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Ars Electronica Festival 2013 「The Future Rock Show」レポート & 小川秀明氏インタビュー

September 18, 2013(Wed)|

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Credit: Florian Voggeneder

アルスエレクトロニカフェスティバル 2013では、過去に例のない取り組みとして、23人の幅広いジャンルのアーティストやミュージシャン、キュレーターらが集まり、ディスカッションを行う「The Future Rock Show」が行われました。このレポートでは実験的に開始されたアルスエレクトロニカの新プロジェクトを紹介します。
また、アルスエレクトロニカのここ数年の変化について、フューチャーラボに所属するアーティスト小川秀明さんにインタビューをさせていただきました。現地で活動するアーティスト、またアルスエレクトロニカを支えるメンバーの目線で、貴重なお話を多く伺うことができたので合わせてご覧下さい。

Article by Haruma Kikuchi (Uniba Inc.)




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The Future Rock Show ブレインストーミング中の会場風景。
Credit: Florian Voggeneder

「The Future Rock Show」


2013年9月8日、ブルックナーハウスのコンサートホール内に大きな円卓が用意され、23人のパネリストが集まりました。
アルスエレクトロニカのディレクター、ゲルフリート・シュトッカー氏、フューチャーラボのディレクター、ホルスト・ホートナー氏、シカゴのバンドOK Goのダミアン・クーラッシュ氏、ネットテレビIkono.org(アイコノ)のエリザベス・マルケビッチ氏とジャック・パム氏、日本人ではフューチャーラボの小川秀明氏、アーティストのスズキユウリ氏、真鍋大度氏、博報堂の鷲尾和彦氏らが参加して、「The Future Rock Show」と題した1日がかりのパネルが開始されました。

テーマは、シアター、コンサートホール、その他さまざまなライブ形式における、パフォーマーと観客の関係(「Show」)の再デザイン。
午前の部は10時30分から「Future Entertainment Inspiration」というタイトルで、パネリスト自身の取り組みについて次々と5分のショートプレゼンテーションが行われました。なかでも新しい「アート・テレビジョン」プログラムであるikono.orgについて特別に45分のプレゼンテーション・ディスカッション枠が設けられ、午後の部への導入となっていました。

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Credit: Florian Voggeneder

昼休みを挟んで、14時からは「Future Entertainment」と題したブレインストーミングが開始。冒頭、ゲルフリート・シュトッカー氏みずから議論をリードし、「このパネルの目的は、ひとつの答えを得ることではありません」と強調しながら、それぞれの発言に丁寧にコメントをして会場を盛り上げます。

次々と、各パネリストの視点で問題提起がされていきました。どのようにしてパフォーマーとオーディエンスはつながることができるのか、自分が確かにそこにいる/いたと実感できるのはどうしてなのか、演じる人とそれを観る人のあいだの役割が変化していく(双方向になる)ことはできるのか、観ることや参加することへの欲望の根源はどこにあるのか、など。1時間30分の充実した意見交換が行われました。

途中、シュトッカー氏が観客にブレインストーミングに参加するように呼びかけを行う場面が印象的でした。「パフォーマーとオーディエンスの境界を乗り越えることが、簡単でないことはよくわかっているけどね」と、にこやかに観客の参加を誘う姿に、次回以降の「The Future Rock Show」の発展の方向性が示唆されていたように思います。

アーティストとオーディエンスの関係の変化が、たとえばikono.orgにおいては、技術的に新しい文脈(ネットとテレビが融合した新たなプラットフォーム)の上に、再構想すべき対象として問題になっているのでしょう。エリザベス・マルケビッチ氏の発言のなかに「grab attentions of people without entertaining(エンターテイメントでない方法で人々に注目してもらう)」という表現がありましたが、アルスエレクトロニカが新しく踏み出していこうとしている領域が、まさにそのような方向なのではないでしょうか。
そしてそれは、議論の内容として目指されているというよりも、「The Future Rock Show」に集まる人々自身が体現していくものとして、期待されているのかも知れません。

http://www.aec.at/totalrecall/en/2013/07/29/the-future-rock-show/




博報堂 鷲尾和彦氏とアルスエレクトロニカ


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鷲尾和彦氏
Credit : tom mesic
博報堂のクリエイティブディレクター・プロデューサーの鷲尾和彦氏は、2007年から毎年フェスティバルを訪れています。当時のWeb2.0やセカンドライフの流行に疑問をもち、テクノロジーがどのように暮らしの中に入っていくべきなのかを知りたい、という動機で初めてリンツへ調査旅行をして以来、雑誌「広告」へのレポート寄稿や、ゲルフリート・シュトッカー氏へのインタビューなど、継続してアルスエレクトロニカとの橋渡しに取り組んで来られました。最近では日本企業のR&Dを目的として、フューチャーラボと共同のプロジェクトを実施するなど、広告の本業との融合を果たしています。

