TOPIC > ARTICLE

アートの新しいミッションをつくっていく – アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ 小川秀明 インタビュー 後編

July 17, 2015(Fri)|

ars_interview_top

Story Weaver – The Crane Returns a Favor / Maki Namekawa, Chiaki Ishikawa, Emiko Ogawa, Naohiro Hayaishi, Tetsuro Yasunaga, Hideaki Ogawa (JP)

アルスエレクトロニカ・フューチャーラボに所属する日本人アーティストの小川秀明さんをご存じでしょうか。近年、大阪でのイベントシリーズの実施や、博報堂との共同プロジェクトFuture Catalystsの開始など、以前にも増して精力的に日本で活動されています。

今回、2014年9月のアルスエレクトロニカ・フェスティバルで収録された、未公開の単独インタビューを前編・後編の2回にわたってご紹介します。メディア・アートの祭典として有名なアルスエレクトロニカが近年見せている変化、なかでも企業とのコラボレーションや、日本を含めた外国で活動を展開する背景が語られた貴重な内容です。

後編は、2014年のフェスティバルで起こった変化と、今後の展望について語っていただきました。


Article by Haruma Kikuchi (UNIBA INC.)
Images from Ars Electronica




菊地:既にお話いただいたところもあるんですが、今年のテーマ、「C – What it takes to change」に小川さん個人としてどう取り組まれたのか、またフェスティバルが終わった今のタイミングでの感想をいただけますか。

ars_ogawa_interview_02_00002
2014年のフェスティバル会場となったリンツ中心市街地 / Photo: Heimo Pertlwieser


小川:今年のフェスティバルでぼくが担当したのが、先ほどから出ている「FIS」(Future Innovators Summit)これもFuture Catalystsとしてのプロジェクトです。「未来をプロトタイプするシステム」がコンセプトで、アーティスト ・デザイナー、サイエンティスト・エンジニア、社会活動家、起業家など多様なイノベータたちが、 アルスエレクトロニカ・フェスティバルを舞台に、未来への創造的な問い掛けを生み出すサミットとなりました。


ars_ogawa_interview_02_00008
Future Innovators Summitの参加者、日本からは森翔太、筧 康明、和田永らが参加した / Photo : Florian Voggeneder




ブレックファーストセッション、ランチボックスセッション、ティータイムセッションなどをリンツの街の様々な場所で展開し、夏休み中の学校をイノベータのプロジェクトルームに仕立てました。

6つに分かれたグループに博報堂からのファシリテータとメンターも参加し、カフェや、レストラン、修道士の施設、銀行のロビー、文化センターのステージ、映画館といった、街の日常生活を舞台に刺激的なサミットを進行させました。

「街が創造の触媒になる」そんなプロジェクトになったと思います。

菊地:今年のフェスティバルの小川さんの仕事としては、FISのほかに、鶴の恩返しがありますね。




小川:くたびれながらやりましたけどね(笑)。リンツにも、数少ないながらも日本人の方々が生活していて、それぞれクリエイティブな仕事をされています。

リンツ在住のピアニストの滑川真希さんを中心に、作曲家の石川智晶さん、そして小川絵美子さんが中心になって始まったのがこのプロジェクト、Storyweaverです。そこに、日本在住の早石直宏さん(ヴィジュアルプログラミング)、安永哲郎さん(プロデュース)、そして、ディレクションに僕が参加しました。


ars_ogawa_interview_02_00005
“Story Weaver”のスクリーニングの様子 / Photo: tom mesic


真希さんもぼくらも、外国での生活がだいぶ長くなっていて。日本に対してどんなことができるか、というのは日頃から考えてるんですよね。

真希さんがやりたかったのは、誰もが知っている日本の物語、昔話みたいなものを異なる文化の人たちにも伝えたいということでした。Deep Spaceという巨大映像体験環境を利用して、物語を言葉で伝えるのではなくて、体験化して伝えられないかがチャレンジでした。

菊地:アルスエレクトロニカの文脈で、日本ローカルなナラティブが出てくるというのは、すごく感動的でした。

小川:プロジェクトが始まる前は、日本の皆さんから、なんで鶴?みたいな反応でした(笑)。
でも、一つ一つの表現や絵に、自分たちが感じる日本の美意識のヒントみたいなものを散りばめようということは意識しました。

