東京で、渋谷慶一郎の名前を聞かない日はない。2000年代前半からエクスペリメンタル・ミュージックのアーティストとして活躍するとともに、「filmachine」(YCAM)、「for maria anechoic room version」(ICC)などのサウンド・インスタレーションを手がけるアーティストとしても国際的な評価を得ているのは周知のとおり。

さらに彼の活動は幅広く、養命酒のCMやSPECのサウンドトラックなどのコマーシャル・ワーク、批評家の東浩紀と初音ミクを使ったボーカロイド曲「イニシエーション」の制作、さらにはDommuneでのトーク番組「王様と割礼」でホストとして過激なトークを披露。3月には自らが主宰するレーベル「ATAK」で電子音響作家、刀根康尚の新作「ATAK016 MUSICA SIMULACRA」をリリースするなど、そのすべての活動を把握するのは至難の業。幅広すぎるレンジでの精力的な活動は、ボーダーレスなファンを生み出している。

その渋谷氏が、CBCNETが贈るオールナイトパーティー「APMT NIGHT」に出演決定!ATAKの盟友、evala氏とコラボレーションした完全フロア対応の「ATAK Dance Hall set」での登場となる。CBCNETではギャラリーここでの展示「MASSIVE LIFE FLOW」(MLF)を終えたばかりの渋谷氏にskypeインタビューを敢行。写真家・新津保建秀による美麗写真と共にお楽しみいただきたい。

Text by Akiko Saito

インスタレーションの自由度を使い尽くす。MASSIVE LIFE FLOW


“MASSIVE LIFE FLOW” 渋谷慶一郎 「音楽の公開制作」:東京・恵比寿の「ギャラリーここ」にて開催されたエキシビジョン。ギャラリーに渋谷氏が使用するグランドピアノ、コンピュータ、スピーカー、キーボードなどを持ち込み、建築家・重松象平が空間的に再構成する。渋谷氏はその場所で作曲、演奏、リハーサル、ミーティングなどの音楽制作・生活を行い、それらの過程をUstreamで全て公開した。
http://www.gallery-koko.com/


CBCNET:それではまず、昨日、公開制作が終了したMLFについてお聞かせください。

渋谷:終了した後の最初の仕事がこのインタビューです(笑)。

CBCNET:10日間ギャラリーに滞在し、作品の公開制作を行っていたわけですが、いかがでしたか?

渋谷:まず大学を出てから、10日間連続で定時に同じ場所に通うということ自体がなかったから新鮮でした(笑)。僕はずっと自宅兼なんですね、仕事場が。で、今年になってからスタジオ作ろうかなと思っていたんだけど、これで完全に作る決心がついた。今回の公開制作の場合は、インスタレーションでもあるんだけど、機材の配置は僕が理想的と思うようになっているので、結果的にあれと同じような場所を作ることになると思う。

CBCNET:全てが手に届く所にあるという、アトリエとして完璧な空間でしたね。要塞的というか。来客スペースでの公開インタビューも刺激的でした。

渋谷:あんなに広いお客さん用のスペースは作れないと思うけど(笑)。コンピュータがあって、その反対側にピアノがあって、アーロンチェアで行き来出来るというのはすごく快適なんだよね。


CBCNET:あの配置をされたのは渋谷さんですか?重松さんですか?

渋谷:機材や楽器、スピーカーの配置は僕です。じゃないと公開制作って言ってもウソになっちゃうから。だからインスタレーションなんだけど現実も混ざっているという。

CBCNET:現代美術と現代音楽と建築やファッションが融合している希有な体験でした。すごく面白かったですね。

渋谷:面白いことは大事でしょ。インスタレーションでも。っていうか”インスタレーション”だとつまらなくても許されるのはまずいなあと思っていてさ(笑)。インスタレーションというジャンルは自由度が高いから、一番面白くないともったいないくらいなのに。言語ゲームとして面白いわけでもなければ、美術としてもイマイチみたいなのが多過ぎて。それが総体として、何だか分らないジャンルみたいになっていくのはもったいないなと思うんだよね。

CBCNET:美術ファン以外からは、敬遠されるジャンルになってしまっている。

渋谷:でも僕の印象としては今がスレスレの時期で。いわゆるテクノロジー至上主義のものは、ギークの中では死ぬまで盛り上がれるかもしれないけど、僕はそれだけっていうのは興味ないからな。

CBCNET:過渡期ですね。

渋谷:ですね。僕はギークじゃないんで実際の空気は読めないんだけど、そこを基準にはできないでしょ。で、そう考えると、「インスタレーションって面白くないよねー」っていう場所にするのはもったいないと思うのね。ただでさえCDが売れないとか、音楽も美術も儲からないとか、暗い話が流布しやすい世の中なので(笑)。新しくて可能性があるジャンルを死んだ場所にするのは良くないな、と単純に思います。