「The Future Rock Show」はそのような取り組みを続けてきた鷲尾氏と、アルスエレクトロニカが公式にコラボレーションすることによって始まった新プロジェクトです。アルスエレクトロニカの運営サイドから、今までのフェスティバルにはない新しい形式を試みたい、という打診があり、実現することになったとのこと。カタログやウェブサイトの「The Future Rock Show」の紹介ページには、スポンサーとして博報堂の名が入っていますが、そこに表れている通り、内容だけでなく企業のスポンサードという形式においても、実験的なプロジェクトだということがわかります。

鷲尾氏はその目的について、アートシンキングとデザインシンキングを融合させたい、という言葉で語っておられました。広告のコミュニケーションが、アートの在りかたに近づいて行かざるを得ない、という時代認識のなかで、アートを買ってきて広告に使うという水準ではなく、思考方法や社会との関わり方の水準でアーティストの取り組みを理解し、企業活動の中でデザインやプロモーションに入れ込んでいくということが目指されています。

また、このプロジェクトのネーミングについて鷲尾氏は、人々が感情をぶつけ合う場所という意味の “Rock” で、特定の音楽ジャンルとしての “Rock” のことではない、と説明してくれました。またアルスエレクトロニカは、ごく一部のアーティストとサイエンティストのためのハイコンテキストな内容にとどまらず、広く社会へ浸透していこうとしていて、それが新しい場を必要としたのではないかという背景についても言及されていました。

社会の中に、人と人が出会う場所をつくる新しい方法を見いだそうとする広告社の努力と、アルスエレクトロニカの社会に根ざそうとする強い意志、そして橋渡し役としての鷲尾氏の熱意が「The Future Rock Show」の実現の背景にあることが理解できたとき、この試みの将来は非常に明るいものだと感じられました。




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ゲルフリート・シュトッカー氏
Credit : tom mesic

未来を描く額縁としての「TOTAL RECALL」


アルスエレクトロニカの総合ディレクターであるゲルフリート・シュトッカー氏とクリスティーナ・ショップ氏による毎年のフェスティバル・テーマを解説するテキストには、同時代の社会についての、アルスエレクトロニカ独自の洞察と問題提起が凝縮されています。アルスエレクトロニカの「アート・テクノロジー・社会」という不変のテーマが、その時代における具体的な問題提起となって、そこに表現され続けています。

今年のテーマは「TOTAL RECALL – The Evolution of Memory」。テキストでは、記録にまつわる人類の営みがデジタル技術によって加速度的に肥大化していくときに何が起こるか、という課題を提示している一方、脳の記憶の仕組みについては、必ずしもコンピュータのそれと同じではなく、絶え間ない外部との関係の再生成なのではないかということを示唆しているにとどめています。(テキストは小川秀明氏による日本語訳もあります。http://ogalog.blog.so-net.ne.jp/2013-05-25 )

「TOTAL RECALL」の意味するところを考えるとき、完璧な記憶という直訳、あるいは人間が生来の能力として持っている「記憶」よりは、映画トータル・リコールとかけられた、人工的で、外部化された記憶と脳の関係、なかでも、本当の記憶のありかに疑問を突きつけるような技術的な事態を取り上げているように思います。
記憶とは何か、記録とは何か、そしてその「あいだ」には何があるのか。外部記憶の巨大化と人間社会の未来について、楽観的な態度を保留し、投げ出すことによって、未来の社会をそこに描き込むにふさわしい「額縁」がそこに形づくられているのだと思います。

2011年の「Origin – how it all begins」でサイエンスが明らかにするヴィジョンに接近し、2012年の「The Big Picture – New Concepts for a New World」で社会(人と人のつながり)に焦点を当てた流れのあとで、記憶の進化に注目するのは、ある意味ではアート(人工物と認知の様式の問題)へ、ひとまわりして戻ってきた、とも言えるのかも知れません。

私たちが向かい合うことのできる事実の限界、あるいは、私たち人間同士をつなぎあわせる方法、あるいは、私たちと自然界や機械との対話、それらは人にとっての外部を志向する問題のように思えます。記憶に取り組むことは、言語をもち、人工物を創造する知性そのもの、つまり私たちの内部の問題へと向かいながら、その「進化」がどのようにあり得るのか、という問題提起なのではないでしょうか。

