妻:2ちゃんねるやニコニコ動画の背景には、ある文脈に紐付いたネタをユーザーが消費することで、コミュニケーションが連鎖していくという文化がありますが、これらは日本の言語圏に依存していました。一方で、言語に縛られないTumblrやSoundcloudなどのサービスにおいては海外との交流が頻繁に行われていて、最近は日米のトラックメーカーが共同で曲をつくるということが普通に起きています。さまざまなボカロ楽曲などがSoundcloud上でいくらでも聴けるようになったことで、日本人クリエイターの存在が広く知られるようになったんですね。つながりに広がりが出たことで他者性というものが浮き彫りになり、それによってさまざまな解釈可能性が生まれ、より多様な作品がつくられる土壌ができています。今回の参加作家の中でも、borutanext5やKazami Suzukiちゃんなど、作品をネットに載せることで海外から評価され、活動の場が広がっている人も多く、自分なりの方法で10年代以降のイメージコミュニケーションを実践している人たちを中心に選んでいるところがあります。

ー「世界制作のプロトタイプ」では、「他者性」が重要なキーワードになっているようですね。

上妻:はい。いまお話ししたように、つながりによって解釈可能性が広がると、その中から負のリアクションも生まれ得るわけで、「isisクソコラグランプリ」などはその一例だと思います。「≋wave≋」の時はそうしたマイナス面が作用しないようにしていたのですが、今回は、作家同士のコミュニケーションから生まれてくるものを、良い面も悪い面も両方見せていけるような仕掛けづくりを意識しました。そのひとつが参加作家によるチャットルームで、そこで交わされた会話が、公式サイトの背景に表示されるようになっています。

QUE:僕が最初にチャットルームに入った時は、まるでお通夜みたいに静かでした(笑)。これは何とかしないといけないと思い、とりあえず上妻くんのステートメントをディスってみた(笑)。行儀良くしていても面白いことは起きないし、空気を読まずに発言を増やし、他人に絡んでいきながら、「こいつ、ウゼーな」と思われるような存在になろうと。

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世界制作のプロトタイプ」のウェブサイト。Twitterからの投稿された画像や参加作家たちのやり取りが垣間見える作りとなっている。

上妻:今回の展示を設計していく上で、どうすればお祭りモードを持続させられるかということは大きなテーマでした。作家の性格によって、発言をする人、しない人というのは分かれるのですが、QUEさんが色々発言することで、あまり発言しない人たちの間にも言いたいことが生まれて、後で個人的に僕にメッセージをくれたりする。そうした反応が起こることが大切ですし、作家同士が影響を与え合うだけではなく、僕自身もみなさんから影響を受けていて、実はすでに20回以上もステートメントを書き直しているんです。

QUE:グループショーの中には、各作家が好きな作品を出し、それらをまとめるようなライトなステートメントが書かれるだけで、それぞれの作品やステートメントの間に実際は関係性が生まれないまま終わる展示も少なくありません。一方で、トップダウン式にキュレーターが強いコンセプトを提示し、それにもとづいて作家や作品を集めていくというやり方もありますが、上妻くんの場合はそれとも違っていて、作家のふるまいを展示のコンセプトに逆説的に取り込んでいくところがある。

上妻:今回の展示では、バラバラの状態の人たちが、いかに共同性を構築していけるかということを重視していて、それは僕のキュレーションのやり方やWebサイトのあり方ともリンクしています。また、リアルの展示の場では、共同性が生成される過程というものを、ひとつのプロトタイプとして提示できればと考えています。先ほど、お祭りモードを持続させていくと話しましたが、終わらない祭りというのは辛いものなので、どこかで切断する必要があります。例えば、インターネットレーベルが、楽曲をフリーで配布しながらコミュニティをつくり、イベントなどで収益を上げているように、ネットで生成されたものをリアルの場で形にするというのは、2010年代の顕著な動きだと言えます。今回の展示についても、ネットで生成されたものを具現化する場として考えているのですが、それを見た人がまたSNSなどに書き込んだりすることで、リアルとネットが双方向に影響を与え続けるような状況が生まれればと考えています。

QUE:他者性ということには、本来は分かり合えないような苦しい部分もあると僕は感じています。そういうことをグループチャットでも色々匂わせているんですが、展示では、他人の作品に交差してしまうような、ある意味いやがらせのようなことをしたいですね(笑)。もちろんそれが目的ではないですが。

ーありがとうございました、展示のほう楽しみにしております!


Profile

HouxoQueHouxoQue
東京を拠点に活動する美術家。10 代でグラフィティと出会い、壁画中心の制作活動をはじめる。 蛍光塗料とブラックライトを用いたインスタレーション作品「day and night」で知られ、 近年はディスプレイに直接ペイントをする「16,777,216view」シリーズなどを発表。
過去には YVES SAINT LAURENT、Lane Crawford、TOPSHOP とのコラボレーションや、 文化庁メディア芸術祭ドルトムント展にて平川紀道との共作を展示を行った。
http://quehouxo.com


sekai上妻世海
1989年生まれ。キュレーター / 作家。歴史的に規定された制度が機能しなくなり、全てのメディウムがデジタルに還元されながら拡散する情報社会の中で、それらを単独的な形で再構築することをテーマに東京を中心に活動している。主な活動に、「六本木クロッシング2013展 : アウト・オブ・ダウト」 (2013年 森美術館) 関連プログラム「現在のアート」にて集団性と生成の原理について関係性という視点から論じた「集団と生成の美学」を発表。2010年代に起こった言語圏に縛られたインターネットから画像の制作を媒介にしたヴィジュアルコミュニケーションをテーマとした「≋wave≋ internet image browsing」(2014年 TAV GALLERY) キュレーション。関連企画として黒瀬陽平氏との公開対談「POST-INTERNET IMAGE BROWSING – 自閉と横断の二つの側面から情報社会における創造性を考える」出演などがある。
https://twitter.com/skkzm


Information


世界制作のプロトタイプ

http://prototypes-of-worldmaking.com/
会期 : 2015年4月18日 (土) – 4月29日 (水)
会場 : higure17-15cas (東京都荒川区西日暮里3-17-15)
Google map
時間 : 13:00 – 20:00 (4月18日(土)はオープニングパーティのため18:00 – 22:00)
休廊 : 期間中全日開廊

出展者 : 梅沢和木、Kazami Suzuki、GraphersRock、50civl、千房けん輔 (exonemo)、
    田中良治 (Semitransparent Design)、chimpanzee (KINESYSTEM)、TOKIYA SAKBA、
    Nukeme、Hachi (BALMUNG)、LLLL、HouxoQue、borutanext5、mus.hiba
キュレーター : 上妻世海
テクニカルディレクター : 高田優希 / ayafuji
協力 : 西田篤史 (一般社団法人PLATOTYPE)
メディアパートナー : DOMMUNE


Houxo Que『16,777,216views』

会場:Gallery OUT of PLACE TOKIO
東京都千代田区外神田 6 丁目 11-14
3331 Arts Chiyoda #207
http://www.outofplace.jp/tokio/

展示期間:2015年4月17日(金)- 5月24日(日)
開廊時間:12:00 – 19:00 (木 – 日曜日)
休廊日:月・火・水曜日(4/27 – 5/6 はG.W につき休廊)

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