"アートにまつわるあれこれ"ということでお送りしているアート情報サイトRED one PRESSの連載。第3回目を迎えた今回は、"ちょっと視点を変えてみよう"をキーワードに、アーティストと街を歩きます。
今回一緒に街を歩いてもらったのはイノウエジュン。彼はこれまでに国内外での作品展示を始め、東京、横浜、神戸などでの壁画制作、そしてmetamorphoseやsummer sonicといった音楽フェスでのペインティングでも活躍を見せるアーティスト。
そんなイノウエジュンと渋谷で待ち合わせ、"アートな視点"で渋谷の街を歩いてみました。
「すみません、30分遅れます。。。」こんな電話から始まった今回の街歩き。
結局50分遅れてイノウエジュン登場。
R:「今回はアート視点で街を歩こうってことなので、よろしくお願いします!」
イ:「お願いしまーす!」
R:「では早速ちょっとぶらぶらと歩いてみますか」
イ:「行きますか」
まず私たちは渋谷駅前から原宿方面へと歩くことに。
そこでイノウエジュン、早速ちょっとしたポイントを発見。
イ:「お、これ良いねぇ」
R:「いきなり来ました?」
R:「例えばこういうものを見てどういうことを考えたりしますか?」
イ:「例えば...、何でこういう風になったんですか?って木に聞きたいな。とか(笑)」
R:「それ聞けたら面白そうですね」
イ:「あ、(道の向いを指しながら)向こうのマルイの下のスペースで前にライブペイントやったんだよね」
R:「どうでした?あのライブペイントは」
イ:「あれ大きいパネルを用意してもらって描いたんだけど、運ぶのが大変だったんですよね。描いたことも勿論すごく面白かったんだけど、描いた後も結構面白かったな。完成したパネルを持って渋谷を歩いて運んで撮影したりしたんだけど、周りの人が何だ何だ?って感じで見てて写真とか撮ってたりして。作品を持ち歩くっていうだけでいろんな人のリアクションが起きてるっていうのがすごく面白かったね」
イ:「あの向いのディズニーも良いなって思うんだよね」
R:「あれについてはどうですか?」
イ:「う~ん。ぶっ飛んでるねぇ。さすがディズニーですね。あの塔の頭がぐんにゃりしてる感じとか色使いも。あの色使いなんて多分お菓子とかからきてるんじゃないかな、クレープとかクッキーとかの。ちょっとおいしそうにも見えない?これが渋谷の街中にあるから更にすごいなって感じがするよね」
R:「そう言う人は多いみたいですね。この間fantasista utamaroさんのスタジオに行ったんですけど、彼もディズニーの映像を見せてくれて『やばいっすよね~』って言ってましたよ」
イ:「いやすごいなって思いますよ」
R:「そういえばイノウエさん昔宮下公園で壁画やってましたよね?あそこにちょっと行ってみませんか?」
イ:「おぉ良いよ良いよ、行きましょう」
そこから宮下公園へ。
宮下公園へ行く途中、またまた面白いスポットを発見。
イ:「あぁここの壁はすごいよね」
R:「僕らもすごく好きなんですけど、イノウエさんから見るとどんな風にすごいって思います?」
イ:「ここはねぇ...、描くにはハイリスクな場所で、尚かつ描けばかなり目立つ場所だし、誰もが行ける場所ではないところを見つけて、そこをあえて攻めるっていうすごさが表れてて面白いなって。うん、この壁はすごいね」
R:「ここにshepard (fairy) のかけらもありますね」
イ:「本当だ。OBEYも昔は渋谷とか原宿とかにもっとたくさんあったけど今はほとんどなくなっちゃったもんね。REKAとKRのステッカーもあるね。カフェラテも良い感じだね。もはやカフェラテのほうがすごいかもね(笑)」
R:「そういう視点、良いですよね。何て言うか、軽く聞こえそうで嫌なんですけど、素直にこれ面白いとか格好良いって言えることとか、ちょっとした視点の面白さと言うか」
イ:「だってそうでしょ。そうでしょ?