長年アルスエレクトロニカフェスティバルを訪れている鷲尾氏は、アルスエレクトロニカは年々どんな作品をつくっているかよりも、ソサエティのほうを向いてきている、今のほうが面白いと感じる、という印象を語っておられました。
新しいテクノロジーがもたらす新しい世界は、私たちの在りかたの深いところまで入り込みつつあるようです。アルスエレクトロニカが取り組もうとしていることは、インターネットやエレクトロニクスなどが普及しきって、まったく珍しくなくなり、意識にのぼらなくなった以後にも、私たちにとって取り組むべき課題は多く残されている、という呼びかけではないでしょうか。

デジタルテクノロジーの変化の速さ、はかなさを強調するあまり、新しいのでなければ、進歩しているのでなければつまらない、と認識が反転してしまう危険があるかも知れません。新しいものは確かに刺激的ですが、重要なのはそれだけではなく、人々が何かを伝え合うための方法であり、人々が集まって感情をぶつけあうための方法であり、人々が協力しあって社会を形成するやり方そのものであり、それらが、現代の環境にふさわしいものであるために、柔軟であり続け、創造性を持ち続けることなのではないでしょうか。




アルスエレクトロニカ フューチャーラボ 小川秀明氏 インタビュー


アルスエレクトロニカフェスティバルの会場のひとつであるブルックナーハウスで、フューチャーラボ所属のアーティストで、「The Future Rock Show」にもパネリストとして参加している小川秀明氏へのインタビューを行いました。2年前の2011年のインタビューに続き2回目になるので、そちらも合わせてご覧ください。

インタビュー中に登場する作品やプロジェクトについては、多くが小川秀明氏の個人ブログで紹介されています。




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小川秀明氏 (左)
Credit : Uniba Inc.
菊地:去年は大変お忙しそうでしたけど、今年はいかがですか。

小川:去年はヤバかった…今年はだいぶ余裕があります(笑)。去年はおかしかったですよね。文字のプロジェクト(Klangwolke ABC / クラングボルケABC : 毎年行われる大規模なショーで、フェスティバルのハイライト。2012年はリンツ市民が手作りのLED文字を持って参加する大規模なプログラムがあった。全てのLED文字はラジオコマンドで点灯など制御可能な仕組みになっている。)と、クアドロコプター飛ぶプロジェクト(Spaxels / スペクセルズ : フューチャーラボが開発した49機のマルチクアドロコプターシステム。空中に巨大な立体映像を映す)と…やったことない、どうなるかわからない企画だらけで。

菊地:しっかりとお話伺えるのは2年ぶりなので、環境や取り組まれていることの変化について伺えると嬉しいです。アルスのテーマの変遷だけ見てても、結構変わってきているかと思います。

小川:2年前が「Origin -how it tall begins-」で、去年が「Big Picture -New Concepts for a New World-」でしたね。ここ数年は、参加型でライブにフォーカスしたものがフューチャーラボでの大きな仕事だったなと。やっぱりマジックモーメントをどう社会に出すかというのが、フューチャーラボの仕事です。去年は、空間の中に立体映像を映し出す「スペクセルズ」と、市民が参加して大きなピクチャを作ろうという「クラングボルケABC」のふたつで、とてもシンボリックだったなと思います。美術館では作品の額縁の枠が鑑賞者に対話のモードを生み出すけれど、アルスはまさにその枠から作っていて。新たなアートを作っているんだなと思います。その枠は目に見えなくて、スペクセルズは空に広がって、クラングボルケはここ(インタビュー場所 : 毎年クラングボルケ会場となるドナウ河畔の公園)に広がっている。見ている人の対話のモードも含めて社会の中にどう「枠」を置くかというところに関わっていると思います。

チェスタートンという劇作家がいるのですが、アートで何が一番美しいかって言ったときに「額縁の枠だ」って(笑)。その枠=メディアは当時なら写真だったり、最近まではテレビだったりですけど。社会の文脈の中にどうやって対話のモードを作って埋め込んで行くか、新しい枠を作って開発して行くか、というのが面白い。だからさっきの2つのプロジェクトはとても象徴的だなと思います。

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Klangwolke ABC (2012年)
Credit : rubra

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Klangwolke ABC (2012年)
Credit: rubra


Spaxels (2012年-)


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Spaxels (2012年-)
Credit: rubra


