7月にロサンゼルスで開催された建築・アート・デザインのクロスイベント
Little Tokyo Design Week 2011のレポートをお届けします。



日本に暮らす私たちであれば、海外で時折見かける間違った「JAPAN」の姿に失笑した記憶が誰しもあるだろう。お決まりの勘亭流フォントの漢字Tシャツ、KARAOKE、寿司ロール…。ロサンゼルス、ダウンタウン内に位置するアメリカ最大の日本人街、リトルトーキョーも例外ではなかった。この地の歴史は古く、1884年に日本からの移民が始まるも、第二次大戦時に全日系人が強制収容され、一時はゴーストタウン化する。終戦後に居住が再開されるが、今では日本語を話せる日系3世、4世は数少なく、ちぐはぐな「JAPAN」カルチャーが取り残されたままとなっていた。


だが、この夏、Little Tokyo Design Week(http://www.ltdesignweek.com/)と称する革新的なイベントが街の色を一変させた。UCLAの建築学科長・阿部仁史氏を発起人としてスタートした当イベントは、カルチャーによる都市の再興、LAと東京から新たな都市を想像・創造する試みとして「FUTURE CITY」と命名され、建築、アート、デザインをクロスジャンルに巻き込んだ画期的なイベントとなった。

この度、イベント内の企画展示に建築家・Open Aの馬場正尊氏とデザイナー・ASYLの佐藤直樹がキュレーターとして招待された。佐藤氏は当イベントのロゴも手がけ、3331 Arts Chiyoda名義代表として、森本晃司、エキソニモ、NOSIGNERのエキシビションを企画。前置きが長くなったが、筆者は同展示のコーディネーターとして渡米。およそ一週間で体験した超エキサイティングなLAトリップをお届けいたします。


メイン企画のひとつ、コンテナエキシビションでは、小さなコンテナに各クリエイターの作品や企画が展示された。会場2カ所のうち、我ら東京チームはNoguchi Plazaにコンテナ展示を展開。


[Media Art Box: DesktopBAM by exonemo]
メディアアートボックスのエキソニモ展示では、APMT6のカンファレンスでも上映された「DesktopBAM」のインスタレーションを展開。コンテナ内には一台のMac Bookが置かれたのみ。マウスが自動で操作され、デスクトップ上でライブが始まる仕掛けだ。今回はQuick Timeが起動し、レコーディングモードで勝手に周囲の音を拾ってリフレインしていくインタラクティブバージョンに。うっかりこの録音の瞬間に笑ったりしてしまうと、聞きたくもない自分の声が繰り返し響き渡るブキミな現場となる。


[Visual Art Box: Dimension Bomb by Koji Morimoto]
続いて、STUDIO 4℃の創設メンバーであり、「AKIRA」の作画監督などを務めた森本晃司氏(現在は独立)によるショートアニメーション「次元爆弾」。音楽にJuno Reactor、少女役の声優に菅野よう子という豪華コラボレーションが実現した当作品。森本監督の圧倒的な画力と壮大な世界観、五感を貫くように身体に響き渡る映像は、観るものを中毒的に虜にする。通りがかる人の殆どが足を止めるほどに人気を博したこのボックス。LAでも日本のアニメは人気だが、森本作品のようなアートの次元に到達した希有なアニメーション映像に、誰しも驚きを隠せない様子だった。



[Design Box: OLIVE by NOSIGNER]
“目に見えないものをつくる”をコンセプトに、プロダクト、建築、グラフィックと幅広い領域で活躍するデザイナー、NOSIGNER。彼が3.11震災直後に立ち上げたプロジェクト「OLIVE」をこの西海岸の地に伝えるエキシビションが展開された。

「OLIVE」とは、被災地でも作れる・使えるプロダクトアイデアのWikipedia。震災の数日後にウェブサイトをGoogleサイトで立ち上げると、瞬く間にアイデアが寄せられ、一週間も経つ頃には紙に印刷されて各地へ届けられた。今回はそこで紹介されたアイデアを実際に制作して展示。缶でできたオイルランプや、ジーンズのカバン、ペットボトルのランプなど、身近なD.I.Y.プロダクトが並んだ。「OLIVEは表現ではなく、超実用的なもの。表現をどんどんとそぎ落としていくことで、クリエイティブになっていく」と語るNOSIGNER。なにげなく訪れた地元のおばあちゃんたちにも人気を博していたのが印象的だった。ちなみに、「OLIVE」の書籍が9月1日防災の日に発売されるようなのでこちらもチェックしてみてほしい。


[Architecture Box : LA TOKYO HOUSES ]
LAと東京からそれぞれ10組の若手建築家たちの住宅模型が並べられた当展示。リトルトーキョーから徒歩15分ほどのところには建築の名門SCI-Arc( http://www.sciarc.edu/ )( 通称サイアーク )もあり、LTDW全体に建築関係者が多いこともあって、終始賑わいを見せていた。特筆すべきはLA建築のスケールの大きさだ。笑ってしまうほど巨大な面積の土地の上に建つ住宅は、日本のそれとは比べ物にならない。もちろん大は小を兼ねるばかりでもなく、日本特有のミニマルな建築も美しいが、この地が持つ雄大さと大らかさには羨みを隠せないのも事実。また、さまざまな文脈を取っ払って、非常にフラットな視点で建築を眺められる貴重な機会だった。

