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特集企画

平川紀道 「lower worlds」

November 2011

「lower worlds」 インタビュー 平川紀道 × 田中義久

November 17, 2011(Thu)



現在開催中の平川紀道による新作展「lower worlds」。

GLOBAL BEARING(2004)やa plaything for the great observers at rest (2007)など今までの平川の作品は精巧に作られたデバイスとダイナミックなインタラクションが特徴のものが多かったが、今回の展示ではデジタル機器での作品ではなく多様なマティリアルを使った作品が展示された。

グラフィック・デザイナーの田中義久にとともに、扱ったことがない素材に平川による独自のコンピュータ・プログラムで生成されたビットの振る舞いを、いかに実世界のマティリアルに定着した表現とするか。

今回は両者に展示の背景や制作過程で感じたことを話してもらった。

展示へ向けて事前の書いてもらった二人の文章も合わせてご覧いただきたい。
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– まずは田中さんは昨年行われたオカルトテクニクス展で平川さんの作品を見た時が初めての接点とのことですが、行くきっかけは何かあったのですか?

田中:単純に前から平川君に興味を持ってて、たまたまオカルトテクニクスのDMデザインを友人がやっていてたこともあり、ちょうどいい機会だし見に行こうと。参加作家によるトークショーも開催されてたのですが、なんか適当にしゃべってんなーと思って(笑)。適当っていうか、言及しないタイプっていうか、わざとしゃべらないようにしてるし、それがなんかいいなと思って。

やってる内容は、ストイックなイメージというか、最後までやりきるタイプなんだろうなと感じました。僕はグラフィックデザインが専門なので、平川君がやってる事とは全然違うんだけど、なんかそこの接点に結構興味があって、ちょうどオカルトテクニクスの作品が、なぜかアナログ的な事をやってたから、一度話をしてみたいというところから繋がりましたね。

– オカルトテクニクスでの作品をアナログにした理由はどういった背景があったのですか?



オカルトテクニクス展で展示された作品
16 arrows and the exposed
photo : Hirotaka HIRABAYASHI
平川:そもそも、オカルトテクニクス展では明るい部屋での展示が決まっていたので、プロジェクターでの展示は難しく、それに合わせて、映像を使わない手法での展示を考えました。
いろいろな手法を考えたのですが、結局は手作業で4kmに及ぶ線をラインテープで描いたという。

– 描画の元になっているプログラムに関してですが、あのアルゴリズム自体は2009のAPMTに出たときに見せていたものなんですよね?

平川:そうですね、APMTで話した時は、ちょうどあのアルゴリズムで面白いものが出来るかな?という時期で、その時は、オブジェクト指向による破壊のシュミレーションに興味があって、ちょっとやってみたいなっていう感じで始めました。だから、どこに着地するかわからない状態で、とりあえずやってみようという最中でした。実際は自然界で起こりえない力学計算になっています。

– アルゴリズム自体はアップデートされているのですか?

平川:アルゴリズム自体のアップデートはないのですが、パラメータは出力の目的によって変えています。例えば、手作業で実際に点を打つとして、6万点とかはさすがに無理なので、手でやるとしたら、4万個ぐらいかなとか、調整しています。今回の展示も素材が違うので、それぞれに合わせてパラメータを調整しています。

– 今回のコラボレーションとしてまず本を作るというのがスタートとなったとのことですが、
以前の田中さんの文章にもありましたが、平川さんの作家性を本というものに落としこむには、普通の本だとできないということで様々な試行錯誤があったとのことですが。


田中:例えば、ある程度たまってきた作品をアーカイヴした作品集を作るというのもアリなんですが、今のタイミングやるのであれば、一つの「作品」を忠実に「本」という形に定着させる事の方がいいのではないかと思ったんです。紙というものが前提にあった上で、平川君の作品を疑似体験というか、なんなら本という媒体でしか感じることができない方向にシフトした感じなんですね。


見る角度や光の具合で銀色のように見えることもあるが、
実際は黒いインクで印刷されている
細かく言うと、試行錯誤はありましたね。平川君の要望もあり、今回使っている紙が日本で一番黒いものなんですが、この紙はオンデマンドプリントにはとても不向きなんです。印刷時に静電気で一緒に2、3枚くっついてしまい印刷機も通らないこともあったりして、くっつかないように空気入れたりとか、ゆっくり回したりとかしました。
また黒に黒の印刷なのですが、インクも通常ではやらないぐらいのせていて、それによって光沢が出ている。逆にオフセット印刷だと、こんなにのらないんで、オンデマンドでないとこの色は出ないんですよね。良い印刷屋さんだったので、助けられました。


