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"まち"のこと #03 with 韓 亜由美(ステュディオ ハン デザイン)

March 10, 2008
Shuzo Okabe
upsetters architectsの岡部修三によるコラム。第三回目はゲスト、アーバンスケープ・アーキテクト韓 亜由美さんを交えてのトークをお届けします。

これまで2回のコラムでは、カジュアルな事例と少し固めの事例を扱いながら、自分なりの意見を添えて "まちのこと" について考えるとは?と言うことを書いてみました。
今回からは、ゲストを交えてお話させていただく中で、さらに具体的に、"まちのこと"について考えて行ければと思います。
今回のゲストは、ステュディオ ハン デザイン主宰の韓 亜由美さん。
アーバンスケープ・アーキテクトと言う肩書きのもと、土木の領域、さらには工事現場など、これまで見逃されてきたような分野から、子どもの環境まで。現代の都市生活者のために常に新しいデザイン局面を開拓しつづける、その視点と原点についてお聞きできればと思います。



岡部修三(以下 岡部) :さっそくですが、まずは"アーバンスケープアーキテクト"という肩書きについて教えてもらえますか?


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Ayumi Han
韓 亜由美(以下 韓):私は、自分のデザイン活動を職域で分けるのではなく"都市"をテーマにしたいと考えています。
日々刻々と、どんどん複雑に変化している現代において、人が、都市生活者が、豊かに気持ちよく生きる、という環境を考え行動するためには、既成の概念では難しいと考えています。すでにある、縦割りの分類でついた名前には、私たちの活動は収まりきらないのです。
今と言う時代をリアリティーを持って捉えるためにも、「生活者がこの時代を、いかに、よく生きるか?」その生活の基盤の在り方をアーバンスケープという言葉であらわしています。
ですので、私たちがデザインの対象としている空間と言うのは、必ずしも建築的、土木的なことを指すのではなく、もっと前提から、プログラム的なことまでを含みます。空間をデザインする前に「場」をデザインすることなのだと思います。


岡部:なるほど。今回、韓さんにお話をお伺いしたかったのは、まさにそういったところで、"まちのこと"に関するデザインを考える際に、その対象、さらにはそのデザインと言う行為そのものに対しての明確な意志が感じられたからです。


韓:岡部さんも言われるように(対談前の雑談の中で)、"まちのこと"を語るときに、建築の切り口だけで語るのでは事足りないと私も思います。まちの中では、それぞれの3Dの箱である建築以外の空間ボリュームの方がずうっと大きいし、実際生活していても、交通・街路空間などと接する時間の方がかなり多い。普段、意識することなく見て見ぬ振りをしている、もしくは単純に都市のノイズとして捉えているような、既存の縦割りのジャンル分けでは名無しの空間も、都市の眠れる資源として(笑)デザインの対象であると考えています。


岡部:以前どこかの記事で、「イタリアへの留学で体験した、建築家=アルキテットが、資格やカテゴ
リーではなく、人工物すべて必要とされるものをデザインしていくと言う姿勢に、現在のジャンルレスな活動は大きく影響を受けている」と言うようなことを拝見しましたが、現在の韓さんの活動の特徴でもある土木へのアプローチのきっかけはどのようなことだったのですか?


韓:イタリアから帰国して、倉俣史朗さんの事務所で働いていたときに担当した、熊本の橋のリニューアルのプロジェクト(熊本アートポリス)がきっかけです。当時のクラマタ デザイン事務所といえば、アーティスティックなファッションブティックや、限られたおしゃれな人しか来ないようなバーなど、まさにカッティングエッジのデザインが多かったのですが、私が担当した橋と言うのはそれらと真逆で、老若男女、誰でも関わりがある日常の風景にある。当時、周囲のデザインバブル状況を目の当たりにして、それを疑問に感じていた自分にとって、それはすごく新鮮な体験でした。
その橋の計画は結局、私自身は独立するまでの2年間、クラマタデザイン事務所としては、少なくとも3年は関わっていたと思うのですが、幾度もの設計変更を経たにもかかわらず、土木の壁に阻まれデザインが実現すること無く終わりました。そのとき感じた、「こんなにデザインの必要性のある場所なのに、何もできないとはどういう事なのか。」と言う思いが、今の自分の活動の動機付けとなっているのかもしれません。


岡部:そういった土木、公共の仕事ということも含めた難しさなども、今日お聞きしたかったポイントです。そもそもデザインがこれまで関わっていない分野、と言うことだけでもその難しさは容易に想像がつきますが。


