文化庁メディア芸術祭は、メディア芸術の創造とその発展を図ることを目的として、文化庁・国立新美術館・CG-ARTS協会が主催する芸術祭だ。

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で世界中から作品を募り、優れた作品に文化庁メディア芸術祭賞を贈賞するとともに、これらを広く紹介するために国内での巡回展や企画展、海外での展覧会まで幅広く行われる。

今年の応募総数は2645作品。そのうち海外からの応募は694作品にのぼり、実に48カ国からの応募となった。メディア芸術祭の国際的な注目度も年々増している証拠だろう。

1997年から始まったメディア芸術祭。
14回目の今年も、受賞作品が発表され、いよいよ来月から国立新美術館にて受賞作品展が開催される。
受賞作品展では、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門に応募があった2,645作品から選ばれた受賞作品と審査委員会推薦作品約170 点を展示される。
ここでは、各部門の受賞作品や注目作品の紹介も交え、おおまかに作品展の概要を紹介したい。


アート部門

アート部門は作品の約4 割が海外からの応募であり、受賞者も海外のアーティストが多い部門。今回は「音と動きの関係性」や「社会的プロジェクトとしての作品」、「既存メディアを活用した表現」などをテーマにした作品が選考された。

大賞「Cycloïd-E」

© Cod.Act

作者:Michel DÉCOSTERD / André DÉCOSTERD (Cod.Act)(スイス)

「Cycloïd-E」は、水平方向に連結した5本の筒をモーターによって回転させながら、先端のスピーカーから回転運動に応じた音を発するサウンドスカルプチャー。
それぞれの筒の描く軌跡は正確だが、全体としての動きは全く予測不可能。
機械じみているのに、どこか哀愁も感じる複合的な音を奏でる。
以下は、以前CBCNETでも紹介した、アルス・エレクトロニカでの展示にて。


優秀賞「The EyeWriter」 

© Tempt1, Evan Roth, Chris SUGRUE, Zach Lieberman,Theo Watson and James Powderly

http://www.eyewriter.org/
Zach LIEBERMAN / Evan ROTH /James POWDERLY / Theo WATSON /
Chris SUGRU / Tony TEMPT1(アメリカ)


ALS(筋萎縮性側索硬化症)で体が麻痺したグラフィティライター、TEMPT1が「再び絵を描けるように」という願いをきっかけに、F.A.T.(フリー・アートアンドテクノロジー)、G.R.L.(グラフィティ・リサーチラボ)、エベリン・グループ・コミッティがコラボレーションして制作された作品。
眼球の動きだけでモニター上や、屋外のビル壁面にグラフィティが描けるアイ・トラッキング・システムだ。
デバイスとソフトウェアは安価でつくることができ、G.R.L.の絡んでいる今作ももちろんオープンソースなため、誰にでも利用することが可能な点も選考基準にあげられている。

参考記事:
目の動きで絵を描く『EyeWriter』
http://www.cbc-net.com/topic/2010/10/eyewriter-kickstarter/



優秀賞 「10番目の感傷(点・線・面)」

© クワクボ リョウタ

またICCでの素晴らしい展示で話題となっている、クワクボリョウタ氏の『10番目の感傷(点・線・面)』も優秀賞を受賞。こちらもどんな展示となるのか楽しみにしたい。


エンターテインメント部門

近年のテクノロジーの進化や社会環境の変化は多くの作品に影響を与えている。
ジャンルの枠組みを乗り越え、おもしろさだけに留まることのない魅力と可能性を持った作品たちが顔を並べた。

大賞「IS Parade」

© KDDI株式会社

http://isparade.jp/
作者:林 智彦/千房 けん輔/小山 智彦(日本)


TwitterのIDを登録するとフォロワーがキャラクターになって行進を始めるジェネレーター。auスマートフォンのプロモーションとして2010年4月30日に公開され、11月15日までに1350万回のパレードを行った。Twitter共同創業者のビズ・ストーンなど、国内外の著名人にもツイートされ、世界中で大行進が勃発した。
Twitterを利用したプロモーションも今日では数えきれないほど存在するが、それらへ与えた影響なども考慮され、見事大賞を受賞。

優秀賞「アルクアラウンド/サカナクション」

© ビクターエンタテインメント株式会社 / 株式会社ヒップランドミュージック

http://sakanaction.jp/main.html(サカナクションWEBサイト)
作者:関 和亮(日本)


サカナクションヴォーカルの山口が歩く姿を追いかける、おそらく一本撮りと思われる映像。歩く移動の速度とオブジェとしての詞の出現のタイミングが気持ち良い程に絶妙に、画面内に現れては消えて行く。アナログ感あふれる手法で詞を空間的に見せることで、一瞬ごとに、分解と再構築を繰り返しながら自己を探求する歌の世界が表現されている。



アニメーション部門

個人制作の短編アニメーションから、劇場公開アニメーション、テレビシリーズの長編アニメーションにいたるまで、多様なジャンルのハイレベルなアニメーション作品がひしめき合う部門となった。
作品展では絵コンテや設定資料など、制作過程を知ることができる貴重な資料も展示される予定だ。

大賞「四畳半神話体系」


http://yojouhan.noitamina.tv/broadcast.html
作者:湯浅 政明(日本)


マインド・ゲームの湯浅政明監督の驚異の映像マジック、上田誠の構成・脚本、話題のクリエイター布陣で送る、不可思議世界を巡る不毛と愚行の青春奇譚。
テレビ作品は商業的な制約が課せられることも多い中で、本作は、週に1話という放映サイクルを逆手にとり、反復描写を導入。さらに独特のシーンレイアウトやアクション、色彩によって物語にマッチした解放感、自由さを獲得し、幅広い観客層を引き込んだ。



マンガ部門

作品展では作者直筆の精緻な原画を展示するほか、作品を読むことのできる閲覧コーナーも設置される。

大賞「ヒストリエ」

作者:岩明 均(日本)
「寄生獣」で世を震撼させた岩明均が、マンガ家デビュー以前から温めていたという、紀元前を舞台に繰り広げられるエウメネスの波乱に満ちた生涯を描く歴史大作。 日本人にはなじみの薄い古代オリエントという時代背景は、作品中の細かなエピソードに絡めてさりげなく説明されており、大変読みやすい。
「寄生獣」の緊張感も受け継がれた大作だ。






紹介しきれなかったそのほかの魅力ある作品たちはこちらから。
作品展会場では、映像作品の上映や、マンガ作品の閲覧、更にはシンポジウムの開催など魅力的な展示がたくさん用意されている。
また、昨年から行われている作家たちによるプレゼンテーションが今年も行われる。会場内に「ソーシャル・メディア・ラウンジ」を設置し、各部門の受賞者や海外フェスティバルのディレクターたちによるプレゼンテーション、メディア芸術祭の国内・海外での展開や活動についてのレポートなどを連日発表する予定だ。プレゼンテーションの様子はUSTREAM で配信される。


会期中、休日は混雑が予想されるので、平日の早い時間がオススメだ。
会期は2月2日〜23日となっている。

Information

平成22 年度 第14 回文化庁メディア芸術祭
http://plaza.bunka.go.jp/

会期:2011 年2 月2 日(水)~ 2 月13 日(日)
   10:00 ~ 18:00 金曜は20:00 (入館は閉館の30 分前)
   ※ 8 日( 火) 休館
会場:国立新美術館(東京・六本木) 
   ※サテライト会場:東京ミッドタウン
料金:無料


主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会(文化庁・国立新美術館・CG-ARTS協会)