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4. STUDIO NEWWORK INTERVIEW - 雑誌の作り方 -

April 12, 2010
Taro Yumiba
デザイナー、弓場太郎による連載。第4回目はSTUDIO NEWWORKへのインタビュー。

今なお数多くあるデザイン雑誌、その中で特に異彩を放つのは2007年に発刊された雑誌NEWWORKであろう。美しいタイポグラフィーと、新聞紙を使ったモノクロプリントに原色一色のカラーがアクセントとなっている、その雑誌はどことなく懐かしくて、新らしい。
イギリスのKilimanjaro Magazineを彷彿させる、その大判プリントは見開きにすると横82cmx縦55cmにもある。ヨーロッパ系のデザインブログで多く取り上げられてから、初めて目にした方が多いと思う。去年TOKYO GRAPHIC PASSPORTにも来日した、STUDIO NEWWORK。忙しい時間の合間を縫って快くインタビューに応じてくれたのは、メンバーのRyotatsu Tanaka、Hitomi Ishigakiさんであった。今回GraphicHugのインタビュアーとして、彼らの雑誌のあり方、作り方について聞いてみた。

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GraphicHug(以下GH): どういうきっかけで雑誌をつくったのですか?:

Studio Newwork(以下SN):
もともとFashion Institute of Technology (以下FIT)在学中に2005年からRyotatsu TanakaとRyo Kumazaki がユニットを組んで活動を始めてました。通常、クライアントの伝達したいメッセージを効果的に表現し、その橋渡しとなるのがグラフィックデザイナーとしての仕事なので、私達が直接メッセージを発信する機会はほとんどありませんでした。それなら、発信したいことを表現できるメディアを自分たちで作ろうと考え、Newwork Magazineの創刊を決意しました。


GH: Newwork Magazineについて教えてください:

SN:
毎号ファッション、デザイン、アートの分野から6人から7人のアーティストを選び、第四号の最新号まで合計25人アーティストを紹介しています。第一号では私たちStudio Newwork自身もフィーチャリングされているアーティストの一人として作品を出しました。ウェブマガジンといった形態ではなく、紙、とりわけ新聞紙にこだわったのは、その質感、独特なぬくもり、長年私達の生活に根を下ろしているメディアということから生まれる親しみ、劣化した紙の風合いやインクの匂いが物質的に人間味を内蔵して好きだというの一番の理由です。


GH: 雑誌を始めた当初の反響はいかがでしたか? :

SN:
色んなブログに取り上げてもらうことが出来て、反響が良く驚きました。FFFFound!で取り上げてもらったのが一番大きいかったかも知れないです。ものすごいトラフィックが来ましたから(笑) また、ADC、TDCやD&AD などアワードにも積極的に出してみたんですが、総じて入選を果たせたおかげで、思っていたよりも早く自分達がやってる方向性に確信を持つことが出来ました。現在、アメリカ、日本、韓国、シンガポールだけではなく、ドイツのベルリン、パリ、スイスの各書店で扱ってもらっています。今は、イギリス、スイスからの問い合わせが一番多いです。


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各アーティストごと12-24ページの独立した冊子として区別されていて、表紙は各冊子を折込み、まとめる役目をしている。


GH: 雑誌を制作するプロセスを教えてください:

SN:
メンバーは今現在FIT出身の日本人3人(Ryotatsu Tanaka, Ryo Kumazaki, Hitomi Ishigaki)と、インドネシア人( Aswin Sadha )の計4名で構成されていますが、まず全員で話し合って、テーマを決めます。テーマはグラフィックデザインと関係した、例えば"点"と"線"や、第四号のテーマ"コントラスト"など、やりたいテーマは沢山あるので、今は順追って実現していく流れとなっています。そういった意味で、企画・テーマ決めは一週間もかからないくらいです。

テーマが決まると、同時に、雑誌でフィーチャーするアーティストの選抜に入ります。各自それぞれ、テーマにあうアーティスト、若手から既に名前の知られているアーティストまで幅広い候補から選び出し、それと平行して、一ヵ月半くらいのタイムフレームでデザインの作業に取り掛かります。第一号で自分たちもアーティストの一人として作品を紹介しましたが、主役はあくまでフィーチャーされるアーティストなので、第二号以降は彼らを最大限に表現する裏方に徹しようという流れにシフトしました。一番時間がかかるプロセスは、アーティストの作品を出来るだけ深く理解し、可能性を探求する作業です。私たちはそのプロセスをスタディーとよんでいるのですが、スタディーではアーティストの作品、制作背景以外にも、グリットシステム、タイプ、コントラスト、リズムなど雑誌に関わる全ての要素への理解を深め、関係性を考慮しながらデザインしていきます。最終的に、アーティストにとっても、私たちにとっても納得のいくデザインが出来上がるまで、繰り返しやり直します。