イベント最終日には、東京から馬場正尊氏、藤本壮介氏、LAからJoe Day氏、Christopher Hawthorne氏らによる「Environment in the future city」シンポジウムも開催され、二都市から見つめる建築のあり方や変遷が討議された。


ここからはさらりと紹介しよう。こちらは日本のサブカルチャーグッズを取り扱うショップ”Giant Robot”のBOX。実際に販売も行われていた。LAのグッズもあるようだが、基本的に買い付けは日本とのこと。ショップオーナーの若い彼は、互いに三茶のうまい店情報を交換するほどの日本通だった。



LAの地デジ化具合は知りかねるが、既に懐かしきブラウン管テレビが並ぶ不思議なエキシビション。大阪万博をテーマに、当時を振り返る映像が各々のテレビ画面にどこか寂しげに映し出されていた。大阪万博当時の「FUTURE CITY」と、2011年の私たちの「FUTURE CITY」は紛れもなく変わってきている。奇しくも今年のLTDWのアイコンキャラクターは鉄腕アトム。もちろんアイコンが決定したのは3.11以前なのだが、今では複雑な思いがまとわりつく。3.11以降の私たちが描く「FUTURE」とはなんだろうか?


LTDWは連日シンポジウムも開催。「THE METROPOLICE OF ME」と名付けられたシンポジウムでは、Sputniko!、Keiichi Matsuda、Jon Rafmanらによるトークを展開。それぞれ、身体と都市空間を拡張するメディアアート作品が紹介された。


東浩紀氏によるシンポジウム。日本の「OTAKU」カルチャーとその生態系のあり方、同質の消費行動によってもたらされる平等性などが討議された。




土曜日の夜には、広場に突如大きなスクリーンが出現し、PechaKucha Nightが開催された。出演者は合計48人。大御所の建築家が多数集結したことも見物だが、この異様な空間に多くの人が集まり、2時間程のイベントに終始プレゼンに聞き入っていた。

馬場氏、佐藤氏、NOSIGNER氏も英語でプレゼン。プレゼンラストには森本氏の超絶クールなアニメーション映像が上映され、喝采を浴びた。たった2分のアニメーションが夜空の下を駆け巡り、シャッターを押しながら鳥肌が立ったことはここに記しておこう。

ちなみに、見損ねてしまったがこの前夜には同じスクリーンで「となりのトトロ」が上映されていた。日本だと場所が限られてしまう野外映画館だが、こうして空と一体化して体験する映像にはまた違った趣きがあったに違いない。


さて、LTDWからは離れるが、会場と隣接したところに位置するMOCAで現在展示中の「Art In The Streets」がすばらしかったので記録しておこう。

写真ですべてお伝えできるかわからないが、まずこの巨大で大胆な展示空間に圧倒された。でかい、全てが異様にでかく、リアルだった。もちろん、グラフィティの聖地である西海岸だからこそ成せる技かもしれないが、こうしてストリートが現代アートに昇格したのはここ数年の話だ。





バンクシーの映画も公開されたばかりだが、最近ではストリート出身のアーティストの作品がアートの現場で高額で取引されるようになっている。だが、そんな考えも蹴散らすかのようなリアルさが、このカルチャーの本質を貫いていた。テンポラリーの展示とは到底思えないほどに緻密に構成された空間設計。汚れた自動販売機、落書きされたトイレ、浮浪者のマネキン、犬のおしっこ…、今にもスプレーを持った彼らの声が聞こえそうなほど、美術館の中に超リアルな「ストリート」が存在していた。



怒濤のように書いてしまったが、LAで感じた魅力をお伝えするにはまだ半分にも満たない。乾燥していて、年間350日晴れるというこの地は、どこかぽっかり穴が空いている。その穴は、自由と書くのはこっぱずかしいが、何でも受け入れてくれる健全さであり、常に気持ちのいい風が吹く場所とも言える。やたらと面積が広いので、何に使われているかもわからない空き倉庫やビルがごろごろ転がっていたりする。こんな場所で、一から何かを始めてみるのもいいかもしれない。そんな気分が脳裏をよぎる。

都会でローカル、どこか土臭くて、カラッとしている。切磋琢磨する日々から離れて、自分たちだけの新しいスペースを見つけ出す。なんて、クリエイティブにはうってつけの場所かもしれない。
そんな気がしたんだけど、クリエイターの皆さん、LAにラボを持つのはいかがでしょ?


Text by Arina Tsukada

Information


Little Design Tokyo Week
http://www.ltdesignweek.com/

会期:7/14(木)~17(日)
会場:リトルトーキョーシティ(ロサンゼルス)

【参加エキシビション】
Visual Art Box「Genius Party #5 ”次元爆弾”」
森本晃司
http://www.genius-party.jp/beyond/impacts.html#5

Design Box 「OLIVE – Open designs & ideas for earthquake survivors -」
NOSIGNER
http://www.nosigner.com/

Media Art Box 「DesktopBAM」
exonemo
http://exonemo.com/

Presented by 3331 Arts Chiyoda
Director:佐藤 直樹 (ASYL/CET/3331)
Curation&Coordination: 池田 史子 (gift_lab) /塚田 有那
Exhibit Design:後藤 寿和(gift_lab)
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Architecure Box「東京LA HOUSE」
Director:馬場正尊
東京・LAから各10名の建築家たちが模型を展示。