韓:土木の世界は、公開コンペも無いですし、マスターアーキテクト不在のまま、各設計段階で二転三転マニュアルで転がすと言うことすら普通です。デザインは単なるお化粧だと思っている業界ですから私の場合も前に道が出来ていなかったので依頼は無い。常に正攻法ではありますが、提案をし続け、仕事しながら考え続けている。そうした積み重ねで、ひとつひとつ成果を認知してもらい実績につなげてゆくしかありません。あとからきた人がその小路をさらに広げてもらえればいいと考えています。
そういう状況ですから、常に挑戦する意識で、前向きに、ハイテンションで持っていかないと何も進みません。これまで、数少ないながら、そんな前例の無い提案を受け止める、本当の意味で公共性に取り組まれている方々の理解に支えられて、いくつか重要なプロジェクトを進めることができました。共に仕事を進めるなかでは良い関係が築けてきています。しかし、現在の時勢もあり、残念ながら基本的には土木業界の守りの体質は強化されていると思います。
「建築」の方からは、領域を広げてくれていると評価されたり、意見を求められたりすることも多々ありますが、「土木」の方からの働きかけはまずありません。こちらから話を持っていっても、「あなたはデザイナーでしょ?土木はエンジニアの世界だから」と言われてしまうくらいで。


岡部:以前からホームページを拝見させていただいていて、プロジェクトの分類が非常に興味深いと思っていました。Structural-scape and Landscapeという分類があったと思うのですが、ランドスケープを考える際に、単純にイコール自然と言う切り口でない。冒頭の、変化する現代をリアルに捉えると言う話をお聞きして、すごく共感していましたが、実際にそれが戦い続けての結果と言うことをお聞きして、さらに強く共感させていただいています。


韓:そうでうすね。現代の生活において、道路などの人工物は、限りなく日常の風景だと思います。今の社会において、デザインの関わるべき領域と言うのは飛躍的に広がっていて、デザインは人の生活すべての局面を快適にする、良くするための行為と言うことは普通のことになってきていると思います。しかしながら、土木の世界はそこからまだまだほど遠く、大きな閉塞感さえ感じます。


岡部:先ほどの話と重なってくるのかもしれませんが、Sequenceという分類も興味深いと思います。


韓:シークエンスデザインと言うこと考え始めたのは、旧道路公団の「東京湾アクアライン」の設計段階の頃からです。独立して2年目の頃、このプロジェクトでは、はじめは、人を通じて紹介された担当者からの「トンネルの抗口(=出入口)のデザイン・パースを何案か描いてほしい」と言う依頼でした。当時、既に海上の橋梁部のデザインは景観検討委員会によって決定していましたが、10キロの海底トンネルについては、全く手つかずの状態でした。と言うよりは誰も意識していない。「え! 10kmの海底トンネルのハイウェイなんて世紀のプロジェクトなのに、その空間についてデザイン的考慮がなされてないなんて!片手落ちでは?」という思いで、自主的に「東京湾横断道路の走行空間デザイン」の企画書を作って提案をしました。
担当者レベルではたいへんポジティヴな反応を得られたことを記憶してますが、結局、前例が無いということで、評価の基準も明らかでないまま、抗口進入路の擁壁の一部が実現されるにとどまりましたが、私自身、これまで考える機会の無かった走行空間/速度を伴う環境のテーマを得るきっかけとなり、それが後のシークエンスデザインの考え方につながっています。


al1.jpg東京湾アクアライン 走行空間 al1


岡部:もう少しきかせてもらえますか?


P1020147mini%281%29.jpg
首都高速道路 大宮線/オプティカルドット
韓:モータリゼーションの成熟した現代において、「高速道路を走る」というのは、車という第二の身体を通して高速の中に身を置く、と言えるくらい日常的な状態です。ですから、道路空間というのは、ある種の居住空間といえるのではないかと考えています。先ほども少しお話ししましたが、現代は、身の回りのあらゆる事物がデザインされています。けれども、普段、例えば高速道路を走ったり、トンネルを通ったりするときに、非常に緊張したり、苦しい思いをして通っていることが多い。そうした状況をなんとか人を中心に置いた環境として改善できないかと思っています。
トンネルを速度をもって走り抜けると言うことは、空間と言うより時間を経験すると言うことなのではないのか?と着想して長年スタディーして来て、実践例もいくつかできました。


岡部:もう一つConstruction Sightについてお伺いできればと思います。ここに分類されているプロジェクトは、私自身、韓さんの活動を知るきっかけになったものも含まれていて、より広い方にとって取っ付きやすいものが多いと思います。まずは、個人的にすごく好みな、日本橋のプロジェクトについてですが。


nh1.jpg日本橋 Muromachi in Progress


韓:これは、日本橋に、三越の新館、三井のタワービルが竣工予定だった時期に、国交省の東京国道事務所で実施された計画で、地下道の整備工事に伴う地上部の仮設歩道の覆工板のデザインです。この時、劇的に、工事現場でのデザインの必要性を実感したのです。事業主、建設従事者、地主、店舗の方、通行者、すべての立場の人が共感し、高く評価してくれました。通常インフラ事業というのはきちんと出来て当たり前と見なされるものなので、たとえどんなに良い志を持った計画のために工事をしていても、まず誉められたりすることはありません。それどころか、ちょっと何か起こるとクレームの嵐。工事現場は必要悪として理不尽な怒りの標的にされがちです。ところが、この日本橋では事情が全く違った。この板は鋳鉄なので当然、赤茶色の錆びが出るのですが、天下の三越デパート新館前にもかかわらず全くクレームが無い。それどころか「本物はいいねえ」「工事が終わってもこのままに」「いい歩道を作ってくれてありがとう」とあちこちから誉められ、お礼を言われるという新展開を、現場の方達と一緒に経験できたのです。
このプロジェクトの成功で、土木事業の抱える矛盾と生活者一般からの認識のギャップに対して、デザインの力、可能性を大きく実感することができました。