GH: 具体的にアーティストとどういったやりとりがあったか教えてもらえますか?:

SN:
第二号のアーティストの一人に、オノ・ヨーコさんの作品を特集させて頂いたのですが、権利関係などで掲載が難しい作品も多く、何度もマネージャーの人とメールでやり取りをしました。最終的に、是非使いたかったジョン・レノンの写真の掲載許諾を取っていただき無事載せることが出来ました。

また自分たちの師でもあるニューヨーク在住のスイスのグラフィックデザイナーWilli Kunz を特集した第三号では、ニューヨーク近代美術館にも所蔵されている彼のポスターシリーズ、全38枚の掲載を許可して頂くことが出来ました。彼のこのコレクションを全て見れるのはNEWWORK MAGAZINEが初めてです。そして彼のページを一緒にデザインする機会も頂きました。私たちのスタジオに来てくださって四時間くらい一緒に試行錯誤した後、家に帰りすぐ電話をかけてきてくれて、やっぱりこうしようといったアイディアの交換を頻繁に繰り返しました。
実際、彼と一緒にデザインを組み立てていく上で新たな発見がいくつもありました。例えば、欧文の縦組は上から下に文字を組むケースが多いのですが、彼の場合は下から上へ文字を組むのです。どうしてかと聞くと、これは上昇するイメージ、ポジティブなイメージを掻き立てるから良いのだと教えて頂いて、とても納得した記憶があります。質問をぶつけながらともに作業する体験は小さな授業のようで非常にエキサイティングな経験でした。


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Willi Kunzの特集では、10 ページに渡って38枚のポスターが掲載された。


GH: デザインの作業、分担はどのように行われるか教えて下さい:

SN:
コンピューターではとても効率よく、多くのスタディーができますが、最終の確認作業は実寸でグリットがしかれた紙面をプリントアウトし、その上で行います。
実寸の紙面上に、別でプリントしたテキストや写真なを切ったものを載せてみることで、文字のサイズの確認、線の太さなども、コンピューター上では把握しずらい問題が見えてきます。

メンバー四人全員が同じようにデザインに関わるので、特に決められた分担はありません。同じ学校で、共通してWilli Kunz (http://willikunz.com/)、Eli Kince (http://www.kince.com/)を師とし、彼らからデザインを学んできたので、皆好きなデザインや目指す方向性がとても似通っています。そのため、もめることもなく作業を進めていけますね。実は、一人だけがデザインした部分もなければ、全員が関わってない部分のデザインは無いんです。皆それぞれがデザインを出して、いいところを折衷する、そんなプロセスです。
文字詰めは言うまでもなく、ラグ*にもとてもこだわっています。すべて、マニュアルで文字詰めを調整したり、強制改行したりして、凸凹すぎない、きれいな形になるようにデザインしています。
*左寄せテキストならばブロック右側上端から下端にかける縦の余白の形


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snw_c.jpg プリントアウトした要素をグリットのしかれた紙面上で並び替え、レイアウト検証している。


GH: 毎号、タイプフェイスをデザインされているそうですが?:

SN:
通常の雑誌は統一感を意識するためか、ヘッドラインやタイトルに同じタイプフェイスを使用する場合が多いのですが、NEWWORK MAGAZINEでは、参加アーティストそれぞれを反映した特集を読者に届けたいという思いのもと、タイトルで使われるディスプレイタイプフェイス(見出し用の書体)はその都度デザインしています。時間的な問題で、小文字は後に仕上げるかたちになりますが、大文字は一通り作ります。普段から各メンバーがタイプフェイスを作っていて、特集が固まるにつれ、コンテンツの雰囲気やアーティストの個性を最大限に引き出せるものを選び調整していきます。メンバー間でファイルを交換して、引き継いで他の人がデザインをすることもしています。そして、その日の時点で出来たものを印刷して、壁に貼っておくんです。たいてい次の日にはこの書体のこの部分よくないなと思ったりしますが(笑)

デザインしたセリフタイプフェイスの1つがこちら(以下)です。
写真家ティチアーノマグニによるメンズファッションストーリーMAN WHO WANTS TO FLY. このタイトルは、空を夢見る男という意味です。ライト兄弟が飛行機を飛ばす以前に、人類が抱いていた壮大な夢やロマンを頭に描かせます。ロマンティックで高揚感のあるストーリーに、男らしく、かつエレガントなタイプフェイスをデザインし、大胆に使用しました。


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snw_b.jpg 実際に制作されたセリフ書体の一つとその使用例。


GH:
レイアウトする際、グリッドはどのように扱っているのですか?

