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5. ARの可能性 : モバイルからウェブまで (後編)

November 11, 2009
Tomo Nozawa
ニテンイチリュウを運営する野澤 智による連載第5回。ARに関する話題、後編。

North Kingdom インタヴュー

nozawa05_05.jpg上記のように、ARがウェブサイトに取り入れられる先駆けとなった「GE Plug Into Smart Grid」。ARを使うという前例のない取り組みにチャレンジしたスウェーデンのインタラクティブ・エージェンシー「North Kingdom」の創設者Roger Stighäll 氏にこのサイトの背景について話を伺ってみたいと思います。

・North Kingdomについて教えていただけますか?

North Kingdomは世界中の有力な広告代理店とともにするだけでなく、自分たち自身でもプロジェクトを動かしている、スウェーデンにある小さなデジタルエージェンシーです。デジタル分野に素敵で魅力あるブランド体験を生み出すことに日々邁進しています。

・GEの「Plug Into the Grid」を拝見しました。とても素晴らしかったです。AR技術を使った世界初のプロダクションサイトだとおもいますが、どのような経緯でARをサイトに取り入れようと考えられたのですか?

とてもよい信頼関係を築いている広告代理店であるGoodby Silverstein & PartnersからもともとはARを使うことは提案されました。彼らはARがこのサイトのコンセプトにとてもフィットしていると考えていました。そこで私たちは、AR技術を使うことによって彼らのコンセプトをどの程度実現できるか調べるためのR&D予算をとりました。数週間の調査の結果、AR技術はとても素晴らしく、このサイトのコミュニケーションコンセプトにとてもあっていると実感しました。

・このサイトのコミュニケーションコンセプトとは何だったのでしょうか?またそれにAR技術のどういった側面がフィットするとお考えになったのでしょうか?

それはGEがイノベーションを起こし続ける企業であるということを伝えるということです。私たちがAR技術を使って行ったことは、そのイノベーションの一例です。そしてそれと同時に、GEの環境への考えを例示することができたと思っています。

・このサイトの制作にはどれくらいの人が携わったのですか?

2つの異なるチームでこのプロジェクトには取り組みました。1つのチームはSmart Gridのサイト構築を行いました。約10人で構成されていて、2ヶ月弱で作り上げました。もう一つのチームはもう少し小さく、AR部分を専門に担当しました。開発者2人とアートディレクター1人、3Dアーティスト1人、プロデューサ1人、サウンドデザイナー1人です。

・このサイトを作る際に特に配慮したことは何でしょうか?

私たちは常に、サイトのビジターが、できる限り長くサイトが提供するブランドと触れられるように、魅力的でシームレスな体験を作り出そうと努めています。そしてこのサイトを通して、ARを使うことで、全く新しい体験をユーザに提供し、興味深いAR技術自体をプレゼンテーションしています。パフォーマンスは常にウェブ上では問題であり、ARは一般的にはとても高いパフォーマンスを要求するアルゴリズムです。そのためスムーズに動作させるために、かなり時間をさきました。もう一つ問題となったのは、3Dモデルをマーカーにマッチさせ、スムーズに動作させることでした。

・可能であれば、ARのパフォーマンスを改善したり、3Dモデルをマーカーにスムーズにマッチさせる方法を教えていただけますか?

ARToolKitと呼ばれるオープンソースのARライブラリのFlashバージョンを使いました。FlashバージョンはFLARToolkitというものです。FLARToolkitとFlashの3DライブラリであるPaperVisionを組み合わせて構築しています。それらライブラリに加えて、たとえばアニメーションやサウンド周りを改良したり、一般的なパフォーマンスチューニングを行っています。残念ながら、これ以上はお伝えできません。

・AR技術はどのようにウェブやウェブプロモーションを変えていくと思われますか?

今日私たちが目にするARを使った事例は、多かれ少なかれ実際に技術が使えるかという概念実証のデモです。しかし将来的にはより実用的でより統合されたソリューションを目にすることができるでしょう。AR技術は、インタラクティビティーの中心であり、さらにはより商品やサービスに関連することになるであろうウェブ体験の欠かせない要素として、今後実装されていく可能性があります。

・将来的にはウェブ体験の欠かせない要素としてAR技術がなるとのことですが、可能であれば、今現在ARをつかってどのような取り組みをしているか教えてください。

今年の後半にはローンチする予定のARのプロジェクトをいくつか抱えています。できる限り技術をいかし、それと同時にユーザとブランドにとって実用的であるように取り組んでいます。

・ウェブ体験の欠かせない要素としてAR技術がなるとのことですが、ウェブの未来はどのようになるとお考えですか?

