空っぽの部屋とはいかに !?? ucnv 企画による展覧会「Vacant Room」
フォトレポート
こんにちは。CBCNETスタッフのtadahiです。
7月29日まで神保町のギャラリー SOBOで開催されていた、謎めいた展覧会「Vacant Room」。訳あって、会期中に詳細を書くのがためらわれたので、見逃した方のために、ざっくりフォトレポートをお届けします。
この展示はアーティストのucnv氏が企画・展示設計されたものです。
CBCNETでも何度か取り上げていますが、プログラムにより、既存のデータを破損させることで生じるヴィジュアル・グリッチ表現で知られるアーティストで、iccオープンスペースでの展示(2013)、ファッションデザイナーNukemeとのコラボグリッチコート(2013)、Sanrio x Glitch(2014)や、音楽家 dj sniffの楽曲「Liquefaction/液状化」のMVディレクション(2014)、など、ソロ、コラボ活動ともに幅広く活躍されています。
今回の企画は、展示というフォーマット自体を批評的に問うような、ユニークな内容の展覧会でした。
という事で、どういう体験だったのか、順を追ってレポートしていきます。

会場はこういう感じでした。まさにvacant room。

あるのは、展示台と、木箱、その上に置かれた紙(作品の配置図や出展作家のプロフィール、後に追加されたucnv氏によるテキストが書かれていました)、あと、壁に「Please do not touch the artwork」の文字。
木箱の上に置かれた紙にはURLが書かれていて、スマホでそこにアクセスするよう指示が書かれてあります。
指定のURLにアクセスすると、おや?!
作品が設置されたもう一つの空間が現れます。
画面内の空間は現実空間と位置的にリンクしていて、スマホ越しに、そこに設置された作品が見えます。カメラアプリ風の感覚ですが、なんだか不思議な気持ち悪さがあります。
画面はピンチアウトで拡大可能。でもスワイプはできない。
それでは、一つずつ作品を見てみましょう。
ちなみに、今回の展示、全作家が未発表作品を出展していたそうです。

まず、上の写真、手前の立体は、はいゆにさんという、陶芸作品を発表されている作家さんの作品。タイトルは「アンタイトルド」。
立体作品なんだけど、この鑑賞方法だと、反対側が見られなくて、気になるんだけど、そういう見えなさみたいなのも展覧会の重要な要素のような気がします。
その奥は、Ariana Huertaさんの写真作品。タイトルは全て「Untitled」。
主に、tumblr上で写真を発表されているアーティスト。

天井の作品もAriana Huertaさん。

右の青い平面作品は、川口貴大さん「#ネットの感じ」。
2011年頃にTwitter上で #ネットの感じ というハッシュタグと共に発表されていた写真シリーズだそうです。
川口さん、普段は音のなるオブジェクトや、身の回りにあるもの、光、風、などの要素で空間全体をコンポーズしていくようなパフォーマンスやインスタレーション、などを発表されています。

手前の風船とネットも川口貴大さん「ネットの感じ」。
その奥は、近藤さくらさんの作品「bt #1」
鉛筆やアクリルガッシュを用いたモノクロの平面作品などを発表されているペインター。

ちなみに、この展覧会、実際に作品の購入ができます。
オープニングの日に行ってみると、はいゆにさんの作品が売れていて、展示台に赤いシールが貼られていました。
実際、この赤いシールが、あるかないかで、展覧会のリアリティがかなり違ってくるように思いました。
単にバーチャルな展覧会ではなくて、物として実際に作品が売買された痕跡を見ることができたというのは貴重な体験でした。
実際、URLを知ってしまえば、作品はどこからでも見られるけれど(ucnv氏いわく、IP制限をかけるなどして、会場でしか見られないようにするとかも考えたが、最終的には制限はかけないようにしたらしい)、体験として、こういう赤いシールがある事とか、画面内の空間と実空間が微妙にズレてしまう気持ち悪さとか、前に人がいても余裕で作品写真が撮れることとか、ギャラリーに人が何人かいても同じ作品を見ているようで実際は各々の画面内の作品を見ている不思議な感じとか、ギャラリー空間特有の要素が関係して気づく事もいろいろありました。
あと、作家の選定については、ucnv氏が作品をみて、インターネット以降の感性を感じる作家に声をかけた、ということでした。インターネット以降の感性とは、具体的にどういう感じなのかという部分に関しては、直感によるところが大きいということでしたが、作家選定に関しては、企画者の独特の視点がにじみ出ている部分だなぁと思いました。
この展示でucnv氏が試みようとした事は、「ギャラリーという制度を破損させること」。そういう意味では、これまでやってきたグリッチの表現、つまり「既存のデータを破損させること」と本質的には同じということです。
ギャラリーという制度や展示を成り立たせている普段はあたりまえの要素を利用しつつも、大枠を破損させてしまうことで、想定内の鑑賞方法が不可能になってしまうのですが、それによって想定外の見方や考え方に至らせてくれる、そんな展示体験だったように思います。
ここで、会場に置かれていたucnv氏によるテキストの最後の部分を引用。
この展示は、作家と観客の双方にたいして、作品がよく見えないという過酷な状況を与えることになる。それだけでなく、私自身の展示設計者としての評価をも毀損するだろう。私はその評価によって後退する。そして後退とは、眼前の光景をより広く視界に収めるための振る舞いでもある。
ucnv
ギャラリートーク : ucnv × 水野勝仁トーク
7月25日(土)には、ucnv氏とメディアアート研究者・水野勝仁氏によるギャラリートークも行われました。このトーク、実際に行ってみると、会場に二人の姿はなく、展示同様vacant状態。ハングアウト越しに話す二人のトークを聞くというスタイルでした。


トークでは、出展作家の紹介、この展覧会で試みようとした事、展覧会に関連しそうな作品事例をあげながら、ポスト・インターネットの先にどういう可能性が考えられるか、などについて議論されていました。
以下、水野さんのサイトより
2015.08.05 追記
水野さんがこのトークを振り返っている記事の中で、本レポートを参照してくれています(ありがとうございます!)↓
自分的に、水野さんとのトークでの一番のポイントは、モダニズム的に(ぼくの意見としては、ほとんどのブラウザ的要素はネットドットアート期にモダニズム的に回収されているけど)ネットワークあるいはインターネットは十全に回収されていないのではないかという議論だった
— v (@ucnv) 2015, 7月 26
ということで、展示会期は終わってしまいましたが、次以降のSOBOの展示の時でも、ギャラリーの受付で聞けばURLは教えてくれるようなので、展示空間はvacantじゃないかもしれませんが、一応、Vacant Roomは鑑賞可能とのこと!
あと、作家さんがまだ作品売ってなければ購入も可能ということなので、もし気になる作品があれば、ギャラリーの受付をとおして問い合わせてみてください、とのことです。
見逃してしまった方はぜひ!
Information
SOBO 4th EXHIBITIONVacant Room
http://sobo.tokyo/
2015 7.17 金 – 7.29 水
会場:SOBO
東京都千代田区神田錦町3-20 アイゼンビル 2F / 3F
参加作家
Ariana Huerta
近藤さくら
川口貴大
はいゆに
企画・展示設計
ucnv
ギャラリートーク
7.25 土 [16:30-18:00]
ucnv × 水野勝仁(メディアアート研究者)