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4. 合い言葉は「ハズし」のテクニック

October 26, 2009
Nao Tokui
メタクリエイター・徳井直生によるiPhoneアプリ開発についての連載第4回

前回からだいぶ間が空いてしまいましたが、みなさんいかがお過ごしですか。前回はなんとWWDCの前だったのですね! WWDCの報告をしますと予告しながら、結局こんな時期にまでずれこんでしまいました。iPhone 3GSの発表やIn-App Purchaseなど、いろいろ見所はあったのですが、もうすでにみなさんご存知のことばかりですので、WWDCレポートはスキップします。ごめんなさい。今回はちょっと趣向を変えて、最近自分が気に入っているiPhoneアプリを紹介します。

App Storeがスタートしてすでに1年以上がたちました。当初のiPhoneアプリ熱もすこし落ち着き、自分なりにお気に入りのアプリ、生活に不可欠なアプリが固まりつつあるのではないでしょうか。いろいろ試してみる中で、インストールはしたものの一度使ったきりで二度と立ち上げていないアプリケーションがたくさんあるよ、という方も少なくないはずです。

そんな中で私自身がよく使っている、あるいは面白いと思ったアプリケーションをいくつか紹介します。

iFOUND!
最初は iFOUND!FFFFOUND!というデザイナー向けの画像共有サイトのブラウズ用のアプリです。FFFFOUND!の上の説明では

FFFFOUND!とはウェブで見つけたお気に入り画像をメモって、シェアして、さらに好みを反映させることで自分好みの画像がおすすめされて、インスピレーションが湧きまくるサービスです。

だそうです。画像に特化したTumblrみたいなサービスです。FFFOUND!のサイト自体は招待制になっているので、私は使っていません。ただ、ブラウズしているだけなのですが、iPhoneアプリが出てから見る機会が一気に増えました。

招待された = 選ばれたデザイナーのフィルターを通った画像なので、いずれもそれなりに面白く、ただなんとなく見てるだけで刺激を受けます。暇があるとはぱらぱらと見てます。アプリ自体もフォントの使い方や、メニューの表示の仕方などもさすがに凝っていて参考になります。

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FragMental Storm(FMS)
次はexonemoFragMental Storm(FMS)です。exonemoの千房君はこのCBCNET上でも連載を持っているのでみなさんご存知なはず。彼らが初めてリリースしたiPhoneアプリ 以前の作品をiPhone用に作り直したもので、exonemoらしさが満載です。

起動するとまずポケモンも真っ青のフラッシュがスタート。文字も読みににくいですし、なにをするアプリなのかもよくわからない。もしiPhoneアプリの情報デザインの教科書があったら、ダメな例として真っ先に取り上げられそうなアプリです(ごめんなさい!)。

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実際には、FMSは、キーワードで検索してヒットした画像ファイルを exeonemoお得意のフラッシュでコラージュ的に表示します。「Web幻覚ブラウザ」というキャッチがまさにぴったり。キーワードとしては、今、自分がいる場所の地名や再生中の曲の名前、もしくはユーザが直接入力したものを使っています。地名の場合なら、FMSを起動したまま移動すると表示される画像もそれにあわせて少しずつ変化していくことになります。

それだけ、といえばそれだけなんですが、意外とこれが楽しい。ランダムなようでランダムではない、自分が置かれた状況とはまったく関係ないようで、微妙にリンクしているところが面白さにつながっています。FMSはフラッシーでローテクっぽい感じがexonemoらしいのですが、あえて「まじめに」iPhoneらしいこぎれいなインタフェースで作り直すと、その辺のバランス感がより強く打ち出される気がします。



The Puma Index
最後は、PumaのThe Puma Indexです。これは広告代理店の知人に教えてもらったいました。これまた不思議なアプリケーションです。立ち上げると部屋でくつろぐ女性の姿が映るのですが、その日の株価の値動きに応じて服を脱いでいくらしいです(残念ながら時差の関係でNYの株式市場が動いているときに起動できた試しがないので....)。女性の読者のみなさん。男性のモデルも選べるのでご安心を。

