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「世界制作のプロトタイプ」展に向けて
アーティスト・HOUXO QUE × キュレーター・上妻世海

April 3, 2015(Fri)|

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2010年代以降のインターネット文化を背景にした独自のアプローチによって、デザイン、ファッション、アートなどの分野で活動している14名の作家たちが集結するグループ展「世界制作のプロトタイプ」が、4月18日から日暮里・higure17-15casで開催される。この展覧会にあたり、ネット上で2万字に及ぶステートメント「世界制作のプロトタイプによせて」を発表したキュレーターの上妻世海(コウヅマ セカイ)氏と、同展の参加作家であり、4月17日からはOUT of PLACE TOKIOで自身の個展も開催予定のHOUXO QUE(ホウコォ キュウ)氏が、開催を控えるふたつの展示の話を中心に対談を行った。

Text by Yuki Harada (Qonversations)

10年代のインターネットはどう変わったか?


ー「世界制作のプロトタイプ」の開催に至るまでの経緯を教えて下さい。

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「≋wave≋ internet image browsing」展
>イベント詳細
上妻:僕は2010年にちょうど20歳だった世代なのですが、10年代の文化は面白くないという人が多いことに違和感を持っていました。僕自身はつまらないと感じたことはなかったし、それはおそらく見方の問題であって、既存の枠組みでは語り得ない状況が生まれてきているのではないかと。それを展示という形で表現しようとしたのが、2014年にTAV Galleryで開催した「≋wave≋」展(CBCNET内記事)で、その会場で出会ったのが、QUEさんでした。


QUE:同時期に僕が携わっていた「BCTION」という展覧会があったのですが、その一環として、exonemoの千房(けん輔)さんが「#BCTION #10F」というネット上のプロジェクトを行っていて、そこに画像を色々アップしていたのが上妻くんでした。興味を持って調べてみると、彼がネットをテーマにした展示を企画していることがわかり、会場に足を運んだんです。

上妻:これまでのインターネットには、サイバースペースという言葉が使われることが多く、「こちら側」と「あちら側」は別の世界だと考えられていました。ただ、08年に日本でTwitterが始まり、11年の震災などを経て、爆発的にユーザーが増える中でネットとリアルの間に密接なつながりが生まれました。「#BCTION #10F」がきっかけになったQUEさんとの出会いもまさにそうですし、クリエイティビティに影響を与える人との出会いというものを、ネットが加速させるという状況になってきた。

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#BCTION #10F」で投稿されたイメージ

QUE:震災以降は「こちら側」にないものを、「あちら側」で補完するという考え方が機能しなくなりつつあり、かつてのユートピアだったインターネットの世界に生きていた人たちが住処を奪われてしまった。千房さんは、「インターネットのモラトリアム期の終わり」と言っていますが、ネット黎明期から活動してきた人たちが、そうしたパラダイムシフトに戸惑う一方、上妻くんはそういったインターネットに対して、肌の感触が伴った見方が自然にできていたのかなと。

上妻:僕がもうひとつ感じているのは、新陳代謝の問題です。これまでサブカルチャーと呼ばれていたアニメやコスプレなどは、いまやメインカルチャーと言えるほど広がっています。一方で、「世界制作のプロトタイプ」に参加する作家たちの展示やイベントなどに足を運んでいると、お客さんの顔ぶれが毎回同じことに気づくんです。それだけパイが小さいということですが、そうした場に行くと、いつまで経っても自分が最年少から抜け出せない(笑)。

QUE:それは日本のストリートアートやライブペイントカルチャーも同様で、これまでは10代や20代前半が牽引してきた文化だったのに、いつの間にかプレイヤーが固定化していて、20代後半でも若手と言われるような状況になりつつある。

