FITC 2008 REPORT
北米で最も大きいデザイン・カンファレンスのひとつである「FITC」が4月19日~22日にカナダ・トロントにて開催された。以前は「Flash in the Can」という名前のイベントで、主にウェブ関連の技術・表現の分野で活躍するデザイナーやデベロッパーが多数参加するカンファレンスであるが、現在ではその範囲も広がり、デジタル表現全般の多様なラインアップが魅力となっている。
ウェブ関連技術の最新情報、世界中で活躍するデザイナーやアーティストなどのプレゼンテーションはもちろんワークショップやサブイベント、アフターパーティーなどが3日間にぎっしりと詰め込まれ、1000人ほどが集う活気に満ちたカンファレンスとなった。
今回はCBCNETが現地へ飛び、その模様やいくつかのプレゼンテーションをピックアップしてレポートをお届けする。
Text & Photography by Yosuke Kurita(CBCNET)
会場はトロントのダウンタウンに位置するヒルトンホテル。その地下一階にあるホールをすべて使用し、プレゼンテーションが行われた。朝9:00からスタートし、1日に25セッションほど行われる。共有スペースにはスポンサーのブースや物販が。また無料でコーヒーが振る舞われたりとゆったりとした空間であった。
カンファレンスのパンフレットやバッジ。今回はGMUNKがビジュアル全般を担当。プレゼントの中には鉄で出来たフィギュアなども。
朝は9時から始まり、同時に複数のセッションが行われる。どれを見に行くかに迷うのがこうしたカンファレンスの難しいところであるが、当初興味がなかったセッションが面白いことも多いので、出来るだけいろいろ見るようにした。その中からいくつかピックアップ。
・Air + Photoshop:What Happens When They Talk?
Dr Woohooによるプレゼンテーション。
まず最初に見せたのが、Illustrator用にSWFのプラグインをつくり、Flickrの写真を引っ張ってきて、その色彩を分解し、カラーパレットに追加するというもの。(こちらにサンプル)
またAIRアプリケーションからPhotoshopCS3にコマンドを送り、Photoshopに実装されているタイムライン上にエフェクトを加えるなどのデモも披露した。
そして彼は次のCS4の開発にも携わることになったらしく、こうしたSWFとPhotoshopやIllustratorとの連携部分を強化していくとのこと。
・Department of Homemade Graffiti by Evan Roth
http://graffitiresearchlab.com/
CBCNET主催のAPMTにも来日したGraffiti Research LabのEvanRoth。今回のプレゼンはGRLの集大成的な内容になっていた。またGRLは先日「The Complete First Season」というDVDをリリースし、彼らのこれまでの活動をまとめたものとなっている。(DVDの予告編はこちら)
面白かったエピソードとして、L.A.S.E.R Tagはオープンソースとしてソフトウェアをダウンロードできるようになっているが、少しずつアップデートされている。そのアップデートのひとつが広告代理店などが利用しようとした際に(全部とはいかないが特定のIPで判別しているらしい)ソフトウェアエラーを起こして起動できないというもの。実際に大手クライアントからLASERTAGを使いたいという要望が来るらしいがすべてシャットアウトだそうだ。
またLASERTAGで世界中の壁を繋いでいく、というプロジェクトも進行中とのことで、それがASERTAGの最終章となるとのこと。また、プレゼン前日にトロントの観光名所CNタワーにLaserTagを実施し、早速プレゼンでムービーを紹介、またニュースサイトの記事なってたりもした。
・Director as Provocateur by Shilo
http://www.shilodesign.com/
数々の大手クライアントのCMやテレビスポットなどを制作している映像プロダクションShilo。
プレゼンが面白いやり方で、3人のプレゼンターがスクリーンの前で対話しながら進行。
どうやって見ている人を考えさせ、行動を引き起こさせるか(Provoke)というテーマのもと、制作事例を紹介。たとえばトヨタの北米ブランドScion のPitStopというCMでは、大きな反響とともに一般からの苦情が寄せられ、その内容やどうしてそうなったのかという背景などを話し合っていく、見ている人たちを飽きさせない内容となっていた。
・GMUNKKICKDOWN 08 by GMUNK
http://www.gmunk.com/
多くのファンがいるGMUNKことBradley Grosh。毎年のように出ているが新しい作品をリリースしているので内容も面白く、プレゼンも面白い。また今回はFITCのビジュアル全般をGMUNKが担当しているため、そのキャラクターデザインの課程なども紹介していた。
・North Kingdom - An Inside View by NorthKingdom
http://www.northkingdom.com/