偶然で起きているものとか出来ているものってすごく面白かったりすると思うんだよね。だから半分冗談だけど半分は本気で言ってたりして」
そこから裏側の宮下公園へ歩くこと数分。これは宮下公園の原宿側階段にイノウエジュンが05年にKOMPOSITIONのリーガルウォールプロジェクトで描いた作品。自分の作品の前でポージング。
R:「もう5年も経つんですね、これが描かれてから」
イ:「確かに。いや本当にこんなに長く残ってくれるとは思ってなかったから嬉しいですよ。」
R:「やっぱりリーガルウォールみたいな企画って面白いと思うんですよね、屋外ですし。街の中にこういうものが増えるのって単純に街の景色として面白いじゃないですか」
イ:「リーガルはリーガルで良いところがあると思うよ。例えば、人目を気にせずたっぷり時間を使って描けるってこととか。作品としてすごく大きなものってやっぱりそれだけでインパクトあるし。外か中かどっちが良いとかいう話ではないんだけど、グラフィティライターだからリーガルはやらないとかっていうのはもったいないと思うし、絵描きだから外には描かないっていうのも幅を狭めていると思うし。まぁ人それぞれだとは思うけどね。でも街中に大きな絵があるっていう感じはすごく良いと思うな。
街中に大きな絵があるっていう感じがすごく良いと思うな。だから頭ごなしにグラフィティが嫌われる場面があるのはちょっと残念かな」
イ:「そうなんだよね」
そこから私たちはセンター街方面へと歩きながら何か面白いものを探すことに。
イ:「ねぇあそこの壁にいつも手描きの広告が出るでしょ?あれ結構楽しみなんだよね。この通りを歩く時によく気にしてて。描いているところ見ると単純にすごいなって思えて良いんだよね」
R:「上手いですよね、すごく」
イ:「実は数年前このビルの5階に半年で終わっちゃったかなり面白いギャラリーがあったんですよ。俺もここでHiro Kurataってアーティストと二人で展示やったんだけどね。
ここの外壁は本当にすごいよね。こんなビルほかに見たことないもんね。これを描かせてくれるような人や場所がもっと増えると良いって思うな。これを面白いと思ってくれる人がもっといても良いと思うと言うか。さっきの話じゃないけど、やっぱりすごいもの描いているからね。
これ描いた人たちは地元が同じ神奈川なんだけど、その同じ地元のライターが渋谷のど真ん中に描いたっていうのも個人的に嬉しいんだよね」
R:「観光客っぽい外国人とかがこのビルの写真を撮ってるのをよく見ますよ」
(話の途中にも一人の外国人が写真を撮っていた)
イ:「分かる気がするな。忙しかったり当たり前な日常になることで見えなくなることって多いんだよね、やっぱり。普段ずっと渋谷を歩いてたりするとこういうものって気がつきにくくなっていったり、慣れていったりで。でも改めて見るとすごくない?って感じたりして。
だから外国人がこれを写真に撮ってるっていうのは納得するな。やっぱりそういう旅行してる時みたいに、新鮮な視点を持つことで色んな発見ができたり楽しんだり出来るってことなんだよね。アンテナを張ることと、ものに対する感度を上げておくことって大事だよね」
そこから私たちは更にセンター街の奥の方へ。東急ハンズ付近のコインパーキングにて、
イ:「この流れるライン良いよねぇ。あんまりこういう広告って好きじゃないんだけど、この流れにリズムがある感じはすごく良い。これ好きだね」
イ:「作った人と感覚が似てるのかもね。
実はね、この裏側にすごいのが隠れてるんですよ」
イ:「これMEARってロスで活動している人が描いたものなんだけど、これ初めて見た時はびっくりしたねぇ。当時ウェブもなくて、雑誌とかでしか見たことのなかった人の絵が生であるじゃん!って。初めて見つけた時は、え?日本に来たの!?って感じだった。当時グラフィティを知ったばっかりだった俺はこれ見つけてかなりワクワクしたね。それから渋谷に来た時は必ず見てたな」
R:「今は自販機の裏に隠れちゃってるけど、ずっと残ってるのってすごいですね」
更にセンター街奥へと歩いて『富士そば』前にて。
こんなところでもイノウエジュンは反応してます!
イ:「やばいねぇ、格好良いっす!同じ漢字使っても表し方によってここまで違う感じが出せるってすごいよ。図形としても格好良いし。この暖簾の文字は安定して構えてる感じがすごく良いな。どしっと座ってるって感じ。俺は書も好きなんだよね」
イ:「ねぇ、このもりそばの"もり"も撮っといてもらえますか?この"もり"は文字の太さとバランスがすごく良い。"も"のはねてる部分とかたまんないね」
R:「かなりテンション上がってますね」
イ:「いや~、わっかるかなぁ~?わっかんねぇだろうなぁ~(笑)。やっぱりこんなことを言ってても理解されないよね?」
R:「されないかもしれないですね、これは。かなりマニアックですからね」
イ:「でもそういうのがその人の"ユーモア"って言うか、そういうそれぞれの視点が大事だって思うんだよね。
こういう感覚って人に伝えるのがすごく難しくて勘違いされちゃうけど、それでもそうやってものを見ることでいろんなことを楽しんでるんだよね!」
R:「僕らはもちろんそういうことを肯定してますよ。自分で楽しみ方を見つけるっていうクリエイティビティって大事ですよね」
イ:「絶対大事でしょ!」
「あの足!あれあれ!あの足の色はかなりキテるね。もうあの色はパクって使いますね、完全」
R:「こうやって街でインスピレーションを拾ってるってことですよね?」
イ:「そうそう、こういう感じで街で見たものとかから結構影響も受けるし参考にもするよ」
「あ、あそこに良い草生えてるね」
イ:「これはもうジオラマみたいだね。俺の中ではこれはもう森で、そこに小さな世界が出来上がるんだよね。自分が巨人になって森を見下ろしてる感覚かな。こういう小さな世界を渋谷の街中なんかで発見すると、そこに感じるものは大きいんだよね。簡単に言うと奇跡ってことです!
