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3. モーツアルトのサイコロ遊びからOval Processまで。あるいは音楽をつくるためのいくつかの方法について。

May 22, 2009
Yasuhiro Tsuchiya
ウェブプランナー、SLN土屋泰洋による連載第3回目、ジェネラティブ・ミュージックについての話題。

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みなさまこんにちは。DOTS&LINES第三回です。前回に引き続き今回も様々なコンテンツを数珠つなぎで紹介しながら、アレコレ考えてみたいと思います。


Markus Popp (Oval)『Oval Process』

前回の記事の最後に、立花ハジメの『信用ベータ』という作品を紹介しました。彼自身の作品を作るプロセスそのものをソフトウェアとしてパッケージ化してしまうことで、誰でも「立花ハジメの作品」がつくれてしまうというものでした。これは、ジョン前田の「デザインが特定のソフトの操作の組み合わせになってしまった」という指摘を思い起こさせます。『信用ベータ』はグラフィックデザインの世界の話でしたが、視点を変えて音楽の世界を見渡してみると、Ovalの名前で知られるドイツの電子音楽化Markus Poppというアーティストの作品が、これと非常に似たアプローチをしていました。彼の手がけた音楽は、例えば、こんな感じです。

Oval: Textuell

Ovalは、CDの盤面にサインペンで落書きをして→無理やりプレイヤーで再生→読み取りエラーによって発生するデジタルの音飛びノイズをサンプリングし→それらをコラージュして曲を構築するというユニークな手法で注目をあつめたアーティストです。(余談ですが、本人にサインを頼んだら、CDの盤面にマジックペンでサインされたという逸話を聞いたことがあります・・・笑)

今回注目したいのは、彼がその作曲手法を、そのまま『Oval Process』というソフトウェアとしてパッケージ化してしまったことです。具体的には彼が制作した大量のオーディオファイルを格納したデータベースと、それらのオーディオファイルをリアルタイムにコラージュすることができるエディターからなるこのソフトウェアは、インスタレーションとして公共のスペースに展示されたり、ゲームソフトとしてマーケットで流通させたりすることを前提にしており、誰でもOvalの音楽できる状況を作りだそうとすることを目指して制作されたものでした。

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※現在Oval Process自体はウェブで触れる機会は無いのですが、Oval ProcessのGUIを開発したRichard RossのサイトにOval ProcessのチュートリアルFlashがアップされています。また、Audible Realitiesの永野哲久氏がOval Processのクローン『Moval Process』のベータ版を公開しています。

Oval Processに関するOvalの発言を色々と調べてみると、非常に面白いことがわかります。

「ソフトを使って音楽を作ると、クリエイティヴィティの余地というのは狭くて、実際はソフトの中でナビゲートしているだけなんだ。<中略>彼らは、音楽が、自分たちのクリエイティヴィティによって生まれたと説明するけど、大半は、特定のソフトから生まれた予測しやすい結果でしかないんだよ。ソフトが、全ての音楽作品の形を左右しているという、悲しい状況なんだ。ソフトに頼っているのに、ソフトが持つその重要な役割についてみんなは語らない。だから、ソフトを作りたいと思ったんだ。」

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これは前回とりあげた、コンピューターを使用したデザインにおける、ジョン前田の指摘とまったく同じということが分かると思います。特定のソフトウェアに縛られている以上、制作物は結局そのソフトの操作の組み合わせにしかならなず、そのドグマから脱するにはプログラムをつくるしかない。

「僕はこの音楽を作っているけど、決してこの状況をコントロールしている訳ではなく、あるシステムを操作しているんだ」-同上

前回の記事でGenerative Designという考え方について、「美しい作品」そのものではなく、「作品を生成するためのシステム」に注目するという考え方であると書きました。Ovalの言う「システム」とは、まさに音楽側からのGenerative Designへのアプローチといえるのではないでしょうか。

このように、音楽の世界に目を向けてみると、 Generative Designと同様の発想が、実は音楽の歴史上数多くあることに気付きます。今回はこうしたGenerativeな音楽に焦点をあてつつ、連想を展開してみたいと思います。