上妻:「世界制作のプロトタイプ」では、千房さんや田中(良治)さんなど、インターネット黎明期から活躍している人たちから、梅ラボやQUEさん、さらに若い世代に属するborutanext5らをミックスしています。もともと小さなカルチャーだからこそ、新陳代謝が起こり得る場をつくっていかないと、文化自体が滅びてしまう。そうした問題意識のもとで開催するのが、「世界制作のプロトタイプ」なんです。

SNS時代における絵画表現の位置づけ


ー「世界制作のプロトタイプ」と同時期には、QUEさんの個展も開催されますね。

QUE:個展では、現代社会の中で問うべき現実の断面を見せられればと思っています。一方、グループ展では、他者との関係性を意識しながら、プロトタイプのようなものを示し、それが個展にも還元されるという関係性を構築できればなと。今回の作品もそうですが、イメージとして容易に回収されない絵画を描きたいという思いが僕にはあります。最近は美術館でも撮影しSNSにアップロードができるようになりつつあり、鑑賞者のスマ―トフォン経由で拡散されていくことが多いですよね。本来絵画というのは、鑑賞者が作品と対峙している時間や心象の変化というものが大事だと思うのですが、絵画作品に限らずネット上ではイメージに触れただけで体験した気にもなりがちです。それを逆手に取り、例えば、ディスプレイに映し出されるものが捉えることができないものであったり、またはディスプレイそのものに関わっている作品がある状況を用意することで、イメージとして回収されにくい作品を提示したいと考えています。

上妻:本当に面白い体験をしている時には、写真として残すことを忘れてしまうことが多い気がします。後になってあの時のことを思い出そうとカメラロールを見たら、写真が一枚もなかった、みたいな(笑)。

QUE:確かにエキサイティングな瞬間はそうなのかもしれないけど、逆に僕らは、写真を撮ったり、Tumblrでリブログすることで、体験というものを自分の身体から切り離してしまっているような気もします。自分のリブログをすっかり忘れてしまっていたりするように。そういう意味では依然として「あちら側」は機能しづらくなっただけで、まだ在るようにも思う。僕はネットゲームが大好きで、ゲームの中では相手プレイヤーを銃で倒したり、超人的な身体で走り回っていて、自分の美意識を反映したアバターになれたり、その時は最高にカッコ良いオレになっています(笑)。でも、ゲームを消して、真っ黒なスクリーンに自分が映った瞬間、「一体こいつは誰だ?」と(笑)。でもこれはゲームだけではなくSNSにもそういった作用があるようにも思えるし、電車に乗っていて見渡したらみんなスマートフォンやタブレット端末を見ているように、いま人が世界を知覚している断面の多くはこのスクリーンで、その中に新しい人格が生成された瞬間に、それは自分ではなくなってしまう感覚がある。

上妻:コスプレの文化などがある日本は特に、ネット上でさまざまな人格を演じることに違和感を抱いていない気がします。だからこそ、日本ではTwitterの方がFacebookよりも先に受け入れられたのではないかと。

QUE:震災以降は、ネットとリアルの結びつきが強まったことでFacebookが力を増しましたが、最近はLINEが出てきて、さらに実名性をベースにしたクローズドなコミュニティが形成されています。それ以前の僕たちはサービスに合わせて、さまざまな自分を演じていたところがありましたが、そこでもポイントになるのはこれらは全てディスプレイを通しているということだと感じています。性質的に見ても、光の反射によって色を識別する印刷などのCMYKカラーモデルと、ディスプレイのバックライトによって色そのものを光として発するRGBカラーモデルは全く異なります。後者の特殊な環境だからこそアルターエゴやアバターがより生まれやすいのがディスプレイを通して形成された空間なのだと思います。そうしたデバイスの環境に加えて、社会そのものが持つ文化や慣習が作用し、現代の日本のインターネット文化が形成されていたのかなと。ただ、先述の実名性をベースにしたコミュニティの加速や、社会情勢の変化によりもう「あちら側」/「こちら側」といった二項対立が機能しなくなりだした。それはリンク先が消えたというよりも、隔てていた「 / 」が消えてしまったような状況で、だからこそいま目の前にある現実を揺さぶり、更新しなくてはいけないと考えています。

ネットで生成されたものを、リアルの場で具現化する 


ー上妻さんによる「世界制作のプロトタイプ」のステートメントでは、「2ちゃんねる・ニコニコ動画的なもの」から、「Tumblr・Soundcloud的なもの」への移行について言及されていましたが、これについてもう少しお話し頂けますか?

