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4. 「idealistically HYPOCRITICAL⑤ アーティストトーク 荻野竜一 × 大黒健嗣」

July 2, 2010
RED one PRESS
アートに関することばかりを連載するこのRED one PRESS連載コーナー。 今回はアーティストの荻野竜一と、"AMP"ディレクター大黒健嗣の対談レポート

第4回目を迎えた今回は、"ちょっと視点を変えてみよう"をキーワードにイノウエジュンと街を歩いた3回目から引き続き、"ちょっと見方を変えてみよう"というキーワードの浮かび上がる話しを展開します。

2010年6月4日から14日まで、杉並区高円寺にあるAMP/高円寺ギャラリーにて開催された荻野竜一による個展「idealistically HYPOCRITICAL⑤」のオープニングデイに、荻野竜一とAMPディレクター大黒健嗣の二人によるトークセッションが開かれた。
アーティスト荻野竜一が、これまでの活動から自身のコンセプトについて語ったそのトークセッションをこちらで公開します!

荻野竜一 プロフィール
1978年東京生まれ。18歳で渡米。California College of the Arts卒業。2005年に帰国。現在は東京を中心に国内外で活動。最近では"Out of the Context Mash-Up"という概念をベースに平面から立体、インスタレーション作品まで幅広く制作、発表している。
大黒健嗣 プロフィール
2008年にオープンした高円寺"AMP"ディレクター。
オルタナティブな表現スペースとして自主企画展や週代わりの展示会、また18 時以降はライブ/トーク/DJなど様々なパフォーマンスイベントを開催している。昼間はカフェバーを併設し、作家、ギャラリーの鑑賞者から一般のカフェ利用客まで自由に出入りするサロン的な要素を生かして、インディペンデント、また生活空間の隣にあるアートの可能性を模索、実践している。



大黒健嗣 (以下D):
まずは今まで活動してきた中で、最近の活動がこれまでの活動とどう繋がっているのかということを、「out of the context mash up」というコンセプトの説明も含めてお願いします。

荻野竜一 (以下R):
もともと僕は日本で高校を卒業してからアメリカに留学して、初めはデンバーというところでスノーボードばかりしていたんですが、その後サンフランシスコのアートスクールに転校して、そこでイラストレーションの勉強を始めました。初めはファインアートというものを全く意識していなくて、絵を描いてお金になることと言ったらグラフィックデザインかイラストレーションということでイラストレーションを始めたんです。

D:つまり職業としてということですね?

R:そうですね。デンバーにいた頃にイラストレーションを少しだけやってみて、これをプロフェッショナルな仕事に出来るんだったらということでサンフランシスコのアートスクールに行きました。
そこで2年半イラストレーションの勉強をするんですが、これがその頃の作品です。

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Slide#1 赤ずきん

これはクラスの課題で出されたテーマに沿って制作したもので、「昔のおとぎ話」をイラストにするというものですね。それでこれは赤ずきんちゃんの現代版のようなものです。
この頃僕が意識していたことというのは、ちょうどこの頃は授業の一環でphotoshopを多く使う時で......

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Slide#2 アニメ風

これはペンで下書きしたものをスキャンしてphotoshopで色をつけているんですけど、この当時photoshopを使っていて面白かったのが、レイヤーを多く使って、そのレイヤーの重ね具合によって平面に奥行きを出すっていうことがすごく自分にとって新鮮でした。これに関して言うと、100を越してるレイヤーを使っているんですが、これをアナログでもやってみようということで作ったものが、さっき見せていたものです。

この背景のオオカミはプリントして貼っていって、女の子は水彩の紙に絵を描いてそれをカッターで切り取って木のボードに貼付けています。そのレイヤーを重ねていく作業というのがまさにphotoshopでの作業と全く同じ要領ですね。

こういうのがその頃技術的な面での自分が熱中していたことです。
同時にイラストレーションの授業の課題ではテーマを出されるわけですね。そのテーマに沿って、自分がその時photoshopを使って試行錯誤していたテクニックを課題にどうやって応用させるかというエクササイズを授業ではするわけです。そういうことをずっと続けて学校を卒業するんですが、僕は学校の授業がすごく嫌だったんです。それは漠然としたわだかまりだったんですが。
それで卒業する頃に、「自分はイラストレーターになれないな」と思ったんですよ。
何故かと言うと、photoshopなどを使って色々な作業をやっていくうちに、それを使って「どうして他人のメッセージを俺が伝えなきゃならないんだろう」と思うようになって。イラストレーションっていうのは自分のスキルを人の為に使うからお金になるわけだけど。まずその「人のメッセージを...」っていうのが疑問だったんですね。
自分が描きたい衝動っていうのは、既に自分の中に表現しなければならないメッセージがあって描いているわけで、それをもっと明確にしていきたいっていう方向に向いていったんですよね。
イラストとかデザインというのは人から仕事を与えられて初めて成立するものであって、アートとデザインの違いというのは恐らくそこにあるんだろうと思っています。
そしてアーティストの仕事というのは自分のコンセプトを明確にしていくことにあると。デザイナーというのはクライアントから仕事をもらった時にコンセプトはそこで既に明確にされているはずですよね。
言い換えると、僕にとって手段(絵を描くといった表現方法)よりも、その目的というのがより重要になってきているということですね。
って今ではさらっと言えるけど、そんなことを考え始めたのがちょうど学校を卒業した頃で、卒業以降はほとんどイラストレーションの仕事はせずに、「一体自分はどうして絵を描いてるんだ」っていうのと「イラストレーションとファインアートの違いはどこにあるのか」と、そんなことをずっと考えながら制作をしていましたね。それを続けて6年くらい経つのかな。


D:それまでのイラストレーションの仕事っていうのはどういうものだったんですか?