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クアドロコプター
Credit: Michael Kaczorowski

あとウィーンの空港に巨大なインスタレーションを設置しました(“Zeitraum” 2012年)。これもある意味、空港っていう普通のインフラストラクチャーの中にそういう新しい風景の形が作られている。僕らはアートがどういう力を持って社会の中に入って行くのかというのを、いろんな領域とコラボレーションしながら探求している。なので、もし近年の(アルスの)変遷がダイナミックに見えるなら、それは僕らの探求の現れかもしれないですよね。


Zeitraum (2012年)

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Zeitraum (2012年)
Credit : Ars Electronica

2年前のテーマ「Origin」ではサイエンスを扱っています。アーティストとサイエンティストって似てるなと思うんです。CERN(欧州原子核研究機構)では、素粒子を見るための超巨大施設を運用しているけれど、素粒子自体を見ることはできない。痕跡を可視化して、「みる」んですよ。それはすごくアーティスティックな作業。一方で去年のテーマ「Big Picture」は社会。世の中の仕掛けがどういう風に構成されてどんな新しいビジョンを生み出しているかということです。近年のソーシャルメディアによる人の繋がり方を見てみると、人と人の多様な繋がりがパッチワーク的に新しい「ビジョン」を生み出してゆきます。出来上がったパッチワークも次の瞬間には違う模様になって、またあらたな絵が生み出されて行く。

このように、アートとサイエンス、アートと社会というのが一昨年と去年で探求されてきて、今年の「TOTAL RECALL」が「記憶」をテーマにしています。「僕がいま話していることは、何を参照して話しているのかな」「記憶ってなんなのだろう」、ということです。脳は最大の不思議。メディアを通じて、どう自分の記憶を外部化していくかをヒトはやってきた。そういった意味だと、アルスはアート・テクノロジー・社会の変遷を追いかける活動をしているという意味で一貫しているというか、共通するものが見えてくると思います。

菊地:2年前に「サイエンス」と「カタリスト」をキーワードにお話されていたのを思い出します。去年、Facebookの存在をあまり強調しないエジプト革命のドキュメンタリーが受賞していたことにもあらわれていると思いますが、やはりインターフェースでなく、ヒトとヒトをどうやって結び合わせるかであったり、現象と現象が出会うところが問題になってきていると感じます。なので、情報とヒト、機械とヒトのあいだの問題ではなく、社会の中でそれがどういうふうに起こるかという問題が、今年までの流れなのかなと思いました。2年前におっしゃってたことが起こってるなと。サイエンスと社会を経由することが、記憶をどういうふうに扱うかということと深く結びついてるなと感じます。
ところで、去年のクラングボルケABCを見ていて、リンツの社会はアルスエレクトロニカの挑戦的な取り組みに対して、寛容だなと感じました。フェスティバル後、どのようなリアクションがありましたか?

小川:「クラングボルケABC」の後で考えたのですが、結局浮き上がったのはソーシャルメディアを含む社会の風景。アルファベットって、誰かと出会いたいもの。「J」だけだとただのキャラクター だけど、「J」と「A」をあわせると「JA」でドイツ語で「YES」、というメッセージになります。このシンプルなルールが街中に広がって大きな絵になった。この20万人弱の町のスケールもフィットしたし、都市の構造やコミュニティともつながっている話だと思います。東京ではあのプロジェクトはフィットしないかも知れない。
でも日本なら20万人くらいの町はたくさんあって、そこでカタリスト=触媒になる人やプロジェクトがあればユニークなビッグピクチャーが出来るかもしれない。クラングボルケABCをやってみて面白いことがいろいろありました。例えば、ジョンという亡くなられた仲間を追悼するグループが出来たり。プッシー・ライオットというバンドの逮捕に対する抗議活動とかも起こったけど、アルスはいっさい関与してないんです。日本だとオーガナイザーが許容できないようなことも、リンツでは拍手。そこまで参加者のインスピレーションをプロモートできたことに満足してます。人々が自由な発想で自分のアバター(投影)を表現して、それが集まって一個のメッセージになるっていうのは、社会自体を投影するものですし、それらが物理的に集まって生まれる力を表現できた部分があるのかな、と。

菊地:ビルに写っていた画の中にアノニマスの仮面の絵が出てきたりとか、すごい内容だったなと思っています。

小川:アノニマスは現象なんだと思います。ネット時代では実名であれ無記名であれ、ネットワークを介して個が集合・協調したり離散して様々な現象を生み出しています。アルスは善し悪し決めずに、起こっている事実を一貫して扱っています。

