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A Folk Dance DE VASCODAGAMA 1.「人脈も山脈も、やっほーのひと声から。」

March 15, 2010
Tom Kawada
AR三兄弟の長男としても知られる、ALTERNATIVE DESIGN++の川田十夢による連載、第一回。

みなさん、はじめまして。川田十夢です。ALTERNATIVE DESIGN++というクリエイティブチームの責任者をしてます。最近では、AR三兄弟の長男として、メディアに登場する機会が増えていますが、ここでは敢えて本名の川田十夢として、あまり公に語ってこなかった文脈についてうっかり語ってみたいと思います。


2001-2003:ADC(Alternative Design Council)

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AR三兄弟でうっかり知られるようになったALTERNATIVE DESIGN++ですが、実は2001年からJUKIというアパレルメーカー系列会社内で、WEBを中心としたクリエイティブワークを地味に手掛けていました。例えばこの2001-2003年に作った ADC(Alternative Design Council)という近未来のオンライン百貨店。まだMacromediaとAdobeが別々だったFlash5の時代、まだシステマティックに機能するRIAが世に出る前の話です。

一般のロードムービーが退屈過ぎるので、ミュージッククリップにしてしまえばいいじゃないかとか、身長・体重・性別を入れて自動形成されるアバター(まだそんな呼び名もなかったですが)に、好きな服を着せて、様々な角度から重ね着具合を確認し、コーディネート丸ごと購入できたりとか、当時としては画期的な機能が目白押しのシステムです。注文が発生すると、在庫情報がWebサーバ内のXMLに逐一書き込まれ、無駄にショップ側の管理も楽な構造となっています。これはクライアントワークとして手掛けたモノではなく、勝手に作品として作ったモノなのですが、一度、大手百貨店からシステム導入のオファーを頂いた事がありました。が、UIを別デザイナーに任せて刷新したいとの要望があり、デザインも含めて一つの作品だと思っていた僕は、これを拒否しました。若気の至りってヤツですね。

僕らは当時、大手電話会社のデータベース開発を手掛けており、その売上で年間のうちのほとんどの経費を賄っていました。数字を上げつつ、この先何につながるか分からないような未来志向の作品を作ってみる。ただし、魂を売るようなクライアントワークはしない。この試みと無駄なコダワリは以後も暫く続く事となり、多層的な技術の蓄積につながりましたが、知名度を得るタイミングを逸する原因にもなりました。


2005-2007:Sewing Machine Management System

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2003-2004年、僕らはコダワリを捨てきれないまま、ひたすらWebデザインや映像やシステム開発の仕事を続けていました。手掛けたサイトがデザイン専門誌に掲載されるなど、Web業界のごく狭い世界で評価を得た僕らは、本社機構から開発技術を買われ、某大手縫製メーカーと真っ向から対峙したシステムを作ることになります。

ミシンとインターネットをつないで縫製データを交換したり、ミシンの中に残るログを解析して縫製工場のラインバランスを評価したり、トラブルシューティングを動画で説明したりするトータルマネジメントシステムの特許開発に従事しました。また、全世界で動作する部品発注システムを企画・設計・開発したり、Webサイトのリニューアルをしたり、CDN(Contents Delivery System)を導入したり。とにかくメーカーの中でできるWeb開発は全て手掛けました。メーカーは全世界のユーザーから、大きな支持を得る事に成功し、会社内での僕らの評価は少しだけ高まりました。にもかかわらず、メーカーの外からの反響が全くない。はて、どうしたモノかと。僕らの実力はそんなもんジャナイだろと。ちょっとクリエイティブの矛先を、中から外へ戻すことにしました。


2008:PLANT5+DRUMMER+ON-DOR


2008年の僕らは普段の仕事の傍ら、映像系アワードに出品するようになっていました。ASで音声ファイルを解析して、それを映像化する実験作品の数々。海外の由緒あるWebSiteで紹介されたり、小山田圭吾賞を受賞するなど、いくつかの結果が残せるようになってきました。しかし、賞を穫ったところで一気に有名になるという事もなく、静かに次に作るべきモノについて考えていました。


2009:Adobe Records Interactive Art + Music Clip / he.ratt.ch


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静かに次に作るものを考えていたところ、AdobeRecordsというアワードを見つけました。2009年5月、結果的に僕は同アワードのインタラクティブ・アート部門、ミュージッククリップ部門の二部門で受賞を果たしました。大きな話題にはならなかったものの、このアワードの審査員が長谷川踏太さんと、辻川幸一郎さんだったこともあり、僕らは大きな自信をつけました。あと、he.ratt.chというインタラクティブ作品がIDEA*IDEAに掲載されたのも、外へ向かう気持ちが加速する要因となりました。


2009:AR3Bros.

