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一万人以上が参加する、国際的なクリエイティブ・カンファレンス「Adobe MAX2016」がただいまサンディエゴで開催中。

昨日行われた基調講演で、最も大きな話題になったのがAdobeの新しい取り組み「Adobe Sensei」のアナウンス。AIとディープラーニングを使うことで、PhotoshopやIllustratorなどを使ったデザインの効率性の向上、さらにWebのトラッキングのようなマーケティングまでも次世代にしちゃいますよというフレームワークのこと。フレームワークとはアプリケーションを作る際の土台になるソフトウェアのことで、つまりAdobeのPhotoshopやIllustratorといった製品にこのシステムが既に使われており、このたび「Sensei」という名前で発表されたということらしい。

ディープラーニングで肝となるのがデータの量。Adobeの強みは、莫大なデータの蓄積があること。ソフトウェアがクラウドによって提供される「クリエイティブ・クラウド」になったのが5年前のこと。以来蓄積した高解像度のデータからユーザーがクリックしたところのデータまで、凄まじい量のクリエイティブに関するデータがある。

それらのデータによって可能になるのは、例えば

・ストックフォトサービス「Adobe Stock」に写真をアップすると、写真を解析して”海””女性”のようなタグ付けを自動でしてくれる
・Photoshopでサンプル画像を読み込んだ時に、似た構図のストックフォトを探してきてくれる
・顔の構造を認識して、おでこのシワをスムージングしてくれる
・動画編集ソフト「Premiere Pro」上で動画を分析し、インタビュー映像で不要な部分(あー、とかえー、とか)を削除してくれる
・紙のドキュメントを電子化した際に正しいフォントにしてくれる

などなど。

dscf0887 こちらが「Adobe Sensei」の名付け親でPR責任者、Daniel Berthiaumb(ダン・バーシオーム)さん。「どうしてSenseiと名付けたんですか」と聞いたところ、

「アメリカで「Sensei」というと、みんなが思い浮かべるのは映画「ベスト・キッド」に出てくる師匠のミヤギさんだと思う」

とのこと。Adobeのプロジェクトの名付け方法には遊び心があって、他にもハリー・ポッターに出てくる魔法の杖の「ニンバス」という開発中のプロジェクトもあるので、「Sensei」という名前にもそこまで深い理由はないんじゃないかと思っている。

最近のAdobe社のソフトウェア開発は、「機械が出来るところは機械にやらせて、人間はクリエイティビティに専念する環境を作る」という信念に基づいている。UI/UXのソフトウェア「Adobe XD」では、多くのページがあるWebなどのデザインのために、一つのページのボタンを変更すれば全てのページのボタンも変更される、というように、人間が煩わされる手間をとにかく省く努力がされている。機械ができることは、機械がやればいい。それによって、人間がもっとクリエイティブになり、よりよい世界が作れるのだと。

もしそんな次世代のクリエイティブの世界をお手軽に試したかったら、「Adobe Spark」を使ってみてほしい。インスタやTwitterにアップするためのいい感じのロゴを載せた画像や、フォトストーリー、ビデオなどがものすごく簡単に作れるツールだ。このツールにはいい感じの、ファッショナブルなテンプレートがいくつも用意されていて、説明に従って数ステップ進むだけで、”デザイン”されたイメージを作ることができる。昔あったワードアートがものすごくおしゃれになったような感じだ。

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インスタやTwitter、YouTubeなど、それぞれのサービスにあわせたサイズでレスポンシブにイメージを書き出してくれる。

img_2170 右側にあるのがテンプレート。スタイリッシュなサイトが一瞬で完成。

wlbz3-25358 素敵なポートフォリオサイトも一瞬。

こうして、テクノロジーの進化によってデザインが誰にでも出来る環境ができると、職を失う人が出てくるのでは?という疑念がいつも沸き起こる。だが、“作業”でなく“創作”だけに専念する環境ができることは、きっと人間の可能性をより広げてくれることになるだろう。誰もがアシスタントではなく、アートディレクターになるような、そんな世界がやってくるのかもしれない。