そんなわけで、あんまりこんなことしたこと無いのだが、自分がつくったものについて解説してみる。今回のこれは、細かいところを知れば知るほど面白いところがあるので、もし気に入ってもらえたら是非、余韻としてお楽しみ頂きたいと思って、書いてみる。





※携帯・タブレットや、外国からはご覧頂くことができません。PCにてご覧ください。

UNICORN ✕ 宇宙兄弟「Feel So Moon」
言わずと知れた、日本が誇るユニコーンの新曲のミュージックビデオである。
これを、毎度ペアを組んでいる弊社川村真司と、PerfumeやサカナクションのMVなどで有名なキング・オブ・ミュージックビデオである関和亮氏と3人で、企画・監督する形でつくった。

ユニコーンと言えば、私が中学生の頃から第一線で活躍しているアーティストなわけで、当然ながら憧れのミュージシャンだ。まさか自分がユニコーンのMVを手がけることになるなんて、想像もしていなかった。
前回の記事をお読みになった方はおわかりのように、そもそも私はウェブサイトをつくりたくて就職したくせに、いろいろ暖簾を広げていく中で、いつの間にかミュージックビデオなどというものまでつくるようになっている。
映像とか、全然興味なかったのに。

ともあれ、このミュージックビデオは、恐らくとても特殊なミュージックビデオだ。

そもそも、曲が、アニメ「宇宙兄弟」の主題歌として書かれている。歌詞から何から、「宇宙兄弟」を意識してつくられているから、ある意味、「宇宙兄弟」のテーマソングに近い。
ご存知ない方のためにお伝えすると、「宇宙兄弟」というのは、講談社さんのモーニング誌で連載されている、文字通り、宇宙飛行士の兄弟を主人公にした成長ストーリーであり、人気漫画である。映画化もされたし、単行本はどの書店でも平積み状態だ。この曲は、その「宇宙兄弟」中のエピソードからヒントを得た歌詞やフレーズでできているのだ。

そんなわけなので、このミュージックビデオには単刀直入な目的が最初からあった。MVを通して、漫画「宇宙兄弟」に興味を持ってもらうこと。である。
そもそもこのお話を持ってきてくれたのは、「宇宙兄弟」の担当編集者である佐渡島さんである。
もともと、我々は、「Moon Jump」とか「Scroll to the moon」といった、宇宙兄弟発のiPhoneアプリをこの方と一緒につくってきた。もともとは、弊社の中村洋基が、ずっと以前から、やはり佐渡島さんが担当されている井上雄彦先生と仕事をしていたあたりからつながりが始まっている。
この人はすごい。何がすごいって、有言実行が徹底していて、何でもかんでもものすごいスピードで実現してしまうのだ。詳細は後述していくことになるが、この人の半端無い実行腕力の上に、この企画が成立しているのは間違いない。

というわけで、佐渡島さんとキューンミュージックさんから頂いたテーマは、簡単にまとめると、
「ユニコーンのMVでありつつも、漫画『宇宙兄弟』のMV」
ということである。
これはなかなか大変だ。普通にMVをつくるのも毎回大変なのに、今回は、漫画の魅力まで伝えなくてはならない。

ミュージックビデオというのは、「音楽ありき」で存在するものだ。音楽なんて、音を楽しむものであって、実はあまり映像とか関係ない、なんて、音楽をやっていた私は思ったりする。が、映像や体験は音楽に対して、その魅力を増幅することができる。映像をつけることで、「音楽」が、「音楽+」くらいになるといいなー、なんて思っていつもつくっている。当然の話ではあるけれど、音楽が0から生まれて、1になる。1であるものを2とか3にするのがMVの役割だと思う。
MVは、0を1にすることはできないのだ。

上記のようなテーマでこの曲のMVをつくる、ということは「音楽」を「音楽+」にしつつも、「漫画」を「漫画+」にする、ということである。
この曲は、漫画から着想を得ているので、表現の仕方によってはギリギリまとまるかもなー、というところだった。