モーツァルト「音楽のサイコロ遊び」

特定のプログラムを走らせてグラフィックを自動生成するように、何らかのルールを設定し、実行することによって様々なバリエーションの音楽が生成される...こうした「Generativeな音楽」の最古のものに、モーツァルトによる『音楽のサイコロ遊び』というものがあります。

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これは、二つのサイコロを振ることによって、モーツァルトが用意した複数の曲のパターンを組み合わせて曲を完成させるゲームです。各パターンはどんな組み合わせになっても破綻がしないように工夫されており、適当にサイコロを振ってつくられた曲でも「それらしい曲」に仕上がるように設計されています。(※こちらのサイトの方が、実際に「音楽のサイコロ遊び」の譜面を利用して作曲をしていてとても解りやすいです)

モーツァルト 音楽サイコロ遊び 解説付

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ビバップ

1940 年代初頭からジャズミュージシャンの間から生まれ、モダンジャズの始まりとして位置づけられる「ビバップ」と呼ばれるムーブメントもGenerative な音楽の例としてあげておきたいと思います。一言でいえば演奏の中でアドリブ(インプロビゼーションとも呼ばれます)の部分が拡張された、ある種のスポーツのような音楽です。

Charlie Parker & Dizzy Gillespie

John Coltrane Quartet - My Favorite Things

アドリブといっても、もちろんめちゃくちゃに演奏しているわけではありません。上の映像を見てみても、まるで言葉をしゃべるように次々に音が出されているのだけれども、単純に不協和音がジャーン!という感じではありませんし、形は変わっているものの、元が何の曲かということがわかる範囲になっていると思います。

このようなアドリブができる仕掛けとしては、演奏者同士が曲の骨組みであるコード展開を共有していて、コードというルールの上でそれぞれが思うままに変化をつけることで、楽曲が破綻しない範囲内で、その時限りの演奏をリアルタイムで生み出しているわけです。これは、20世紀に入り、音楽が旋律(メロディ)と和声(コード)に分けて分析できる理論が発明されたことで生まれた、ある種のGenerativeな音楽であると言えます。


John Cage『不確定性の音楽』

Generativeな音楽を考える時にもうひとつ重要なのが、アメリカの現代音楽家John Cageが提唱した「不確定性の音楽」(偶然性の音楽/チャンスオペレーション)というコンセプトです。それまでの音楽(ここでは主にヨーロッパのクラシック音楽を指しています)とは、作曲家が設計した譜面を、音楽ホールで、譜面通りに再現するという、作曲−演奏−聴取という音楽の伝達過程が一定に保たれていることが前提でした。ケージの提唱した「不確定性の音楽」とは、この一辺倒な作曲−演奏−聴取というプロセスの中に偶発的な要素を挟み込むことによって、「音」そのものを、より自由なものに解放するという思想でした。

ケージが不確定性の音楽のコンセプトを提唱したのが1950年代。ビバップがアンダーグラウンドで盛り上がっていたのと同じ時期の、しかも同じアメリカでの出来事というのが面白い偶然ですよね。

上で紹介した「音楽のサイコロ遊び」は「作曲」のプロセスに偶発性を介在させた事例だといえますし、ビバップは「演奏」のプロセスにアドリブという偶発性を介在させた、いずれも「不確定性の音楽」といえるでしょう。

ケージ自身は、コイントスによって譜面に書く音階を決めたり、譜面についたシミをそのまま演奏したり、複数台のラジオを操作して演奏したり、様々な試みを展開します。そういった一連の試みの中の一つ、ラジオをつかった作品を見てみましょう。