上妻:2ちゃんねるやニコニコ動画の背景には、ある文脈に紐付いたネタをユーザーが消費することで、コミュニケーションが連鎖していくという文化がありますが、これらは日本の言語圏に依存していました。一方で、言語に縛られないTumblrやSoundcloudなどのサービスにおいては海外との交流が頻繁に行われていて、最近は日米のトラックメーカーが共同で曲をつくるということが普通に起きています。さまざまなボカロ楽曲などがSoundcloud上でいくらでも聴けるようになったことで、日本人クリエイターの存在が広く知られるようになったんですね。つながりに広がりが出たことで他者性というものが浮き彫りになり、それによってさまざまな解釈可能性が生まれ、より多様な作品がつくられる土壌ができています。今回の参加作家の中でも、borutanext5やKazami Suzukiちゃんなど、作品をネットに載せることで海外から評価され、活動の場が広がっている人も多く、自分なりの方法で10年代以降のイメージコミュニケーションを実践している人たちを中心に選んでいるところがあります。

ー「世界制作のプロトタイプ」では、「他者性」が重要なキーワードになっているようですね。

上妻:はい。いまお話ししたように、つながりによって解釈可能性が広がると、その中から負のリアクションも生まれ得るわけで、「isisクソコラグランプリ」などはその一例だと思います。「≋wave≋」の時はそうしたマイナス面が作用しないようにしていたのですが、今回は、作家同士のコミュニケーションから生まれてくるものを、良い面も悪い面も両方見せていけるような仕掛けづくりを意識しました。そのひとつが参加作家によるチャットルームで、そこで交わされた会話が、公式サイトの背景に表示されるようになっています。

QUE:僕が最初にチャットルームに入った時は、まるでお通夜みたいに静かでした(笑)。これは何とかしないといけないと思い、とりあえず上妻くんのステートメントをディスってみた(笑)。行儀良くしていても面白いことは起きないし、空気を読まずに発言を増やし、他人に絡んでいきながら、「こいつ、ウゼーな」と思われるような存在になろうと。

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世界制作のプロトタイプ」のウェブサイト。Twitterからの投稿された画像や参加作家たちのやり取りが垣間見える作りとなっている。

上妻:今回の展示を設計していく上で、どうすればお祭りモードを持続させられるかということは大きなテーマでした。作家の性格によって、発言をする人、しない人というのは分かれるのですが、QUEさんが色々発言することで、あまり発言しない人たちの間にも言いたいことが生まれて、後で個人的に僕にメッセージをくれたりする。そうした反応が起こることが大切ですし、作家同士が影響を与え合うだけではなく、僕自身もみなさんから影響を受けていて、実はすでに20回以上もステートメントを書き直しているんです。

QUE:グループショーの中には、各作家が好きな作品を出し、それらをまとめるようなライトなステートメントが書かれるだけで、それぞれの作品やステートメントの間に実際は関係性が生まれないまま終わる展示も少なくありません。一方で、トップダウン式にキュレーターが強いコンセプトを提示し、それにもとづいて作家や作品を集めていくというやり方もありますが、上妻くんの場合はそれとも違っていて、作家のふるまいを展示のコンセプトに逆説的に取り込んでいくところがある。

