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1. ウェブ広告のミライ

February 23, 2009
Tomo Nozawa
ニテンイチリュウを運営する野澤 智による連載。ウェブ・バイラル広告からデザイン、ファッション、アートまで幅広いウェブネタを。

こんにちは、はじめまして。野澤 智と申します。ニテンイチリュウというブログで海外のウェブ・バイラル広告を中心に、デザイン、ファッション、アートなどの話題を発信しています。今回は初回ということもあり、ご挨拶もかねて、ここ1、2年で取り上げたサイト・広告を振り返り、今後のウェブ広告の動向を探ってみたいと思います。

そもそも広告の目的は、特定のユーザに対して、なんらかのメッセージを届け、それによって、どう言うかたちにしろ、企業の売り上げに貢献するという事です。そのメッセージの表現手段として、少し前まではとても考えられなかった事ですが、ここ最近ウェブ上でも非常にリッチでインタラクティブな表現が増加しました。特に次のような傾向が顕著に見られます。

  • ソーシャル化
  • フィジカル・コンピューティング
  • FlashとHTMLの融合
  • バイラルムービー

この4つを踏まえながら、特徴的な例とともに、振り返っていきたいと思います。


まずソーシャル化ですが、ウェブ2.0という言葉に代表されるようないわゆるCGM(Consumer Generated Media)を一歩すすめて、いわゆるクラウド・ソーシングと呼ばれる、サイト自体をプラットフォームととらえて、その上でユーザに何かを作ってもらい、それをコンテンツの目玉とするもの。さらに最近ではFaceBookのようにSNSがプラットフォーム化し、そのプラットフォーム上で展開されるというようなことが盛んに行われるようになっています。日本では、そこまでプラットフォーム化したSNSは存在しませんが、mixiがまもなくオープン・プラットフォームになるということですので、そうなればこのようなSNSプラットフォーム上での展開も盛んになることは疑いないでしょう。
ソーシャル化の例としては、以下のようなサイトが上げられます。

The World is my canvas
nozawa01_01.jpg Nokia N82のGPS機能のプロモーションサイト。架空のアーティストを登場させ、壮大なアートを紹介することで、さらには実際にこのアーティストがローマで作品を作る模様を公開することで、ユーザの関心を集め、そしてユーザに実際に体験してもらい、それを他の人と共有してもらうことで、効果をたかめようとしています。


UT LOOP!
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言わずとしれた中村勇吾氏thaによるユニクロのサイト。ウェブとテレビCMがまったく同じコンテンツという新しい形をとりながら、ウェブではテレビにはないインタラクティブ性の付加要素として、ユーザが自分だけのループをつくることができ、それを公開できるというスキームをとっています。


Gringo
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ブラジルのインタラクティブ・エージェンシーのサイト。このサイトは、フィジカルコンピューティングとソーシャル化を見事に融合させたサイト。ユーザがウェブカムを使って、自分の好きな言語とそれに対応する英単語を入力し、ムービーを作成するというもの。ユーザはムービーを作ることはもちろん、ある単語がさまざまな言語でどのように表現されるのかを知ることができます。


House of Cards

広告とは少し異なりますが、イギリスのロックバンドRadioheadが、自らの楽曲のPVのデータをオープンソース化し、それをもとにユーザが自由に作ることができるようにしました。さらにそのデータを元に作ったムービーはYoutubeへ投稿され、集められています。権利管理が厳しい音楽業界に、ソフトウェア開発のオープンソースという概念を持ち込んだ画期的なサイトと言えるでしょう。


Save Your Sensible
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ブログでは取り上げていませんが、オーストラリアの飲料メーカによるFlashで作られた奇妙な動物を携帯型育成ゲームのように、育成していくサイト。ウェブ上の育成ゲームとは思えない程よく作り込まれていることはもちろん、大きな特徴として、Facebookのアプリケーションとしてインストールでき、ユーザのFacebook上の友達も動物に餌を与えたり、メッセージをやり取りしたりといったことができるようになっています。つまりこのアプリケーション自体がコミュニティのような機能を果たすようにまでなっています。


つぎにフィジカル・コンピューティング。ウェブカムや携帯等、物理デバイスとウェブコンテンツが連動するタイプのものや、PC上のバーチャルなものがリアルな現実世界のものと連動するというもので、最近ではGainerやAdruino等の登場によって、非常に手軽に実現できるようになってきています。通常関連性がなく思われる物理デバイスをコンピュータの中のコンテンツと相互に連動させることで、非常に大きなインパクトをユーザに与えることができるのでしょう。
フィジカル・コンピューティングの例としては、以下のようなサイトが上げられます。


Test Your Breath
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PCのマイクに向かって息を吹きかけることで、息のくささを判定するサイト。もちろんにおいがマイクごしに伝わるわけではありませんが、音声を元にウェブページがインタラクティブに動きます。


Talk to The Plant
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ハインツによる植物に話しかけると成長が早くなるということを検証するためのサイトで、ユーザがウェブサイトから入力した内容が、音声としてトマトのよこに設置されたスピーカーを通して流れます。


Ray-Ban Virtual Mirror
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アメリカの広告代理店のPublicis & Hal Rineyのサイト。ウェブカムを用いて、ジェスチャによるサイトナビゲーションをユーザに提供しています。実用性は乏しいですが、ユーザに与えるインパクトは大きいです。


Publicis & Hal Riney
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アメリカの広告代理店のPublicis & Hal Rineyのサイト。ウェブカムを用いて、ジェスチャによるサイトナビゲーションをユーザに提供しています。実用性は乏しいですが、ユーザに与えるインパクトは大きいです。