結果的にピアノを弾くことで織られて行く体験型紙芝居みたいに仕上がって、この物語を知っている人も、知らない人も、ここでの体験から、日本の何かを感じてもらえれば幸いだなと思います。

菊地:日本人が文学として距離をおいている対象というよりは、もうちょっと深いところにあるものを思い出す感じがしましたね。表現としても、反物の柄の場面とかは、ディープスペースならではの形で、素晴らしいなと思いました。

話は戻しまして、学校にしても、アーケードにしても、その場所である、ということの重要さが今年のフェスティバルでは特に感じると思います。

小川:そうですね、マリエンドーム(教会)の展示が象徴的でしたね(http://www.aec.at/c/en/dom-exhibit/)。

ars_ogawa_interview_02_00003
Buddha on the Beach / Photo: tom mesic


ars_ogawa_interview_02_00006
Mariendom / Photo: tom mesic


夜散歩していてあんなのがあったら気持ちいいだろうし、中に入ったらすごい作品がたくさん入ってるし。普段見ている風景が変わってしまう。そしてLip Dub(リップダブ)。

※リップダブは既存の楽曲に合わせて口パクするパフォーマンスをビデオに収録するプロジェクトのこと

ars_ogawa_interview_02_00004

ars_ogawa_interview_02_00007
LipDub – Take a Chance, Take a Change! / Photo: Martin Hieslmair

街を舞台に一つの映像物語を作ろうというプロジェクトで、同時多発的に市民が起こすアクション、パレードが様々なカメラで撮影され、それらが一つの映像に仕上がるというものです。市民が参加することで、街の風景が変わってしまうアルスエレクトロニカ・フェスティバルならではの参加型プロジェクトだったと思います。これこそ、ことしのフェスティバルテーマ「C…what it takes to change」のCがCitizen(市民)だというステートメントと言えますね!

菊地:最後に、今後に向けてのお話をいただけますか。

小川:結局ぼくらができるのが、社会に仕掛けていくことです。実験室の中でできることではなくて、やっぱり社会、外気に触れさせて展開していくということにアートの可能性を感じています。

Future Catalystsというのは、まさにそういう触媒として機能できるプログラムになると思います。だから、そういうことに興味がある人がいらっしゃれば、企業でもいいし、行政でもいいし、一緒にやりたい。これはぼくらにとっても本当に実験的なことだから、何が生まれるのかわからないし、日本という場所で、そういうことができるといろんな発見があると思います。リンツではない、リンツでは見られない風景とか光景が見られるのかなというのを期待したいなと思っています。

菊地:小川さん個人としてそういうところが特に大きくなりそうな一年になりそうですか。

小川:そうですね。いま考えているアートシンキングを、どうやって具現化させていくのか、それは一番大きな興味事項です。アートの新しいミッション、役割をつくっていきたいですね。

いろんな面白い人たちが、企業の中にもいると思っています。そういう人たちとこのプログラム(Future Catalysts)を通じて出会って、そのままでは何も起こらなかったところに、触媒として機能することができるんじゃないかと期待しています。
誰もが化学反応に参加できるという考えが、とても重要です。その手助けになるようなフレームを作っていきたいです。

菊地:
ありがとうございました。

取材日:2014年9月9日
フェスティバル会場になった小学校(Akademisches Gymnasium Linz)近くのカフェKonditorei Cafe Leo Jindrakにて、リンツァートルテを頬張りながら


今年のアルスエレクトロニカは「POST CITY」というテーマのもと、9月3日〜7日にオーストリア・リンツにて開催される。興味ある方は公式サイトから詳細をご覧頂きたい。

http://www.aec.at/postcity/en/

Profile

ogawa小川秀明 (おがわ・ひであき)
アルスエレクトロニカ フューチャーラボ・クリエイティブカタリスト

h.o (エイチドットオー) : http://www.howeb.org/
ogalog : http://ogalog.blog.so-net.ne.jp/






ars_ogawa_interview_00007


UNIBA INC.
ユニバ株式会社は、”さわれるインターネット(Embodied Virtuality)”の会社です。
インターネットとコンピュータを、道具ではなく、見て、触れて、遊びたおすためのメディアととらえています。
メディアアートとオープンテクノロジに根ざすプロダクションとして、その楽しさを追求しながら、ブランディング、キャンペーン、プロモーションの制作をしています。
http://uniba.jp/


Links