川村と企画を考え始めた。漫画のビジュアルを使う方向、そうではない方向、いろいろとだべっているうちに、ある漫画のことを思い出した。
「サルでも描けるまんが教室」という漫画だ。この漫画は、文字通りまんが教室の体をとっている。漫画文化の中で培われてきた様々な技法を適当にいじりながら、ぶっ飛んだトーンで紹介していく、まんが教室のようでいて漫画という存在そのものをいじっている漫画だ。
その中で、「サブリミナル漫画」というコーナーがあった。このコーナーでは何を紹介しているのかというと、要するにスクリーントーンの粒や、漫画の枠線のような細かくて見えないところに、エロい絵柄や下品な言葉を細かく忍ばせておくと、呼んでいる人をだんだんエロい気分にすることができる、とかそういう話だ。

そういった、コミック中の細かい仕込みをMVにしたら面白いのではないか、と考えた。幸いにも上記の講談社の佐渡島さんがいる。単行本にちょっとした何かを仕込んだり、同時期に発売される宇宙兄弟MOOKに何かを仕込んだりということは可能なのではないか?
いや、これは、このチーム以外では絶対に実現できないことなのではないか?

そんなことを考えて、プレゼンして、「面白い! 超大変だけどやってみよう!」ということで動き出したのがこのプロジェクトだ。
「宇宙兄弟」18巻MOOK「We are 宇宙兄弟」、そして、初回限定盤CD「Feel So Moon」のジャケット、3つの商品を徹底的に使ったMVをつくる、ということになった。

実際問題、超大変である。
まず、MVの展開を決める。歌詞に合わせたり、音に合わせたり、「こんなのを本に仕込めたらいいなー」というコンテを天真爛漫に構築していく。
それを、佐渡島さんやMOOKのデザイナーの岩間さん、キューンミュージックさんに相談していく。
「読む空気がなーい」とだけ書いてある見開きを入れてくれ、だの、鏡で見ると宇宙って書いてあるように見えるページを入れて欲しい、だの、「MOOKの角にパラパラマンガを入れられないかなあ、だの、普通に考えると非常識すぎるお願いに対して、彼らは「やりましょう」と孫さんばりに即答して、どんどんやる方向に動いていくのだ。
MOOK上の記事の撮影にも参加した。例えば奥田民生さんのインタビュー記事の写真は、スタジオで民生さんにギターを弾いてもらっているアングルを2ページ連続で見開きで使うデザインだ。この2ページをパラパラとめくると、民生さんがギターを弾いて見える、という仕込みだ。

それどころか、原作の小山宙哉先生が動いてしまった。
単行本中に、主人公のムッタが「わぁっ」って言っているコマを入れてもらえないだろうか、という神をも恐れぬご相談を、天真爛漫にしてみた。
歌詞で「わぁっ」と言っているところで使えるといいなあ、なんて思っていた。
2週間後、最新号のモーニングが私たちのもとに届いた。MVで使用する予定の18巻に入る回が掲載されている。
そこには、服の中に入ってきたトカゲに驚いて「わぁっ」と飛び起きるムッタの絵が、描かれていた。

聖域に足を踏み入れてしまった感があった。「宇宙兄弟」は、間違いなく日本の漫画史に残る素晴らしい漫画だ。そんな、ずっと残っていく作品の1コマに、私たちの天真爛漫なお願いが反映されてしまったのだ。
これが明治時代だったら、芥川龍之介に「羅生門にこういうセリフ入れてくれませんか?」とお願いして入れてもらってしまったようなものだ。

