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4. 自動念仏機からトイカメラまで。 あるいはiPhoneアプリから考えるメタデザイン入門。

July 13, 2009
Yasuhiro Tsuchiya
ウェブプランナー、SLN土屋泰洋による連載第4回目、iPhoneアプリに関する話題。

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みなさまこんにちは。DOTS&LINES第四回です。前回の記事では、グラフィックデザインと作曲という、二つの異なる創作行為がコンピューターの中で行われるようになっていく中で、制作プロセスを観察し、ルール化し、システム化するという、同様の試みが行われてきた事を確認してきました。まるで、映像も画像も音も、すべてを等価に扱うことができるデジタルメディアの特性があぶり出されているようで、なかなか面白い現象ですよね。さて、今回は、前回最後にご紹介したBrian Enoつながりで、彼の提唱した"Generative Music"の最新型ともいえる、iPhoneを利用したソフトウェア『Bloom』から連想をはじめていきたいと思います。

Bloom

Bloom』はiPhone用に開発されたソフトウェアで、前回紹介した『Koan Pro』のように、一定のルールで音楽を自動生成させるソフトウェアです。どのようなものかは、この映像を見ていただくと解りやすいと思います。

Bloom - iPhone App by Brian Eno

ユーザーのインタラクションによって取得したパラメーターを、プログラミングされたシステムを通して、反復させながら徐々に変化させていくことで、アンビエントミュージックを生成しています。その様子は、ウィンドチャイムを最初に手で押してあげて、後は物理現象や風といった外的要因で勝手に音が鳴り続ける姿に少し似ていて、前回紹介したような、"Ambient Music"、そして"Generative Music"という思想そのものを、iPhoneアプリとして、コンパクトに具体化/結晶化させることに成功しているように見えます。

僕が最初このアプリを見た時に思い出したのは、『Buddha Machine』という不思議なガジェットでした。


Buddha Machine

BUDDHA BOX @ WINDOW

『Buddha Machine』とは、FM3という中国のアーティストによって開発されたアンビエント・ガジェットです。中国や韓国のお寺でお土産として売られている「自動念仏機」という、スイッチをいれるとお経がエンドレスに聞こえてくるという機械に、お経のかわりにアンビエントなループを埋め込んだシンプルなものです。

これは単体で見ると、まさに音が鳴るだけのガラクタのように見えるのですが、『Buddha Machine』が面白いのは、複数個同時に流した時です。同じループ、あるいは異なるループを流したとき、部屋の中で二つの音が複雑に絡み合うアンビエントミュージックを作り出します。前回もご紹介したBrian Enoのアンビエント作品、『Music for Airports』も、実は複数個の『Buddha Machine』を起動させたときと同じような手法でつくられていました。つまり、異なる尺の音素材を並走させることで、フレーズとフレーズが徐々にズレながらまざりあい、一定の音の雰囲気をたもったまま自動生成的にフレーズが展開されていくという手法が採用されていたのです。そう考えると、『Buddha Machine』もまた、『Bloom』同様"Ambient Music"という思想をデバイスとして具体化させたものといえるでしょう。

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*『Music for Airports』の図形譜面


こうした『Music for Airports』や『Buddha Machine』に見られるような、複数の音を平行させて音の干渉によって曲を進行させていくテクニックは、ミニマルミュージックの巨匠として知られるアメリカの作曲家、Steve Reichによって1960年代に提唱された「Gradual Shifting Proces(漸時的位相変異)」としても知られています。

Piano/Video Phase
*Steve Reichの代表作『Piano Phase』を使用した映像作品。原曲の構造が非常に分かりやすい


今回はちょっとした遊びとして、この手法を利用したアンビエント生成装置をつくってみました。

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http://www.slndesignstudio.com/ambient.html


このページには、Youtubeにアップした5つの映像が埋め込まれており、それぞれ4つの映像は異なる尺で、ループするように設定しています。5つのうち4つは僕がシンセサイザーでつくった音で、お互いが不協和音にならないようにする点だけ気にして、あとは適当にアドリブでつくってあります。5つめの映像は、キング牧師の有名な演説の映像です。これは曲に質感をのせるためにネタとしてのせています。ページをひらきっぱなしにすると音の重なり方が徐々にズレながら、ページを閉じるまでの間、延々とアンビエントミュージックを生成し続けるわけですが、それぞれ重なった音は尺が違うので徐々に位相がズレていき、また読み込み速度や処理速度といった外部的要因によってもゆらぎが発生し、ほとんど永久に近い期間において二度と同じフレーズは鳴らないようになっています。視聴者は自由に各パートのボリュームを調整できる。いつどの映像を止めてもよいし、ウィンドウ自体を閉じてしまっても良い。


