世界最大のデジタルアートとメディアカルチャーの祭典「アルスエレクトロニカフェスティバル2011」が閉幕。A4Aではフェスティバルのレポートをシリーズでお送りする。第一回はフェスティバルの模様を、第二回はフェスティバルの共同プロデュースをつとめたCERNについて、第三回はメディアアートのトレンドの指標となるアルスエレクトロニカアワードにフォーカスしていく。



Text by Akiko Saito (A4A.inc)
Photo from アルスエレクトロニカ、小山田幸子




2011年のフェスティバルは、1979年からの歴史上二番目に多い83,976人の来場を記録した。メディアアートが商業広告のモチーフとして使われ、メディアで取り上げられることも日常となっているなか、フェスティバルはコラボレーションの枠をさらに広げ、テクノロジーファン意外にも楽しんでもらえるイベントになることに成功したのだ。

昨年のフェスティバルは廃タバコ工場で行われたが、今年はアルスエレクトロニカセンターでの作品展示、ブルックナーハウスでのシンポジウム、リンツ大学での筑波大学キャンパス展、OKセンター現代美術館での受賞作品展をメイン会場に、近隣の教会をサテライト会場とするなど市内の複数の施設を利用した。参加者は分厚いフェスティバルのパンフレットを片手に、こじんまりとしたリンツの街を散策しながらお目当てのプログラムを訪れることになる。

参加したアーティストは34カ国から集まった278人、運営に関わるスタッフは837人。期間中に行われたイベントの数は300を超えるだけに、事前の情報収集とスケジューリングがフェスティバルの楽しみ方を分ける。鑑賞者もリテラシーの高さを問われる祭典でもある。







Photo by rubra

フェスティバルで大きな話題となっていたのが、ロボット研究の第一人者・石黒浩氏と劇作家・平田オリザ氏よるアンドロイド演劇「サヨナラ」の上演。石造りの教会の狭い螺旋階段を登りつめると、狭い礼拝堂にステージが用意されている。その上には二人の少女が。抑えられた照明の下では、一見どちらが人間かわからない。日本の短歌や詩を詠み続けるアンドロイドと人間の少女のやりとりが印象的だった。




ART+COMの講演も、開場待ちに行列が出来る人気ぶり。ART+COM会長でありデザイン部署のヘッドであるJoachim Sauterによる、彼らの活動を収めた書籍「ART+COM: Media Spaces and Installations」の紹介だ。20年間にわたり、メディアコミュニケーションの領域で驚くべき功績を収めてきた彼らの活動が紹介された。セットデザインを手がけた演劇「THE JEW OF MALTA」(2002年)ではステージ上にバーチャルセットを構築し、演者にプロジェクションすることで衣装デザインも手がけた。他にも塩の塊をインフォテーブルのトリガーに使った「SALT」、日本の大崎にあるというインタラクティブに水面を表現するLEDパネル「DUAITY」の紹介も行った。

「Metachaos」



2011年9月4日の夜に行われたコンサート「Große Konzertnacht」はフェスティバルのハイライトの一つ。コンサートホール「ブルックナーハウス」にて、地元の名門オーケストラ「ブルックナーオーケストラ」とメディアアーティストたちのコラボレーションが行われた。歴史ある管弦楽団と、最新のテクノロジーを使ったビジュアリゼーションが融合する試みだ。今年のアルスエレクトロニカアワードのコンピューターアニメーション/フィルム/VFX部門にてゴールデンニカ(グランプリ)を受賞した「Metachaos」とオーケストラの共演や、真鍋大度・比嘉了・石橋素による、CERNのデータとオーケストラの演奏者のモーションをセンシングしたビジュアリゼーション・パフォーマンスが話題を呼んだ。真鍋氏らのパフォーマンスは、指揮者に心拍センサーと筋電センサーを付け、kinectで指揮者の腕の動きを解析し、CERNのデータをリアルタイムで取得して描画するというもの。CERNのデータをビジュアライズしたのはCERN史上初の試みで、その仕上がりにはCERNも感激していた。


アルスエレクトロニカセンター

メイン会場の中でも総本山であるアルスエレクトロニカセンター。昼間はメディアアート作品の展示とテクノロジーにまつわるカンファレンスを開催し、夜間は野外の特設ステージにてアーティストによるライブセッション「NIGHTLINE」の会場となる。


オーストリアのアーティストHerbert Gnauerらによる、全身で演奏するテルミン「The Art of Body Mass – Dancing the Theremin」。舞踏家とのコラボレーション・パフォーマンスが行われた。



センター内には参加して楽しめる仕掛けがたくさん用意されている。フューチャーラボの作品「Shadowgram」は、その場で撮影したシルエットをステッカーにして会場内に貼りつけ、吹出しにメッセージを書くことができる。テクノロジーをエンターテインメントにデザインする力はさすがである。