R:雑誌の挿絵をしてくれとか、記事を送られてきてそれを読んでビジュアル化するようなものだったりでしたね。

D:それはアメリカでですね?

R:そうです。卒業してからも1年ちょっとアメリカに居て、イラストの仕事と自分の制作の両方をやってました。それでやっぱり「そもそも自分が描き始めた衝動が一体どこにあるのか」という方にどんどん興味がシフトしていって、その過程で生まれているのが「out of the context mash up」なんです。

その「out of the context mash up」というのは、元々音楽(特にDJプレイ)における、Mash-Up、例えばThe Cure(1976年に結成されたニューウェーブ/ポストパンク・バンド)のインストにMobb Deep(ハードコアヒップホップ。1992年結成。)のラップを被せるというようなものからインスピレーションを得たもので、アニメや漫画、アート、デザイン、グラフィック、デコレーションなど様々な異なったコンテクストを組み合わせ、並べて一つの作品として共存させることでそれを視覚表現に置き換えるという試みのことです。その過程の中で、描くという衝動の源やファインアートとデザイン、またはデコレーションなどの違いを考えていくと、やっぱりこのデュシャンの「泉」から先に行けないという感覚はありましたね。

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Slide#3 デュシャン「泉」
恐らく初めて僕がこれを見たのは中学生くらいの頃に教科書で見たんだと思うのですが、「どうして便器がアートなんだろう?」と思っていました。
それから本当にここ5、6年ですね、この作品をすごいなと思うようになったのは。それはこの作品が正に「アートとは何か?」を問いかけていて、そういった事を考えさせられるきっかけとなっている「泉」をアート作品としてやっと尊敬出来るようになってきたということなんですが。
デュシャンもそうだし、好きなアーティストというのはたくさんいるんですが、そのアーティストたちのどこに、どのように自分は影響を受けたのだろう?って自分のことを分析していくと、やっぱりそれぞれアーティストによって自分が惹かれている要素って違うんですよね。
例えばデュシャンの「泉」はすごく好きなんだけど、これは便器をアート作品として発表するというコンセプトが面白くて、例えばロスコの色彩の美と妙を使った作品などとは同じ見方で比べることが出来ないじゃないですか。僕はどちらも好きなんですが。


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Slide#4 ロスコ

それぞれの重要性って、アートの歴史がずっとある中でそれぞれの時代にそれぞれの表現というのがあって楽しむものだと思うんだけど、今はやっぱりこれだけ情報が溢れていて、その都度その都度作品に対する見方を変えていかなければいけないと思うんです。
昔は教科書でデュシャンやマティスやロスコを見て、その時々で見方を変えなければいけないということをわかっていなかったんだと思うんです。要するに自分の感覚だけで判断していたんですよね。
それがここ5〜6年の間に、どんなに苦手だと思っていたり嫌いだと思っていた物でも視点を変える事さえ出来れば案外すんなりと受け入れられるという事に気づいたと言うか。それは、自分の感覚だけを頼りに物事を判断していくということが、排他的なエリート主義、極端なことを言うとファッショ的な思想へと繋がっていく危険性があるというのに気づいたという事でもあるんです。
そこから今自分がやっているコンセプトへと繋げていくと、例えば、今ずっと展示でやっている作品というのが「トリプティック」というもので、3つパネルを並べている作品というのが一番メインであるんですが、これは同じ絵画の作品でもそのパネル一枚一枚のそれぞれの文脈に基づいて、オーディエンスは見るアプローチを変えなければいけないという意味を含んでいるんです。

D:つまりこれは全部で一枚の作品ではあるけれど、部分部分でそれぞれ違った文脈を持っていて、一枚の中でも見方を変えなければいけないものを並列させているということですね?