菊地:日本と比べるとすごいなというか、ギャップを感じました。

小川:日本はたぶん、「メディアからのメッセージの裏を読み取る」という文化が弱いと思います。こっちの人は自分で判断することが当たり前で、その上で、多様な文化とのコミュニケーション能力が求められます。お互い空気が読めない中で、何が創作行為としてリスペクトされるのか。社会や政治に対するメッセージとしてのアートの役割が求められています。


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Klangwolke ABC (2012年) 市民は自由にメッセージを作り上げていく、上記はプッシー・ライオットの逮捕に対する抗議活動。
Credit: rubra

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アノニマスの仮面が映し出されたビル
Credit: rubra

菊地: 「スペクセルズ」ではクアドロコプターが何台も飛んでてすごかったですね。成功ですよね。

小川:フューチャーラボの所長Horst Hörtnerともよく話すのですが 、アルスは「ファンのためにリスクを取る」という選択の仕方をしているよね、と。確かにそういうのは日本では難しいかもしれないけど。
結局、見たいものを見たいという欲求なんだと思います。多くのアーティストはそのためのリスクを取っている。自分が見てみたい世界のために一生懸命やるのは当然のことです。

菊地:クアドロコプターはロンドンにも行ってましたね。

小川:ぼくは実際には行ってないんですけど、やっぱりライブの価値が増していると感じます。こうやってみんなで会う時間ってすごい重要でしょう。人生は有限なのに、限られた時間に対してインターネットは時間泥棒で、気づいたら1時間とか経っちゃうんだけど、僕はこうやってみんなで話しているほうがすごいインスピレーション受ける。本質的に人間は、ライブのコミュニケーションに興味を持っていると思う。だから広告やインスタレーションなどにもウェブとか新しいメディア体験から回帰する形で、ライブのニーズが出てきている。メディアでは再生「できないもの」(ライブ)とは何かという問い掛けです。

菊地:なるほど。小川さんご自身の最近の活動について聞かせていただけますか。

小川:アートが持っているパワーが、どうやったら日常になるかを考えていて、そのグラウンドを作りたいと思っています。いわゆる広告として消費されるアートではないものとして。それに関連して、今年のアルスエレクトロニカフェスティバルには、「The Future Rock Show Panel」という試みがあります。いくつかのパネルから構成されていて、その1つはインスピレーショントークです。日本からは真鍋大度さんとか、ライブに通じた人たちに、プレゼンテーションしてもらいます。もうひとつカタリストラウンジというもの。アーティストがいろんな人たちと出会える場で、ブレインストーミングをやります。このパネルは、博報堂さんと共同開催になっていて、広告会社とアーティストが従来とは異なる形で近づいて循環して行けそうな仕組み、グラウンド作りをまさにやっている。

菊地:ぜひ参加したいです。

小川:それとは別にアーティスト個人の観点としては2つあって、ひとつはアルスセンターのいろんな場所に作品を置いていく、というのを続けています。Project Genesis展の会場に置いた、矢印の作品(Momentriumシリーズ)とか。

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Momentrium (2012年-)
Credit : h.o

あとはアルスエレクトロニカセンターのブレインラボで、東京の日本科学未来館のパネルを使った「Your-Cosmos」という作品のアートディレクションやりました。未来館にある球体ディスプレイ(Geo-Cosmos)は世界で一番きれいなインスタレーションのひとつだと思うんですけど、あのLEDパネルがリプレイスされるのを機に、古いパネルを再活用出来ないかということでアルスと未来館でコラボレーションしています。僕らのミッションは未来館で見えてくるものと違う視点をどのように提供していくかというところです。「Geo-Cosmos」は引いた目線で地球を見てみようという視点ですが、「Your-Cosmos」はその逆。戦略的には沢山の「◯◯コスモス」というのを作っていこうとしている。それはブレイン・コスモスかもしれない。この視点は、2012年のアルスエレクトロニカフェスティバルのステートメントである、「ビッグピクチャー」にすごく似ていて、違う視点が一個一個つながり合って見えてくるコスモス、というものをいろんな形で提案したかった。このように、僕としては自分自身の作品だけでなく、アルスの一員としてどんなステートメントが表現できるか探求しています。

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Your-Cosmos ライブパフォーマンス (2013年)
Credit : Florian Voggeneder

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小川秀明氏、比嘉了氏、真鍋大度氏
Credit : Florian Voggeneder

菊地:今回のフェスティバルのテーマ、「TOTAL RECALL」とのつながりはいかがですか?

