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東京都写真美術館 映像をめぐる冒険vol.4
「見えない世界のみつめ方 BEYOND THE NAKED EYE」展 関連企画

市川創太×小阪淳×鳴川肇 メール鼎談
『新しい世界像にむけて』

第3回:『知恵と知識』鳴川 肇

November 25, 2011(Fri)

■今回の展覧会に参加いただくにあたり思うことと、自身作品や考え方について


クロノマップ 大陸移動の歴史
我々の世界をどう「みつめるか」について、世界の記述方法にメルカトル図法という地図があります。これは全方位が360度である、という考え方を前提にしていますがこの考え方には盲点があります。南極と北極がうまく描けないからです。「見えない世界のみつめ方」では立体角という概念で全方位をみつめ直す作品を出展します。具体的にはオーサグラフという独自の投影法による世界地図により、これまでの世界観に替わる中心のない世界観を提示したいです。


クロノマップ世界史1415-1648
さらに時間軸も含めた世界の動きをどう「みつめるか」について話を広げると、世界史という科目はこれまで各地域史を独自の時間の流れで順次、勉強するという手法がとられていました。日本なら縄文、弥生、飛鳥、奈良という時間のものさし、中国だと殷、周、新、漢、というものさしで物事の経緯を学んでゆく訳です。しかしこの学び方には盲点があります。地域史同士が時間的に断絶されるからです。チンギスハンが大暴れしたおかげで元の時代、日本は鎌倉時代、ヨーロッパは中世、というように各地域の時代感覚を共有できますが、これは例外的で、普通は孔子と仏陀が同時代に生きていた事実等は気づきにくいものです。今回の展覧会ではオーサグラフを用いて世界史地図というものをつくり時系列のある情報を一望できる作品を出展します。また世界史と日本史を分けて考える歴史観とは異なった歴史観を提示したいです。


クロノマップ世界史1550-1600

■小坂さんからの質問を受けて

私の創作の姿勢は、幾何学的な模型を作り、透視図で絵を描き、表現を工夫したダイアグラムを作るところにあります。それらは図学的ですが、一方でそれらは冷徹な数学ではありません。図学あるいは幾何学は図形を扱う学問と定義され数学の分野ですが、図画工作でも幾何学を扱います。私の扱う幾何学は図工室で手を動かす幾何学です。よく妻や友人に、夏休みの自由研究をやっているみたいだ、と言われます。模型にべたべたセロテープが貼付いているところも含め取っ付きやすさが作品に出ているのかもしれません。

「手は第2の脳」と言われるように頭では考えられなかったものを直感的に手が作っていることがあります。作ったものを見ながらいったいこれはどういうことなのか、後から考えることがよくあります。模型作りの際に働く知恵や直感は未だ文章化できていないロジックだと思っているからです。また「この100円ショップで売ってるヘヤピンと爪楊枝を使うと接合部が安く作れる」といった知恵を大切にしています。そういう知恵を積み重ねるといままで見たことのないものが作れるからです。好奇心からわき起こるこうした直感や知恵は普遍性に欠け、知識としては伝搬されないものですが、創造性を担保するものだと思っています。それを後でゆっくり論理づけてゆくという手順で合理性と関わっています。それが最も無理のない合理性とのつきあい方だと思っているからです。

■市川さんに対して持っているイメージ

私と市川さんが学生だった時代、建築界は「ポストモダン」や「脱構築」が流行っていました。我々の周囲もそういった潮流の中で作品を語る傾向がありました。ところがいま同年代の建築家で「ポストモダン」を根気強くやっている人はいません。

一方で私も市川さんもそのような「哲学思想の比喩表現」とは異なるところに興味を持っていました。市川さんはすでに今の活動につながる空間表記方法の研究をしていました。私もテンセグリティという建築界では忘れられた構造体の立体幾何学に没頭しており、今も立体幾何学をしつこく続けています。人からは「まだそんなことやってるの?」と言われて不安になった経験もあります。ですので修士制作で切り開いた独自のビジョンを継続して展開している市川さんの姿には信頼感を抱きますし励みになっています。


■市川さんに対しての質問

美術館で拝見する市川さんの作品の完成度の高さには眼を見張るものがあります。空間を計測するためのアルゴリズムが描く世界には洗練された知性を感じます。それゆえ観る人は市川さんがさらりと創作活動をしているような印象を受けるのではと気になります。しかし以前、市川さんが生成した形状を基にした大きな立体展示物の構造を担当したのですが、そのとき一緒に仕事をした印象は上記とは異なるものがありました。その立体展示物は棒材が様々な角度で結節してる構造のネットワークでした。こういった形状のものはジョイントを制作するのは大変難しいのですが、市川さんが、断面は原寸大でかつ、棒材の長さは1/6の模型を作るというアイデアを出されました。手頃なサイズなので溶接しやすいうえに、その模型の棒材を全て切断してゆけば、完全に角度が正しいジョイントを確実に作れるという仕掛けです。

こうした生々しい物作りの知恵は市川さんのアトリエにある多数のスタディー模型や治具などでも見受けられます。こうした制作過程の模型やアイデアを展示することはないのでしょうか?つまり完成された作品を提示することは正確に閲覧者に考えを伝える上で重要ですが、そのようにして伝えられる知識とは別に、制作過程の現場で生み出される知恵には最終成果物を凌駕する発明のエッセンスがかいま見れるからです。




鳴川 肇(なるかわ はじめ、1971年生まれ)
2001年 VMX Architects入社。2003年 佐々木睦朗構造計画研究所入社。2009年 AuthaGraph株式会社設立。同年、ICC「オープン・スペース 2009」において面積が極力正しい独自の長方形世界地図、「オーサグラフ世界地図」を初公開。2011年6月、日本科学未来館にて基本設計、実施監修に携わったつながりプロジェクトが公開。桑沢デザイン研究所、東京造形大学非常勤講師。
http://www.authagraph.com/

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