R:そうです。「見方を変えなければいけない」、つまりそれぞれ「異なった文脈を持つ」というのがポイントとなるわけですね。そこにある複数のコンテクストの衝突が一番自分の中でポイントとなっています。

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Slide#5 トリプティック
これで言うと、「ミニマリズム」の真っ黒のパネルがあって、「マークメイキング」と呼んだりする筆跡の部分があって、それから「デコレイティブ」な装飾的なパターンという、3つのそれぞれ目的の違ったものを並列するというものを僕は今「out of the context mash up」と呼んでいます。
それをここ2年間くらい展示のメインのコンセプトにしてやっているのですが、こういうものを制作していく中で、実は自分で作品を作る必要性っていうのがちょっと薄くなったんですね。もう既に存在している作品を持ってきて、それを並列しても同じ目的を達成出来るんじゃないかと思って。で、それを初めて具体的に実験してみたのが今回の展示なんですね。
今回こういった多くの作家さんの作品をmash upというアプローチでやってみて、まだまだ表現の手法に幅を出せると思うんですけど、それぞれの作品の良さを理解する為にやっぱり「見方を変える」ということは必要な要素になってくるんじゃないかなと思いました。

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Photography by Shinpei Yamamori[GB inc.]

D:僕は結構作品がストイックな状況に置かれているという印象を受けましたね。作品一つ一つが仰々しく扱われないというか、敢えてランダムに扱われているというのが。そういう意味では普段とは違う見え方をしている作品もあるのかなという印象ですね。

R:でも今回、複数の作家さんの作品を同時に出すというお話をした時に、やっぱり"誰にするか"という問題があったでしょう。

D:人数が少なくなればそれはコンセプトにも合わなくなってくるのかなということもありましたし。

R:もう一つそこで問題になったのが、参加アーティストを選ぶという、その選ぶ行為そのものにもすごく違和感があって。勿論普通のグループ展では選ぶのは当然なんですが、もしも選ぶというのであれば、そこに明確な目的が無ければならない。そうでなければ、さっき少し触れたような、エリート主義というか排他的なことでしかない気がしたんですよ。そこはすごく意識的に回避したかった部分なんですよね。

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Photography by Shinpei Yamamori[GB inc.]
D:それもデュシャンのスタンスと繋がってくるのかもしれませんね。

R:そうですね。アーティストを選ぶ行為というのはそこに明確なコンセプトがあれば必然的に出てくると思うんだけど、今回のmash upっていうのはまさにコンセプト同士の衝突というのが一番の目的としてあるから、そういう目的のためにまたアーティストを取捨するっていうのは矛盾しているんじゃないかと思って。

D:そういう意味では荻野さんの言うmash upというのは、音楽のmash upとは離れて自立し始めているのかなと感じましたね。
音楽のmash upだと、やっぱりコンポーザーの意図が入って、これとこれを合わせたら面白いんじゃないかという風に一つの新しい世界観を作っていくわけですが、今回のものは全然そういうことではなくなっているのかなと。
音楽ではこの展示のようなことは絶対に出来ないことで、ビジュアルだからこういう方法で作ることが出来るのかなという感じもありましたね。

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Photography by Shinpei Yamamori[GB inc.]

元々mash upというコンセプトが根底にある中で、作品数を増やして規模を広げてやると、それがコンセプトに合っているかとか、世界が作れているかどうかってことじゃなくても、いろんな角度からいろんなことが言えるきっかけや要素は増えてきますね。
だから作品ごとに見方を変えることによって、それが色々と考えるきっかけになるということはあるのかなと思いました。

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Photography by Shinpei Yamamori[GB inc.]

R:実際にいろいろな問題点、例えば作品のカテゴライゼーションとかヒエラルキー(優劣)、独創力というものまで、いろんな問題を提示出来るような気がします。それを一つ一つ取り上げていくのはここでは無理なのが残念なんですが。長くなっちゃって。
それと、やっぱり元々の出発点の違う作品が並んでいて異質なもの同士がまわりにあった方が、それぞれの味や特色は際立つのかなという感じはしますね。今回の試みはもっともっと発展できるなという感じを得ました。

D:アメリカにこの展示を持って行く予定があるそうで?

R:まだちゃんと参加作家さんへも伝えてはいないのですが、アメリカに持って行かせてもらいたいと思っています。
ポートランド、それからもしかすると年内にロサンジェルス、その翌年は香港も行くと思います。もちろんその時は現地のアーティストにもギャラリーを通じて協力して貰う予定です。
勝手に持って行きますのでよろしくお願いします。(笑)

D:こういう展示に関しては、多分「こういうものだ」って今すぐに断定できるものではないのかなという感じがするんですよね。
というのは今後の展開によって自律したものが生まれる可能性がすごくあるなと思って。だから色々と場所や人を変えてやると良いのではと思います。

R:1回目やってみて、またすごくやりたくなりましたね。

D:荻野さんのように自分で描くことと並行して、描くこと以外でもコンセプトを展開してそれを表現しているというのがすごくアーティストの活動として興味深いなと思いますね。今後の展開も僕はすごく楽しみにしたいと感じています。

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Photography by Shinpei Yamamori[GB inc.]

R:今回もすごく感じたんですが、やっぱり自分一人では全然出来なかったですね。声掛けさせてもらって参加してくれたアーティストの方々、それから大黒さんにも勿論すごく感謝させて頂きたいです。どうもありがとうございました。
多くの人に協力して頂いている分やっぱりこれを頑張って大きくしていきたいと思いますし、実際に更に展開させていこうと思います。

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