CDかライブか、という二項対立から音楽家を自由に



CBCNET:MLFではUstreamによってストリーミングを行うとともに、写真家の鈴木心さんも写真を撮影してアーカイブを制作していますね。サウンド、写真、映像などのデータを使って「ATAK017」を作るというプランもあるとか。MLFは音楽、現代美術、写真など多ジャンルの要素を持つ試みだったので、”インスタレーション”に興味がない層にも見てもらえるものになるでしょうね。

渋谷:すごく客観的にみて、アーカイヴは少しアートに寄せても良くて、公開制作自体は面白くというか興味が湧くようにしようという意識はあったかな。よくさ、CD売れないからこれからはライブで、とか言うじゃない?でも今回みたいに毎日している制作を公開しちゃうというほうがある意味よっぽどライブなわけで。インスタレーションっていうのはパフォーマンスも内在するからそこまで自由度があっていいと思ってさ。

CBCNET:インスタレーションのライブ性はたしかにおろそかにされてますね。いきすぎてハプニングになったり。

渋谷:ハプニングは嫌いです(笑)。日常には勝てないでしょー。僕は何かやるときそれが日常よりも面白いかどうかというのは考えるな。というかね、僕の場合あくまでも音楽家がインスタレーションやっているわけで。CDかライブかみたいな二項対立の他にインスタレーションというのがあったほうがいいという気はしてるのね。これは僕だけじゃなくてそう思うんだけど。

CBCNET:それは音楽家を自由にしますね。

渋谷:でしょ。あと、CDかライブかみたいな二項対立というのは「空気吸ったら死ぬらしいよ」みたいな危機感だけを増幅させるから(笑)もっと自由度が高い開拓しようがある場所があったほうがいいという気もする。とはいえユルいインスタレーションとかは勘弁なんだけど。


ATAKによるフロアへの回答。ATAK Dance Hall


ATAK Dance Hall:ATAKの新しい試みとしてスタートした。2011年1月15日、代官山UNITで行われたイベントでは、渋谷慶一郎とevalaが初のラップトップ・デュオを組み、3時間ノンストップのダンスセットを披露した。


CBCNET:それではATAK Dance Hall(ADH)について、コンセプトを教えてください。「APMT NIGHT」ではグランドピアノが入る予定だそうですね。

渋谷:そうそう。とはいえADHのコンセプトとピアノは全く関係ないんですね。evala君と僕がラップトップ二台同期させてビートというかかなり強力なリズム構造にフォーカスしてフロアを踊らせ続けるっていうのがそもそもだから。

CBCNET:ADHはいまあるテクノ、ハウス、ダブステップなどといったジャンルからすりぬけている感触がありますね。どれでもないのに強烈に踊れるという。

渋谷:それは当初からそうなんだよね。ATAK NIGHTの時もそういう傾向だったんだけど。ただATAK NIGHTのほうがややリスニング寄りの要素が強く、ADHのほうは完全にダンスというかフロア対応です。当たり前だけど音が面白くてリズムが強力なら踊れるし、ジャンルのルールとか守るのは元々苦手なもので(笑)、ダルいんですね。だからフロアという枠組みの中で、僕が面白いと思うことをやっているというのも大きい。

CBCNET:強力なリズム構造にフォーカスしてフロアを踊らせ続けるってかなり実験的ですね。

渋谷:言葉だけ聴くとそうだけど実際はうひゃうひゃだよね(笑)。

CBCNET:うひゃうひゃでした(笑)。



渋谷:この前やってかなり手応え感じたから、これはシリーズ化して進化させたいなと思って今回二回目という感じなんだけど、ヨーロッパでやるという話も既にある。

CBCNET:前回3時間ぶっつづけでしたね。全然テンションが下がらない(笑)。

渋谷:あれは二度とやりたくないと思っていて(笑)。3時間は長過ぎて3日くらい疲れが取れなくて、2時間が適量だと気づいた(笑)。なので今回は1時間半で、凝縮して踊らせようという感じになっています。しかし通常のラップトップのライブからするとかなり時間感覚が狂い始めていることに気づいてます(笑)。

CBCNET:エクスペリメンタルなラップトップのライブの平均時間って、なぜか30分くらいですね。

渋谷:というかね、前からクラブで30分とか呼ばれてライブやるのはちょっと変な感じだなと思ってたのね。DJは短くても2時間でしょ?それが時間の単位になっている場所で、30分とか呼ばれてちょっと変わったことやるというのは…。それよりは、もっと場のリテラシーに即したやり方があるんじゃないかと思ってADHを始めたというのもある。

CBCNET:ギークなCBCNET読者諸君のために、機材構成を教えてください。

渋谷:僕もevala君もラップトップ1台のみです。Ableton LiveとMax/Mspを立ち上げて、基本はAbletonを二人で同期させてビートを共有しつつ、お互いに持っているループを重ねて行ったり脱線したりという感じかな。

CBCNET:おもいっきりライブですね。

渋谷:清々しいくらいそうでしょ(笑)。 何も特別な機材編成とかじゃなくて申し訳ないんだけど大事なのは音だから。集中力は全然問題ない、というかすごく高揚するので、 意識は覚醒していくんだよね。で、スタッフにレッドブルを大量にステージ袖に用意してもらったりするので(笑)、何も問題ないっす。

CBCNET:公式ドリンク(笑)。 音響的にWWWという会場はどうですか?