ちょっと俺も写真撮ろうかな」
R:「イノウエさん?邪魔になってます」
それから私たちはアートブックなどが豊富に揃えられているタワーブックスでちょっと寄り道。
イ:「ここは椅子がたくさんあったら1日中居たい場所だね。あぁこのラインとか綺麗じゃない?これって皿の絵付けでしょ?こういう日本の伝統技術とか美的感覚って素晴らしいよね」
イ:「かと思いきやこういうのもやっぱり好きですね」
イ:「これKUNIっていうライターが描いたやつで、彼はよく昔のアニメキャラクターをスプレーで描くんだけど、そういう純粋な少年っぽさみたいのを見るとすごく嬉しくなるんだよね。彼が描いたのを見てると、"うん、それで良いよね。"って感じになるんだよね。ちょっと漠然としてるけど、素直な感じを受けるって言うか」
イ:「あぁこういうのも良いよね、何か使えそう」
R:「使えそう?」
イ:「ねぇ、後でこれ使って何か描こうよ!」
R:「良いですね!それ映像に撮っても良いですか?」
イ:「勿論!」
さて、街歩きも終了してイノウエジュンの作業場にて。
R:「どうでしたか、今回の街歩きは」
イ:「楽しかったね。いろんなもの発見出来て。
初めて見たものもあったしね。さっきのセンター街でした話にも繋がるけど、自分らの日常の中で新しい発見をすることとか、何かに改めて気がつくとか、そういうことってやっぱり大事だなって思いますよ。あんまりかしこまって言いたくはないんだけど、ちょっと見方を変えたりしてみたらいろんなところに面白いものとかってあるんだねって」
R:「そういう視点を持つことが如何に大切かってことですよね」
イ:「そう思うね。例えば今回みたいに街で自分が面白いとか良いねって思った感覚って、美術館に行って絵を見て受けた感動と同じだったり、時にはそれを上回ったりすることもあって、結局場所が重要なんじゃなくてその人の見る目だったり感覚だったり、感覚に対する素直な反応だったり、そういうことが重要な気がするんだよね」
R:「そういう物の見方こそがアートだったりするのかもしれないですね」
イ:「かもね。アートって別に人が作ったものだけを指す言葉ではないと思うし、今日見たものとかも全部アートだと言えばアートだしね。これってアートが軽く聞こえるかもしれないから気をつけたいんだけど、アートは観る人が決めることでもあると思うんだよね。勿論それだけってわけじゃないと思うけど」
R:「わかる気がします」
イ:「そうそう。人を驚かせたり、何か感じさせたり、楽しませてくれたりとかっていうのはアートってことだからね。
つまり俺の感覚としては額に収まった一枚の絵がアートなんだって言うよりも、感動させることが出来たとか、人に及ぼす作用自体がアートなんだって思ってて、それを感じた人がアートだって言えばそれで成立するものだと思ってるんだよね」
R:「なるほど。そういう考え方も面白いですね」
イ:「だから今回歩いてみて思ったことでもあるんだけど、もっとみんながいろんなことに何かを感じるべきだと思った。どんな些細なものでも良いから。
それでその感じたことを素直に表に出して良いと思う。素直に感動したり喜んだりするべきじゃないかなって。
これって日本のアートシーンの発展にも繋がると思うよ」
R:「って言うと?」
イ:「何て言うか、見る人がもっと素直に感じたりして、自分が感動したものに対して自信を持ってそれをアートだって呼ぶことでアートが育つってことなんだけど」
R:「前にどこかで、バッハとかモーツァルトとかのクラシック音楽は高度な聴衆がいたから育ったって聞いたことがあります。結果的にある意味良いリスナーがいることで作り手も高まっていったってことなんですが。
もしかするとアートも見る側が高まることで作り手やシーン全体も高まるってことなのかもしれないですね」
イ:「うんうん、それはあるかもしれない。俺が言いたいこともそれにすごく近いと思うよ。勿論作り手は常に上を目指して作り続けなきゃならないとは思うけど、見てくれる人もやっぱり何かを感じるスイッチをオフにしておいて欲しくないよね。素直な自分なりの目で見て欲しいって思う。どんなものでも良いからその人の好きな"アート"を持っていてもらいたいって思うな。今回の街歩きも俺にとってはたくさんのアートを発見出来て楽しかったよ。
こういう機会をくれてありがとう!」
登場した場面以外にも、今回の街歩きでイノウエジュンはいろんなものに反応していました。