奇跡のようなことがどんどん起こっていく。上述の佐渡島さんの半端無い実行腕力に引っ張られて、いろんな人がノリノリになってこのプロジェクトに参加してくれる。

本のデザインを決めていって、川村と関和亮さんと制作の太陽企画さんと、ビデオコンテをつくっていく。撮影できるものから撮っていって、だんだんとビデオコンテにはめていって、具現化していく。
私はそれと同時に、映像の展開を考えていくだけではなく、後半のマルチページめくりパートをはじめ、プログラムでフォローできるところをシミュレーションしていく。
いろんな工程を経て、MVができあがっていった。


こういうものなので、ウェブサイトでは、各シーンで何が行われているかを説明するものにしようと考えた。そして最終的に、「解説付きインタラクティブ・ミュージック・ビデオ」をウェブサイトにすることにした。
MVに合わせて、背景に入っている本の写真が動いていく。
映像を縮小すると、どの本の何ページを使って何をするか、という解説が入っている。そこにはamazonの商品ページへのリンクが入っていて、本やCDを買うことができる。
要するに、考え方としては「その気になったらユーザーが自分の手元にある本だけでMVを再現できてしまう」ということを目指している。

映像で使われている小道具=商品が全部ユーザーの手元にある、なんていうことは、ベストセラー漫画とユニコーンのCDという、たくさん流通している商品だからこそ実現できる荒業である。なかなかこういうことは実現できない。
そういう背景もあって、全編を通しては、いろんな人がいろんなところでコミック・MOOK・CDを楽しんでいる場面を切り取った構成になっている。

そんなわけで、映像ができた。
ウェブサイトでも解説を入れているが、最初で書いた通り、気づけば気づくほど面白いものだと思うので、細かく解説してみる。

・0:00〜



まず登場するのは、ユニコーン “Feel So Moon” 完全生産限定盤CDのパッケージである。
コミックサイズのジャケットの表紙は小山先生書き下ろしのユニコーン&六太と日々人だ。
この表紙のイラストを小山先生が描くさまは、ティザーのスペシャルムービーとして先生の仕事場にお伺いし、撮影して、公開した。
アニメ「宇宙兄弟」の間をはじめ、CMとしてテレビでも放映された。

そうこうしているうちに、ジャケットから取り出されたCDが、無印良品的かつ深澤直人さん的なCDプレーヤーにはめ込まれて、回りだす。
そうすると、盤面に描かれた「宇宙兄弟」の主人公の愛犬であるAPOが走りだす。
いわゆる、「ゾエトロープ」である。連続したコマを高速で回していくと、アニメーションしているように見える、そんな仕掛けをCDの盤面に仕込んで頂いた。
コマの数や、走り方など、検証を重ねてこんな感じになった。

そうこうしているうちに、宇宙兄弟18巻を読んでいるユニコーンの阿部さんが登場する。例によって、撮影地:弊社スタジオである。
阿部さんが着ているTシャツは、今回のためにつくったもの。このTシャツに注目して頂きつつ、次のシーンに入っていく。

・0:24〜

ここでコミック中のコマが登場する。主人公であるムッタが着ているTシャツは、前のシーンで阿部さんが着ていたTシャツと同じものである。
もちろん、小山先生に、MVに合わせて本編中に盛り込んで頂いたコマだ。
他にも、漫画の中のキャラクターの服装で遊んでいる場面が後に登場する。
そのままの流れで、過去の巻に登場したロケット発射シーンに向けて、「5、4、3、2、1」と漫画の吹き出しが展開していく。

・0:31〜

前述の「わあっ」のコマで民生さんのヴォーカルが入ってくる。言わずもがな、歌詞と連動して小山先生が本編に盛り込んだコマである。
トカゲが服の中に入ってきて飛び起きる、という場面に、見事に埋め込まれていて、普通に読んでいても当然ながら、全く違和感がない。

・0:33〜


これも18巻のシーン。もうひとりの主人公である日々人が、宇宙飛行士としての自分を取り戻してジャンプする、象徴的なシーンだ。この絵は、「足が地につかなーい」という歌詞にリンクしている。
ジャンプしているから、足が地についていないのである。

