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東京都写真美術館 映像をめぐる冒険vol.4
「見えない世界のみつめ方 BEYOND THE NAKED EYE」展 関連企画

市川創太×小阪淳×鳴川肇 メール鼎談
『新しい世界像にむけて』

第5回:『パワースポットではどんなパワーが得られる?』 鳴川 肇

December 9, 2011(Fri)

■ 市川さんからの質問を受けて

確かにテンセグリティー構造は,忘れ去られた訳ではないですよね。牛込さんのようなすばらしい研究が近年現れてきたのはすごいことです。こういった方々がもっと大きなチャンスを得られれば良いなと思います。
フラーが開発したジオデシックドームは幾何学を駆使して軽量化に成功しました。同時に部材種類を減らすことで作りやすくした球体建築構造です。この構造理論自体はハイテクなのに,ヒッピー等の素人でも建てられる,つまりローテクなところがすごいと考えます。


テンセグリティー・ツリー


ジオデシック・ドームの例:
モントリオール・バイオスフェア
Wikipediaより
さて話題にあがっているテンセグリティー構造はこのジオデシックドームの最終形として開発されました。よってジオデシックドームより軽く,ジオデシックドームのように短時間で組み立てられなければならないという考えがフラーの特許からは伺えます。そういった観点で見るとこの構造体を完全に実用化するにはまだ作りづらいといった問題を抱えています。一方で,最もこの構造が注目を浴びたのは1983年に発見されたフラーレンの存在です。炭素でできたテンセグリティーと呼べるその小さな構造は,現在,高分子の世界で最もホットな研究対象の一つとなっています。建築分野でのアイデアが他分野で脚光を浴びたことはこのアイデアが普遍的な合理性を獲得していることを示しています。しかし開発当初からフラーが分野をまたいで「普遍的なアイデア」を発明しようとしてテンセグリティーを開発した訳ではないはずです。あるアイデアを狭く深く突き詰めてゆくと広大な海にたどり着けたというような筋道があったのだと思います。それとは別に,いまフラーが生きていたら,高分子の世界で様々な発明を続けているのかもしれません。

さて、もし私が理想とする開発の基盤をリクエストできるのであれば,このように開発途中で思わぬ発見があった場合は自由に道を外れて本来の目的とはかけ離れた成果物や結論に行き着くことが許容される環境があればすてきだなと思っています。あらゆる実験には仮説があります。それが正しいか否かを検証するのが近代科学の前提なのかも知れませんが,得てして想定外の結果に終わった実験から全く新しいものがこれまでにも生まれてきた訳ですから,具体的な機能の商品をいつまでにデザインするというフィックスされた目的と締め切りがない研究開発環境にどっぷり浸かってみたいと思うことがあります。

■ 小阪さんに対して持っているイメージ

創造性と知性を兼ね備えた稀な人だと思います。学生時代に小阪さんの事務所に遊びにいったことがあります。そのときのことですが作品を見せてもらっている合間に窓のサッシの上に石ころのような物が転がっていたので手に取ってみたことがあります。するとそれは息も詰まるような装飾が施されたクリーチャーの彫刻たったことを覚えています。そういう物が無造作に転がっている雰囲気の事務所でした。と同時に自分の考えを誰にでも分かるように論を立てる姿にも感嘆しています。最近ではライフアンドシェルター社の相澤さんと企画されている対談シリーズに足を運んでいますが毎回楽しく聞かせて頂いています。


宇宙の歴史(宇宙図) 2010年
小阪淳
そんな小阪さんの創造性と知性を同時に垣間見れる作品が「宇宙図」ポスターです。ビックバンから時系列に宇宙の大きさの変化を一望できるグラフィックなのですが,ものさしで測れるように正確さを探求して描かれたところに数理模型と共通した美しさがあります。目盛りを等間隔にそろえることで定量的に宇宙の姿を把握できる。科学的に宇宙を見つめることができるように,空間そのものが膨張することと物が移動することは別である,ということを理解しながら描いた知性と,時間軸も含めて宇宙の全容を平面のグラフィックに落とし込む創造性を感じ取ることができます。この宇宙図では今の地球から見られる領域は,「しずくの表面ほど」しかないということが視覚的に理解できます。200万光年先のアンドロメダ星雲がいまどうなっているか200万年後しか分からないという話しは聞いたことがありましたが,そんな「見えない世界」がどのくらいどういう形で広がっていることかがしっかり分かるわけです。



■ 小阪さんに対しての質問

このように観測できる世界はわずかなのですが,その観測可能な世界しか科学では扱えない,その一方で近傍に「類推することでとらえる世界」が横たわっているというお話を小阪さんから聞いたことがあります。今回のメール対談で取り上げられた合理と非合理のお話にもつながる話と認識していますし,興味を持っています。

突拍子もない例えで申し訳ないのですが「マイナスイオン」という言葉が違和感なく浸透した世の中に興味を抱きます。「シャワーからマイナスイオンが出てるの?心も体もすっきりするの?」と,この健康商品の科学を考えたりします。これは健康を科学でどこまで立証できるのかという一例ですが,この合理と非合理の曖昧な領域についてできれば具体例(多分もっと分かりやすい例をたくさんお持ちでしょうから)を出して頂いてもう少し聞かせて頂きたいのです。以前お話しいただいた宗教と科学の関係や「絵の持つ力」「パワースポット」というフレーズに出てくる「力」とか「パワー」てなんだろう,というお話など合理で説明できる瀬戸際の世界をお話しいただけると,科学と美の関係や「見えない世界の見つめ方」をより深く考察するための参考になると感じるからです。



鳴川 肇(なるかわ はじめ、1971年生まれ)
2001年 VMX Architects入社。2003年 佐々木睦朗構造計画研究所入社。2009年 AuthaGraph株式会社設立。同年、ICC「オープン・スペース 2009」において面積が極力正しい独自の長方形世界地図、「オーサグラフ世界地図」を初公開。2011年6月、日本科学未来館にて基本設計、実施監修に携わったつながりプロジェクトが公開。桑沢デザイン研究所、東京造形大学非常勤講師。
http://www.authagraph.com/

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