FITCは2002年から30を超えるイベントを開催し、全世界18都市15000人を動員しているデザインカンファレンスだ。ベースとなるトロントを皮切りにアムステルダム、サンフランシスコ、シカゴ、ソウル、ニューヨーク、ロサンゼルスなどで開催されてきたが、今回、12月4日に昨年に引き続き日本で開催された。

FITC TOKYO 2010では、Flashからモーションデザイン、FLEXからAIR、モバイル等々、幅広い内容のスピーカーが登壇した。
ここではそれぞれのプレゼンテーションを簡単に紹介したい。

マイク・チャンバーズ / Mike Chambers | Flashで作成する高性能モバイルコンテンツ



Mike Chambers(マイク・チャンバーズ)は,Adobe SystemsのFlashプラットフォーム・エバンジェリスト。FlashPlayer10.1やAIR for AndroidなどのActionScript3.0を活用した、開発環境の説明。特に新しいFlash APIによるハードウェアアクセラレーションされたレンダリング方法は、スマートフォンを始めとしたモバイルデバイスでも快適に動作するようにする開発方法が紹介された。

また次期FlashPlayer最新版の紹介もあり、3D APIの向上によって描画されるリアルタイムレンダリングは、ブラウザ上でさらなるリッチコンテンツの加速を期待させるものだった。
より詳細な技術レポートはgihyo.jpさんの記事も参照してもらいたい。

アンドレ・ミッシェル / Andre Michelle | 拍動性クラックル



超多機能なオンライン電子音楽スタジオaudiotool.comでも知られるアンドレ・ミッシェル。今回のプレゼンテーションではActionScript上でのオーディオプログラミングについての丁寧なプレゼンテーションとなった。始めに、ActionScriptによって粒子の振動によって音が生まれる様子から、サイン、トライアングル、ノコギリ、ノイズなどの一般的な周波数領域や波形の制御により音が生成される様子を紹介。

フランジャーやエコー、リバーヴなどのエフェクトの作り方は勿論のこと、図形の物理演算と合わせる事で生み出される独自のシーケンサソフトウェアの事例を発表してくれた。音に関するエミュレーションは、ギターなどのサウンドの表現も行い、懐かしきTR-808の音と独自の物理演算シーケンサを合わせた作品例も見せてくれた。音の発生から、リズムの生成、そして、音楽に大切なグルーヴの生み出し方までActionScriptを使って制御・表現をしたプレゼンテーションとなった。

トム・ヒギンズ / Tom Higgins | Unity入門 – ハイクオリティ・インタラクティブ・3Dコンテンツ


インタラクティブなゲームコンテンツ開発環境Unity3の紹介が行われた。Win,Mac,Linux、そしてWiiやPS3やXboxなどの様々な環境での開発ができるUnity3は、beast、fmod、mono、PhysXなどの多くのコンポーネントをドラッグ&ドロップで使えるところも魅力ではないだろうか。また、2Dと3D選ばず、ゲームが開発できることやAndroid、iOSなどのモバイル機器、そしてオンライン上ゲームも制作する事が出来る。

Unity3はベース版は無償で提供されており、ユーザは学生や1人で開発する人にも使いやすいように設計されているようだ。最後にFacebookなどのSNS向けに開発された製品事例を紹介し、トム・ヒギンズ自身もゲーマーということもあり観客を楽しませてくれた。

ジョシュア・デイビス / Joshua Davis | HYPE Frameworkで創造力を加速する



FITC TOKYO 2010でのアートワークも担当してくれたジョシュア・デイビスは、自身とBranden Hallが開発したコーディングフレームワーク「HYPE Framework」を使いながら実際のクリエイティブワークの様子を紹介。

HYPEのライブラリと一緒に、実際にオブジェクトの生成からアニメーションや色の抽出などの方法を発表してくれた。グリッドレイアウトや、シェイプを定義して描画される作品は、本の装丁やポスターのアートワークにも使える仕上がりとなっている。また、細かな描画の設定によりインクのような絵筆の表現や、音と連動したオーディオリアクティブによるビジュアルファンクションも実装可能となっている。あくまで絵筆としてのFlashという使い方を一環している彼ならではのフレームワークとなっている。