小川:僕がイメージしたのは「アタマの中に入る」。たぶんアタマの中って何もないんじゃないかなって思っていて。

菊地:なにもない(笑)

小川:この空間(アタマ)の中に何があるのかなって。「Your-Cosmos」も俯瞰でなく囲まれている感じなんだけど。街の構造と、アタマの構造とかDNAとか似てるんじゃないか、というイメージがあって。そう思ったときに「TOTAL RECALL」という観点よりは、ブレイン、アタマって何なんだろうなと。アタマってものがどんな可能性もってるのかを対話する場を作りたい、というのがありました。そういった意味だと「TOTAL RECALL」と関連があって、記憶というものに対して違うアプローチをしたいという意味で、つながりがあると思います。

菊地:小川さん個人として、いろんな視点が合わさってひとつの宇宙になるというビッグピクチャー的なイメージに、いろんなレベルで取り組まれてらっしゃるのかなと感じました。社会的なレベルでは去年の「クラングボルケABC」もそうですよね。

小川:高松でやっているトライアスロンのプロジェクトもあります。アスリートがつけているタグを追っていくことで、個人の動きを集合としてトラッキングできる仕掛けで、アスリートがゲートをくぐるタイミングでTwitterのボットがつぶやいてくれたり、最後にゴールしたときにそのロギングをもとに自動的な物語を生成する、「 TRIART」というプロジェクトをやっています。これも個別の人たちが集合して、ライブをシェアして、また分散しいくというところは似ているし、取り組みとして一貫しているかも知れません。

菊地:ツイートの交換というか、ツイッターで別の町とつなぐプロジェクトもやられていますよね。

小川:そう、「Connecting Monsters」という社会を怪物に見立てるシリーズ作品があって世界中の建物やファサードにモンスターを生み出すプロジェクトです。リンツのアルスエレクトロニカセンターに夜現れるモンスターは、バーチャルなアクセスを「見る」怪物。東京からアルスセンターのウェブサイトにアクセスすると、センターのファサードに映ったモンスターが東京の方向をグーって向くというもの。「Kazamidori」と同じなんだけど。これは社会の力によって動くモンスター。今回発表した新しいモンスターは、イスタンブール市内の大きなスクエアのディスプレイにあらわれる予定です。ツイッターと連携してつぶやかれた言葉から「??? Of Istanbul」というプラカードを自動生成して、それをモンスターが市民に見せたかと思うとパクパク食べるっていう仕掛け。背景的にセンシティブなプラカードが生まれるかもしれないし、何でもないような日常を浮き上がらすプラカードが生まれるかもしれない。何が出るか分からないライブがあります。

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Connecting Monsters (2013年-)
Credit : h.o

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Connecting Monsters (2013年-)
Credit : h.o




菊地:以前ロボティニティ(ロボットらしさとは何かというヒューマニティの対となる造語)というキーワードを出されてたと思うんですけど、なにか目に見えないものが実際にそこに姿をあらわすとか、機械を相手にインタラクションするというところは、小川さんの個性としてあるような感じがします。アニミズムというか。

小川:ヨーロッパではユニーク(個性)かもしれないですね。やっぱりクリエーターは自分を投影したいんじゃないですか。そのときはやっぱりロボティニティの話になります。石黒さんのアンドロイドも彼自身だと思うし。アンドロイドを介して自分自身や人間を知る、という活動だと思います。アートの活動はそれだと思う。

菊地:そろそろ時間ですが、今後のプラン、こちらへ向かっていきたいみたいなものがありましらお願いします。

小川: どうやったら新しい創作のグラウンドを作れるかなというのが自分の興味だし、アルスの興味でもあると思います。それをしながら作品を継続的に作り続けることはすごく重要だと思うし、最近バランスもとれてきたと思います。こっちにきて7年目で、余裕も出てきました。アルスでは常に最先端を追い求めなければならない、自分を否定し柔軟にならなければならない宿命があるので、「本質を問う作品作り」と両方の視点を持っておくと、ちょうどいい感じに動いてくかなと思っていて。それを継続的にやっていきたいなと思っています。

菊地:ありがとうございました。

2013年9月6日 於ブルックナーハウス

h.o
http://www.howeb.org/

Information

アルスエレクトロニカフェスティバル 2013
http://www.aec.at/totalrecall/


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ユニバ株式会社は、”さわれるインターネット(Embodied Virtuality)”の会社です。
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