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東京都写真美術館 映像をめぐる冒険vol.4
「見えない世界のみつめ方 BEYOND THE NAKED EYE」展 関連企画

市川創太×小阪淳×鳴川肇 メール鼎談
『新しい世界像にむけて』

第4回:『スキルが発揮でき、思想にも裏打ちされる幸福な活動基盤』市川創太

December 2, 2011(Fri)

■鳴川さんからの質問を受けて


多摩美術大学 Algorithmic Wall
現場溶接風景(左)
原寸図と職人さんのメモ(右)
©doubleNegatives Architecture
「さらりと作っているように見える」、というのは悪くないですね(笑)。実際「さらり」と作りたいんです。
アイディアや計画をプロダクションするには、それはそれは様々な「さらり」といかない事がたくさんあります。建築家がよく行うレクチャーで、どうやって作ったか、ディテールの苦労や、工夫(苦夫というべき?)、についてのドキュメントは見ていて楽しいし、すごく勉強になります。そういった製作過程をプレゼンテーションされると、現実味がでて説得されるものですよね。

一方ディテールの知識やアイディア、というのは、当たり前にもっていて、その大前提でなにか設計や施工を考えるもの、いろいろ工夫して当たり前、と思う節もあります。さて自分が関わったものとなると、アイディアを実現する過程のことなので、どういう部分が面白いのか、そのこと自体にはあまり、見る目が無い。実際他の現場をたくさん知っているわけではないので、製作現場で何が当たり前で、何がユニークで面白いのか、よくわからないし、そのことを特にリサーチしてプレゼンテーションする方面に向かっていないのは確かです。


バウ広告事務所
エントランスパーティション模型(上)
工場での溶接風景(下)
©doubleNegatives Architecture
工場検査や、施工現場に行くのは大好きですし、こちらの提案を実現させる技術者、職人さんはすばらしいと思います。最大の敬意を払って「塵の眼、塵の建築」には一部製作風景写真を載せていますが、あまり見せる努力や工夫がされていないかもしれません。それは前述のような視点の欠如からだと思います。あまり製作・制作の途中で内容をリークするのは好きではないんですが、ドキュメンテーションとしてまとめて、作り方のアイディアを他者と共有するのはやるべきだと思っています。
製作過程のアイディアを公開することはあるかもしれませんが、そのタイミングは今すぐでは無いですね。それは面白いのか、dNAがやるべきなのか、色々な迷いがあり、そういったアウトプットに対してそれほど自信が無い側面も正直あるんです。まだそういう域に達していないのではないかと思います。


Yeti 山口情報芸術センター Corporaによる生成構造物
(左下から時計回り):工場でのジョイント製作風景(断面原寸、スケール1/6)、出来上がったジョイント群、構造解析担当の鳴川肇さんによる模型へのラベリング、ジョイントの一つ
©doubleNegatives Architecture
左下 写真:善光産業株式会社撮影
左上 写真:dNA撮影
右上 写真:丸尾隆一/写真 提供:山口情報芸術センター [YCAM]
右下 写真:丸尾隆一/写真 提供:山口情報芸術センター [YCAM]


■鳴川さんに対して持っているイメージ

僕の想像を超えて、ものすごく粘り強い、という印象です。そうでなければAuthagraphのようなものは生まれないでしょう。難題に根気よく立ち向かっていくイメージです。
鳴川さんとは大学院修了後ずっと連絡を取り合っていたわけではありません。オランダのベルラーヘ・インスティテュートへ行かれたので、数年間殆どお会いしませんでした。

アレハンドロ・ザエラ・ポロ氏の論文主査の下で研究を進められていたり、たまに受け取るメールからは、ヨーロッパの色々な設計事務所で仕事をされ ている様子がうかがえました。異国でそんなに色々な仕事をしながら、自分の制作・研究もする、というすごくバイタリティあふれた活動をされていましたね。
ある時多摩美術大学で三上晴子さんの学生対象にフラー関連ワークショップを担当させて頂いたんです。そのとき鳴川さんの修士論文「テンセグリティー・モデリングマニュアル」をお借りすべくコンタクトを取ったんです。 2001年なので、もう10年前ですか。その折に色々と近況を教えあったりしました。鳴川さんは当時、テンセグリティから派生し、全方向視点、全方向カメラを研究されていて、「Dymaxion Perspective」というプロジェクトでまとめられていました。「全方向」という点ではSuper Eye(なめらかな複眼)と通底していて、とても興味深かったです。この鼎談一つ前の鳴川さん自身で説明された創作姿勢そのもので作られているようなドキュメンテーションでした。その研究論文、研究制作のインスパイアとして僕のクレジットを入れたい、と打診してくれて「律儀だなぁ」と思ったものです。