Rjdj

『Bloom』が『Buddha Machine』と異なるのは、『Buddha Machine』のように、スイッチを入れる、切る、フレーズを選ぶといった単純な操作ではなく、タッチスクリーンを利用した自由度の高いインタラクションを採用することによって、生成する音楽に幅を持たせている点といえます。

ここで、iPhoneならではの特徴を考えてみると、タッチスクリーン、加速度センサ、環境光センサ、GPS、Wi-Fi、マイク、カメラといった、周囲の環境をセンシングできる多くの機能が搭載されていることがあげられます。

これらのセンサをフルに活用し、『Bloom』と同様に、"Generative Music"のアイデアをiPhoneアプリとしてパッケージ化したものの中でも「iPhoneでしかできないこと」をとことんやりつくしているiPhoneアプリが、『RjDj』です。

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http://rjdj.me/

RjDj The mind twisting hearing sensation.

『RjDj』が面白いのは、『Buddha Machine』にはなくて『Bloom』にはあった、「インタラクション」の部分を、iPhoneのセンサ群をフル活用することで、さらに拡張しており、"Generative Music"から、さらに一歩踏み込んだ"Reactive Music"という概念を提唱している点です。また、前回ご紹介した『Koan Pro』のように、単体のソフトではなく、ユーザーが開発したアルゴリズムを「シーン」として配布できるプラットフォームにもなっている点もユニークです。

配布されているそれぞれのシーンを見てみると、そこにはアンビエントに限らず、様々なジャンルの音楽を分析し、システム化されている様子を垣間見ることができ、とても面白いです。

World Quantizer

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http://rjdj.me/music/Roman%20Haefeli/WorldQuantizer/

マイク入力でアクセントのある音を抽出し、その音で自動的にリズムパターンを生成してくれるシーンです。シーケンスソフトなどではおなじみの、打ち込んだフレーズを補正してノリを出したり、逆にカチッとさせたりする「クオンタイズ機能」のリアルタイム版といえます。『World Quantizer』で実現されているような、生活音をサンプリングしてリズムを組み立てるという手法を作曲に取り入れているアーティストの一人にMatthew Herbertがいます。

Matthew Herbert - Scale Tour live in Toronto, Aug 25 2006

The Matthew Herbert Big Band - Turning Pages. Jazzaldia

上の映像ではMatthew Herbertが、空き缶の音をその場でサンプリングしてリズムを組み立てている様子や、ワイングラスを噛み砕いた音で演奏している様子がわかります。彼は他にも新聞紙を破った音やコップを叩いた音やガムを噛む音など...日常のあらゆる音をサンプリングしてハウスミュージック(まさに家の中の音をサンプリングした音でつくったわけですから文字通り「ハウス」ミュージックですよねw)をつくるという、一風かわったアプローチで有名なアーティストです。ちなみに、生活音を利用して音楽をつくる手法自体は「ミュージック・コンクレート」と呼ばれ、フランスのPierre Schaefferという人が1940年代に提唱した概念で、かなりの歴史がある手法です。今回は詳しくは掘り下げませんが、とても面白い試みなので、興味のある方はぜひ色々調べてみてください。

Musique Concrete
*1979年のBBCによるドキュメンタリーより


スケール
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Amen Shake

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http://rjdj.me/music/Roman%20Haefeli/Amenshake/

ドラムループを鳴らすタイミングをiPhoneの振動をトリガーにして変化させるシーンです。音楽にあわせて踊るとリズムも踊りにあわせて変化して、その変化にあわせて踊るとまたリズムが変化して...という音楽と肉体がリアルタイムにフィードバックしつづけるとても面白いシーンです。

このシーンの名前にもなっている「AMEN」とは、このシーンで終始鳴っているドラムループの名前です。このドラムループは、60年代に活躍したThe Winstonsというファンクバンドの『Amen Brother』という曲のブレイク部分のドラムソロがベースになっていて、ドラムンベースとかブレイクビーツと呼ばれる音楽では大定番のフレーズとして知られています。いわゆるドラムンベースと呼ばれる音楽は、このループを切り刻み、様々な組み合わせをすることで進行させていく手法をベースにしているものが多く、Amen Shakeは、まさにドラムンベースというアイデアそのものをパッケージ化していると言えるでしょう。

