アートに関することばかりを連載するこのRED one PRESS連載コーナー。
今回は第1回の自己紹介に続き、アーティストのスタジオビジットをお届けします!
スタジオを公開してくれたのは、MASHCOMIXメンバーとしても活動し、アニメ、マンガカルチャーを取り入れ様々なかたちで作品を発表するFANTASISTA UTAMARO。
先頃個展を開催したばかりで、RED one PRESS ARTIST LISTにも参加している注目のアーティストのスタジオ訪問です!
作品を生み出す場所、作家が時間と労を費やす場所として、単に作品を見ることとは違った視点からアートに触れようというこの企画。
代々木上原にあるスタジオにて、部屋の中をあれこれと見せてもらいお話を聞かせてもらいました!
RED one PRESS(以下R):
ではまず、ここを普段どのように使っているかということから聞かせて下さい。
FANTASISTA UTAMARO(以下F):
ここは写真家の友人とシェアして使っているんですけど、実は僕の自宅はここの隣室なんですよ。なので寝食、打ち合わせ以外の時間はほぼこのデスクにいます。
メインの集中時間は午後~夜で、朝早く起きて仕事をするケースは少ないですね。夜からそのまま続けて作業することは週3日くらいはありますかね。毎日だいたい15.6時間は机にいるんじゃないかな。
体力が持たないんで、睡眠はところどころ挟み込んでとるようにしています。
割とインドアなのでほとんど外に出ないんですよね。外出はコンビニかなか卯がメインで。あとはたまに文房具屋に行くくらいですかね。
なか卯は個人的にはアーティスティックな空間という認識があって、なかでもお店で流れるテーマソングが秀逸で、それを聞きに行くためによく通っています。
「なか卯っで♪、なか卯っで♪、うどんを食べ~よおおオンオンうううむうううン~。」
はじめて聞いた時は、衝撃でした。ミステリアスです。
ここ最近のイチバンの楽しみは、仕事が落ち着いたあと麦とホップを飲みながらアニメや映像(早朝の高齢者向けのテレフォンショッピング)を見ることですね。
他には最近自転車をつくったんで、たまに自転車でわざとちょっと遠いオリジン弁当へ行ったりもします。
R:なか卯がアーティスティックな空間...ちょっと気がつかなかったですね。(笑)では最近はここでどんな仕事を?
F:今は結構激しいですね〜。
PV2つと、時計のデザインと、CDジャケットの制作と、あとレコード会社のウェブに提供するデザインと、5月にクアラルンプールの国立美術館での展示もあって...、あとは作品集の制作も進行中です。
ちょっと最近は忙しくて日々テンパってる感じです。
アニメーションとかすごく好きなんですけど、僕はほとんど独学でやって来てるんで分からないこともかなり多いんですよね。専門用語とかあんまり知らなくて、このあいだ打ち合わせの時、流背、流背って言ってて(背景が流れる事を言うんですが)、僕はずっとユーハイムっていうバームクーヘンの有名なおみやげ系お菓子メーカーの事だと勘違いとかしちゃってました。。コーハイム。
まぁそんなんで泣きそうになりながら頑張ってます!
R:映像も絵の仕事もほとんどここで完結出来る感じですか?
F:そうですね、もうほぼここで。絵を描くのも映像に関する仕事だったりっていうのも。
R:基本的に作品は手描きで?
F:手描きですね。最近はタブレットで描くことも多くなってきてはいるんですけど。これすごく感度も良くて。すごい"寄り"で見ても線が綺麗に描けるんで。
鎮座ドープネスのPVとかは全部これでやりました。
例えばチームでやるような仕事をここ以外の場所でやることはあるんですが、そういうのはこのタブレット持っていったりしてやってますね。現在進行中の、HIFANAのPV制作とかも。
最近illustratorのブラシにもハマってるんですよね、すごく面白くて。僕は手法にしても文化にしてもいろんなものをミックスして懐かしいのに新しい、みたいな面白いものが出来ないかなって思ってますね。
どっちが好きかって言えば手描きの方が好きですけどね。
R:制作にかかる時間なんかはどれくらいですか?
F:PVとかは1〜2ヶ月くらい掛かりますね。自分で手を動かして作る時とディレクションのみって場合でもかなり違ってきますけど。
テキスタイルだと丸1日とかで出来るものもあれば数日かかるものもあって。
勿論全部やる内容によって変わってくるって感じですかね。
R:UTAMAROさんはお店の内装で絵を描くことも多いですよね?