SN:
アーティストに合わせ、機能的かつ柔軟にレイアウトできるように、正方形をベースにした24、12、 8、 6、 4、 3、 2、 1の8種類のコラムに分割できるマルチコラムグリッドを作りました。それらをベースにレイアウトしていますが、グリッドシステムはあくまでデザイン要素、情報を整理するために使っているわけであって、グリッドの形がまるまる見えてしまうようなものであってはいけないと思います。そういった意味では、グリッドの形が見えにくいようにデザインを心がけています。


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上記写真では、実際に使っているグリッドシステムを赤で表示している。


GH: 印刷、ディストリビューションでの苦労はありますか?:

SN:
ニューヨークで一番古い印刷所を使って、一号から三号までは印刷しました。通常175lpiが一般的な印刷のクオリティーですが、その印刷所では70lpi、dpiで言えば140程度のものでした。昔ながらの印刷入稿で、紙に印刷された各ページデザインをまず写真にとり、それを2倍に引き伸ばしてフィルム(版)を作っていました。横 82cmx縦55cm(実寸のスプレットサイズ)の大きさのフィルムを賄うことは出来なかったので、半分のサイズのフィルムを2枚につなげて一枚の版をつくっていました。ずれてしまっているので、何度もやり直してもらうようお願いしたりといったやり取りしながら (笑) そういう訳で始めの三号は印刷のドットが大きいんです。それが好きだと言ってくれる方もいるのですが、やはり参加アーティストの作品をできるだけ綺麗に載せるのが自分たちの仕事であるので、四号目から印刷所を変え、当初の倍近いクオリティーで印刷しています。 あと一号から三号までは印刷されたもページを一冊ずつ手で折り込んでパッケージングしていました。毎号二千部刷っていますから、実際、この作業とても大変で、これだけで一週間ほどかかっていました。でも最近、この作業を安い値段で外注できる事を知りました。これなら始めから外注すればよかったです(笑)


GH: 見たところ広告が無いようですが、雑誌としてどうのように成り立ってるのですか?

ぜんぜん成り立ってません(笑) 雑誌自体は、年二回しか発行しませんし、二千部と限られてます。あとはファッション、ブランディングを始めとしたクライアントワークをしています。四号から少し広告を入れ始めたのですが、広告は独立した全部一ページの折込で、自分たちでデザインしたものに限って載せています。自分たちがいいものを発信したいという想いでやってるので、無理に広告を入れることは考えていません。


GH: STUDIO NEWWORKとして五年後、十年後の予定は?

SN(Ryotatsu Tanaka):
ずっと考えているのは教育です。自分自身がグラフィックデザインを勉強してきて、後から建築家になりたいなと思った時には、なかなかシフトすることが出来なかった経験があるんです。学生が学べる内容を限定せずに、建築、工業デザイン、グラフィック、ファッション、ジュエリーなど様々な方面からデザインを学び、スキルへを最終的につなぎ合わせることができる場を創り上げられるといいですね。こういったデザインの教育をメンバー全員が考えているんですよ。


インタビューに応じて頂いたSTUDIO NEWWORKのお二方、どうもありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。

「NEWWORK MAGAZINE vol.4」 を一部頂きましたので読者プレゼントとたいと思います。なかなか手に入りにくい雑誌ですので、興味のある方はtaro[at]graphichug.comまでご連絡を。メールして頂いた方の中から一名に差し上げます。


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STUDIO NEWWORK PROFILE:
NYのFashion Institute of Technologyグラフィックデザイン学部で学んだRyotatsu Tanaka, Ryo Kumazaki二人によって在学中の2007年に設立、同大学に在籍していたHitomi Ishigaki、そしてAswin Sadhaを加え、現在ニューヨークを拠点に四人で活動。雑誌studio newwork(年二回、発行部数2000部)だけではなく、ファッションを中心とした、グラフィックの制作、広告、ウェブにいたるブランディングも手がける。

http://www.studionewwork.com/
http://www.newworkmag.com

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