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東京都写真美術館 映像をめぐる冒険vol.4
「見えない世界のみつめ方 BEYOND THE NAKED EYE」展 関連企画

市川創太×小阪淳×鳴川肇 メール鼎談
『新しい世界像にむけて』

第2回:『合理と非合理の付き合い方』小阪淳

November 18, 2011(Fri)

■今回の展覧会に参加いただくにあたり思うことと、自身作品や考え方について


新宿系 2000年 (朝日新聞掲載)
私は自身の肩書をとりあえず「美術家」としています。自分の仕事の内容を一つの肩書として名乗るのが難しいからですが、いわゆる美術の文脈ではあまり作品を発表していません。ほとんどが「イラスト」や「デザイン」といった、「市場で消費される商品」としての仕事です。しかも表現のカッティングエッジからやや距離のある場所での活動です。そんな中で何か新たにできることはないかと模索しつつ、ここ数年関心を寄せているのが「科学」と「美」の関係です。それは、科学的なものを美しく表現するということではありません。「科学が人を突き動かす」という仕組みの中に潜む「美」です。

「見えない世界のみつめ方」展に参加するにあたり、「写真」の担ってきた役割と自分の関心の流れがオーバーラップしていることに気付きました。



宇宙の歴史(宇宙図) 2010年
「写真」は様々なジャンルにとって重要な要素となっています。科学にとって、そして美術にとってその重要性はいうまでもありません。一方、私は新聞に「風刺画」を描いてきましたが、ジャーナリスティックな意味としての「写真」の捉えられかたにも関心がありました。これまで朝日新聞に掲載してきた作品は、「絵」というよりも「写真」を意識したものになっています。私がいままでやってきた仕事は、写真ではないけれども、「写真的な認識」を踏まえたうえで成り立つものではないだろうかと感じています。そういう意味では、今回の参加は、自分の活動をまとめる節目のようなものに思われます。市川さん、鳴川さんの活動を拝見していると、私とも共通する部分が多々見られるわけですが、それが、三者共に直接的な表現手法ではない「写真」という概念との対比で、どのように見えてくるか、とても興味深く感じるとともに、このような場所、出品者、スタッフでの展示に参加できることを光栄に思っています。


■市川さんからの質問を受けて

市川さんの作品、もう単純に、そして複雑にカッコいいです。たとえ見る側が作品の論理的な側面を理解していなくても、論理性から醸しだされる「美」を直接感じられるからだと思います。

市川さんのご質問にある「理屈や理論を素直に転化できないデザイン」とは、デザインの中にある「非合理性」を指しているのだと思います。確かに合理性と非合理性との折り合いは、デザインや美術の作業上はとても大きな問題だと思います。しかしこの問題は、そもそも二項対立的に捕えることは難しいのではないかと感じています。私たちが肯定的なニュアンスを含みつつ「合理的」という表現をするとき、そこにはすでに「非合理的価値」を伴っているように思われます。さらに前述のように、合理性を直接認識していなくても、合理的考察から立ち現われる「美」を私たちが感じることができるのは、ほかならぬdNAの作品が証明しています。アインシュタインが不確定性原理を揶揄して「神はさいころを振らない」といったとされる有名なエピソードがありますが、この「神」が当時のアインシュタインにとっての「非合理的価値」なのではないかと感じています。そして二項対立という構図から外れた「合理性と非合理性」がどのような関係をもっているかを探ることは、個人的にこれからの課題です。

「合理性と非合理性」は、歴史的には不幸な関係もありましたし、哲学的にもやや古ぼけたテーマかもしれませんが、まだまだ考察すべき側面があるのではないかと感じています。それは学術的なものではなく、個々人の思考のベースとして持っておくべき「よりどころ」です。

■鳴川さんに対して持っているイメージ

鳴川さんは、強い好奇心と豊富な引き出し、人懐っこさが相まって、とても居心地のいい場を形成する人です。もちろん作っているものはどれも心くすぐるものだけど、同時に本人の醸す空気が素晴らしい。そして自分の愛するものに対する熱意をストレートに表現できる人だと思います。様々なジャンルにわたる好奇心も、なぜだかまっすぐ筋の通ったように思われます。なぜそうまっすぐでいられるのか。見習いたいです。

■鳴川さんに対しての質問

鳴川さんを突き動かしている好奇心について気になっていました。私から見て、鳴る川さんはとても幸福な形で科学、あるいは合理性と付き合っていると思います。一般的に、図学的な表現は冷静で情緒的ではないような気がしますが、鳴川さんの作品を見ていると、そこには「愛」といってもいいほどの情熱がこもっています。愛しすぎて、作品を構成する三角形の角が丸くなっているのではないかと錯覚するほどです。

そしてその愛が、図学にとどまらす、世界に対する好奇心にまで昇華されていると感じます。それは図学という「世界の見方」を通して、世界の隅々に対する愛し方を知っているからなのではないか、そしてそれが「まっすぐさ」につながるのではと勘ぐっています。

鳴川さんは自己分析的にみて、自身の好奇心をどんな言葉で表しますか?要は、「鳴川さんなりの世界の愛し方を教えてください。」ということです。やや、むちゃぶりです。



小阪 淳(こさか じゅん、1966年生まれ )
1994年-2000年SFマガジン(早川書房)装画担当。2000年-2004年、2010年~現在 朝日新聞にビジュアル連載。2004年沖縄市ワンダーミュージアムに作品常設。国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト(4D2U)に参画。2006年Sony Explora Science(北京)に4作品常設。文部科学省『一家に一枚宇宙図2007』制作に参加。 2007年カンヌ国際広告祭2007Cyber Lions銅賞受賞。 2010年東京書籍『宇宙に恋する10のレッスン』出版(共著)。美術、建築、グラフィック、ウェブなど横断的に活動している。
http://www.jun.com/

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