Video explains the world's most important 6-sec drum loop

*Nate HarrisonによるAMENをめぐるドキュメンタリー『Can I get an AMEN?』

他にも、マイク入力に複雑にエフェクトをかけることで、まるでMonolake(sample)のような複雑な音のテクスチャーを生成するEargasmや、Venetian Snares(sample)のようなハードコアなドラムンベースを生成するNoiaなど、様々な音楽制作のプロセスをそのままパッケージしたかのようなシーンが『RjDj』上で配布されています。

※こうしたiPhoneと音楽に関係について興味をもたれた方は、Dots&Linesでも連載をされている徳井直生さんが執筆されている『iPhone x Music : iPhoneが予言する 「いつか音楽と呼ばれるもの」』がオススメです。扱っているトピックの守備範囲が広く、かつ奥行きのある、とても面白い本だと思います。

iPhone×Music iPhoneが予言する<br/>「いつか音楽と呼ばれるもの」
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Toy Camera

次にご紹介するのは、『Bloom』や『RjDj』のような音楽アプリではなく、カメラアプリです。『Toy Camera』はiPhoneのカメラで撮影した写真を、LOMOやHOLGAといった、いわゆるトイカメラ風の絵に変換してくれるというものです。

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http://blog.artandmobile.com/2008/10/toy-camera/

こういったエフェクトを実現するフォトショップのプラグインや単体のソフトウェアは以前からありましたが、『Toy Camera』が面白いところは、iPhoneアプリという形をとることでソフトウェアがそのままプロダクトとして成立している点もありますが、今回注目したいのは、『Toy Camera』では、こうしたエフェクトのかかり具合が撮影の度にランダムに変化するという点です。つまり撮影する度に微妙に絵のトーンが変化してしまうわけです。


*Flickrに投稿された『Toy Camera』の作品例


*ちなみにこちらはLOMOの作品例。『Toy Camera』のシミュレーションの精度の高さが分かる

おそらくこのソフトの裏側には、プラスチック製レンズの生み出す独特の色合いや、ノイズ、ソフトフォーカス、トンネル効果、クロスプロセスといった効果を複合的に組み合わされるエフェクトエンジンがあり、撮影の度にこれらのエフェクトのパラメーターをランダムにすることでこうした機能を実装しているのだと思うのですが、これはまさに、上記の音楽アプリが行っているような、うまく言語化できていない「味」とか「雰囲気」という部分を観察し、ルール化し、システム化することによって、トイカメラのキモともいうべき「揺らぎ」そのものをiPhoneアプリとしてパッケージ化することに成功している事例といえます。


さて、今回は、前回の最後に書いた「プロセスの分析→ルールの発見→システム化」という考え方を下敷きに、いくつかのiPhoneアプリをご紹介してみました。こうして改めて、検証していみると、この考え方は、たとえばこういう言い方をすることもできるのではないかという気がしてきます。

いままで言語化できなかった「感覚的」なものにテクノロジーとロジックの光を当てることで、その魔術を解き明かし、誰もが再現可能なシステムとして再現すること。

身体的な行為の中に、圧縮された形で理論が埋め込まれている。自然言語に言語化されていないだけで、いわば構造化された知性がそこにはあるはずである。それを示すことによって、デザインという行為のブラックボックス化した技芸の世界を開き、伝達可能なものにしていくことができるのではないだろうか。デザインとは、直感的なひらめきをそのまま形に翻案することではない。絡み合った無数の問題を解いていくことを通して形を生み出していくプロセスこそがデザインなのだ。

-『デザイン言語を導入する』後藤武


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そのプロセスこそがデザインであるとすれば、そのプロセスを記述するプログラマーはデザイナーであるし、逆説的にデザイナーはある種のプログラマーであると言うこともできます。もちろんこれは単なる言葉遊びにすぎません。しかし、コンピューターを使用した創作活動においては、少なからずこういった側面があることを意識することが、ジョン前田の指摘するような、デザインという行為が特定のソフトウェア操作の組み合わせで終止してしまっているという状況から踏み出すための第一歩かもしれません。

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