本はすべて中身が違う一冊となっており、購入した時点でプログラムが実行され、それによって生成されてデータが印刷される。表紙には購入した時刻がUNIX時間で表記されている


本が閉じた状態だと、一見それが本であると認識できないほど真っ黒な物体となっている

展示のタイトル [ lower worlds ]で、本のタイトルは[ a lower world ] となっていますが、そこにはどんな意味があるののですか。

平川:もともと、複数の世界が同時に進行しているパラレルワールドみたいな話をちょっとやりたくて、いろんな作品をつくってるんですが、調べてる時に、出てきた言葉で、lower world には「現世」とか「この世」っていう意味があるんです。
今生きてるこの世界みたいな意味があって、でも、プログラムで組める世界なんて、すごく原始的というか低次元に感じられることもあり、lower worldsという言葉がぴったりくるなと。

– 今回の展示で一番大きな作品は普段設計図などを描くための業務用のプロッターを使用しているとのことで、描かれた線は3万本近く、長さは約20km。実際に上がってきた時はどういった印象でしたか。

平川:プロッターを使ってみたいと以前から思っていて、この量のこの質感の線は手作業だとさすがに無理なので仕上がりは楽しみでした。たとえば、2本の線が近づきながらもずーっと交わらないみたいなところや細部も、手では、他の筆跡に引っ張られて重なってしまうところが、プロッターだからこそ重ならずにキレイに出ていて、機械の筆圧を感じるところがありますよね。

また、このプログラムで生成されたものはデータでしか見たことがないし、データであっても等倍で見れるディスプレイが存在しない。家にこれが届いても、大きくて引きから見られない。今回この状態で初めて見れてまた印象が変わりましたね。目が泳ぐ感じがするのは間違いなくこの大きさならではの見え方で、それが気に入っています。




– もうひとつ「印画紙」を使った作品はどうでしたか。

平川:印画紙を使ったことが無かったので、全然扱い方わかんなくて大変でしたね。でも一回やってみたら、作品になりそうな印象があり進めてみました。最初は真っ黒になってしまったり、以前の文章にも書きましたが、その黒の深みに可能性を感じたというのはありました。またプログラムが生成するデータも毎回残していないので、演算結果が光として出力され、印画紙に像だけを残して消えてしまう。

田中:平川君の映像を印画紙に定着させると、どういうもの出てくるのかというのは興味がありました。始めは映像の1フレームを切り取ったような画になっていたんですけど、映像の形跡や動きがだんだん出てくるようになってきたり、粒子が微妙に伸びてる感じとか、プロジェクターを直接あててるだけあってドットが見えてるんですよ。映像もあてる瞬間に生成されては消えていくし、暗室の空間の大きさとか、光の出方とかいろいろな要素が合わさって、瞬間的にたまたま出来るものになってるから、そこで、価値は作れる気はする。またこの作品は「写真」として見られる作品でもあるから、どういった見られ方をするかは気になりますね。



– 今回、田中さんと平川さんのやり取りが多かったという展示用のポスターですが、田中さんの文章では「コンセプトとグラフィック、アートとプログラミング、アナログとクラフトが渾然一体となって現れているものを基準に選んでいた」という表現していました。その制作はどういったものだったのでしょうか

田中:はじめにタイトル lower worlds のタイポグラフィーを作って、そこに、平川君のプログラミングをかけて、どう見えるかみたいなとこからスタートしたんです。でも今回はアーティストがグラフィックを形作ることでもあるので、デザイン的な価値観だけではない部分まで飛ばそうと。文字が見えるとかそういう定義みたいな事じゃない範囲で内容を作って行きました。

隣で、深夜まで作業していて、これ、これ、これ、みたいに新しいビジュアルがすごいスピードで飛んでくるので、もうだんだん何をもってジャッジするのかっていうのが、ロジカルな感じじゃなくて、感覚的な内容になってましたね。

平川:最初はタイトルが読める範囲みたいな事で、読めた方がいいねっていうことで、そっちの方にアルゴリズムを調整して作ってると、田中さんが最初の方のファイル開いて、こっちの方がいいなーって言い出すんですよ。(笑)
でも、それが結構転換点となって、変な相乗効果のようなハウリング的な作業でした。

