2018年の暮は35C3(35th Chaos Comminication Congress)に行ってきました。
クリスマス明けから新年までの間、12/27~30にわたり四日間、Leipzigで開催されるハッカーの祭典である。今年は1万7千人ほどのハッカーが集まったとか。(Leipzigでの開催は二回目)
僕は今回で3回目。ちょっと検索してみたところ、日本語で紹介された様子が一見して見当たらないので、ちょっと紹介記事でも書いてみるかなと思った次第です。
このイベントのオーガナイズはCCC(Chaos Computer Club)。1981年に設立され、ベルリンにC-baseという拠点を持つ団体でWikipediaにも記事がある。
ハッカーという言葉の一般的な理解と、この文化圏での理解には若干の剥離があるが、その論争はここでは割愛して、興味のある人はwikipediaにもそのへんの説明があるので参照していただきたい。
Chaos Communication Congress(以下コングレス)では多種多様なテーマのプレゼンテーションや、カンファレンス会場の小会場を使ったプレゼン、スタディグループ、ワークショップ、ミートアップに加え、アセンブリと呼ばれるだだっ広いエリアでいろんな団体が仮設のブースを作ったり、机を並べて展示なり開発なりなんなり、自由にやっているエリアで構成される。あとはフードエリア、バーとDJブースのあるパーティエリアがあります。
3つの大規模プレゼンスペース、2つの中規模プレゼンスペースでは昼から深夜までトークが続きます。テーマはArt & Culture, CCC, Entertainment, Ethics, Society & Politics, Hardware & Making, Resilience, Science, Securityと多様。下の図は一日目のプレゼンのスケジュール。
僕が見た中でいくつか面白かったトークを紹介します。
ちなみにすべてのトークは録画があって、こちらのサイトで公開されています。
リンクはプレゼンテーションの動画にリンクしています。
“The” Social Credit System by Toni
最近何かと話題の中国の監視+評価システムについての細かいことを含めた最新情報。ドネーションによってポイントを稼げるシステムがあるらしくそれで稼ぐポイントに制限がないというのが、あらあら結局なんでも金で買えるんですね、じゃあ結局今と変わんないすね、と思いました。
Tactical Embodiment by Angela Washko
上のvimeoは彼女のゲーム作品のトレイラー。アメリカ人アーティストの彼女は、所謂「ナンパマニュアル」(男性用のもの)をリサーチし、その女性の扱われ方を女性の視点でプレイするゲームに落とし込んでいる。強引で犯罪まがいなやり口を紹介することが商売として成り立っていることを告発している。プレゼンの最後に会場でオーディエンスと一緒にゲームをプレイしてみようという時間があったのだが、あまりのしつこさに会場は盛り上がったが、実際自分に起きたらキツイだろうなーというのは十分伝わった。
The Enemy by Karim Ben Khelifa
戦争写真家である作者が、ある時から紛争地帯の対立する双方からインタビューをとるシリーズを作り始め、それをVRに組み込んだ作品「The Enemy」として完成させた。VRは強く感情移入に働くシステムだと言われるが、体験した友人はこのプロジェクトが今まで見たVRのアートプロジェクトでベストだと言っていた。特に紛争地帯におけるジャーナリズムがVRやARといったフォーマットに展開されることによって受け取り方が変わる可能性について多く語られ、非常に学びの多いプレゼンテーションだった。ベルリンにも巡回予定があるようなので是非体験したい。
Transhuman Expression by Liat Grayver & Marvin Guelzow
ロボットと絵画表現がテーマで、僕としては外せないテーマのプレゼンテーションでした。大学の研究室とアーティストのコラボレーションという形で進められているプロジェクトで、ロボットエンジニアとアーティストの二人が来てプレゼン。質問「1950年代からTinguelyの様なロボットとドローイングを組み合わせた作品を作っている作家がいますが、自分たちの作品をどのように位置づけますか?」に対して、「私はキネティックアートやパフォーマンスには興味がなく、純粋に平面表現に対してロボットという新しい道具が及ぼす影響について考えているのでコンテキストが違う」と彼女は答えた。立ち位置の明確さに感心しました。