上妻:今回の展示では、バラバラの状態の人たちが、いかに共同性を構築していけるかということを重視していて、それは僕のキュレーションのやり方やWebサイトのあり方ともリンクしています。また、リアルの展示の場では、共同性が生成される過程というものを、ひとつのプロトタイプとして提示できればと考えています。先ほど、お祭りモードを持続させていくと話しましたが、終わらない祭りというのは辛いものなので、どこかで切断する必要があります。例えば、インターネットレーベルが、楽曲をフリーで配布しながらコミュニティをつくり、イベントなどで収益を上げているように、ネットで生成されたものをリアルの場で形にするというのは、2010年代の顕著な動きだと言えます。今回の展示についても、ネットで生成されたものを具現化する場として考えているのですが、それを見た人がまたSNSなどに書き込んだりすることで、リアルとネットが双方向に影響を与え続けるような状況が生まれればと考えています。

QUE:他者性ということには、本来は分かり合えないような苦しい部分もあると僕は感じています。そういうことをグループチャットでも色々匂わせているんですが、展示では、他人の作品に交差してしまうような、ある意味いやがらせのようなことをしたいですね(笑)。もちろんそれが目的ではないですが。

ーありがとうございました、展示のほう楽しみにしております!


Profile

HouxoQueHouxoQue
東京を拠点に活動する美術家。10 代でグラフィティと出会い、壁画中心の制作活動をはじめる。 蛍光塗料とブラックライトを用いたインスタレーション作品「day and night」で知られ、 近年はディスプレイに直接ペイントをする「16,777,216view」シリーズなどを発表。
過去には YVES SAINT LAURENT、Lane Crawford、TOPSHOP とのコラボレーションや、 文化庁メディア芸術祭ドルトムント展にて平川紀道との共作を展示を行った。
http://quehouxo.com


sekai上妻世海
1989年生まれ。キュレーター / 作家。歴史的に規定された制度が機能しなくなり、全てのメディウムがデジタルに還元されながら拡散する情報社会の中で、それらを単独的な形で再構築することをテーマに東京を中心に活動している。主な活動に、「六本木クロッシング2013展 : アウト・オブ・ダウト」 (2013年 森美術館) 関連プログラム「現在のアート」にて集団性と生成の原理について関係性という視点から論じた「集団と生成の美学」を発表。2010年代に起こった言語圏に縛られたインターネットから画像の制作を媒介にしたヴィジュアルコミュニケーションをテーマとした「≋wave≋ internet image browsing」(2014年 TAV GALLERY) キュレーション。関連企画として黒瀬陽平氏との公開対談「POST-INTERNET IMAGE BROWSING – 自閉と横断の二つの側面から情報社会における創造性を考える」出演などがある。
https://twitter.com/skkzm


Information


世界制作のプロトタイプ

http://prototypes-of-worldmaking.com/
会期 : 2015年4月18日 (土) – 4月29日 (水)
会場 : higure17-15cas (東京都荒川区西日暮里3-17-15)
Google map
時間 : 13:00 – 20:00 (4月18日(土)はオープニングパーティのため18:00 – 22:00)
休廊 : 期間中全日開廊

出展者 : 梅沢和木、Kazami Suzuki、GraphersRock、50civl、千房けん輔 (exonemo)、
    田中良治 (Semitransparent Design)、chimpanzee (KINESYSTEM)、TOKIYA SAKBA、
    Nukeme、Hachi (BALMUNG)、LLLL、HouxoQue、borutanext5、mus.hiba
キュレーター : 上妻世海
テクニカルディレクター : 高田優希 / ayafuji
協力 : 西田篤史 (一般社団法人PLATOTYPE)
メディアパートナー : DOMMUNE


Houxo Que『16,777,216views』

会場:Gallery OUT of PLACE TOKIO
東京都千代田区外神田 6 丁目 11-14
3331 Arts Chiyoda #207
http://www.outofplace.jp/tokio/

展示期間:2015年4月17日(金)- 5月24日(日)
開廊時間:12:00 – 19:00 (木 – 日曜日)
休廊日:月・火・水曜日(4/27 – 5/6 はG.W につき休廊)


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