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昨年公開されたデヴィット・フィンチャー監督の映画「ドラゴン・タトゥーの女」で印象的なシーンがあった。

殺人の犯人を探すダニエル・クレイグが、どうも犯人だと思われる人を特定し、留守の間にその人の家に忍び込んだ。「やはり犯人らしい」と確信して家を出ると、帰ってきた家主に発見されてしまう。

相手は顔見知りなので「おう、どうした、散歩か?よかったら一杯飲んでいかないか」と無邪気に誘ってくる。殺人をしたかもしれない人間だ。家に入ったら危険が振りかかるかもしれないことは明白な状況。ダニエル・クレイグはちょっと迷って言い訳をする。

「ちょっと帰ってやらなくちゃいけないことがあって。」

しかし相手はさらに彼を誘う。

「いいじゃないか。一杯だけ」

ダニエル・クレイグはその誘いを断ることができない。顔見知りだし、後ろめたいし。

「そうだな。じゃあ、一杯だけ」

そして家に入った彼は、やはり豹変した相手に襲い掛かられ、捕らえられる。相手はダニエルに聞く。

「なぜ家に帰らなかったんだ?」

銃を突きつけながら、相手は言う。

「聞いてもいいか?どうして人々は自分の本能を信じないのだろう?」

「人々は、”何かおかしいぞ”と感じ取ることはできる。通りを渡る前に、知らない誰かが異様に距離を詰めて自分の後ろに張り付いてくるようにね」

「君は何かがおかしいと思った。そしてその何かが意味することも知っている。でも君は、この家に戻ってきた」

「これは僕が君に強制したことか?僕は君の体をひっつかんで、無理やりここに引きずり込んだのか?違う。僕は君に、飲み物を勧めただけだ」

いまにも銃の引き金を引かれそうだ。相手は続ける。

「今まで君は、考えたこともなかっただろう。誰かを不愉快にさせることへの恐れが、自分が痛みを感じることへの恐れよりも大きいんだということを。しかしそれはやってくるんだ。すごく優しい顔でにこやかにやってくる」

ここに招き入れられた人びとはこうして死んでいったのだろうか。

「そして彼らはここに来る。君と同じように、自分の命がもう終わりだと知る。でも彼らは思うんだよ。”まだチャンスがある”って。もし自分が正しいことを言ったら。自分が礼儀正しかったら。自分が泣いて助けを請えばーーきっと生き延びられる」

もちろん、そうじゃない。

「すぐに”すべての希望は打ち砕かれた”とわかる瞬間がやってくるんだ。それが起こった時。彼らの顔から希望がまるで溺れゆく人のように消えていく」

「ドラゴン・タトゥーの女」台本より適当に訳

■よくあること
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これはサイコパスのシリアルキラーだけの話じゃない。われわれの日常でも当たり前のように起こっている。

なんか妙な感じの飲食店に入ってしまった時。
変わってしまった友人がでかい仏壇を売ってきた時。
基本料金は安いのに、オプションがやたらとついて見積もりが高くなっていく時。
洋服屋さんでスカートだけが欲しいのにシャツも勧められた時。

本能が危険を告げたら、踵を返して家に帰ればいい。それだけのことだ。
しかしわれわれはそれをすることができない。
親しい人でも、会ったばかりの人でも、たまたま入ったコンビニでも、
関係性を悪くするのを恐れるがあまりに
「あ、やっぱり帰ります」
の一言が言えない。

そしてシリアルキラーは発砲し、
妙な味のものを食べて気分が悪くなり、
部屋からはみ出すような仏壇を買ってローンを抱え込み、
予算オーバーで貯金が減り、
いらないシャツを買って一度も着なかったりする。

彼らはあなたに銃をつきつけて要求したわけではない。
それでもあなたはそこに入り込み、そして断ることができない。
また同じく、
「いつになったら正社員になれるんですか?!」とか、
「あなた私と結婚する気あるの?!」とか、
一番聞きたいこともひとは言い出すことができない。
その結果、手遅れになってしまうのだ。
尼崎の連続変死事件とかも、外部からは理解できないけど、
こういうメカニズムで被害が大きくなっちゃった
のかもしれないなあと思う。

■結論
後悔しない人生のために、一番聞きたいことは一番最初に聞きましょう。
そしてこんなデカいことが断れないのが人間なのであれば、
普段二次会の誘いを断ることができないのは当然だと思った。
世の中にあんなに断れないものは他にない。