6月24日(金)に、恵比寿amuにて行われたQuestion A vol.3 「雑誌『アイデア』の編集長に聞く、グラフィック・デザインの現状」の、トークの内容を当日の流れに沿って写真と共にレポートしたい。

恵比寿amuは恵比寿駅から歩いて3分ほど。アクセスも良く、バーカウンターも併設されており、今後も様々なイベントに活用されそうなスペースだ。

Question Aは、クリエイティブジャーナルマガジン「QUOTATION」の蜂賀氏がファシリテーターとして、毎回クリエイティブに携わる人物を招いてトークセッションを展開するマンスリーイベントだ。
第3回目のゲストは雑誌「アイデア」の編集長である室賀氏。
共にグラフィックデザインを主軸としたメディアを扱い、情報の最前線にいる二人からは貴重な「グラフィックデザインの現状」を聞くことができた。

「QUOTATION」の編集長である蜂賀亨氏

トークは、雑誌「アイデア」を創刊するに至った経緯・室賀氏がグラフィックデザインに携わることになったきっかけなどからスタートした。

アイデアの創刊は95年。
当時はコンピューターのDTPが誰にでも出来るようになりつつある時代だったという。
自分でフリーペーパーを作ったり、「Macintoshを買えば誰でもカッコいいグラフィックが作れる」といった興奮が漂っていた。
そういった世の中のブームに、室賀氏もたまたま飲み込まれていったそうだ。
その頃から編集・デザインに興味を持ち、徐々にデザイナーのところへ遊びに行くようになったり、仕事をするようになったという。

「アイデア」編集長である室賀清徳

「グラフィックデザインとは何か」というテーマに関する室賀氏の捉え方

当時は「デザインとはこれだ!」論といった定義付けを、色んな人がそれぞれ主張していた。
自意識と作家性が混ざったところの話をしてる人が多く、室賀氏はそれらに違和感を覚えたという。
昔はデザイナーという職業の認識が曖昧で、作家にならずに中途半端にデザイナーになったという見られ方も少なからずあり、作家性を語ることは自己尊重の一つだったのかもしれない。

室賀氏はグラフィックデザインは20世紀に確立された一つのシステム・明確な技術であると語る。
また「デザインとはなにか」というテーマを考える際、その「デザイン」が実際にはどのような行為をさしているのか、またその場となるメディアはどのようなものかという点は必ず考えてしまうそうだ。
この辺りは室賀氏が雑誌の編集者である点とも深く結びついているのだろうか。

グラフィックデザインの魅力


グラフィックが面白い理由として、「紙が好き」とか「本が好き」っていう単純な理由ももちろんあるとは思うが、
僕としては編集行為とは切り離せないところがある、と語る室賀氏。
単純に図形を作ったりするだけでなく、平面の中で色んな意味や演出をプロデュースしていく点にもグラフィックデザインの魅力は存在するようだ。

また、話の中でタイポグラフィーの面白さについても触れている。
タイポグラフィーや文字というものは、現代のような意味でのデザイナーという職能が生まれるずっと昔から存在しており、その流れは現在にもダイレクトに繋がっている。
またこれまで積み重ねられた歴史に、自分たちの行う作業がリアルタイムにその歴史に上乗せされていくという点。
そういった一つの「ネットワーク」として捉えることで魅力は更に増すという。
今活躍する流行のデザイナーなども、実は大昔のデザイナーなどに影響を受けていたりする、といった連鎖的な繋がりの面白さはデザインにも共通して言えることだ。

蜂賀氏・室賀氏と共に雑誌の編集者でもあるためか、非常に客観的な視点から見た冷静なトークが繰り広げられていた印象だ。

室賀氏が影響を受けたデザイン


盛り上がっていたと感じる時代は、より大きく捉えれば20世紀、個人的な興味としては60年代と語る室賀氏。
テレビなどがどっと普及し、マスメディアというものが形作られたと同時に、視覚情報はどういったものであるべきか、という問いも生まれた時代だ。

杉浦康平氏や横尾忠則氏などには影響を受けているという。
ここで杉浦氏の情報を観客にも簡単に紹介するため、プロジェクションされている画面で軽く検索をかけたのだが、この辺りから次第にグラフィックデザインを取り巻く歴史(〜現在)へと話は移っていく。

