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3. 対話とビジュアライゼーション

May 27, 2009
Mamoru kano
WOW/wowlabアートディレクター、鹿野護による連載第3回

「対話」

私の所属しているwowlabでは「Session」という新しいプロジェクトをスタートさせました。これは音の専門家と、映像の専門家が、一緒に作品を作るコラボレーションプロジェクトです。単純に作品を合作するだけではなく、お互いの創造性や考え方を共有する事で、表層的ではない、より深いレベルでの共同制作を目指しています。そして完成した作品だけではなく、対話も含めたプロセス全体を公開し、アーカイブしていく事を予定しています。

第一回目のSessionはスイスのアーティストAndrea氏。彼とは以前から何度かコンタクトをとっていたのですが、今回来日する事をきっかけにこのプロジェクトに参加してもらう事にしました。彼はコンポーザーでありながら、自ら国際的なイベントを企画する活動家。プリミティブなサウンド要素を何層にも重ねて、重厚な世界観を作り出します。そして何よりも制作の背景にある考え方が哲学的なので、対話は想像していたよりも濃いものになりました。

「ビジュアライザー」

実際の作品作りに関して我々がとったアプローチは、彼のサウンドをインスピレーションにビジュアライザーを作るというものでした。もともとwowlabでは実験的にiTunesのビジュアライザーを制作して公開しています(iTunes Visualizer)。これはQuartzComposerというAppleのデベロッパー用ツールを使用して開発したものです。ちなみにこのQuartz Composerは今回使っていませんが、ソースコードを書かずにインタラクティブなモーショングラフィックスを手軽に作り出せるエキサイティングなツールです。

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kano03_02_qc.jpg ビジュアライザーを制作するにあたって今回我々が心がけたのは、ビジュアルのジェネレーターを一つ完成させるというよりも、ビジュアルの要素をいくつも登録して、楽器のように演奏できるシステムを作り出すという事でした。なぜなら、このSessionは今回限りではなく長期的に展開していこうと思っているからです。今回参加してもらっているAndrea氏のサウンドのジャンルはエレクトロニカなのですが、クラシックやジャズなど様々な分野の音楽家との対話を予定しているのです。

「開発というデザイン」

そのためにフリーの開発環境であるProcessingを使用し、ビジュアライザーのプラットフォームを設計しました。具体的には複数のビジュアライザーを登録して、レイヤー状に重ね、選択して表示したり、シャッフルして表示したりできるアプリケーションを作りました。ビジュアライザーはProcessing固有のグラフィックスではなく、なるべくPure Open GLを使用しています。これは将来的にiPhoneアプリなど、どんな環境でも動かせるように考慮したためです。
kano03_03_processing.jpg



「表現における理想と現実のバランス」

今回の表現のテーマは「Soleil Rouge」。無から物質が生まれたことと、無意識から想像力が生まれることと重ね合わせ、エネルギーの衝突と拡散によって、様々な新しい関係性が爆発的に作り出される。というコンセプトでビジュアルを作っています。これはAndrea氏との対話から導きだされたもので、彼の哲学的な信念が色濃く反映されたものになっています。

ビジュアル制作の最初のステップはCinema4Dという3DCGソフトや、AfterEffectsなど通常の映像制作のツールを使ってビジュアルのプロトタイプを制作すること。これは関係者全員の視覚的な方向性を一致させるためには欠かせないプロセスですが、今回のようにプログラムでビジュアルを作る場合には、抽象的な作業が多くなるため、非常に重要なステップとなります。次に実際にプログラミングとなる訳ですが、ここで難しいのはリアルタイムに動かすために、表現力を犠牲にしなければならないという事です。プロトタイプは一種の理想像な訳ですが、その理想的な印象を残しつつも、省略できるところは徹底的に省略していく。何よりもレスポンスを最優先させながら、ビジュアルを調整していく事が重要です。

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「リアルタイム性がもたらす偶然性」

今回のSessionシステムは、音に反応しつつも、自動的にシンクロしすぎないように開発しました。そのため、ある程度手動の演奏に制御をゆだねるようにしています。また、演奏には大きく偶然性を作用させています。だから我々も相手も含めて、誰も予測できないビジュアルが次々と現れてきますし、そのときの音と映像の組み合わせは、一回限りということになります。手順通りだったり、音に順応しすぎたりでは、せっかくのリアルタイムのシステムを作った意味がなくなっていまいますから、ここはとても注意深く調整しました。

さて、この原稿を書いている時点は、まだ実際のデモンストレーションは行っていないのですが、AppleStore Sendaiで公開対談と簡単なデモンストレーションを行う予定ですので、我々自身も楽しみにしています。改めてこのプロジェクトを通じて感じたのは、ジャンルの異なる作り手と対話する事が、想像力の幅を一気に広げてくれるという事、そしてリアルタイムの映像制作が非常にエキサイティングであるという事です。ぜひ皆さんも機会があればトライしてみてはいかがでしょうか?

ちなみに今回紹介したビジュアライザーは、完成次第こちらの記事に追加しますので、少々お待ちください

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追記:

「想像を超えて」

アンドレアが来日して最初のミーティング。私たちはお互いの作品を見せ合いながら今後の方向性についてディスカッションしました。当初我々は、彼のエネルギッシュなサウンドに沿うように、密度が高く、敏感に反応するビジュアルを目指していました。しかし、彼がビジュアルに求めていたのは、一種の静けさでした。これはとても意外だったのですが、彼と直接話しているうちに、その方向性が理解できてきたのです。たとえばゆっくりと流れる溶岩のように、エネルギーを内包しつつも表面に露出しすぎないビジュアル。目に見えないエネルギーを「音」で感じるかのような作品。我々はこのような抽象的な作品の流れを、一つ一つ具体的に確認しながらコラボレーションを進めました。


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アンドレアが仙台にいる最終日。AppleStore仙台にて公開対談とパフォーマンスが行われました。これまでのプロセスや考え方などについて対談しつつ、一緒に作った作品をその場で演奏しました。

kano03_andrea02.jpg

ビジュアライザーのコントロールにはmonomeを使用。お互いのイマジネーションが衝突するかのような、まさにサウンドとビジュアルのSessionが生まれた瞬間でした。やはり予想のつかないコラボレーションは本当に面白いものです。それが予定調和に進まなければ進まないほど、自分たちの想像力が試されるからです。というわけで最近のプロジェクトの紹介でした。皆さんも是非このようなコラボレーション体験してみてください。



Session

Information

Sessionの紹介ページ
http://www.wowlab.net/index.php?ref=study-session

「Andrea Valvini×wowlabトークセッション」
会場:AppleStore Sendai
日時:2009年 5月29日(金)6:00 pm - 7:00 pm
仙台と東京に拠点を置くビジュアルデザインスタジオWOWの実験的表現ユニットwowlabが、音と映像の新しい関係を探る新プロジェクト「Session」をスタートします。第1回はスイスのエレクトロニカアーティストAndrea Valvini氏との公開対談です。気鋭の音楽家とデザイナーの真摯な対話にご注目ください。
http://www.apple.com/jp/retail/sendaiichibancho/

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