・0:36〜

漫画に限らず、書籍にはたいがい、「帯」というものがある。
このMVには、もちろんその帯も登場する。歌詞にリンクして、「FEEL SO GOOD!!」というコピーを帯に入れて頂いた。
曲名は「Feel So Moon」なわけだが、ここではわざわざ「FEEL SO GOOD!!」である。それも、MVのためにそうなっている。
この帯は、特製シールがついている宇宙兄弟の特別初版本にのみ付いている帯である。

・0:38〜

たいがいの漫画の最後の方のページには、広告スペースのようなものがある。
同じ筆者の別の漫画や、次巻予告なんかが入っている。
MVでは、このスペースとも連動している。
見開きは、このCDの広告スペース。そこに、ムッタの顔と月、半分に分割された「宇宙」の文字、なぜか反転した英文。
床屋さんで宇宙兄弟を読んでいるお客さんが、鏡を本の真ん中に差し込むと、「宇宙」の文字が浮かび上がる。
これも、「左も右もないーーー」という歌詞にリンクしている。線対称だから、左も右もない、ということである。
そしてカメラが鏡の中に寄っていくと、反転していた英文字が、やはり「FEEL SO GOOD」という文字になって浮かび上がっているのである。
すべて、MVのこの場面のために仕込まれたレイアウトだ。

・0:44〜

公園で少年が、「宇宙兄弟」18巻を丸めてハートの形をつくって、愛の告白みたいなことをしている。そいでもってフラれる。
他愛もない表現だが、実は、「初恋のようでもなーい」という歌詞に連動している。

・0:50〜

ユニコーンの手島さんが登場し、やはり「宇宙兄弟」18巻を読んでいる。
ソファの後ろにはユニコーンのポスターやバックステージパス、右の方には小さく、水道橋重工のクラタスが月面にいる写真を貼ったりして遊んでいる。
読んでいるうちに、手島さんが何かを発見する。

漫画の単行本というものには、大概アンケートハガキというものが挟まれている。
MVは、このアンケートハガキともリンクしている。
「宇宙兄弟」のハガキには、毎巻いつも作中の絵が入っていて、キャラクターがアンケートの送付を促すようなセリフを言っている。
18巻では、ローリーというキャラクターに登場して頂いた。
このローリーは、大の日本贔屓という設定で、初回登場時から変な日本語が書いてあるTシャツを着て人に見せて喜ぶというキャラクターである。
例えば、「COOL!」という英語を日本語にして「涼しい!」と書いてあるTシャツを着たりして作中に登場する。とにかく「変な日本語Tシャツ」キャラなのである。

ハガキに印刷された「Feel So Goodデスカ?」のコピー、これはもちろん歌詞に連動しつつ、その後カメラはハガキ上のローリーに向けられる。
このローリーは、「空気が読めない」という歌詞にリンクしている。ローリーのTシャツには、読みにくい平仮名で、「くうき」と書かれているのだ。
「くうき」が読みにくい=「空気が読めない」である。
とってもくだらないが、このくだらなすぎる仕込みを実現させるのは、とっても大変なことだったりするのである。

その後、18巻に代わり、MOOK「We are 宇宙兄弟」が登場する。表紙はもちろん小山先生描き下ろし、CDジャケットとは逆に、ムッタと日々人がフィーチャーされている。このMOOKは、この曲を主題歌としたアニメ「宇宙兄弟」の特集であり、声優さんや民生さんのインタビューが掲載されている。

表紙にはやはり大きく「FEEL SO GOOD!!」。もちろん歌詞に連動して、仕込まれている。
そのMOOKのページをめくっていくと、突如、「読む空気がなーーい」と全面に印刷された謎の見開きページが登場する。
当然だが、この何がなんだかよくわからないページは、実際のMOOK中に存在している。普通、こんな意味のないページは存在しないのだが、存在してしまっている。
というか、そういうページは他にもたくさん仕込まれている。
歌詞に連動するためだけに、2ページ、謎のページが出現してしまったのだ。