最近ではGet the Glass!やTHE COKE ZERO GAMEなど超リッチウェブを次々とリリースし,過去にはあのVodafone Futurevisionでウェブの新しい扉を開けたスウェーデンを拠点に活動するNorthKingdom。CEOのDavidがプレゼン、Co-FounderのRobert(DesignChapelのひと)は風邪で来れなかったとのこと。プレゼンの内容はCOKEのサイトの裏側などを紹介や彼らがどういった環境で稼動しているかなど。彼らのハイクオリティーのサイトたちは大手プロダクションが噛んでいるように感じるが、彼らが拠点とするスウェーデンのSkellefteåという街に一緒に動く制作会社が集中しており実際は小さなコミュニティ内でやっている、ということを地図上で紹介していた。またその制作会社たち合同でのリールなども製作するなど、非常にパワフルなコミュニティーが彼らの制作背景なのだろう。
・Who will be the Designer of the Future? by Lydia Varmazis
AdobeにてCS4開発に取り組んでいるLydia Varmazisによるプレゼンテーション。kuler.adobe.comなど、そうしたユーザーサービスやネットワークにあるリソース(この場合カラーバリエーション)をソフトウェア内に取り入れることができるようになっていくなど今後のソフトウェアの方向性などを紹介。
・Making the Invisible Visible by Zachary Lieberman
http://www.thesystemis.com/
ザックは自身でアーティストとして"Drawn"や音と連動するパフォーマンス「Messa di Voce」など発表し高い評価を得ている。またNYのアート大学Parsonsの属し、最近アーティストが多く利用しているC++ベースの開発環境である「OpenFrameworks」の制作者の一人でもある。GRLやChris Oshea、UnitedVisualArtistなど多くアーティストが利用している。現在はワークショップや講演などで世界中を飛び回っている。
・G94 Behind the Scenes:Things are not always what they seem by Group 94
http://group94.com/
group94からCEOのPascal LeroyとFLASHデザイナーのJulian Hudsonが登場。Julianは25歳。FITCがテクノロジー寄りのカンファレンスということもあり、技術面のシフトしたプレゼン内容。G94のウェブサイトの構造やFLASHベースのCMSのことから、Nokiaでのキャンペーン「Non Stop Living」の具体的な制作方法などを紹介。またGroup94は毎週金曜日にお昼ご飯とアイスクリームをみんなで一緒に食べに行く楽しそうな映像などを織り交ぜながらのプレゼンとなった。最後のPascalの95年当時の作品なども紹介していたのが印象的であった。
3日間のカンファレンスのトリをつとめたのがProcessingによるビジュアライゼイションで有名なFlight404のRobert Hodgin。最初はどういった作品に感銘を受けるかという話題で、様々なネット作品を例に話を進めた。
そこから自身の作品であるMagnetic Inkや最近大きな話題になった
Solar, with lyricsなどの制作過程を説明。
最後に、最新作でもあるRadioHeadのビデオ・コンテスト用に制作したビデオを全編上映。会場が全体を圧倒する内容となった。
最後に、別会場で行われた関連イベントの模様を。
トロントにあるインタラクティブメディアを扱うギャラリー「Pixel Gallery」にて
Graffiti Research LabのEvanRothによる作品展示や、L.A.S.E.R TagやZachary LiebermanによるDRAWNを体験できるエキジビションを開催。オープニングではEvanがプレゼンテーションを行い、大勢の人で賑わった。
トロント市内にあるUMBRAというショップにて、JoshuaDavisのグラフィックを施したプロダクトがリリースされ、それを記念したオープニングパーティーが開催された。ショップのウィンドウにもJoshuaによるグラフィックが展示されていた。
これらはほんの一部のプレゼンテーションであり、他にも、アムステルダムでデザイナーとして活躍し、自身のショップなども展開するNikoStumpo、いつも面白くノリノリのプレゼンを披露してくれるJoshuaDavis、モーショングラフィックの分野で活躍するTheRonin、Dstruct、BUCK、など魅力的なプレゼンテーションが多数あった。
技術的なセッションも多く、ワークショップなどもどれも満席であった。こうした表現と技術の交差するイベントは様々な要素を得られる数少ない機会であり、世界中の人たちのミーティング・ポイントとしても機能していた。
毎年開催されているので気になる方はFITCのウェブサイトでチェックしてほしい。また同様のデザイン・カンファレンス世界中で開催されているので、そうした情報はCBCNETでなるべくお伝え出来ればと思う。