sushi-robot_1421612i
昔むかしあるところにロボットを作るのが趣味のおじいさんがいました。
おじいさんは昔は高度成長期まっただなかのソニーの工場で働いていて、
定年退職した今は秋葉原のパーツ屋などをまわって集めた部品で
ロボットを作るのが楽しみでした。

おじいさんにはメカニックの知識がありましたが、
いまいちビジョンというものがありませんでした。
工場で働くにはビジョンなど必要なかったからです。
「ロボットは人間とどのような関係を結ぶのか」という哲学的な問いや、
美しいデザイン、機能性、アフォーダンスなどは特に考えず、
気の向くままにロボットを作っていました。

そうして初めてのロボットが出来上がりました。
それは人間サイズのすし職人型アンドロイド。
充電することで動きます。
ジャンク屋で買ったすしを握る商業用ロボットを改造したんです。
が、「耳かき機能」「うどんを打つ」「緑色に光る」
「モールス信号を出せる」「習字がかける」
「犬にしか聞こえない声が出る」
など、あまりにも無計画に多機能を詰め込んだので、
もう何に使っていいのかよくわからなくなってしまいました。

おじいさんは縁側でひなたぼっこをするとき、
このロボットをいつも隣においておきました。
ロボットはせわしなく動き、
音に反応して寿司を握るフォームを繰り返します。
ご近所さんや家族はそんなロボットを見て眉をひそめています。
それに気づいたおじいさんは、もうちょっとみんなに愛される
ロボットにしたいと、さらにいろいろな機能を付けるのですが、
おじいさんががんばればがんばるほど、
すし職人型ロボットが迷走していくのは皮肉なことでした。

そうして10年もの月日が経ちました。おじいさんはもはや
何に役立つのかわからない機能がてんこ盛りの寿司ロボットを
改造するのは諦め、庭の灯籠の横にエクステリアとして置いておきました。

ある日、家の前を隣の国の王様が通りかかりました。
王様はお寿司が大好きだったので、寿司職人型ロボットに目をつけて
「それは何だ?」と聞きました。
おじいさんは「寿司を握るロボットです。でも、何に使っていいのか
よくわかりません」と答えます。
寿司は材料が高いので、一般家庭ではそんなに使う機会もなかったのです。

王様は馬から降りて、ロボットに歩み寄り、電源を入れました。
もういつから電源が切れっぱなしだったのか、もう思い出すこともできません。
王様がロボットの頭を撫でると、ロボットは緑の光を出して喜びました。
「連れて帰っていいか」と王様が聞くと、おじいさんは「いいですよ、使ってないから」
と答えました。

お城に帰った王様は、「寿司を握ってくれ」と頼みます。
ロボットはけっこうおいしい寿司を握ってくれました。
寿司にも飽きたころ、「うどんが食べたいなあ」というと
ロボットはうどんを打ってくれました。
王様は「こんな美味しいお寿司やうどんを独り占めするのはもったいない」と
思って、寿司ロボットのお店を作ろうと思って看板を用意しました。
でも、お店の名前を看板に書くのは大変です。
すると、ロボットは達筆で看板に店名を書いてくれました。
準備につかれた王様が横になると、耳かきをして疲れを癒してくれました。
お店の宣伝をするのに、ロボットはモールス信号で全国の人に
告知のメッセージを送ったので、たくさんの無線マニアが
来てくれるようになりました。また残り物のお魚を狙う野犬が店のまわりに
集まってくるので、犬にしか聞こえない雑音を出して犬を追い払いました。

ロボットは毎日楽しく寿司を握り続けました。
王様が「きみは何にも使えないって言われてたけど、何でもできるからすごいな。
ボールをどこに向かって投げても、落下するところであらかじめグローブを
構えているようだ」とロボットに向かって言いました。
ロボットはとってもうれしくなって、ちょっと考えてから、
「いえ王様、王様が私に生きる意味を与えてくれたのです。
ロボットは誰かに呼ばれ、使われることで、初めて生まれてきた意味ができるのです。
当社比でいうと、だいたい5万倍ぐらい生きてる意味が増えました」
と答えました。

いまもこのお寿司屋さんは日本のどこかで営業しているそうです。