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1. 同図異時

February 23, 2009
Mamoru kano
WOW/wowlabアートディレクター、鹿野護による連載

「はじめに」

私はWOW(wowlab)という会社で、様々なビジュアルデザインに関わってきました。それは実写映像と3DCGのフォトリアルな合成から、ProcessingやQuartz Composerを使ったインタラクティブなプログラムアートに及びます。WOWという会社が始まって今年で12年目。時代とともにデジタルなメディアにおける表現もずいぶんと様変わりしてきました。私が仕事をはじめた当時は、個人でCG作品を作っているCG作家がもてはやされていましたし、ブロードバンドの普及とともにFlashによるWEB表現が一気に台頭したりもしました。最近ではますますメディアが分散化し、iPhoneなどのモバイル機器も表現のプラットフォームとして確立してきたのは、やはり大きな時代の流れの一つなのでしょう。

そういった流動的な時代の流れの中で、現れては消えていく様々な表現。しかしいかなる表現も、有史以来の表現者たちが作り出してきた表現の歴史との関連性ぬきには語れないでしょう。
そして表現は、人間の認知における前提や、文化的な慣習、そして科学的な技術と密接に関係し合っているのです。今回の連載では、そのような表現の裏側にあるキーワードをテーマに、私が考えている事を紹介していければと思っています。


「同図異時」


kano_01.jpg
MEGAHOUSEより 全体図


この作品は「MEGAHOUSE」という映像作品の全体像です。これは阿部仁史氏と本江正茂氏による「MEGAHOUSE」プロジェクトのナビゲーションムービーとして制作されました。MEGAHOUSEとは、都市全体を一つの巨大な「住まい」として成立させてしまうという、ライフスタイルおよび都市システムの提案です。

wowlabはこの作品で映像をモジュール化しながら全体を構成するという、実験的な映像制作を試みました。それぞれのコマに番号がついていると思いますが、この番号一つ一つがモジュールになっています。モジュールは10秒のループ映像です。全てのループ映像は右から人が入ってきて、左へ消えていくというルールで作られているので、1番の中にいた人は、あたかも2番に乗り移っていくかのように見る事が出来ます。

こちら実際の映像を見てもらえると分かりやすいかと思います。
http://www.wowlab.net/index.php?ref=works-megahouse-jp-movie

このモジュール化によって、映像の順番を並び替える事が出来ます。たとえば上記の3番と6番を入れ替えても、映像的には破綻が起きないのです。もちろんストーリー的には大きな変化が生まれてしまいますが・・。実際に完成間際になって、順番を入れ替えた方が分かりやすいのではないかと、いくつか順番を入れ替えたりもしていました。また全体のストーリーを拡張したり、縮小したりする事が、モジュール単位で可能になるのです。

kano_02.jpg
MEGAHOUSEより モジュール


さて、この映像の主人公は本来は一人です。一人のユーザーが「MEGAHOUSE」というシステムを使っていく過程を順番に紹介しています。しかし全体像を俯瞰してみると、それぞれのモジュールに主人公が存在しています。まるで主人公が10人いるように見えますね。

これは一種の「同図異時」的な表現でもあるのです。
「同図異時」とは異なった時間を一つの絵の中に描いてしまう手法の事です。一つの大きな背景の中に、主人公が重複して登場してストーリーが語られます。例えば主人公が怪物と遭遇する場面と、怪物を打ち負かした場面が一つの絵画の中に描かれるといった具合です。
これは昔の絵画や中世の絵巻によく見られる手法で、日本だと「伴大納言絵巻」内の「子どもの喧嘩」などがよく知られています。

「技術が押し上げた視点」

「同図異時」は一点透視法、写真、映画といった現実投射的なリアリズムとは異なった、より感覚的で体験的な現実感を表現しているように思います。なぜなら私たちの記憶は必ずしも時間通りに連続的に並んでいる訳ではないからです。認知科学の分野では、記憶は脳の中で関連する情報でつながれたネットワークになっていると考えられています。予想ですが、そのつながりは一直線ではなく、意味や時間を横断した複雑な網の目のようなものでしょう。

また、時間の流れや運動を彫刻で表現した「空間の中の連続性の固有の形」(未来派、ボッチョーニの作品) や、異なる視点を一つの画面に描き出した「キュビズム」なども「同図異時」的な表現のアプローチなのかもしれません。しかもこのような表現が生み出されたきっかけの一つとして、写真や映画の発明があるという点が、非常に興味深いところだと思います。

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wowlab : aphorism : time より

「技術」によって現実が正確に捉えられるようになった事が、「感性」の重要性を押し上げ、新たな表現へと繋がっていく。そしてその新たな表現は、インターネットやクラウドの技術によって新たな展開へ繋がっていくのでしょう。今私たち作り手は、そのダイナミックな流れの中にいるとも考えられます。偶然にも冒頭で紹介した「MEGAHOUSE」という作品のコンセプトは、ネットワーク時代における新しいライフスタイルの提案です。技術によって生活がどのように変化していくのかは想像もつきませんが、既に私たちの生活は「同図異時」的なのかもしれません。地球の裏側の人とチャットしながら、世界中の人にブログを公開できる時代ですから。

Information

wowlabのウェブサイトにて実験的表現を随時更新中です。
http://www.wowlab.net

Quartz Composerの本を作りました。
http://www.zugakousaku.com/index.php?ref=works-qc_book---jp

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