JOHN CAGE SPEECH RADIO5

映像を見るとわかるとおもうのですが、演奏者は常に時計を見ています。実は一見めちゃくちゃな行動をしているだけのように見えるこの作品にも、ちゃんと「譜面」があります。奏者は決められた秒数キッカリにラジオのダイアルをまわしたり、ボリュームダイアルをまわしたり、演奏会場をうろうろしたりします。(ちなみにその秒数などの指定はすべてコイントスによって占われたものです)もちろんラジオなのでその時によって放送されている内容は変わりますし、音源が動くので音の聞こえ方もその時々によってどんどん変化するわけです。これは、譜面によって100%コントロールすることができない、偶発性があえて高くなるように計算された音楽といえます。

そして、ケージの作品の中で最も有名なのが、『4分33秒』でしょう。

John Cage "4'33"

これは、4分33秒の間、演奏者が何も音を出さないというものです。(譜面には3セクションに分けて「休止」とだけ書かれています)身もフタもありませんが、不確定性という点で見てみると、困惑する聴衆のざわめきがおきたり、怒って大声を出す人もいるかもしれない、今だったら突然携帯電話が鳴り始めるということもあるかもしれません。そうしたコンサートホールの中で発生する音/出来事=ハプニングをすべてを音楽として取り込んでしまうという、究極の「不確定性の音楽」というコンセプトの作品です。

この「不確定性の音楽」のコンセプトによって、作曲家の立ち位置は拡大され、単に音階の配置やパターンを決める人ではなく、「偶発的な美しい瞬間を生み出すためのルールを設定する立場」でもあり得るようになります。偶発性を作品の一部として取り込むこと。これはGenerative Designにおいてグラフィックの生成に乱数や外部からのパラメーターが用いられたように、Generativeな音楽というものを考える上で重要なファクターとなります。


アルゴリズミックコンポジション

さて、ここまではあくまで人間を中心にして、何かしらの「ルール」を介して音楽を生成する試みを紹介してきました。80年代にコンピューターサイエンスの分野が活発化すると、こうした自動生成的な音楽の「ルール」の部分をプログラムにして、コンピューターに自動的に音楽を生成させるとどうなるのか、「アルゴリズミックコンポジション」と呼ばれる試みが多く行われるようになりました。そうした試みの一例を紹介します。

sln03_03.jpgWolfram Tones

セルオートマトン研究で知られるStephen Wolframによる(最近Wolfram Alphaという検索エンジンをリリースして話題になった人物と同じ人物です)、セルオートマトンによる自動作曲システムです。どうやらセルオートマトンを使ってピアノロール(譜面)を生成しているようです。面白いのは、クラシック、ロック、ポップ、ジャズといったジャンル別にパラメータセットが用意されていて、クリック一つで無限のバリエーションが生成されるのですが、それぞれ生成される音楽が本当にソレっぽくなるのがすごい。ジャンルに関係なく様々なパラメーターを操作してボーダレスな音楽を生成することもできます。

sln03_04.gifM

MAX/MSP の開発者の一人であるDavid Zicarelliが開発したソフトウェアで、曲を構成するパラメーターを設定すると、設定の範囲内で、リアルタイムにバリエーションを生成してくれるという自動シーケンスソフトです。ミュージシャン同士がセッションをするように、テンポやコードといった基本的な情報を共有すると、コンピューターが自動的にジャムってくれるというわけです。

ちなみに、このソフトをリズムセクションとして使用することで知られるユニット「東京ザヴィヌルバッハ」のライブパフォーマンスはこんな感じです。かなり不思議なグルーヴ感が出ていて面白いです。

TOKYO ZAWINUL BACH : LIVE

アルゴリズミックコンポジションという点に着目したソフトウェアとしては、他にもCAMPSをはじめ、様々なソフトがありますが、基本的に楽曲制作の中のすべてのプロセスを自動化してしまおうというよりは、あくまで既存の音楽制作のプロセスの中に特定のアルゴリズムや偶発性を介在させて自動化する、という側面の強いものでした。

sln03_05.gifKoan Pro

1998 年にイギリスのSSEYOという会社(現在はIntermorphicと名前を変えています)によって開発されたKoan Proは、ここまで紹介してきたアルゴリズミックコンポジション系のソフトとは明らかに毛色の違うものといえます。今までの作曲ソフトのような、決まった尺の中に音階を配置していくというものではなく、一定のルールを設定すると、プログラムが止まるまで、永遠にそのルールに準じた音を奏で続けさせることができました。つまり、ルール(アルゴリズム)そのものを音楽としてパッケージすることができる仕組みだったわけです。