田中:例えば、東京では駅や街中にポスターって貼ってあるじゃないですか。でもみんな素通りするのが普通。でもふとした瞬間に目に留まったのを見ると、単純に「製作中」とか、白い余白がよかったみたいなことってあると思うんですよね。そういうことって、中に書いてある内容の文字とかじゃなくて、目に飛び込む感覚的なところに訴えてるみたいなのがあるから、そこを意識してるっていうのはあるとは思います。感覚的に、受け入れるものの方が平川くんの作品に対しては合っていると思い、そっちに一気にシフトした、シフトした以上は感覚的に話すしかないみたいな。

形っていうより、空気感とか粘り気とか、そういう話だったんですよね。でもやっぱり最終的に手で刷るっていう行為みたいなものを目指していたので、クラフト的な部分とか、紙の物質感に落ちる行程とか、そういうのも意識ではありました。


非常に細かい線と点で構成されているグラフィックだが、最終的にはシルクスクリーンで手で刷っている

– 扱ったことがないメディアと悪戦苦闘している平川さんの姿は、普段は印刷や素材などを専門にデザインの仕事をしている田中さんにはどう映りましたか。

田中:それぞれのマティリアルの性格は全然違うから、その性格を理解して、そのマティリアルじゃなきゃ出来ないことやってないと、アウトプットする意味がないと思うんです。

彼みたいに作品の方向性が決まっている人がどう乗り越えて行くのかっていうのを、単純に見て、なかなか超えられなくて、苦しんでる感じとか、そういうときにどうジャッジをするのか、クリアにする方法をブツブツ言ったりしている、それを見たり聞いたりしてるのがすごく楽しいですね(笑)。

– 初めて向き合うマテリアルに対して平川さんはどういった印象や感覚がありましたか。

平川:他に作りたいものが増えて、これからやりたいこと増えたなーって感じですね(笑)。紙もあるし、プロッターもあるし、印画紙もあるし。

でもなんか暗室での作業は面白くて、僕がドットの動きをプログラムして、それを実際にこの世界にある銀の分子と光子のインタラクションで定着させるわけじゃないですか。そうなってくると、一回普通のコンピュータでプログラミングする必要ないとまで思ってしまいますね。

直接的な操作でここにある実際の分子を動かせれば、全然コンピュータ使わなくても、なんかこれいいでしょ、みたいなの作れるなと思って。でもよく考えてみると、例えば彫刻家が鉄板とかを外にほっぽり出しといて、一年後に持ってきて展示するみたいなことだったりするのかもしれないんですけど。
そのあたりは以前やった氷の展示(※1)と似ている部分があると感じました。あの時は氷の溶ける現象がプログラムされているとしたら、それをどう捉えることができるか、みたいな話だったのですが、今回は宇宙に既にある素材をつかってこっちがプログラムしている、もしくは実行してもらっているような感覚がありましたね。

質量がある方に戻ってはいるんですけど、明らかにプログラムの頭で、アナログな方に戻ってはいるみたいなのがあって、プログラム書いてなかったら、そういうことにもならなかっただろうなとは思いますね。

※1 : 2009年8月に郡山市立美術館で行われた「氷の計測」
2トンに及ぶ氷の塊を、内側と外側から様々なセンサーや機材で計測して、その解ける様子をログに残した。そのログがまるでスコアのようであったことから、翌2010年、そのデータをもとに、「log/score」 というタイトルでの展示も展開した。
http://gzk.jp/


田中:逆に写真からスタートしてたら、こうはならないですよね。内容をプログラム化する過程とか。。真っ黒な質量というか深さとかそういうものに執着して写真を撮ってる写真家さんって何人もいると思うんですけど、デジタル機器から出てる光量でアルゴリズム作ってこうゆう形に集約してる黒っていうのは、また違う事なんじゃないかな。比べてみてないからわかんないけど、そんな気もしますね。

– コラボレーションしてみてどうですか

平川:やはり正直なところ、素材についてわかってる人がいないとできなかっただろうなっていうのがすごくありました。本を作るとなると、こういうアイディアは何となく頭に出てくるけど、実際それができるのかどうかとかわからない。どうやるとそういう事ができるのかとか、いろんな制約があるじゃないですか、どのメディアにしたってそうなわけで。自分の得意分野であれば、ある程度限界みたいなものが分かってるけど、そうでない分野に関してはやっぱり理想が高くなるというか、限界を知らないところがあって、そういう意味では、かなり無茶な注文をしたんだろうな、と思います。