岡部:新宿のサザンビートプロジェクトについても聞かせてください。


day1.jpg 新宿サザンビートプロジェクト


韓:縁あって、「新宿駅南口地区基盤整備事業」の一大工事現場の見学会に参加したのですが、10数年という長い期間、駅前の工事中、新宿駅の利用者に我慢してもらうと言う状況を、少しでもどうにか出来ないかと言うことで現場の建設担当者に相談を受け、最初は草の根的に提案してみることになりました。


岡部:このプロジェクトは、黒田潔さんのグラフィックが印象的ですが、その経緯を教えてもらえますか?


night1.jpg新宿サザンビートプロジェクト


韓:最初、空間を設定する建築的な提案も含めいろいろと検討しました。例えば、見晴し台をつくろうとか、仮囲いをカーブして並べて、ひとの溜まりを作ったり(一部は実現)とか。そういった経緯を経て、実現性等から、参加型の企画を組み込んだウォールグラフィック主体の案に落ち着きました。2005版から2007の現在までそのスタイルです。アートディレクションはタイクーングラフィックス、プランニングの方にも入ってもらい、議論を重ねながら、「新宿」という場所性、時代などをふまえて決定していきました。


岡部:個人的にこのプロジェクトは、場所や、状況に合わせた柔軟性が素晴らしいと思います。何でもかんでも自分の作品が出来ればと言うのではない、デザインに対する姿勢のあらわれと言うか。そういった都市的な視点と、この手の公共のプロジェクトには無いようなと言ったら怒こられそうですが、最終的なグラフィックの落とし込みの部分とのセンスのバランスとか、2006年には参加型へ展開したところとか。


韓:そもそも私自身、興味の対象は、オブジェクトではなくどこかで外の世界とつながって変化、展開していくような社会性があるものにあります。
なので、自分の好きに自由にデザインしていいよ、といわれてもその気になれない。やはり時代の要請、リアリティを求めています。ただ、そういう意味では、サザインビートプロジェクトは、社会的なコミュニケーションメディアと言う側面では、プラットホームが出来た時点でもう私じゃなくてもいいのでは?とも思っています。最近はwebサイトを作ったりして、同時進行で展開しようとしていますが、それこそ岡部さんとか、新しいネットワークの作り方と連動して盛り上げてもらうとか、、現場の壁から始まって色々な展開に拡がってゆければいいのでは、とも思います。


岡部:とても共感できますし、うれしいコメントですね。
最後に、今後の展望など聞かせてもらえますか?


韓:先ほど少しふれましたが、『新宿ID みらい篇』(www.shinjuku-id.com) というWebサイトを用意しました。近未来、2016年(工事竣工後)に新宿で新生活するキャラクター(加藤貴文くんという若いアーティスト作です)の日記的ストーリーのブログ、という設定です。非常勤で担当した法政大学の建築の学生達に近未来の新宿駅前をテーマにデザインしてもらい、その提案も掲載したりしながら、新宿の、自分たちの未来を、みんなで想像しようよ、ということを実践しています。

これは未だ妄想の域ですが、8年後に竣工するときに、新宿南口ターミナルのパブリックスペースのデザインが引き続きSHDの手によるものであってほしいなあと考えています。と言うのも、一般的に、こういう公共事業、特に大規模になればなるほど、はじめに設定された青図が10年とか20年、マスターアーキテクト不在のまま進んで、出来たときには致命的な時差があると言うことがよくあります。工事の間に、時差の無いリアルタイムの市民の声を吸い上げ、そう言ったものを折り込みながら、形に出来れば画期的だと思いませんか?実はそれを目指しています。


岡部:とても興味深いお話です。何かお手伝いできることがあれば是非、お声かけてください。


韓:そうですね、なにかと視点が共通する部分もありますので。


岡部:是非いろいろと相談させていただきます。
今日は、お忙しい中ご協力ありがとうございました。


(2008.02.26@ステュディオ ハン デザイン事務所)




ゲスト : 韓 亜由美(HAN Ayumi) /アーバンスケープ・アーキテクト

東京生まれ。 SHD/ステュディオ ハン デザイン主宰。
現代の都市空間と変化するヒューマンスケールやアクティヴィティーの関係性に注目し、デ
ザインの専門分野の枠を超えて活動する。都市規模のパブリックスペースから子供の環境まで、
現代の都市生活者のために常に新しいデザイン局面を開拓しつづける。

URL : http://www.studio-han-design.com/

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