簡単にいうと誰でもJoshuaDavisっぽい画が作れます、というフレームワークだが、その用途を意図されていない方向に使ってみるのも面白いかもしれない。


MK12 | 『 TelephoneMe』と陰謀のための陰謀




ミズーリ州カンザスシティを拠点にするモーショングラフィック・スタジオMK12。その創設者ショーン・ハモンツリーが、設立当時の様子から最新の制作の様子までを、映像作品を紹介しながら発表。クライアントワークの現場やクリエイティブなアイデアの実現の様子を垣間見ることができるプレゼンテーションとなった。MK12ではそれぞれ担当があるようなチームでは無く、なるべく全員が全てのプロセスのプロフェッショナルであるという。
友人と小さなアパートでスタートしたMK12は現在では大きなグリーンバックもある巨大なスタジオを持つまでとなった。

特に印象的だった話は「007 慰めの報酬」のオープニングムービーを任せられることになるまでにプロセス。クライアントを説得させるために勝手にオープニングムービーのピッチ(プレゼンの前段階)を繰り返し、その都度、なんで勝手にやってるんだ?、という代理店をよそに続けて新たなにピッチをし、実際に担当することになったという。『モーション・スタジオとしては007のオープニングを任せられるというのは最高の名誉なんだ』という熱意によって実現された。
最後に、新作の『TelephoneMe』陰謀のための陰謀:も紹介し、実際の海外の映像制作現場の話をきくことができた。

以下は彼らの最新のショーリール。


マルコ・テンペスト / Marco Tempest | オープンソースマジック



マルコ・テンペストは世界中で話題となった『オープンソースマジック』と題した、ARマジックを披露。実際に見ないと伝わらない内容だが、パネルに描かれたキャラクターが実際に動き出す様子は、あたかも実際にマルコ・テンペストと会話している様だった。マジックの種明かしはしないけども、テクノロジーのオープンソースの共有という話から、実際にどんなシステムで作られているかも紹介された。

機材のAR Magic Tracking Systemは、小型プロジェクションと赤外線の小型カメラを合わせる事で、プロジェクターがスポットライトのように追うように、動作するシステムで制作され、また特別なソフトウェアを用いずopenFrameworksやC+ライブラリを使ったシンプルなもので開発されている。トランプをつかったARマジックでは、PS3のeyetoyカメラを使ったデバイスで作られており、画面には拡張された映像が投射されるというもの。
システムなどの環境はopenFrameworksの開発者でも知られるZachery Liebermanが担当している。

以下は、昨年大きな話題となったARマジックのビデオ。ご覧になってない方はぜひ。


サイバーエージェント : 切通伸人 / Nobuhito Kiritoosh | アメーバピグ for Androidができるまで


FITC TOKYO 2010のスポンサーにもなっているサイバーエージェントは、アメーバピグ for Androidの開発秘話を紹介。AndroidではActionScriptで開発されたFlashコンテンツがブラウザ上で動作するが、PC向の仕様とことなる部分やモバイル機器だからこそ異なる開発でのポイントを説明。

移植の際に起こる、画面サイズの問題などを始めとしたインターフェースの設計や、AIR for Androidでは無効なイベントなど制作者の立場だからこそわかるメソッドが知ることが出来たのではないだろうか。また、アメーバピグ for Androidの開発体勢などDeveloperやDesigner、Director等の開発体制などの様子も知る事が出来る内容となった。

中村勇吾 / Yugo Nakamura | アクチュアル デザイン



「アクチュアルデザイン / 関係のデザイン」と題して、自身のクライアントワークを交えながら制作過程の様子を紐解いた。基準点を定めて異なる文脈を組み合わせることで生まれる制作事例を紹介しながら、WebやCM広告の認知拡散するための表現方法なども紹介。