例えばCDに曲を収録する事になれば、必然的に無限のバリエーションの中のうちの任意の数分を切り取らなければいけませんが、Koan Proのファイルで発表してしまえば、プログラムを走らせてしまえば、アーティストが意図した音が永遠に生成されていく、まさにGenerative Musicといえます。


Brian Eno『Ambient Music』『Generative Music』

イギリスの音楽家、Brian Enoは1970年代後半に、生活の中に空気のように漂う「雰囲気(アンビエント)」としての音楽というコンセプトで「Ambient Music」(アンビエント、環境音楽)という言葉を発明しました。「雰囲気としての音楽」とは、例えばこのようなものです。

Music For Airports

Music For Airports (Side 2 Part 2)

たゆたうような、遠くから聞こえてくる風鈴のような音楽ですね。ここで注目したいのは、この曲の始まりと終わりのなさです。通常の楽曲のように導入があってAメロに入って...という構造は存在せず、ひたすらゆっくりと雨音のように音がポロポロと鳴っていく。どこから聞き始めても均一なムードがあり、リピート再生して何分続いても違和感のないような印象になっていると思います。

Ambient 1: Music for Airports
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Koan Proの開発者であるTim Coleは、こうしたイーノのAmbientの思想/作品群にKoan Proの着想を得たと発言しています。そして、イーノは、Koan Proを使用して、ズバリ『Generative Music』という名前のシリーズをKoan Pro用のファイルという形式でリリースします。思想とソフトウェアがぴったりと合致した瞬間といえます。

「Generative Music(その場で生成される音楽)と呼ばれるようなタイプの音楽は今までにもすでにいくつかありました。しかし、それらは限られたごく一部の範囲でしか存在していませんでした。風によって音を発するウィンドチャイムもその一例ですが、この場合作り手が演出できるのはそのチャイムを選ぶ(音を決める)だけです。しかし、最近シンセサイザーやコンピューターのポピュラーな進化から枝別れして、こうした分野でも色々とユニークなツールが誕生してきています。 SSEYOのKoan Softwareはその中でも最も興味深いものの一つで、風がウィンドチャイムを即興演奏するようにコンピューターが即興演奏を受け持つのですが、演出のためのパラメーターはおよそ150にも及びます。

私はこのシステムを来るべき新時代の音楽の象徴ととらえています。100年前までの音楽では、録音というものがありませんから演奏は実際にその場で楽しんでいました。それらは決して2度と繰り返されることのないはかないものであり、記譜も完全に正確な再現を約束するものではありませんでした。それが畜音機の発明とともに、ある1度の演奏が何度でも繰り返し正確に再現されるようになってきました。

しかし、現在私たちには以下の3つの選択があります。Live Music(ライブによる音楽)とRecorded Music(録音された音楽)とGenerative Music(その場で生成される音楽)です。Generative Musicは今までの歴史に恩恵を受け、両方(Live&Recorded)のいい部分を楽しめるものです。いつでもどこでもあなたが聴きたい時、聴きたい場所でそれを聴くことができます」

-Brian Eno http://www.eyesmusic.jp/pc/GM1.html

A year
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前回と今回を通してみてみると、グラフィックデザインと音楽という、二つの異なる領域から同様の試みが行われてきたことがわかると思います。それはつまりこういうことです。

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「プロセスを分析」し、「ルールを発見」することで、それを「システム化」することが可能になる。

これはデザインや作曲に限らずコンピューターを使った創作活動において、非常に重要な思想であると考えています。

さて、次回こそ(笑)Koan Proのコンセプトのアップデート版とも言えるBrian Enoの手がけたiPhoneのアプリケーション『Bloom』をとりあげながら、iPhoneの話へと話を移していきたいと思います。それでは次回もお楽しみに!

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