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本の概念を再発見するような作品が並んだ「TRANS BOOKS 2018」
フォトレポート

October 30, 2019(Wed)|



メディアを問わず、どんな本でも購入できるブックフェア「TRANS BOOKS」。
今年も、2019年11月23日(土)、24日(日)の2日間、神保町のTAM COWORKING TOKYOでの開催が決定している。(CBCNET内記事

開催間近のこのタイミングで前回、2018年11月24日(土)、25日(日)に行われた「TRANS BOOKS 2018」の様子を振り返ってみたい。

『いま、どんな形式の「本」や読書体験があり得るか』というテーマの元、アーティストやデザイナーなど多様な分野の方々に本作りを依頼し、制作された新刊や、既に発行されている既刊本などが会場で販売された。
またトークイベントも行われるなど、多角的な視点から本の現在地を探るイベントとなった。

ということで、いくつか作品を紹介しながら、どんなイベントだったのか写真とともに振り返っていく。

参考記事


会場の様子

総勢22組のアーティスト、デザイナー、プログラマーなど、様々なフィールドで活躍する方々の制作した本が並んだ。


会場には二日間絶えず人が出入りし、終始賑わいを見せていた。

出展作品


『入船(にゅうふね)』


アーティストの梅田哲也さんが中心となって、2015年から大阪の水路で行われているクルージングイベントをまとめたマガジン。

この本は、夜のクルーズで一度は川に流れてバラバラに散らばったその小さな出来事の断片を、もう一度海の底からすくい上げてホッチキスで閉じたものです。黒い水の底への入り口として。入船。
梅田哲也


「海の底からすくい上げてホッチキスで閉じた」という言葉からもわかるように、実物は川に打ち捨てられていたかのようなボロボロな質感に仕上がっている。写真右側のペットボトルはマガジンの仕上げ工程で、紙をふにゃふにゃにするために実際に使用された大阪の川の水。

本マガジン完成後に行われたクルーズイベント様子は以下より。



飯田竜太 『木の本を配る』


棚にたくさんの本が詰まっているのかと思いきや、よく見るとそれは木の板。
飯田竜太さんの作品は、タイトル『木の本を配る』通り、来場者は自由に木を持ち帰ることができる。

本は紙で作られています。「本」という文字の中に木が隠れていることからも、木に情報がプラスされていると本になります。身の周りにある本はもともと木や植物だったと考えると、植物から知識や情報を伝えられていると考えることもできます。もう一度、原初の木から何かを受け取りたい。木と向き合い譲渡される体験として本を捉え直したい。
飯田竜太
(ハンドアウトより)


木目のかっこいいのがいいなとか、穴の空いているやつがいいなぁなどと考えながら、真剣に木の板を選び始めると、ひとつひとつ全く違う情報が埋め込まれていて、木一枚の中にも書籍のような密度の高い情報量が読み取れるなぁと思ったりた。


渡邉朋也『阿吽』


突然、本の即売会なのにシャツが置かれていて、「これは一体?」と思った方もいるかもしれない。

渡邉朋也さんのプロジェクトに、8ビットの情報を記録できる日用品を発見し、それらを構成することで、コード化された文字情報を日常空間に埋め込む「“Hello” from or for supermarkets」というものがある。写真のシャツは、ボタンの開閉を「1」or「0」と捉え、8桁の2進数(=8ビット=1バイト)で、アルファベットや数字などの文字を表現している。つまり…

これは、8ビットの情報を記録できる日用品を発見し、それらを構成した文字であり、新しい形式の「書」です。
渡邉朋也
(ハンドアウトより)


なんと、これは、「書」だったのだ。ここまで書(物)の概念が拡張してしまうとは…


鹿 『つぶあん&マーガリン』


またもや、本の即売会なのに、コンビニで売られている菓子パンが整然と並べられている。しかし、よく見ると、何やら表面に言葉が書かれている…。

この作品は、鹿(@shikakun)によるコンビニで売られている菓子パンに、詩を書いた本。

おなじ情報が、おなじ価格で販売されて、どこでも手に取れるものが本だとするならば、たとえば僕が毎朝のように食べているこの菓子パンも、本といえるでしょうか。広がり続けるいまの本と読書を考えるために、かつて本というメディアや、本屋が担っていたのかもしれないプラットフォームの役割を、コンビニエンスストアと菓子パンに重ねて、詩を書くことにしました。
鹿
(ハンドアウトより)