大きな未来があります。私たちが理解しなければならないのは、PCだけでなく、モバイル、デジタルサイネージなどすべてのプラットフォーム上にウェブがあるということであり、未来のブランドコミュニケーションの中心にあるということです。すべてのデバイスで動作する、より個人個人に最適化されたコミュニケーションソリューションを作り上げることが必要となるでしょう。一人一人が自分が選んだ自分自身のデバイスをもち、それに加えてさまざまな場所にディスプレイがある状況になると考えています。

・最後にそのような未来にあって、どんなことにトライしたいとお考えですか?

それは魅力的なブランド体験を作り出すことです。私たちは、デジタル分野においてブランド体験に命を吹き込むことに注力しています。私たちは小さな企業であり、フォーカスしていることに注力し、自分たちですべてをやらないようにすることがより重要です。ネットワーク作りと柔軟性が成功への鍵だと思っています。


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Norh Kingdomの所属メンバー

North Kingdomとしてもやはりさまざまなデバイスがウェブにつながり、そこからARを使って透過的に情報にアクセスできる未来がくると考えているようです。


最後に

これまでみてきたように、モバイル機器はもちろんウェブにおいてもARの普及はとどまることを知らないように思われます。現状では、モバイル機器やPCなどを通して、ユーザはARを体験していますが、そのためにはたとえばiPhoneをかざしたりする必要があります。そのことから、やはりユーザが求める情報とそれを入手する方法にはまだギャップがあることは否めません。この形式も近い将来、より自然で直感的な形に変貌することになります。

VuzixMicrovisionLumusといった企業がメガネタイプのディスプレイをどんどん小型化し、実用化してきています。先日ブラザーはポータブル網膜走査ディスプレイ(RID:Retinal Imaging Display)を発表しました。さらにはワシントン大学では、回路とLEDを搭載したコンタクトレンズが研究されています。


Vuzixを使って、LEGO上にARでCGを合成表示。

MicrovisionによるHMD紹介プレゼンテーション


実用的には付加情報による指示なども考えられます

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目に入れても安全な明るさの光を網膜に当て、その光を高速で動かすことによる残像効果を利用した映像投影技術「RID」。 網膜に投影された映像は「視覚」として認識され、目の前に映像が存在しているように感じる。

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厚さ2-3ナノメートルの電気回路と、極小のLEDを搭載しているコンタクト

また付加されるであろう情報の源となるウェブはますますリアルタイム性を増しています。今みている現実に、リアルタイムなバーチャル情報が溶け込んでいく日がすぐそこまで来ています。

<a href="http://video.msn.com/?mkt=en-GB&playlist=videoByUuids:uuids:a517b260-bb6b-48b9-87ac-8e2743a28ec5&showPlaylist=true&from=shared" target="_new" title="Future Vision Montage">Video: Future Vision Montage</a>
マイクロソフトの描く2019年のビジョンにもARがインターフェイスとして大きく取り入れられています。

とはいえ現状では問題や課題も山積していることもまた事実です。上記にみたような精度の課題に加えて、GPSセンサー自体の消費電力が現状ではまだまだ大きく、位置情報ベースのARを提供するには駆動時間の制限が大きいこともあります。さらにたとえば現状のモバイル機器のARアプリケーションに多く見られるように、付加された情報が位置情報にバインドされていることがあります。特定の情報にアクセスするには、その場所に行き、そのアプリケーションを使うしかないため、ほかのデバイス、たとえばPCなどからその情報にアクセスするのが難しいことに加えて、検索性も低くなっています。そのために付加情報、特にARを通して付加された情報を再利用できないことや、さらにアプリケーションベンダー間で付加情報に互換性がないため、情報に広がりがかけている点、ほかにもプライバシーの問題などなど技術的、社会的な課題がいろいろあります。

このような課題や問題を一歩一歩解決していくことは一朝一夕では行かず、近くて遠い道のりです。しかし技術革新等、現在着実に前進していることは事実です。この道の先にあるであろうバーチャルとリアルが融合した世界が非常に楽しみでなりません。

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