The Unloader
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これもブログでは取り上げていませんし、厳密にはフィジカル・コンピューティングではありませんが、Nokiaによるサイトで、PC上にあるファイルをアップロードすると、そのファイルがムービーの中で実体化されて、さまざまな機械によって粉砕されていくサイト。PC上のバーチャルなものが現実世界の物理的な機械によって粉砕されるというアイディアで、多くのユーザを引きつけることに成功しています。


3番目にFlashとHTMLとの連動。FlashをHTMLのように作り込むことで、さらにはFlashとjavascriptを連携させることで、良い意味で裏切ったり、意表を突いたりして、今までにないようなページ上の効果を生み出しユーザにインパクトを与えることに成功しています。
FlashとHTMLの連動の例としては、以下のようなサイトが上げられます。

Suicidal Wave(サイト公開終了)
ホラー映画「PULSE」のサイト。一見したところブログに見えるものの、すべてがFlashで作られていて、書かれている内容が変化するというもの。ホラー映画のプロモーションらしく、ユーザがブログというインターフェイスになれていることを見事に裏切って、恐怖を感じさせることに成功しています。


HEMA
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一見したところ、ありふれたショッピングサイトのように見えますが、これもすべてがFlashで作られていて、時間の経過で品物が動き出すというサイト。通常動かないと思っている商品の画像がアクションを起こすだけで、非常に強烈なインパクトを与えています。


Jumper
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映画「Jumper」のサイトで、これも一見したところスポーツニュースのサイトに見えますが、映画の登場人物がページ上に登場して、戦いを繰り広げます。戦いによって、ページ自体が徐々に崩壊していき、画面が切り替わるという手法。映画のテーマがテレポーテーションであることを利用して、非常に巧みなコンテンツに仕上げています。


Crime Medicine
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スウェーデンの政府機関「The Medical Products Agency」によるオンラインでの薬売買防止のためのサイト。上記の例のように、サイト内のここのアイテムがアクションをおこすわけではなく、Flashでつくられたページが鏡のようにわれ本当のサイトが登場します。このFlashの連動に加えて、このサイトは、ユーザをサイトに誘導するために、テレビCMがながされたという面でも、注目すべきものです。


Wario Land : Shake it
wiiwarioland-youtube.jpg
任天堂「Wario Land」のサイトで、Youtube内のムービーがYoutubeのページ自体を壊していくというもの。Flashと連携して、ページが壊れていくというのも確かに素晴らしいですが、それ以上にYoutubeというユーザが慣れ親しんでいるサイト内でそのサイトを壊してみせたということのインパクトが非常に大きいです。Youtubeを単なるムービー投稿・再生サイトではなく、プラットフォームとしてその上に構築されたという意味が非常に大きく、今後このような展開に注目が集まるところです。


最後にバイラルムービー。さまざまな制約のため、またはウェブ上での展開が最適なため、テレビでは放映されることなく、ウェブ上での「CM」として展開されるものです。ウェブならではのユーザの意識を利用したりするなど、テレビではなかなかみることができない本当にクリエイティビティにあふれ、テーマを見事にメッセージアウトする作品が数多く登場しており、中にはテレビCM以上の効果をもたらすものさえ登場しています。
バイラルムービーの例としては、以下のようなムービーが上げられます。

My Cell phone company is evil!!
NET10というプリペイド携帯電話会社によるバイラルムービー。既存の携帯電話会社がいかに邪悪か=いかにユーザを考えず、利益優先かというテーマのムービー。「邪悪さ」が伝わってくる内容です。


DO THE TEST

ロンドン交通局によるドライバーの自転車への注意喚起を促すムービー。人間の意識がいかに信用ならないものかを身をもって実感できるムービー。


Carlsberg and mentos

コーラにメントスを入れるとコーラが吹き上がるというムービーが流行したことを利用して、カールスバーグにメントスを入れるとどうなるかというムービー。コーラでは吹き上がるという認識を意外な形で裏切ることで、非常にインパクトのつよいムービーとなっています。


Unboxing Omnia

サムソンの携帯電話「Omnia」のムービー。Omniaに関心があるであろうユーザ層がガジェット系ニュースでよく見るはずの箱空け風景を巧みに利用し、Omniaの箱を開けるとどのようになるかということを作り込んだムービー。


Tiger Woods PGA Tour

が話題になってしまったことを逆手にとって、実物のタイガー・ウッズを起用して、まったく同じムービーをつくったもの。

批判を招きかねない「バグ」という事態をみごとにチャンスにかえたムービーだと言えます。


この4つの傾向のように表現手法としては、ウェブ上の広告も今後ますますリッチで複雑化していくことになるでしょう。特に、FacebookにみられるようなSNSのプラットフォーム化が今年日本でもいよいよ進むことになり、ユーザデータとの連携や広告のコミュニティ化などが進むことになるでしょう。ただその一方で、複雑化、高度化したものは、ユーザに受け入れられにくいというジレンマも抱える事になります。技術が進歩し、今まで不可能と思われていた事ができるようになり、表現の幅が広がり、ともすればその技術を使うことがメインとなりがちです。しかし当たり前ですが、広告は本来の役目であるターゲットとするユーザにメッセージを届けるということが肝で、技術はそれを補う手段にしかすぎません。ユーザのことを考え抜いた結果、出てきた表現こそがユーザの心をうち、引いては企業自身の価値を高めるということを忘れてはいけない気がします。
これからは上記に取り上げたサイト・ムービーにみられるように、リッチな表現の中にあっても、シンプルにわかりやすくユーザにメッセージを届けるということが重要になるようにおもわれてなりません。

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