・1:08〜

奥田民生さんが登場する。そして、やはりMOOKを手にとっているのだが、突如、本を顔の前に掲げる。
顔の上半分だけが描かれた巨大なムッタの絵。もちろんこのページもMOOK上に存在する。前後の脈絡なく、存在する。
すべて、この、ムッタ+民生さん合体演出のためである。
「地球は青かったー」という歌詞なので、民生さんのTシャツの色は青である。

・1:17〜

このシーンは、単行本18巻とMOOKの合わせ技で展開する。
前述の単行本ラストの広告スペースの見開きに描かれたムッタの顔と、MOOK中記事の小山先生の写真、声優の方の写真、弊社川村のインタビュー写真(このMOOKには、川村のインタビューが載っていて、しかも「PARTY」のロゴまで入れていただいている。)、そしてMOOK中にやはり突然登場する首から下のイラスト。
これらを重ねていく展開の中で、「いろんな青色の服を着ているムッタ」という演出が繰り広げられる。宇宙服やTシャツやスーツと、皆さんには様々な青い色の服装をして頂いている。
要するに、「だけど青色にもいろいろある」という歌詞と連動している。

・1:22〜

印象的なギターリフの部分は、リズムに合わせてMOOKをバンバン閉じる演出。

・1:25〜

ここは、「知らないことだらけ、謎だらけ」という歌詞である。
そんなわけだから、作中の「?」マークをいろんなところから探しだしてきて、リズムに合わせてコマ送りしている。「?」だらけだから、知らないことだらけである。
そして、最終的に、やはり「?」だらけのTシャツを着た主人公の同僚宇宙飛行士(名前を忘れてしまった)のコマが出現する。
無論、小山先生がMVのこの演出のために彼に着せてくれたTシャツだ。

・1:31〜


「Feel So Moon」という、曲名が歌われるシーンである。
ここは、コミックとMOOKとCDケースの3商品合わせ技である。
まずは、MOOK内に、わざわざでっかく「Feel」と印刷されたページをつくって頂いた。丁寧にも「感じろ!宇宙兄弟!!」という、コピー付きである。
そして、単行本18巻のカバーをめくった裏表紙には、脈絡なく「So」という文字が隠されている。
さらに、CDケースのCDを取り出した後ろには、大きい月(=Moon)の絵が描かれている。
その3つを並べて、「Feel So Moon」。
このシーン1つ実現するために、半端ない「無理やり」が行われているのだ。

・1:34〜


最初のサビである。前述の通り、単行本18巻の特別初版本には、特製シールがおまけで付いている。
18巻とMOOKを広げた親子が、そのシールで遊ぼうとしている。
MOOK内に「月に住みたい!」という記事がある。この記事そのものが、実はこの演出のためにつくられている。
ページのレイアウトには記事と連動して、月の半球がドーンと配置されている。
この見開きは、実は特製シールの台紙として機能するように設計されている。
だから、シールは月面ローバーや宇宙飛行士など、月面に存在しうるモチーフで構成されている。

この見開きに親子が貼っていくシールが、コマ撮りでアニメーションし始める。
ロケットも飛び回る。
そうこうしているうちに、今度はもう1冊MOOKが登場して、2冊が合体して、まん丸の月になって、回転する。
すべてのモチーフが、MVのために計算されている。もちろん、このシーンでは、月について歌っていたりする。

・2:01〜

学校の教室で、男女が楽しそうにMOOKを取り出す。
二人はページをめくり始め、MOOKの角に描かれたパラパラマンガが展開する。
歌詞は、「月の砂漠で君とダンス」。これにリンクして、ムッタと、ヒロインであるせりかさんが踊るパラパラマンガが同時に展開する。一緒に踊るのだ。