F:そうですね、結構やってますね。
例えばこれはCOLOR BARってとこで描いたやつで、(もうお店はないんすけど 涙)
深夜のテレビ画面に映るカラーバーってあるじゃないですか?あのカラフルなやつ。あれを使って何か出来ないですか?って話になって、「それならカラーバーの宇宙人みたいなのを描きましょっか」ってことで描いたんですよね。
それでこれはTOKYO BARってとこの内装ですね。
これはMASHCOMIXでやったやつなんですけど、ここは電飾とかもかなり使ってドンドコドコドコ、ド派手な感じで。
この「ド」の電飾だけで3mくらいあってかなりド・デカイんですよ。ちなみにこの「ドゴォ」とかはもっとデカイっすね。ここは天井も高いし壁も大きいので実は写真で見る感じよりもスケールがかなり大きいんですよ。
あとは、これは割と最近やったやつで代官山のMってお店の内装ですね。
これは一人では骨が折れる作業だったので、友達何人かに手伝ってもらってやりました。
こんな感じで黒のラインがMって文字になってるんです。
Mの内装は3ヶ月で更新されるからもう僕の絵はないんですけど。(涙)
で、これは秋葉原のDEMPAビル(ディアステージ)ってところのステージです。
ここは秋葉原が世界に誇る(僕はそう思ってます)空間なんですが、この一階にあるステージでディアガールズ(ディアガ)っていうアイドルのライブが毎日行われているんですね。
この間1月から池尻のPUBLIC IMAGE 3Dでやった自分の個展(「COUNTERSTOP」)があったんですけど、その時も懇願してディアステージのアイドル、でんぱ組.incとうさぎのなみ平さんにライブして頂きました。
R:それじゃその個展についてちょっと聞いていきましょうか。
F:「COUNTERSTOP」は1月の終わりからPUBLIC IMAGE 3Dで2週間ちょっとやった自分の個展で、"無限増殖"っていうのがテーマでした。
自分の絵とか柄をテキスタイルに落とし込んで、そのパターン化された絵や柄が無限に増殖するっていうもので。
テキスタイルの量産出来て柄も無限増殖するってことが今の時代っぽくて面白いと思ったし、絵的な解釈でパターンをやってみたら面白いかなって。
R:この花環はその個展で作ったものですよね?
F:そうそう、この花環って新装開店とかそういうおめでたい時に送るじゃないですか。自分で作った花環を自分のお祝いために送るみたいな、ちょっとしたギャグっぽく作ったものなんです。(笑)
花環って日本の中でも強烈に謎な文化の1つだなっていうのが僕の中であって、そこでテディベアとかつけたらちょっと頭おかしい感じになりそうかなって。妻に花環つくんなよって言われたからつくったのですが。(笑)よくわかんないものにこういうのをくっつけて更にカオスっぽくなるっていう感じで。これ結構お金かかっちゃいました。10万くらいは。。。LEDの会社や、ぬいぐるみの会社さんなんかにもかなり助けてもらいながら。。
日本の超ド派手なところってあるでしょ?神輿とかもそうだし、花環にしてもそうだし。そういうの好きなんですよ。言葉とか無しに元気が出るんです。
それと一緒に作ったこの体操服なんかはgalaxxxyさんという今注目のファッションブランドと作りました。ディアステージとギャラクシーとのコラボレーションでやらせて頂きました。実際体操服を着てもらってライブをして頂いたんです。
東京的カオスカルチャーみたいな、例えば秋葉原の文化は、世界的に見ても最たる象徴で、すごく興味深いですよね。そういうものをミックスして何か面白い展開を出来ないかなと思って、何か化学変化のきっかけになれればと思って、がんばりました!
R:自分の作品をテキスタイルに落とし込むっていうのはどこから?
F:僕はもともと大学の専攻がテキスタイルだったので。はじめはそこからなんですけど、テキスタイルって衣食住のどの場面でも人との繋がりが強くて、生活に対してすごく根深いじゃないですか。で、布だと何となく服にするみたいなことが多いように思われるかもしれないけど実はかなりいろんな道があって、例えば家具にしてもそうだし、雑貨やら何やらって布はすごく使い道が多いから面白いんですよ。どんなものにも落とし込めるんですよね。
例えば渋い工務店とかの間仕切りの布が僕のバッキバキの生地だったり、動物園行って僕のパターン着せた馬を並べて「柄馬」とか言ったりして(笑)、そんなのあったら面白いなって。違和感があるけど、馴染んでしまうという変な感じの。
R:秋葉原の文化をミックスしたりとかっていうのは昔からやりたいと思っていたんですか?