Photo by rubra

オーストリアのアーティスト、Winfried Ritsch,、Peter Ablingerによる「Deus Cantando」。最初はランダムに聞こえるピアノの音が、次第にスクリーンに写される字幕の言葉を話しているように聞こえる衝撃の作品。全ての鍵盤に秒速16回という速さで打ち込める88個の機械の指を付け、midiで変換した人間の声をピアノの音で再現しているのである。機械が喋る内容が、2009年の国際環境宣言での環境保護に関するスピーチというのも皮肉で面白い。

Photo by rubra

Photo by Charlie Bucket

センター内の常設展も見逃せない。フューチャーラボの小川氏キュレーションによる常設展「ROBOTINITY」では、クワクボリョウタ氏の「シリフリン」や石黒浩氏の「Telenoid」、産総研が開発した癒し系ロボット「メンタルコミットロボット パロ」、Charlie Bucketによる180メートルのプラスチックチューブで出来た「Fluid Dress」などを展示。ロボットが人間の生活にどうコミットできるのかを考えさせられる。

Photo by Robertba

Photo by 2011 paulsobota.com

「NIGHTLINE」のハイライトはテスラオーケストラによるパフォーマンス。テスラコイルの郷愁的なサウンドとサーカスの猛獣使いのように稲妻を操るパフォーマンスを繰り広げた。


オフビートなフェスティバル「u19 Create Your World」




Photo by rubra

たった5分でおいしいピザが焼ける「polymobil」。これも作品!

センターでは、今年初の試みとして、19歳以下を対象とするイベント「u19 Create Your World」を行なった。センター脇のスペースにテントやトレーラーハウスを設置し、バイオアートなどのアーティストが展示とワークショップを行う、野外フェスティバルのような試みだ。



Photo by rubra

Photo by rubra

なかでもユニークだったのは、地元の子供たちが自分の趣味をプレゼンテーションする「Marktplatz der Talente」。カンカン照りの週末の昼間、橋の上にずらりと長机が並べられ、子供たちが思い思いのサブジェクトのプロフェッショナルとして座っている。観客は彼らの発表を見て、自由に彼らと話すことができる。「ブレイクダンス」や「アメリカンフットボール」、「デジタルアート」というメジャーな趣味から「ショーペンハウアー」、「ペスト」などマニアックな趣味まで様々。話してみるとあまり知識はなかったりするのだが、「ナルト」や「伝説の勇者の伝説」など、日本製のアニメやマンガを支持してくれる子供たちが多く、うれしくなった。


ブルックナーハウス

センターと対岸にあるコンサートホール。ここは授賞式などの祭典や学生による展示会場となった。



GearBox video from Ulrich Brandstätter on Vimeo.


オーストリアの学生、Ulrich BrandstätterとOliver Buchtalaによる「GEARBOX」。processingとjavaで創り上げた、歯車をインターフェイスとしたサウンドツールである。歯車それぞれに音色をあてはめ、歯車の数が拍子を、大きさがテンポをつかさどり、それぞれを組み合わせることでサウンドを生成する。楽器が演奏できない人でも複雑な音楽を作ることができる。ぜひ菅野創氏のJamming Gear(http://www.youtube.com/watch?v=Uu9Fe81iAL0)とコラボレーションしてほしい(笑)。





Photo by rubra

オーストリア大学の学生による、光の粒子性と波動性の証明をする実験の展示「Demonstrationsexperimente Quantenphysik」。古典的な問いをシンプルにデザインして見せているのが良い。

Credit: Fabrizio Lamoncha, Ioan Ovidiu Cernei, Maša Jazbec

Fabrizio Lamoncha, Ioan Ovidiu Cernei, Maša Jazbecらによる「Huis Clos」。小屋をノックするとノックが帰ってくる。とてもシンプルに、インタラクティブとは何か、人間の自由意思とは何かを問いかける。


OKセンター

受賞作の展示と上映を行ったのがOKセンター現代美術館。街の中心部にほど近い、現代アートを扱う美術館である。受賞作の展示とともに、OKセンターがキュレーションするクオリティの高い現代美術作品が見られるのもうれしい。



この期間、OKセンターで行われていたエキシビジョンは「HÖHENRAUSCH.2(空の橋)」。最大のハイライトは日本のATELIER BOW-WOWによる、OKセンターとリンツの教会を結ぶ木の橋を架けてしまうプロジェクト。まるで空の上を歩いているような素晴らしい体験だった。他にもクオリティの高い現代美術作品がセンターの内外に展示されていた。

stefan banz – dive 2 (placidity and temper)
美術館の一室が水で満たされており、鑑賞者が自由に水の中に入れるインスタレーション。