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openstore

株価が下がるとかけて、服を脱ぐと解く、その心は? と聞きたくなるところですが、「景気が悪くなると服も買えなくなる」ということだそうです。全部脱ぐとプーマのアンダーウェアだけになるという仕掛けが唯一広告らしいところではあります。どうせならプーマの株価が「上がる」と脱ぐとした方が、みんなががんばって株を買ってくれてよかったのではとも (笑) 全く関係ない情報を結びつけることで、アプリケーションに時間的な変化をつけているいい例ですね。脱いだからどうというわけでもないのですが(笑)、なんとなく開いてしまいます。


この三つのアプリに共通する点ってなんでしょう。一つ挙げるとしたら、程度こそ異なれど、何が起こるか分からないという「不確実性」でしょう。iFOUND!はどんな画像がでてくるか分からない、FMSではさらにコラージュのされかたもランダムです。Pumaのは他の二つに比べると変化は少ないですが、それでも株価という外部要因によって様々なイベントがおきます。

ただし、不確実性を組み込むの仕方は三者三様です。iFOUND!は嗜好の異なる複数のデザイナーの参加によって、FMSではネットと画像検索そのものの持つランダム性、Pumaは株価という外部要因を無理矢理(?)導入することで、それぞれ不確実性を担保しているわけです。

ここで注意したいのは、単にランダムであればよいというわけではないという点です。大切なのはランダム性と予測可能性のバランスです。iFOUND!では、選ばれたデザイナーの目というフィルターが表示される画像の質をある一定以上に保つ役割を果たしています。また、FMSではユーザーがいる場所はiPodで再生している曲の名前などが、コラージュされる画像にある程度の一貫性をもたらします。

ここでは紹介しませんでしたが、私がMailやSafariの次に最もよく使っているアプリは、TwitterクライアントのEchofonです。その理由は、Echofonというアプリがどうこうということではなく(もちろん、すごく使いやすいアプリなのですが)、Twitter自体が上で述べた構造をもっていると言えます。自分がフォローしている人たちが自発的なフィルターとして作用することで、ネット上の情報や現実世界での多種多様な出来事がゆるいながらもある種の文脈を持って提示されるわけです。(ちなみに私のTwitterアカウントは@naotokuiです。よろしく!)

予測可能性とランダム性のバランスの重要性は、直感的に納得できますが、脳科学の世界でも科学的に証明されているようです。例えば脳科学者の茂木健一郎氏と元電通のマッケーティングディレクターで中央大ビジネススクール教授の田中洋氏の共著「欲望解剖」(幻冬舎文庫)の中で、茂木氏は「『適切な文脈下で提示された不確実性』に強く反応する」という脳の特性を繰り返し述べています。その上で、売れる商品を作る秘訣として、「消費者の性向や嗜好などを考慮した上でそこにすこしだけサプライズを加えること」と結論づけています。

ユーザーがアプリケーションを使っていく時間経過の中で、ユーザーが思考/嗜好/指向するところを汲み取った上で、そこを少しだけハズしてあげる。「うれしいサプライズ」をどう演出するかが、長く使われるアプリケーションを作る秘訣なのではないでしょうか。

最後に私の近況ですが、先週(10月第二週)はMITメディアラボの「スポンサーミーティング」に行ってきました。弊社Qosmoがテクニカルなコンサルタントとして参加しているクライアントのお仕事です。メディアラボのスポンサーにならないと見れないような最新の研究成果をいろいろと見せていただき、大きな刺激をもらって帰ってきました。ほとんどがNDA下なのですが、すでに一般に公表されている範囲内でどこかで簡単にレポートしたいと思っています。

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実はメディアラボ内でiPhone 3GSを紛失するという失態も。 一週間経った今でもまだ出てきません。来週あたりに、MITの最新技術が詰め込まれて、パワーアップして手元に帰ってきたり.... しないですよね(涙

WWDC以後、クライアントワークが忙しく自分自身の作りたいアプリを作ることができずにいました。アプリの批評をしているだけの人になってしまわないように、今月来月と新しいアプリの制作に取り組みたいと思っています。お楽しみに。

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