その後は、「ウサギに負けず高くとぶのさー」という歌詞に連動して、その二人を横目に別の男子学生がMOOKの右見開きの右端に縦に展開するパラパラマンガで遊ぶ。

つまり、このMOOKには、合計3つのパラパラマンガが仕込まれている。パラパラマンガだから、当たり前だが1ページの話ではない。MOOK全体に、これでもかとパラパラマンガが仕込まれているのだ。
このパラパラマンガは、アーティストの鈴木康広さんが描いている。鈴木さんは、宇宙兄弟MOOKに連載を持っているのだが、このパラパラマンガを存在させるため、今回の連載のテーマを「パラパラマンガ」にして頂いたのである。
だんだん麻痺してくるが、本当に滅茶苦茶なことをしている。

・2:28〜


さらに暴力的な仕込みが続く。
今度は、弊社がREGAMEでもお世話になっているscrapさんのパズル制作に協力している千石一郎さん作の数字パズルの見開きである。MOOK内に存在するこのパズルを解いていくと、文字が浮かび上がってくる。
その文字は「間奏」。
曲はここでサビを終えて、間奏に入るのである。だから「間奏」。
それをやるがために、千石さんにパズルまで作って頂いてしまっている。

何しろ間奏なので、このページを完成させた人々が、「できた!」とばかりに見開きを見せていく。「間奏」「間奏」「間奏」。しつこいばかりに「間奏」と言い張って間奏に入っていく。
導入で、ドラムの音に合わせてMOOKをバンバン叩く人々が登場し、次なる大技に入っていく。

・2:38〜

曲は、間奏でありつつも、手島さんによる「我々は宇宙人だ」というボコーダーみたいなもの(詳しくはよくわかっていないのだが)と連動したフレーズが繰り返される。
このパートは、MOOK中のインタビュー記事上の写真で展開していく。
これらの写真には、共通して、宇宙服を着たユニコーンのポスターが貼られている。

いちいちすべてのインタビュー現場に誰かが行って、ポスターを貼り、撮影に立ち会わせていただいた。貼ってあるポスターは、同じ絵柄だが、すべて微妙に違う。
記事によって、微妙に違うポスター。
これを高速で切り替えていくと、ユニコーンの方々が月の無重力状態の中で踊っているように見える。
このポスターとインタビュー写真は、このアニメーション演出を前提につくられている。
実際にMOOKを手にとって頂くとわかるのだが、本当に愚直なまでに徹底して、このポスターが写真に入っていて、笑ってしまう。
一見普通だが、本当に変わった本になっている。

・2:55〜

ユニコーン川西さんが登場してMOOKを読んでいる。
続く歌詞は、「宇宙の七不思議は聞いている」という歌詞である。
川西さんが開いているページには、「宇宙の七不思議」という見出しと記事が展開されている。
言わずもがな、この記事は、このカットに合わせて書かれたものである。

・3:00〜

この部分のギターリフは、前述の民生さん2見開きアニメーションが使用されている。スタジオで民生さんのギター演奏を撮影、ページをめくることで、まるで民生さんがリフを弾いているかのように、アニメーションが発生する。
撮影のとき、生で至近距離で民生さんの演奏を聴いたわけで、なかなかにしびれる体験だった。

・3:02〜


ここもMOOKの記事である。
ここは、いわゆる「縦読み」ならぬ「横読み」である。
「何でも7つにまとめてんじゃない」という歌詞が、そのままMOOK上の記事を「横読み」することで浮かび上がる。
普通に読んでいれば、普通の文章だが、一番上の文字を横に読むと別の言葉になる。
最初、私たちは間違えて、右から順番に横読みする形、つまり、文章の流れの順番で行頭文字を決めていく形で執筆をお願いしていた。
しかし、出来上がってみると、当然、こういうものは左から順番に見ていくものであることに気づき、急遽、左から順番で成立するように調整して頂いたのである。
本当にすみませんでした・・・・。