どこで買っても味や料金は変わらない、しかもコンビニで買える。そんな均質的な現代フード『つぶあん&マーガリン』に突如として詩という個人的な言葉が入り込んでくるという、その対比にも良さがあった。

イベント2日目の半ばで売り切れになってしまった際、会場に向かっているお客さんが近くのコンビニで『つぶあん&マーガリン』を購入して届けてくれるという一幕も。




パーフェクトロン 『ごちゃまぜ文庫_ポケット〈A〉』『ごちゃまぜ文庫_ポケット〈B〉』



どこかで見覚え、聞き覚えがある本のタイトルが積み木によってくっつけられ、思わず笑みがこぼれてくる本作。
この作品は、既存の本のタイトルの上下を組み替え、新しいタイトルを作って遊ぶという積み木で、パーフェクトロン(クワクボリョウタさんと山口レイコさんによるアート・ユニット)によるもの。
上下の積み木はマグネットでつながるようになっていて、直感的に遊ぶ事ができる。

すでに出来上がっている物語や言葉のイメージが、なんの脈絡もなく結びついてしまい、さらに不思議なイメージが脳内で生成されてしまうという、大人から子供まで楽しめる積み木。


hitode909 『 VR夢日記・豆本夢日記』


hitode909による過去7年間、ブログに書き続けた夢日記、約200日分をVRコンテンツと豆本にまとめた作品。ちなみに、VR夢日記は手持ちのスマホやヘッドセットでこちらから立ち読み可能。(VRではアマゾンの奥地のような自然の中で、たまに布団に入ったhitode909さんが上下に移動しているという謎の夢のようなシチュエーションの中で、夢日記を読む事ができる。)


新津保建秀 『往還の風景_稲城 | Inagi』


写真家・新津保建秀さんによる作品。

過去に訪れた土地を、何年かたってから再び訪れた時に意識される、再帰的な時間感覚を複数枚のインクジェットプリントの連なりの中に再構成。作品では2008年5月12日に作者がUR都市機構のポスター撮影の際に訪れた空き地と周辺の森を、ちょうどその10年後の2018年5月12日に、その地で幼年期を過ごした知人ととも訪れ共に歩く過程で撮影した画像がまとめられている。

手製本(クリップどめ)の本作は、一部ずつ全て手作りのため、完全受注生産となっていた。


永田康祐 『 Equilibres #1』『 Equilibres #2』


タイトルの『Equilibres』はアーティストユニットのピーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイスによる、日用品を微妙なバランスで組み合わせた儚い立体物を、写真で記録することによって、彫刻作品(の記録)として提示するという作品に由来している。

本作では、このフィッシュリ&ヴァイスの写真作品から立体物を再制作し、3Dスキャンすることによって3次元的に記録、集成している。

フィッシュリ&ヴァイスの実践は、彫刻作品がしばしばそれ自体ではなく記録として流通するという事実を逆手に取ったものですが、これらの記録は逆に、記録が(写真を用いた3Dスキャンのように)立体物として再構築されるという反転を示しています。
永田康祐
(ハンドアウトより)


本や写真の持つ「記録」という機能の可能性を拡張するような作品。


HandSawPress『カラーチャート2018』


HandSawPress」は、食堂店主、建築家、空間デザイナーという、出自も得意分野も違う3人で2018年初めにスタートした武蔵小山にあるD.I.Y.スペースで、リソグラフ印刷機と木工の工具などがあるスペースだ。

本作では、2018年の場所の記録として、HandSawPressが持つ16色のインクのカラーチャートを印刷。オルタナティブなリソスタジオにとって、色数を増やすことはお金も時間もかかる事であり、インク数が多いことは自慢でもある。そして、この色見本帳は1ページずつ買える本でもある。


olo『理解してナットク! あたらしい偽ビジネスマナー』



oloさんによる、偽ビジネスマナー本。

限りなく見た目は、書店でよく見かけるマナー本っぽいのだが、それなりの根拠と共に全くの偽情報を提示した場合、偽情報である事は明確だが、人はそこに真実味を感じてしまうのではないか?という実験としての本。



例えば、「スーツの強制は失礼」など、世間一般で「正しい」「好ましい」とされるビジネスマナーとは真逆の内容を示しつつ、よく読んでみると、「清潔で、違法でない限り、個人それぞれが動きやすいと思う服装を心がけましょう。」といった多様化する現代社会に即した柔軟な考え方が示されているので、偽情報というより、もはや形骸化してしまっているマナーに鋭くツッコミを入れるような示唆に富んだ内容になっている。