80〜90年代にかけて特に注目していた人物は

徐々に年表を追って行くかたちで進められたトーク。
蜂賀氏も90年代に影響を受けた人物は多くいるらしく、ここで室賀氏へ上記のような質問が。

室賀氏は特に誰、という特定の人物はいないらしいが、同世代の若者の作る作品には興奮していたという。(ペッパーショップ、Nendo Graphixxxなど)
彼らは世代的にも日本のポップカルチャー、テレビ、マンガを自分たちのデザインのフィルタを通すことで新たな表現を排出した。

当時はあまり海外にまで目を向けてはいなかったらしく、むしろ海外に目が向くようになったのは「アイデア」をはじめてからだという。
tomatoデザイナーズリパブリックなどのロンドンのグラフィック勢は、全体的にカッコいい、というトータルな印象でしか捉えてなかったそうだ。
その後、ヨーロッパとイギリスをめぐるデザイン史の展開を調べる中で、あらためて興味を持った。

また話は少しそれるが、海外では「このデザインは良い・悪い」という議論は頻繁に発生するが、日本ではそれがあまりないという話を蜂賀氏が語っていた。
これに対してトークの中で「議論が起きるのは、前提として共有している知識があるためではないか」という結論に至ったのは興味深い点だ。

〜現代のグラフィックデザイン


戦前から時代を追って、2000年代にまで到達する。
90年代はパッと見のカッコ良さ、斬新さといった勢いのあるグラフィックがたくさん生まれたという話から、現在のグラフィックデザインの話へと入っていく。

2000年以降は、シンプルな情報の伝達性を優先して、パッと見てカッコいいってものがなくなった、ワクワクが減った気がすると蜂賀氏。
そんな10年間の中でアイデアを発行してきてどうかという質問が室賀氏に投げられる。

今までだったら情報の格差、流れが成立してたが、ネットの発達によって情報がフラットになったと室賀氏。
だが情報がフラットになった故に、現代のデザイナーたちも「デザイン的な歴史の流れを随所で汲み取っている」という印象を同時に受けているところだという。

グラフィックデザインの役割とは 「グラフィックデザイン1.0」


予定の時間まで近づきつつある中、最後に蜂賀氏から「現代のグラフィックデザインの役割は?」というまとめ的な質問が。

室賀氏は冒頭の「グラフィックデザインとは何か」という問いに対して「一つのシステム・技術じゃないか」と返答しているが、そのシステムが今既に完成しつつあるという。
誰が使用してもある程度機能するソフトウェアもいくつも登場し、技法としてのデザインの開発期間は終わりに差し掛かっているのだ。
今の状況で言えば、ustreamの登場でこれまでは多くの機材を持ち込まなければ不可能だったライブ放送もハンディになり、価値の比重も大きく変わった。それと同じようなことが80年代後半から90年代にかけて、グラフィックデザインにも起きた。

また、「文脈のあるデザイン」という言葉も出てきた。
ネットの発展で世界各地との繋がりも容易になったが、もの凄くローカルなものの価値はこれにより増したし、逆にこの優位を生かしたもの凄くグローバルなものもまた価値がある。
同時にこれは、序盤で語られた、これまでの歴史を意識したデザインに対する姿勢でもあるのかもしれない。

Question Aはマンスリーイベントなので、来月はまた新たなゲストを招いて開催される。
是非実際に足を運んで耳を傾けてもらいたい。

Information

Question A vol.3 「雑誌『アイデア』の編集長に聞く、グラフィック・デザインの現状」
http://www.a-m-u.jp/event/2011/06/question-a-vol03.html

日時:2011年6月24日(金)
   19:30〜21:30(開場19:00)
場所:amu(東京都渋谷区恵比寿西1-17-2

Profile

【ゲスト】
室賀清徳(Kiyonori Muroga)/アイデア編集長
1975年新潟県生まれ。1999年より(株)誠文堂新光社で『アイデア』をはじめ、デザイン、タイポグラフィ関連書を中心に編集する。

【聞き手】
蜂賀亨(Toru Hachiga)/Quotation編集長
http://www.hachiga.com/
ピエブックスを経て、クリエイターマガジン「+81」を創刊し11 号まで編集長を務める。その後「GAS プロジェクト」のクリエイティブディレクター、エディトリアルディレクターとして、書籍シリーズ、DVD、GAS SHOP のディレクション、展覧会の企画等を担当。現在は、世界のクリエイティブジャーナル誌「QUOTATION」(BNN 新社 刊)編集長を担当するなど、クリエイティブをテーマにさまざまな分野で、企画/プロデュース、執筆、デザイン、ディレクションなどで活躍中。