F:それは一昨年くらいに先ほどご紹介したディアステージの内装をやったんですよ。そのあたりからかな。でももともと僕はアニメとかマンガっていうものがすごく好きだったから、違和感というのは特にありませんでした。でも、今まであまり行った事なかったからキラキラとドキドキの連続です。まだまだ全然ひよこにも至って無いほど把握できていませんが。
あとはコミケなんてものすごいですよね。 3日間で何十万人も来客があるらしいですからね。音楽フェスとかよりもそういう意味では盛り上がってますよね。
この間の僕の展示とかも本当にその場のパワーみたいなものがすごかったんです。ディアステージのライブなんて、こんな盛り上がってるライブは他にないだろ!っていう感じ。一体感もすごくて、何なんだこれはって。
オタ芸を、あの初めて見たときの衝撃と感動を、どうしても見た事のない人に見てほしくて展示を企画したようなものです。(笑)
それに恥じないよう一生懸命展示作品つくりました。もはや僕の中でアキバはパワースポットみたいになっちゃってて。居るだけで緊張しっぱなしです。ディアステはマジでヤバイです。涙が自然に流れるくらい感動しますよ。
R:セルフイメージとして「あんまりオタクっぽく見られたくないんだよなぁ」とかってあるんですか?
F:あんまり今はないかなぁ。高校生の時はまわりにアニメの事なんかわかる人は誰もいなくて、エヴァンゲリオンを誰にも言わず毎週録画して、VHSのテープが擦切れるまで見てました。(笑)友達と集まってワイワイやってる時も皆は女の子の話をしてる横で、アニメの事ばっかり考えてましたね。
でも、今ではアニメも日本の誇る文化として確立してる時代になってきていますよね。DENPA!!!ってパーティとかはまさにそんな感じですよね。みんなコスプレしてて、いろいろな人達がいて、鬼のように盛り上がるっていう。自分より若い世代がすげええなあ〜って最近本当感じますね。超早熟ですよね。ネット文化に早くから浸透しているからでしょうかね。。
僕が参加してるMASHCOMIXはまたそれとはちょっと方向が違うんですけど、でも海外から見た日本のヘンなところと言うか、変わったところみたいなものがこういう活動の原点なのかな。
MASHCOMIXは予備校とか美大の頃の友達同士で始まったんですけど、もともとはみんなそれぞれオシャレ系なデザインとか絵とか描いてて、なんだかな〜って。「結局俺らってみんなマンガとかそういうところを通って来てるよね」って話になって、そこから「マンガをちょっと新しい、自分たちの解釈で描いてみない?」って言って始まったんですよね。それが10年くらい前ですかね。
大きくはみんな同じ方向を見てるけどそれぞれが持っているスタイルも全然違っていて、それが合わさってまたカオスっぽくて面白いですよ。メンバーなんて20人以上いますしね。
あ、このTシャツ実は軍司(匡寛)と最近作ったばかりのやつです。 浪人時代から彼の作品を見ては励まされてます。
彼の絵も良いっすよね〜。センスがいいし、超ウマイ!
R:僕らも好きです。
F:そう言えば、アキバの話が来たのもNYの東京バーがきっかけでしたね。やっぱりアニメ、マンガカルチャーは世界に誇る日本のオリジナルの文化なんですよね。
R:日本のオリジナルっていうと?
