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2. 認知科学とビジュアルデザイン

April 1, 2009
Mamoru kano
WOW/wowlabアートディレクター、鹿野護による連載第2回

「認知科学とビジュアルデザイン」

ビジュアルデザインで重要なのは、「感性」と「技術」でしょう。ですからデザイナーは感性を磨くために様々な努力を惜しみませんし、その感性を具体化するために、難解な技術を習得しようと努力します。かくいう私も、なるべく多くの作品に触れて、目や感覚を養おうとしてきましたし、苦手なプログラミングにもなるべく触れていようとしてきました。 しかし最近、認知科学というものに触れてからというもの、ビジュアルデザインにはもっと「科学」が必要なのではないかと思うようになりました。人類全体に共通する法則を知る事で、感性や技術だけでは導きだせない、より正しいデザインが可能になるかもしれないからです。ということで今回は、私が興味を持っている認知科学のキーワードを紹介します。

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「電気の嵐」

脳の重さは体重の2%しかありませんが、心臓から送り出される血液のうちの20%をも消費します。また酸素も安静時でも20%消費するそうです。このエネルギーの消費量を考えただけでも、脳の中では非常に高度で複雑な処理が、休む事なく行われている事が想像できます。

実際、脳の中には1000億!ものニューロンと呼ばれる神経細胞があり、お互いに電気の信号をやり取りしています。そのやり取りは「発火している」「発火していない」という2進数の情報をつかって行われています。すなわち脳の中では0と1のデジタルな情報が、電気的に吹き荒れている状態ということです。この電気的でデジタルな処理が、私たちの曖昧で有機的、すなわちアナログな感覚を作り出していると考えると、とても不思議です。

「補間」

私たちの眼は様々な状況を瞬時に捉える、非常に精度の高いカメラだと思い込んでいました。しかし実際には解像度的にも、認識できる範囲としてもあまり高度なものではないようなのです。たとえば一度にピントを合わせられる範囲は非常に狭い事を知っていたでしょうか? ここで簡単な実験です。両手に文字の書いてあるものを持ちます。名刺のようなものだと分かりやすいかと思います。持ったら両方の手を伸ばして、右側の名刺に焦点を合わせてみてください。そして右側の名刺に焦点を合わせたままで、左側の名刺を読んでみてください。どうでしょうか、読めない事に気づいたと思います。

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信じがたい事なんですが、実は、一度にはっきりと見える範囲は非常に狭いのです。しかし、私たちは日常の生活の中で、もっと広い範囲、視野全体を把握しながら行動しています。そうでなければ日常の生活は危険に満ちたものとなるでしょうし、スポーツや車の運転なども不可能なはずです。では何故、全体が把握できるのか? 実は、脳が、狭い範囲の情報をいくつもつなぎ合わせて、広い視野情報を作り出しているらしいのです。ですから今あなたの見ている光景は、時間差があるパーツをパッチワークのようにつなぎ合わせて作られているという事になります。

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「前提」

上の図を見てください。2つの長方形がありますね。左側には上から下へ次第に暗くなるグラデーション、右側には逆に下に行くほど明るいグラデーションが塗られています。
当然のように左側の円は盛り上がって見え、右側の円は削られて凹んでいるかのように見えるはずです。あまりにも当然の事なので、疑問に思わないかもしれません。しかし実際には盛り上がっても、凹んでもいません。ですが、人間はグラデーションを見る事で、立体感を無意識に「見て」しまうのです。

これは太陽のような光源は必ず上にあるという事を、脳が無意識のうちに処理してしまう事が要因となっています。膨大な視覚情報を効率的に処理するために、脳が一種の前提的な処理を行っているのです。ですから左の円が実際には平らだったとしても、脳は盛り上がっていると認識してしまうという事になります。そう考えると人間の視覚認識は、怖いぐらいにアバウトです。しかしこのアバウトな処理を組み合わせて、解析に時間のかかるであろう奥行きの情報の把握を、瞬時に行おうとしているのかもしれません。

「UIデザインとの関連性」

このような前提を上手に利用する事で、我々ビジュアルデザイナーはより効果的な表現が可能になるのではないかと思います。実際、優れたデザインはすでにこのような前提を上手に利用していますし、時には前提を裏切ってインパクトを生み出しているのです。

例えばMac OS Xのインターフェイスのデザインは、以前のSystem 7時代に比べると非常に表現力が高いものとなっています。ウィンドウが落とす大きな影、アイコンに描かれているガラスのようなハイライト、そして床に反射しているかの表現。これらは表現だけを見ると過剰すぎるように思えますが、物体の重なりや、質感などの情報を、ユーザーに自然に把握させているともいえるでしょう。ここで重要なのはビジュアルのデザインが、装飾でありながら認識させるための重要な要素になっているという事です。

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「認知科学を知る事」

今回紹介したのは、広大ない認知科学の領域のごくごく小さなトピックスです。人間が無意識に行っている視覚や聴覚にかかわる興味深い処理は、数えきれないほどあります。その中には、これまで信じてきた事がひっくり返されるような面白い現象がたくさんあります。これを機会にぜひ認知科学の本を手に取ってみてはいかがでしょうか。私もまだ広大な領域の入り口に立っただけですが、この分野の知識は、これからの時代のデザイナーにとっては必須の知識になるはずです。

Information

・wowlabにて認知科学とビジュアルデザインの関係をテーマにした対談を公開中です。
http://www.wowlab.net/index.php?ref=study-behind-jp---link

・宮城県美術館にて「工場と遊園地」公開中。
http://www.wowlab.net/index.php?ref=works-factory-jp---link

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