田中:今回は印刷の仕方とか、製本したらどう見えるかとか、平川君がこうしたいというイメージをどうやって形にするかという部分にに徹していました。DMも黒い紙に黒い印刷をしてるのですが、光沢面があるものとないところの黒の差がどう見えるかとか、逆に光沢のあるインクがのったらどう見えるかとか、そういうところでの差別化で視認性を出していくっていうディレクションとかは、印刷っていう意味ではしてるんですけど、基本的に彼がどう見せたいかっていうところから吐き出されてる。

– 前の平川さんの作品を見ていると、同じ作家の作品だと思わないかもしれませんよね。
オカルトテクニクスの時、予想外の方向に向かっているなという印象がありました。


田中:あの作品を見たときは、僕には衝動的にしか見えなかったですね(笑)。一回やってみっか、みたいな。物を作っていて、考えきれなくなったりすると、とにかく、地味な事積み上げるしか無いみたいな感覚になる事ありません?とりあえず、プロジェクションっていう行為じゃない事で、ひたすら体動かす方向へ一回シフトして、何かをリセットしたいのかなと、そういう感じに見えた。

平川:ああ、確かにそれもありましたけど、あの時はパスデータ作った時点で、幅8mのベクターデータをまともに表現できるピクセル数で割ると、プロジェクター何十台も必要になってしまい、このサイズを出力する手段としてはもう手でやるしか無いみたいな。プロッターだともっと簡単に多くの線を描けるけど、一度手でやってみないと、この作品もつくるべきじゃないと感じていた。

田中:次やるときはどういう変化を起こすかとか、どう定着するかとか分かった上で、作るわけじゃないですか。それはすごく見たい。

平川:やりたいですね確かに。


これからどういう作品がでてくるのかも楽しみにしています。
ありがとうございました。


展示は11月20日まで開催中。
また、次回はICC主任学芸員の畠中実氏との対談の掲載を予定しています。

Interview by Yosuke Kurita
Photo by Shinpei Yamamori




展示概要


平川紀道 / lower worlds
http://www.lowerworlds.com/

展覧会詳細(CBCNET記事):
http://www.cbc-net.com/event/2011/10/norimichi-hirakawa-lowerworlds/

会期: 11/8(火) ‒ 11/20(日)
休廊 : 月曜日
会場 : limArt
〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南 2-10-3-1F
http://www.limart.net

企画・運営 :Mirror
http://www.m-i-r-r-o-r.jp

Book Outline 平川 紀道 / a lower world
size: 396×297mm
page: 512p + ケース付
部数:全てがユニーク作品となります。
アートディレクション & デザイン : 田中義久
11/8 (火) 発売
価格 : 未定
http://www.a-lower-world.com
特設サイトにて完全受注生産、limArt(恵比寿)他、 全国のセレクトショップにて本の展示と購入も可能。


プロフィール


平川紀道
1982年生まれ。コンピュータ・プログラミングによるリアルタイム処理 を用いた映像音響インスタレーションを中心とした作品群を国内外の美術展、メディア・アート・フェスティバルで発表。2004年度文化庁メ ディア芸術祭優秀賞、アルス・エレクトロニカ2008準グランプリ他受賞 多数。池田亮司のコンサート・ピース制作への参加、大友良英+木村友紀 +Benedict Drewとのコラボレーション、ミラノ・サローネでのレクサスのアートエキシビションへの参加、Typingmonkeysとしてのライブ・パ フォーマンスなど、活動は多岐にわたる。
http://counteraktiv.com

田中義久
(アートディレクター、グラフィックデザイナー、Nerhol)
1980年静岡県生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業、2008年独立。2009年、OAR DESIGN立ち上げに参加。主な仕事に、Yohji Yamamoto HOMME/FEMMME/+NOIR、Y’sのV.I計画、MTV JAPANやSPACE SHOWEER TVのチャンネルアイデンティティー、 東京都写真美術館をはじめ、美術館、コマーシャルギャラリー等の展示V.I計画などがある。 2010 red dot award、PromaxBDA 2010 GOLD&SILVER、 2008、2009TDCPrize Nominee work、他入選多数。

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