・3:07〜


ユニコーンEBIさんが出てきて、読んでいたMOOKをまるめて覗きこむ。
丸い机の上に並んだ宇宙兄弟の単行本をいろんな人が手にとって、せーので本を机の上に出す。
上から見た本でつくった「Feel So Moon」が突然現れる。
様々な形を検証して、こういう形になった。「宇宙兄弟」の単行本だけでできた「宇宙兄弟」文字である。

・3:20〜


MVは2つ目のサビに入って、クライマックスに向かっていく。
このシーンの主役は、単行本18巻のカバーをめくると現れるスペースシャトルの絵である。この絵を持った女性が、本を浮遊させながら、歩いていく。
スペースシャトルは、MOOK中にやはり特別につくられた星空の見開きの上をゆっくりと飛んでいく。何冊ものMOOKが、宇宙空間を生み出していく。
単行本とMOOKだけで展開する宇宙飛行である。

・3:44〜

「月の木陰でギターを弾いて」という歌詞に連動する絵は、「月の木陰で誰かがギターを弾いている」という、とてもアブノーマルなシチュエーションの絵である。
この異常な光景を、小山先生は、部屋に飾ってある絵という形で、見事にストーリーの中に忍ばせて、描き下ろしてしまっている。

・3:49〜

ここから先は、全面が白っぽい見開きと黒塗りの見開きを交互にめくっていく動きで展開していく。白→黒→白→黒という形で本がめくられていく。
それがだんだん、4分割、16分割、64分割と増えていって、白黒模様でできたピクセルアニメーションを描き出す。
最終的には、4096分割の白黒アニメーションで、APOが走ったり、「叫ぶのさー」という歌詞が描き出される。
プログラムでシミュレーションを重ねて、どうにかこうにか実現した。

・4:17〜

次は、日々人とムッタの作中の絵が、歌にリップシンクする展開である。
過去の単行本から、2人のキャラクターの口の形で歌詞にはまりそうなコマを徹底的に抜き出し、歌に合わせていった。
太陽企画の皆さんと弊社の石塚は、このためだけに何回か18巻全編を通し読みしている。

・4:27〜

最後は、ユニコーンである。
しかし、小山先生が描いたユニコーンの皆さんである。
小山先生は、18巻に掲載される本編中に、5人のユニコーンメンバーの皆さんをしれっと登場させている。つまり、全員漫画に出演している。
ここまで書いてだんだん疲れてきたが、そういうことである。
このシーンでは、阿部さんと民生さんのコマでたまたま「違います。」というセリフが入ってしまうようになっていて、トリミングしようか迷ったのだが、なんか面白かったのでそのままにしてある。
この漫画ユニコーンが、実写ユニコーンに変わって、最後は、CDが止まって終わる。


以上、こんなことをしたことはなかったが、恐らくこのMVは、そういう細かくて楽しい芸を知っていくほどに趣のあるものになっていると思うので、解説してみた。

この解説を読まれた方は、またMVを見て頂ければ、さらに楽しいのではないかと思う。


というわけで、

プロデュースを担当したのは、弊社の高橋聡。カメラマンは関さんといつもご一緒されている矢部弘幸さん。
映像制作会社は太陽企画さん、いつもとんでもない無茶に歯を食いしばって対応してくださる、愛に満ちた映像バカな皆様だ。
解説付きウェブサイト制作はバードマンさん、いつもとんでもない無茶に歯を食いしばって対応してくださる、漢気があふれて火傷しそうな方々だ。
アイデア出しや素材まとめ、検証作業など、弊社デザイナーの石塚美帆が大活躍してくれた。

だけではなくもちろん、単行本やMOOKに関わった皆様、講談社・キューンの皆様の全員野球で、「音楽」を「音楽+」に、「漫画」を「漫画+」にできているような、できていたら良いなあと思います。

みなさま、ありがとうございました!