「テンセグリティ」って忘れられた構造なのでしょうか?2009年のアルスエレクトロニカで、牛込陽介さんという方が可動的なテンセグリティ構造を出展されていました。実物は見ていませんが、人が入れるほど大きなものも作られていました。彼は建築直系で無かったかもしれませんが、若い方がテンセグリティにフォーカスして、独自に進化させて出展していたのは、面白かったです。2009年にコロキウム形態創生コンテストを拝見した際にも、すばらしい自作ソフトを使ってテンセグリティに関する発表されている方も見られました。

■鳴川さんに対しての質問

鳴川さんがテンセグリティの研究から、全方向視点、全方向カメラへ、そしてAuthagraphへ進化していったのはとても興味深いです。そのような経緯のサインは大学院生のときに既に出ていたのかもしれませんね。というのはそこにはやはり、バックミンスター・フラーへの興味がなんらか関わっているからではないかと思うからです。フラーの仕事は、技術的にフォーカスすれば、深く専門化、特化できる一方、思想的には多くのものを包含できる、ある種世界の見方だと思います。
フラーの提案の殆どは、モビリティに関するものだといわれることも、冷徹な数学、理論だけにとどまらない、人間の生活を具体的に豊かにするための大きな思想、強い意志に裏打ちされているからだと思います。

先日あるシンポジウムで 田中浩也さんにお会いしました。最近鎌倉にFABLABを開かれ、ますます精力的に活動されている様子。レクチャーでは集合知から派生知というようなことをおっしゃられていました(ここでの「知」は知性、知識、知恵と解釈します)。世界中に出来つつあるFABLAB。情報技術とファブリケーション技術が協働し、図書館のようにだれでも利用でき、技術を習得でき、知が派生していく基点、を開設されたことに関して、やっと持っている全てのピースが組み合わせられる、すばらしい活動形態(母体)にめぐり合えた、ともおっしゃっていました。建築家でいてスーパープログラマーでもある彼もやはり、バックミンスターフラーの研究をされています。FABLABにたどり着いた背景には、フラーの思想と、ものづくりの楽しさ、ソースコードの公開と共有というようなクリエイティヴコモンズが知られるもっと前から綿々と続くプログラマーの文化、ITスキル、そういったことを統合できる活動形態なのかなと、憶測しました。

スキルが発揮できて思想にも裏打ちされる、そのような幸福な活動基盤を得るのは、実はとても難しいことです。

フラーの研究を出発点にしつつ、独自の活動をされている鳴川さんの中では、フラーが持っていた活動基盤に触発されることはあるのでしょうか。またバッキーに対する特別な像はあるのでしょうか。



市川 創太(いちかわ そうた、1972年生まれ)
doubleNegatives Architecture(ダブルネガティヴス・アーキテクチャー)主宰 
建築設計の手法・プロセス自体を開発実践しつつ、アーティストとのコラボレーションを積極的に展開。97年ドイツのメディアアーティストグループKnowbotic Researchの「10_DENCIES」に参加。04 年三上晴子と「gravicells」を発表。98 年に建築設計、インスタレーションなど横断的活動を展開する建築グループdoubleNegatives Architecture [dNA] を開設。08 年より中谷芙二子とdNAのコラボレーションプロジェクト「MU: Mercurial Unfolding」を展開。

doubleNegatives Architecture (ダブルネガティヴス・アーキテクチャー)
1998年に建築家市川創太を中心に結成された建築ユニット。プロジェクトごとに異なる分野の専門家でメンバーを編成し、多様なメディア、プラットフォームを横断しながら建築のビジョンを提案している。2005年から展開中の《Corpora》プロジェクトは、2007年に山口情報芸術センターにて《Corpora in Si(gh)te》として拡張し、新作発表された。このインスタレーションは2008年ベネチア・ビエンナーレ国際建築展でハンガリー国代表として出展されるなど、世界6都市で公開されている。
http://doubleNegatives.jp

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