THE FORTY PART MOTET
カナダ出身のアートユニットJANET CARDIFF & GEORGE BURES MILLERによる作品「The Forty Part Motet」。別々に録音した40人の歌声を40台のスピーカーで再現することにより、合唱団に包み込まれているような体験が生まれる。


オフサイト展示

これらのメイン会場の他にも様々な会場で作品展示が行われた。

Photo by A. Kolb

Photo by A. Kolb

Photo by A. Kolb

Photo by rubra

「Neuland」
オーストリアの劇団「Neuland」による野外パフォーマンスがリンツ郊外にて行われた。会場はリンツの中心地からバスで30分の森の中。セットは森の中ながらライティングも本格的。観客はミステリアスな世界観に入り込み、非日常感を味わった。


その他のおたのしみ

街全体がフェスティバルの熱気に包まれるこの季節。リンツでの催しもフェスティバルの楽しみの一つだ。

Photo by A. Kolb

Photo by A. Kolb

Photo by A. Kolb




ドナウ川のほとりで、大規模な花火大会が開催される。川の両岸から打ち上げる大スペクタクルである。設置された巨大スピーカーからオペラが響き渡り、無人の点火マシーンから回転し跳ね回る花火とコラボレーションする。サルティンバンコのようなど派手な演出に圧倒される。上流から花火が流れてくるわ、停泊している船が爆薬で燃え上がるわ、極めつけは花火で燃えるプロペラ機が上空を飛び回る。エンターテインメントとは何かを考えさせられるくらい圧倒的な体験だった。





夜には市街地でワイン祭りが行われていた。1キロメートルくらいにわたり、ワインの屋台が軒を連ねる。参加者は入り口で一個2ユーロのワイングラスを買い、各露天でワインを購入して飲むのである。写真はこの時期しか飲めない「シュトルム」というお酒。”嵐”という名を持つこのお酒は、発酵途中のワインのこと。ワインを仕込む9月〜10月にしか出まわらない貴重なお酒である。まるでリンゴジュースのような甘い飲み口とは裏腹に高いアルコール度数を誇り、油断すると意識があぶない。ぜひ現地を訪れたら試していただきたい!

Photo by rubra

最後に、メディアアートとはちょっとテーマが違う社会的なテーマを扱うシンポジウムを紹介したい。フェスティバルでは様々なジャンルの講演が開催されるのだが、なかでも面白かったのがブルックナーハウスで行われたシンポジウム「public square squared」。YoutubeやFacebookなど、デジタルコミュニケーションツールを使った社会革命についてのシンポジウムだ。壇上にはチュニジア、エジプト、シリア、スペインからのパネリストが並び、それぞれの国で市民たちがいかに革命をなしとげたかを講演した。

これらの国において、市民は長い間失業率や圧政に苦しんでいる。そもそも革命を成し遂げるためには、市民の一斉蜂起が必須だ。10人では牢屋に入れられてしまうが、100万人を収容することはできないからだ。だがメディアも国が運営しているため、これまでは抗議の声をあげることが難しかった。そこで登場したのがデジタルツールである。市民たちは携帯電話で連絡を取り合い、撮影した動画をYouTubeで共有し、FacebookやTwitterで声をかけあって広場に集まり、大きな抗議の声をあげた。これが世界で報道され、革命となったのである。

チュニジアにおける20代の若者はおよそ80%が自宅でインターネットを使用しており、女性においてはそのうちの60%がFacebookを使っている。デジタルツールのリテラシーが高い彼らは、一人ひとりが新時代のジャーナリストであり活動家なのである。もちろんデジタルツールの使用にはリスクもあり、シリアのプロテストソングを歌っていた歌手は政府に処刑されてしまった。そのため、YouTubeにアップする動画の顔部分にモザイクをかけるAndroidアプリを作るなどの対策を市民たちも行っているという。日本ではなかなか聞けない話を聞くことができたのはエキサイティングだった。

このように、ただのギークなフェスティバルにとどまらず、参加者の知見を広げてくれるのがアルスエレクトロニカの素晴らしいところである。そしてこれほど複雑なキュレーションを成し遂げる開催側に尊敬を抱いてやまない。




A4A.incとは

A4Aは、新しいクリエイティブのあり方を提案する会社。WEB、インスタレーションの技術や映像のクオリティ、マネジメント、プロダクション機能を活かし、グローバルを視野にいれたメディアアーティスト/デジタルアーティストへの貢献とクライアントワークへのサポート・受注・プランニングを行います。イベントやワークショップの開催、国内外のエキシビションへの参加サポート、アーティスト同士のコミュニケーション、コラボレーションを積極的に行い、そこで生まれるものを商品化するなど、アーティストが、広告とアート活動とのバランスに悩むことなく表現活動を行うことができる環境をアーティストと作りあげていきます。


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