『会場はIAMASマルチメディア工房。約50名の観客が集まった。
「メディアアートにおける“音楽”」をテーマに作品を公募し、佐々木敦、椹木野衣、畠中実という3名の批評家・キューレーターが選考し、選ばれた3作品を全3回の講演に分けて公開ディスカッションを行う「フォルマント兄弟のプレゼンテーション道場(CBCNET内記事)」。
第一回の「畠中実セレクション」が11月28日に行われ、水本賢興と彼の作品『Potential of a computer as an instrument』を交えた公開ディスカッションが行われた。
当日の様子の分かるレポートをお届けしよう。
『フォルマント兄弟のプレゼンテーション道場 vol.1畠中セレクション』レポート
「フォルマント兄弟のプレゼンテーション道場」とは、合成した人工音声を駆使した作品で知られるフォルマント兄弟(三輪眞弘+佐近田展康)がナビゲーターを務める公募イベントだ。「メディアアートにおける“音楽”」をテーマに応募された作品企画から、3名の選考委員がそれぞれ1作品ずつを選出した。このイベントは12月18日まで3回に渡って岐阜県大垣市のIAMAS(情報科学芸術大学院大学+岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)にて開催される。
第一回目となる11月28日は、NTTインターコミュニケーションセンター主任学芸員の畠中実さんを迎え、入選した水本賢興さんが『Potential of a computer as an instrument』を上演した。
まず、上演にさきがけて、フォルマント兄弟と畠中さんが公募テーマとなる「メディアアートにおける“音楽”」を中心にトークを行った。
右からフォルマント兄弟三輪さん(兄)、畠中さん、佐近田さん(弟)
入選した水本さんの作品『Potential of a computer as an instrument』は、分解したコンピュータから直接電流を取り出し、コードの抜きさしで演奏するというもの。どこをどうしたらどんな音になるのか、事前に調べてスコア(楽譜)を制作してあり、それを元に演奏している。会場には、壁や床がビリビリ震える爆音が響き渡る。
むき出しになった基盤の上でコードを操作する
爆音とともに、出力される映像にもノイズが走る
上演のあとは、水本さん、畠中さん、フォルマント兄弟に加え、アドバイザーの吉岡洋さん(京都大学教授)を交えて作品講評とトークが行われた。
自作の説明をする水本さん
コンピュータの基盤をむき出しにして壊れるギリギリのところで演奏する行為、即興でなくスコアがあるということ、音響の美しさとは何か、演奏する音の必然性、爆音を使うことの意味、Max/MSPやSuperColliderなどのソフトウェアを使うこと、これまで発表された「コンピュータを使った音楽作品」との類似点と相違点、といったさまざまな問題についてトークが繰り広げられた。
水本さんには、表彰状とフォルマント兄弟特製のTシャツと「おめでとう」メッセージが贈られた
次回は12月11日(土)、選考委員佐々木敦さんを迎えて、松本祐一さんの「twitter音楽」を上演する。
Photo: Tsukamoto Mina
Text: Kobayashi Keiko
Information
『フォルマント兄弟のプレゼンテーション道場』http://www.iamas.ac.jp/mam/
プレゼンテーション道場 畠中実セレクション
水本賢興 『Potential of a computer as an instrument』
2010年11月28日(日)
開場:14:40
開演:15:00
出演:水本賢興、畠中実、フォルマント兄弟
水本賢興
http://kenko.web6.jp/
1986年生まれ。2006 年コンピュータの改造を用いた作品制作を始める。2007年より友人と[b] Laptop Orchestra(http://bbbbbbb.org/)を結成し、サウンドパフォーマンスを行う。2010年現在IAMAS(情報科学芸術大学院大学)に在学中。
畠中実
1968年生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]主任学芸員。1996年の開館準備よりICCに携わって14年、展覧会のほか上映、コンサートなど企画多数。主な企画展は『サウンド・アート』(2000年)、『サウンディング・スペース』(2003年)、『サイレント・ダイアローグ』(2007年)、『可能世界空間論』(2010年)など。10月末より入魂の企画展『みえないちから』が開催中。
フォルマント兄弟
http://formantbros.jp/j/top/top.html
フォルマント兄弟 (Formant Brothers)」は、三輪眞弘(兄)と佐近田展康(弟)という父親違いの異母兄弟によって2000年に結成された作曲・思索のユニット。テクノロジーと芸術の今日的問題を《声》を機軸にしながら哲学的、美学的、音楽的、技術的に探求し、21世紀の《歌》を機械に歌わせることを目指す。
また作品と一体となったテクノロジー論/芸術論の言説でも注目を集め、東京藝術大学、ロンドン・グリニッジ大学、東京大学などで講演発表・シンポジウム等を行う。