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東京都写真美術館 映像をめぐる冒険vol.4
「見えない世界のみつめ方 BEYOND THE NAKED EYE」展 関連企画

市川創太×小阪淳×鳴川肇 メール鼎談
『新しい世界像にむけて』

第1回:『プロジェクトの出発点』市川創太

November 11, 2011(Fri)

■今回の展覧会に参加いただくにあたり思うことと、自身作品や考え方について

doubleNegatives Architecture(ダブルネガティヴス・アーキテクチャー)以下dNAというグループで主に活動をしています。グループといっても固定のメンバーがいるわけではなく、色々な分野の優秀なメンバー が都度集まってプロジェクトを遂行しています。自分は設立・主宰者なので、全てのプロジェクトのディレクションを行っています。実際は1人、 2人でつくっているプロジェクトもあるんです。


Corpora in Si(gh)te Mexico City
2010 強化現実画面3月19日12:50 のスクリーンショット
©doubleNegatives Architecture
「見えない世界のみつめ方」展は、小坂さん、鳴川さんというとても尊敬している建築家・クリエイター達とのグループ展ということで、参画させて頂きとても光栄です。dNAはCorporate eyeとSuper eye to see the worldなどの作品を出展します。作品というよりは、dNAが設計やインスタレーションに使用したり、空間を視る為のソフトウェアやその出力、と言った 方が正しいかもしれません。これらの出展群とコンセプトや技術をまるっきり共有する “Corpora in Si(gh)te” というインスタレーションを山口情報芸術センターで2007年に制作・発表しました。これは気象センサー、スマートダストテクノロジー、強化現実などを使い、展示現場の気象変化によって、決定意思を持った構造結節点が、都度構造体を変容させていく様子を展示する、といっ た大掛かりなものです。様々な方に興味を持っていただいたおかげで、すこしづつバージョンアップしながら数カ国を巡回し、東京ではコンパクト 版をNTTインターコミュニケーションセンターICCで2009年に公開させていただきました。

しかしながらこの “Corpora in Si(gh)te” は余りにも色々な要素とアイディアが詰め込まれていて、(というのもこれまでの研究や技術を全て一つのもので表現しようとしたものなので)、プロジェクトのそもそもの出発点や最重要なコアの部分は、すこし見えにくくなってしまっていたのは確かです。
アルゴリズミック・デザイン、生成デザイン、キネティック、というような側面がインスタレーションの見た目の印象を支配していますが、その出発点は、建築家の使用する「空間表記方法」についての提案なんです。


Corpora in Si(gh)te Venice
2008 ベネチアビエンナーレ国際建築展
ハンガリー館 展示風景
©doubleNegatives Architecture
簡単に言えば、何故四角い建物は設計しやすいか、何故建築はトップダウンなデザインに寄り易いか、それらは建築家が設計に使う設計図の表記システムに、起因するのではないか、もし違った表記システム=空間表記方法を使えば、まったく違った空間概念、空間デザインが生み出されるのではないか、汎用の表記方法にフィットしない空間もあるんじゃないか、ということです。

こんなことを考え始めたのは、鳴川さんと大学で時と場所を共有する修士課程時代(1995~6年頃)ですね。鳴川さんはテンセグリティーとそれにまつわる球体の法則について、僕は全方向的な表記方法について考えていました。

dNAの活動について「新しい表記方法」と紹介して頂いています。実際は既にある色々な技術を組み合わせているだけなので、「新しい」という形容を使うことには、多々疑問や抵抗がありますが、異なった方法によって世界を読み描きしてみよう、という点でなんらかの「新しさ」を獲得しようとしているのは確かです。これはまさに世界(空間)をどのように見(視)るか、というテーマにつながるでしょう。


Super Eyeによるサヴォア邸の空間表記
1995~
©doubleNegatives Architecture
今年4月「現代建築家コンセプト・シリーズ9 ダブルネガティヴス アーキテクチャー 塵の眼、塵の建築」という本が、INAX出版より出版されました。シリーズの中ではなかなか売れにくい本かと思います。文中に延々と語られている表記方法の探究について、今回の展示が理解を補っていただく場にもできたらと期待しています。文脈に登場するソフトウェアを展示場で来訪者が操作できる状態にしておく予定です。

■小阪淳さんに対して持っているイメージ

小坂さんは、自分が学部生時代に同じ大学の研究室に来られて(芸大は研究室に入るのは大学院から)、エアブラシなどを使いこなすものすごいドローイングテクニックをもった方でした。作品集も見せて頂きましたが既にプロの域でした。テクニックだけでなく、とにかく表現力がすごくて、 まぶしい先輩でしたね。一方的に存じていました。
卒業されていち早くギャラリー間などでも取り上げられていましたし、邦訳が出れば個人的に必ず買って読むグレッグ・イーガンのカヴァーデザインのクレジットにお名前を発見したり、鳴川さんに宇宙図の話を聞いて、早速ニュートン買って拝見し、「こんな科学的なことをデザイナーとしてこなすなんて…」と驚き感心しました。全てのお仕事を拝見しているわけではありませんが、なにより、興味に対して実直に、楽しそうに仕事をされている印象を持ちます。

■小阪淳さんに対しての質問

手がけられているものは、科学的な現象や根拠に基づく手法が生み出す面白さを多分に取り込んでいるように見られます。しかしながら様々な場面 で理屈や理論をデザインに素直に転化できない場合もあるんじゃないかと思います。これは自問でもありますが、理論を優先すべきか、デザインとしての効果を優先すべきか、あるいは両方が成立する方法を納得いくまで考えるのか(その部分こそが建築家やデザイナーが力を発揮すべき部分?)、限られた時間の中でどのように折り合いをつけていらっしゃるのか、とても興味があります。

前出グレッグ・イーガンは数学・科学の先端トピックを参照しつつ、人間のアイデンティティを問うようなドラマに書き上げてしまう。そこにはもちろん飛躍もあるんですが、とても面白く圧倒的な創造性を感じます。それはそれは読むたびにびっくりしてしまうような才能です。一方、科学本 であってもインチキくさく感じてしまうものもありますね。その違いは単に主観的なものでしょうか。参照する者の科学や理論への興味や理解の深 さの程度の問題なのでしょうか。これは理論と表現の折り合いのつけ方、のようにも感じます。



市川 創太(いちかわ そうた、1972年生まれ)
doubleNegatives Architecture(ダブルネガティヴス・アーキテクチャー)主宰 
建築設計の手法・プロセス自体を開発実践しつつ、アーティストとのコラボレーションを積極的に展開。97年ドイツのメディアアーティストグループKnowbotic Researchの「10_DENCIES」に参加。04 年三上晴子と「gravicells」を発表。98 年に建築設計、インスタレーションなど横断的活動を展開する建築グループdoubleNegatives Architecture [dNA] を開設。08 年より中谷芙二子とdNAのコラボレーションプロジェクト「MU: Mercurial Unfolding」を展開。

doubleNegatives Architecture (ダブルネガティヴス・アーキテクチャー)
1998年に建築家市川創太を中心に結成された建築ユニット。プロジェクトごとに異なる分野の専門家でメンバーを編成し、多様なメディア、プラットフォームを横断しながら建築のビジョンを提案している。2005年から展開中の《Corpora》プロジェクトは、2007年に山口情報芸術センターにて《Corpora in Si(gh)te》として拡張し、新作発表された。このインスタレーションは2008年ベネチア・ビエンナーレ国際建築展でハンガリー国代表として出展されるなど、世界6都市で公開されている。
http://doubleNegatives.jp

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