F:やっぱり現代でも過去でも日本の文化とかってすごく特殊じゃないですか?島国だしいろんな国のカルチャーを受け入れてミックスされて出来上がっているし。そういうとこに感じる魅力っていうのがあったりして、日本の面白いところを使って何か出来ないかなって思うんですよね。そこから日本のオリジナリティって何だろうって考えてみてこういうのやりたいなって。
当たり前なんですけど、世の中にはいろんな可能性があって一言でこれが良いとか悪いとかって言えないじゃないですか。そういうことを言いたいというか。
新しいとか、革新的とか、オタクがどうとかそういうことじゃなくて、今まさにものすごく盛り上がっていること、すごいパワーを持っているものをもっと色んな方向でミックスしていっても、それらが科学変化をして更にすごいものになるんじゃないかなって思うんですよね。それが生きてるって事だと思う。ワクワクする感じと言うか。
いろんなことがいろんな場所で起きて盛り上がっていることに対して、それとこれを混ぜたらどうなるんだろう?っていう実験的なこともあったりして。
日本って本当にいろんなところでいろんなことが盛り上がっていて、それがそれぞれに面白いと思うんですけど、その中でもアキバとかアニメとかマンガとかって僕は日本っぽいなって思ってて。
僕もアニメや秋葉原のアイドルとかに出会って「こんな面白さがあったんだ、こんなパワーが渦巻いてるんだ」って感じたし。先を行く感じって言うか。とにかくキラキラしてる。目のつけどころもすごく面白いし、ヤバイです。
だからそういうパワーに惹かれるっていうのが強いんですよね。
っていう感じでそういう新しいものも好きだったりするのですが、根底に流れるクラシックというか、例えばジーンズと言えば"501"っていうような色褪せないクリエイションは何だろう!ってすごく探していて。
例えばCGっていうのはすごく技術だけど、セルのアニメーションっていうのは手描きが動くっていう良さがあって、きっと絵が一枚一枚動くってことがすごく人間的なんだって思う。マンガも未だにずっと愛されているものとして残っているし。スタイルはさほど昔から変わってないですよね。本当に愛される者っていうのは、絶対に色褪せない。
結局僕は絵を描くとか人間のプリミティブな表現でやっていきたいなと思うんです。それがキャラクターであったりして、その中で唯一の世界観を目指して行きたいなって。
R:そういう風に考えるようになったきっかけなどはあるんですか?
F:昔すごく自分のやってることとかに自信が持てなくて「自分なんて全然ダメだよなぁ」って。仕事しても長続きしないし。まず「生きよう」とする意思がなくて。
結構色んな仕事しましたよ。日雇いやったり、電話番やったり、広告代理店とかにもいたり、ポスティングやったり、板橋で遺跡発掘のバイトしたり。(笑)
それで、自分ってダメだなぁって思ってたりしたんだけど、しばらく一人旅をした時に旅先で色んな人たちの生活を見てたら、「うーん、俺別にこれで良いのかなぁ」って思ったんですよね。それまですごく周りからどう見られるかとか、そういうくだらない事ばかり気にして生きていたなぁ。いろんなことに流されて生きてき過ぎたなって。
そんな事より、 自分の中の格好良いものを格好良いって強く思うことの方が、仕事で自信をつけるとかつけないとかってことよりよっぽど大事なんじゃないかなって感じて。
そこで今自分がここにいることで出来ることって何なんだろう?って考えた時に、マンガとかそういう日本のカルチャーがあって。それを使ってミックスして何か面白いの出来ないかなって思ったんですよね。
で秋葉原が現れてこれはちょっと面白いかもしれないってなってアニメっぽい絵を描き始めたりして。
そういうのがごちゃごちゃの世界観っていうのは僕はすごく面白いと思うので。
R:今後の活動の方向性はどういったものにしたいですか?
F:前は海外でやりたいなっていうのはすごく思っていたんですけど、今は日本をベースにやっていくのもすごい面白いんじゃないかなって思ってるんですよね。
日本から発信!てかたちでやっていきたいです。すごく面白いので!
それでまぁ僕は「何なんだコイツ?」っていう感じでやっていきたいですね。(笑)
そんな奴なんだけど死ぬ気でふざけて、想いから心に届くものづくりを、 頑張って説得力あるものを作っていけば良いんじゃないかなと思ってます!
●●●スタジオビジット未収録シーン●●●
R:あれ?これってHiro Kurataの作品ですか?
F:あぁそうなんですよ、ヒロ君が昔結婚祝いにくれた絵ですね!NYから持って帰ってきました!MASHCOMIXでも一度参加してもらったりと付き合いが長くて、超尊敬しているアーティストの一人です。
R:実はこの間彼にインタビューさせてもらったんですよ。
F:そうなんだ、彼元気ですか?僕ヒロ君の絵もダダダ大好き!!!今年また会いに行ってきます。
このHiro KurataインタビューはRED one PRESSで近日公開します!
このコーナーでは次回も"アートにまつわる何かしら"をお送りします!
さてさて、何をしましょうかね...。
暖かくなってきたので、街にでも出てみましょうか。
それではまた次回。