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そして、2009年7月。僕は満を持してAR三兄弟の設計に着手します。まず考えたのはネーミング。ARという一般にまだ耳慣れない言葉と、三兄弟という使い古された言葉。これを掛け合わせることで、新しくも古くもない、普遍性を帯びたダサい名前にしました。

次に見立ての部分。僕はこれまでの経験から、アワードを獲ったりアート文脈で語られるような作品が、一般に全く届かないし響かないという事実を経験から学んでいました。だから、次の作品では、なるべく世界を狭めないような工夫が必要でした。そこで僕は、AR三兄弟の作品郡を「AR(拡張現実)について考える三兄弟の連続デブ小説」と表現することで、本来単なるWebシステムに過ぎない作品の間口を広げることにしました。衣装もなるべくダサいモノを選びました。白いTシャツに黒いマーカーの印字。既にマーカーレス技術が主流となりつつあった中、僕は敢えて前時代的なマーカーを、デザイン設計の中心に据えることで、少しでもARやWeb技術のことを知らない一般との開きを埋めようとしました。

最後はコピーです。AR三兄弟は一般の人でも楽しめるモノを作ることを主軸としていたので、最初はマニア層をターゲットとするにせよ、回を重ねるごとに読者(ユーザー)層を確実に広げる必要がありました。だから、第一話目はtwitterという流行の兆しのある APIを材料としたし、第二話ではnenpyoというAPIを、第三話ではWebスカウターやはてブのAPIを材料としました。また、それだけでは弱いと思ったので、それぞれにど根性ガエル・南くんの恋人・ドラゴンクエストなどといった物語やゲームの要素を加え、三兄弟と同じく使い古された印象のある" マッシュアップ"という言葉を多用することにしました。そして第四話ではエポック社の野球盤を、第五話ではやまびこという自然現象を、第六話では農業をといった具合に、回を重ねるごとにジャンルの境界を越えてゆくことに注力するようになりました。

これら作品群の並びとテーマとシステム設計は、AR三兄弟として活動する前からほぼ僕の頭で完成していました。思いつきでうっかり登場しているかのように登場した三兄弟は、実はこんなにも姑息な計算とコンセプトによって成立していたのです。本当はもう一段階ほど姑息なのですが、"うっかりキャラ"をこれ以上壊さないために、もうこの辺にしておきます。


最後に。

AR3Bros episode-v | AR-YAMABIKO from ar3bros on Vimeo.

AR三兄弟には、「酒と泪とねじと山彦」というARやまびこ作品があります。カメラの前で「やっほー」と叫ぶと、言葉が可視化されて表出し、それが更にやまびことなって戻ってくるというシンプルな作品です。これには明確なコンセプトとメッセージがありました。どんなにクオリティの高い作品を作っても、届けるべき人に伝わらない限りは何も始まらない。僕は、これまで書いてきたように、最初からクリエイティブ業界で受け入れれた訳ではありません。かなりの遠回りをした後に認められて、今、やっとこうしてCBCNETで文章を書かせて貰えるようになりました。

もっと早くプライドを捨てて山を上って、山頂から声を届けようとしていれば、もっと早くやりたい事ができるようになっていたかも知れません。僕はその想いをこのARやまびこに託し、僕自身のクリエイティブに対する考えや想いを「やっほー」という声とともに世界に届けようとしました。結果的にその声は色々な場所と人に届き、予想だにしない場所から多くの反響を貰いました。コンセプトを自ら体現することで、この作品は初めて完成したのだと思います。「自分の作品は面白いのに、誰よりも優れているのに。何故誰にも届かないんだ?」とお悩みの方が居たら。まずは目の前の山に登って、大きく息を吸って、ありったけの力で「やっほー」と叫んでみてはいかがでしょうか。

この連載では、今後も普段は滅多に明かさない考察や発想の原点について、ボケるでもアジるでもなく真摯に語ってゆこうと思います。皆さんが常日頃旅している航路とうっかり同期し、何かしらの新大陸発見につながれば幸いです。

Information

2010年 5月1日から、ALTERNATIVE DESIGN++として独立します。新しいオフィスがまだ決まってないので、どっか気の利いた物件を知ってる方がいたらこっそり教えてください。京王か小田急沿線がイーデス。

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