今では、懐かしいmonalisa等の初期の作品からiidaのwebサイト、モリサワのfontpark、最新のwonderwall SCRまでMicrosoft Wordのドキュメントをスライドさせながら、『アニメーション』『Composition of Logic』などのテーマで解説。「差異」は「常識」から。「新鮮」は「当たり前」という、なかなか簡単には出来ないが切れ味のあるコンセプトの必要性を感じさせられた。
また最後に、『言い換え』によって価値をちょっとズラすという発想はほかでも使えるかもしれない。
インタラクティブにアニメーションするウェブサイト、でなく『ウェブサイトづらをしたアニメーション』
CM映像を効果的に使った製品ウェブサイト、ではなく、『ウェブサイト風のCM』
などなど。





FITCは、FlashをはじめとしたActionscriptをユーザーを対象にしているが、スピーカーは毎回幅広い人選となっているのが魅力。今回のFITC TOKYO2010もそういった内容となっていた。

来年もトロント、アムステルダムでの開催は決定しており、また東京での開催も楽しみにしたい。



Text & Photo by Hirokazu Kawana, Yosuke Kurita

Information

FITC Tokyo 2010
http://www.fitc.ca/events/about/?event=112

会場:ゲートシティ大崎 ゲートシティホール

会期:2010年12月4日(土)

スピーカー、プレゼンテーション情報

1.Joshua Davis
画家が筆や絵の具を扱う様に、コンピューターのプログラムによって美しいビジュアルを作りだす日本でも知名度の高いデザイナー/アーティストです。
セッションでは氏とブランデン・ホールによって開発された創造的なコーディングフレームワーク HYPE Framework について紹介します。また前日の12/3には、HYPE Frameworkを用いたワークショップ(要事前登録)も開催予定です。
http://www.joshuadavis.com/
http://www.hypeframework.org/

2.Mike Chambers(Adobe)
現在アドビシステムズのFlash Platformデベロッパーリレーション 主任プロダクトマネジャーの氏からは、新しいFlash Player APIと、スマートフォン、タブレット、その他のデバイスを対象にしたコンテンツから最高のパフォーマンスを得られるようにするための一般的な開発戦略やパターンについて紹介します。

3.Andre Michelle
常にFlash プログラミングの限界に挑戦し、国際的なカンファレンスでの知識の共有を試みている氏からはゲーム、物理学、オーディオプログラミングにおける氏の経験すべてを組み合わせた音、リズム、そして美しい音楽デバイスを生み出すための新しいアプローチを紹介します。
http://www.andre-michelle.com/
http://lab.andre-michelle.com/
http://www.audiotool.com/

4.中村勇吾
現在の日本の代表するクリエーターの一人、中村勇吾氏がFITCスピーカーとして登壇します。
質問、リクエスト、コメントなどを氏のTwitterアカウントで募集し、デザインを手がけるにあたって毎日何を考えているかなど、みなさんと共有する機会を設けます。

5.MK12
商業・芸術の両分野で称賛をあびるクリエイティブ集団。ミズーリ州カンザスシティというNY、LAからも遠い地を拠点にマスターカード、バドワイザー、Nike、映画007など、ビッグクライアントの映像作品を手掛ける一方、同時にオリジナルプロジェクトを多く発表しています。
今回は彼らの最新の短編映画『TELEPHONEME』について、そしてこのグループの10 年間の歩みについて論じます。
http://vimeo.com/emkaytwelve

6.Marco Tempest
コンピューター画像、映像、音楽、そしてステージクラフトを未来的なビジョンと組み合わせた氏のユニークな手法は、彼が独自に生み出したスタイルであり、パフォーマンスアート界のオンリーワンと言えます。
テクノロジーとイルージョンを混ぜ合わせた氏の未来形のマジックは参加者全員を驚かせてくれるでしょう。
http://www.marcotempest.com
http://www.youtube.com/virtualmagician#p/u/5/Mk1xjbA-ISE

(敬称略)