ちなみに、_olo_さんは、実際には存在しない想像上の国の「架空紙幣」を作ったりもしている。



福永信+仲村健太郎 『実在の娘達』



小説家・福永信さんと、ブックデザイナー・仲村健太郎さんによる作品『実在の娘達』。

福永さん、約5年ぶりの新刊となった本作には、雑誌「IMA」、雑誌「花椿」、金氏徹平の舞台作品「tower(THEATER)」のために書かれた3つの掌編が収録されている。
この本の特徴は、それぞれの作品が活版・写植・DTPという異なる技法で印刷されている点だ。確かによく見てみると、インクの滲み具合や滑らかさが違っていることが分かる。

普段はあまり意識しないが、違う印刷技術が一冊にまとまっていると、印刷によって文字の印象が結構違うんだなぁと改めて気づかされる。

本作はこちらでも購入可能


グッズも好評でした。でかトートのイラストは作・山本悠


という事で、第一回目に引き続き、今回も本という概念の再発見を意欲的に試みるような作品が並んだ。
一見、シャツであったり、パンであったり…本当に多種多様な形態の書物や読書体験ができるイベントとなった。

また、初日の夜には、出展作家の一人でもある都築響一さんを交えた、トークイベントも開催されたが、その様子はこの後、レポート第二弾に続く…


会場風景写真:市岡 祐次郎




次回、開催間近の「TRANS BOOKS 2019」もぜひ、お見逃しなく!(CBCNET内記事

TRANS BOOKS 2019
https://transbooks.center/2019/

日程: 2019年11月23日(土)、24日(日)
入場料: ¥200(運営に対するドネーションとして)
オープン時間: 11:00〜18:30
イベント: 出展作家を交えた、公開ラジオ収録 (Youtube Live) 23日(土)18:30〜 (予定)
会場: TAM COWORKING TOKYO (神保町)
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-28-9 三東ビル1F



Information

TRANS BOOKS 2018
http://transbooks.center/

日程:2018年11月24日(土)、25日(日)
入場料:無料
オープン:11:00〜18:30
トークイベント:24日(土)18:30〜(予定)

会場:TAM COWORKING TOKYO (神保町)
https://www.tam-tam.co.jp/coworking/
住所:〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-28-9 三東ビル1F
最寄駅
・都営新宿線「小川町」駅(徒歩3分)
・丸ノ内線「淡路町」駅(徒歩3分)
・JR中央・総武線「御茶ノ水」駅(徒歩5分)
・都営三田線・半蔵門線「神保町」駅(徒歩9分)
・千代田線「新御茶ノ水」駅(徒歩3分)

◎出展作家一覧(敬称略)
・阿児つばさ、雨宮庸介、飯沢未央、梅田哲也、九鬼みずほ、さわひらき、辰巳量平、西光祐輔、hyslom、船川翔司、松井美耶子、山本麻紀子、柳本牧紀(船先案内人)
・飯田竜太 (彫刻家・美術家)
・伊東友子+時里充(制作・執筆+アーティスト)
・UMISHIBAURA(パブリッシャー)
・edition.nord consultancy + poncotan w&g (本作りの相談業務+レーザープリント印刷・製本工房)
・olo(架空紙幣作家)
・齋藤祐平(古書店員)
・mmm(サンマロ)(解釈者)
・鹿(会社員)
・新津保建秀(写真家)
・stone(テキストエディタ)
・TADA+STUDIO PT.(Photographer+Design Studio)
・永田康祐(アーティスト)
・Hand Saw Press(リソグラフ印刷スタジオ)
・パーフェクトロン(アートユニット)
・hitode909(プログラマー)
・福永信+仲村健太郎(小説家+グラフィックデザイナー・ブックデザイナー)
・PROTOROOM(MetaMedia Collective)
・山中澪+池亜佐美(アニメーション作家)
・ROADSIDERS 都築響一(有料メールマガジン発行 / 編集者・写真家)
・youpy(プログラマ)
・渡邉朋也(美術家 / タレント)

主催:TRANS BOOKS 運営委員会 (飯沢未央 / 畑 ユリエ / 萩原俊矢 / 齋藤あきこ)

協力:株式会社TAM、CBCNET
URL : https://transbooks.center/2018
twitter : @transbookstrans
instagram : @transbooks
Facebook:https://www.facebook.com/transbookstrans


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