渋谷:いいですよ。っていうか僕はピアノソロでしか出たことないんだけど、あそこのスタッフが機材とかサウンドシステム好きなんですよね。240Vで鳴らしてたりするし。あとあの会場の導線が好きかな。 降りていく感じが。段差があって踊るというのも気が狂ってていいと思うし(笑)。あと今回はリアにスピーカー足してもらったので強力になっていると思います。僕はフロアでやるものは特にリアがないと物足りないので。



CBCNET:今回ADHに行ってみたいと考えているクラブ初心者に、クラブの心構えを教えてください。

渋谷:一般的なクラブ初心者って僕には新鮮過ぎて手が届かない存在なんだけど(笑)、そうだな、あまり音楽を楽しむところ!みたいなノリは好きじゃないかも。そういうストイシズムは文化を繁栄させないから。ATAKでやるときは男女比が半々になることもすごく重要視しているのです(笑)。それは内容がどんなに実験的でも重要。

CBCNET:エクスペリメンタルな催しだと、油断すると野郎ばかりになりますからね。

渋谷:そうなると集団として嗜好が似てる人だけが集まるし。やはり変だよね、夜遊びに行って男だけとかは。少なくとも僕は絶対にそういう場所に行きたくないし。貴重な自由時間を、男だけが集まってフンフン言いながら音楽聴いてるような場所に費やしたくない(笑)。ましてや自分が出演するイベントがそんなのだったら泣きたいです(笑)。

CBCNET:じゃあ、ADHを見たいクラブ初心者もぜひ安心して来れると。

渋谷:ADHはさ、最初、ATAKがダンスミュージックのイベントやるっていうのに半信半疑だった人が多かったと思うんだけどこの前の聴いたら…

CBCNET:バキバキでした。

渋谷:でしょ。とはいえお約束みたいなのに溢れているということじゃもちろんないから。絶妙なバランスで、しかしテンションはすごく高いよね。先入観はいらないし、いわゆるクラブ!というノリが苦手な人でも身体が動いてるという感じはあるかも。まあ、僕もハウスのパーティーとか年齢層高いからそんなに行きたいとか思わないし(笑)。

で、グランドピアノを使おうと思ったのは完全な思いつきで。WWWは元々グランドピアノがあるでしょ。あのグランドピアノは、最初は青いというかカチカチだったけど、弾き込まれてきてよくなってきている。で、ちょうど「MASSIVE LIFE FLOW」でコンピュータとグランドピアノがすぐ側にある環境にいて、「これはMIXしても面白い」と思ったんだよね。ただ、全編ピアノが入っているとクラブジャズみたいになっちゃうから(笑)。あくまでも最初だけかなと思っているけど。

CBCNET:ジャザノヴァにはならないと。

渋谷:シャツはだけてる感じにはならないなー。だから僕の曲をダンスミュージックに、というかもっと言うと四つ打ちにアレンジしたものが最初に来るとだけ言っておきましょう。

CBCNET:ものすごく楽しみです。完璧な前パブをありがとうございました(笑)。




オールナイトパーティー「APMT NIGHT」は2011年4月30日(土)、東京・渋谷のWWWにて開催される。完全フロア対応のマッシブなプレイがオーディエンスを待ち受けている。必見!

写真:新津保建秀

INFO

ATAK
http://atak.jp/

MASSIVE LIFE FLOW
http://www.cbc-net.com/event/2011/04/massive-life-flow-keiichiro-shibuya/

APMT NIGHT
http://www.apmt.jp/#/night

日時:4月30日(土)
時間:21:30 OPEN 22:30 START
場所:渋谷WWW
http://www-shibuya.jp/
チケット:前売り:3000円(ドリンク別) 当日:3500円(ドリンク別)
※WWWでは22:00以降、20歳未満の方のご入場はお断りしております。22:00以降は年齢確認のため、顔写真付きの公的身分証明書をご持参ください。

– MAIN STAGE
ATAK Dance Hall set : 渋谷慶一郎 + evala × wowdev
Typingmonkeys ( 平川紀道 × 野口久美子 )
DUB-Russell × METAPHOR
NERDZ ERA × lisglitch
Quarta330 × Genki Ito
『INFINITY LOOPS』Live Remix Session
– Coffee&Cigarettes Band(DJ KENSEI & DJ SAGARAXX)
– DBKN
– Daisuke Tanabe
– TAKCOM(素材提供)

DJ nobuki nishiyama
(※順不同 – スケジュールはウェブサイトを御覧ください)

– ラウンジ:
Bunkai-Kei Lounge
Live:
Leggysalad
nanonum
flady

DJ:
Naohiro Yako (Bunkai-Kei records/flapper3)
Qurea(moph record)
rive
TDCY

フード:
浅草橋天才算数塾

※最新の出演者リスト、チケット購入方法はウェブサイトをご覧ください
http://www.apmt.jp/