Internet of Dongs by Werner Schober
スマートフォンのアプリ制御のアダルトグッズのセキュリティの脆弱性に関するプレゼンテーション。ランダムに世界中の何処かのバイブをアクティベートできてしまう可能性などを指摘した。会場は満員。
Hebocon by honky
何年か前に聞いて、すごく興味があったけど、実際に見るのは初めてのヘボコン。ちょっと調べたらいつの間にか世界中に展開してるムーブメントになっていたんですね!すごい、ヤミ市みたい。会場内で作られたロボットで対戦。honky氏の見事な司会・レフェリーでテンポよく試合が仕切られて非常に盛り上がった。
アセンブリで見つけた個人的に興味深かったものを紹介します。
Moving Objects
ちょっとしたサーキットがあって、Hoverboard(ミニセグウェイ)をハックしてる人がたくさん。4輪のカートに改造したり、動くソファを作っている人も。カヌーも。色々写真を載せているインスタグラムのポスト。市販のhoverboardのファームを書き換えて自作のコントローラを接続できるハックが公開されている。すごい。
LOCKPICKING-AREA
おなじみロックピッキングWS。セキュリティが大きなテーマのひとつであるコングレスですが、フィジカルでトラディッショナルなセキュリティである鍵のハック、ロックピッキングのワークショップがやってます。いつでもやってて、ロックピッキングツールセットが購入可能。
そういえば、夏に開催されていたMaker Fair Berlinに行ったけれど、企業ブースの多さや、子供・ファミリー向けな感じが強く、あまり楽しめなかった。その時に思ったのは、ベルリンはCCCが拠点を置いているし、Maker Movementが押し寄せる前からHacker Cultureがもともと根付いていて、そのコミュニティにいる人はMakeには来ないんだろうなーというのが印象だった。コングレスのアセンブリエリアはちょっとMakeに似た雰囲気があるけれど、決定的に違うのは、必ずしも店みたいにしなきゃいけないわけじゃないところだと思う。アセンブリは、通る人を相手にしてもいいし、しなくてもいい。見に来る人を相手にする義務はなく、開発をしていてもいい、好きにすればいいという感じがある。やってることが面白そうで知りたかったらこっちから声を掛けるし、声をかければ熱心に答えてくれるけど、向こうは話しかけられるのを待っているわけではない。僕はこの感じがとても好きだなーと思った。企業が入っていないこと、チケット数に限りがあることなども、これが実現されている理由としてはあるのだろうな。
その他
面白い張り紙がたくさんある。
交通
コングレスのリストバンドで市内の交通機関が無料で乗車できました。中央駅の電光掲示板にwelcome to 35C3と表示される粋なはからい。
写真撮影
source: https://mastodon.social/@eric_s/101312201296875589
写真は取る前に確認!
さすがドイツ。クラブに行くとケータイのカメラにシールを貼られる国。
Regarding the presentation at #35c3, we were not informed ahead of time about the details of the disclosure. We are working with the info as it arrives.
— Trezor (@Trezor) December 28, 2018
We will address the vulnerability in due time—as soon as possible.
Details in thread:
あとでチェックして知ったけど、仮想通貨のウォレットTresorのセキュリティに脆弱性があるというプレゼンテーションがあって、Tresorのtwitterアカウントがちょっとアタフタしていて、さすが…!と思わせられました。
二年前か、はじめてコングレスに来たときはSnowdenのポスターがどこにでも貼ってあってけっこうびっくりしました。その年にはSnowdenのリークを追った映画「Citizenfour」のスクリーニング+監督のプレゼンテーションがあったせいもあったと思うけど。日本にいたときはSnowdenの名も知らず、そういう議論があったことすら知らなかったが、これを期にwikileaksを調べたり、ジョージオーウェルの1984を読み直したり、ソーシャルメディアに対して少し懐疑的になったりしました。
以上35C3レポートでした。