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特集企画

パーフェクトロン – ICCキッズ・プログラム「ひかり・くうかん じっけんしつ」

August 2012

パーフェクトロン – インタビュー

August 24, 2012(Fri)


撮影:木奥惠三

2010年にICCで発表した作品「10番目の感傷(点・線・面)」で、幅広い層から大きな反響を得ているメディアアーティストのクワクボリョウタと、親子向けのプロダクトやワークショップを行う「ハハコラボ」などで活動する山口レイコによるユニット、パーフェクトロン。

彼らの展覧会「ひかり・くうかん じっけんしつ」が東京・初台のICCにて9月2日まで開催中。夏休み期間にふさわしく、子供だけでなく大人にとっても見ごたえのあるテクノロジー・アート作品に触れられる充実の内容だ。CBCNETでは、3回に分けてこの展覧会の魅力を余す所なくお伝えするシリーズを掲載する。

第一回は展覧会の全貌とパーフェクトロンのインタビューをお送りしよう。

キッズ・プログラムとは


キッズ・プログラムはICCが2006年以降毎年開催してきた、こどものためのテクノロジー・アートのプログラム。2009年の「プレイフル・ラーニング たのしむ ∩ まなぶ」、2010年の「いったい何がきこえているんだろう」、2011年の「トランス・スケール「ものさし」をかえてみよう」など、こどもが参加して遊べるインスタレーションを中心とした展示である。

展覧会について


「ひかり・くうかん じっけんしつ」はその名の通り、光と影を用いたインスタレーションとプロダクトで構成されている。コンセプトは「無人のワークショップ」。「じっけんしつ」という名前はこれが由来だ。それでは各作品を紹介していこう。


実験1 ちかづく・とおのく

制作協力:久世祥三(MATHRAX LLC.)



部屋の中央を、ライトを搭載した電車がゆっくりと往復している。その脇にはプラスチックのおもちゃが立ち並んでおり、往復する電車のライトがおもちゃの影を壁に照らし出す。鑑賞者は棚の中にあるおもちゃのストックから好きなものを選び、自由に配置して影のアニメーションを作ることができる。電車の制作は電子回路エンジニアの久世祥三(MATHRAX LLC.)さん。

「実験1が僕個人の作品「10番目〜」の原型に一番近い作品です。あれは非常に繊細で壊れやすい装置で、例えば電車を持ち上げてしまっただけで、元に戻す器具が必要なほど。でも今回は子供たちが自由に遊べる作品にしたかったので、久世さんにブリオ(耐久性が特徴の木製トイ)を原型にした頑丈な電車を作っていただきました。子供たちが一番ストレスを感じるのは、”自由に遊んで“と言われたのに、”これはダメ“と制限されることだと思うので、プレッシャーをかけないように配慮しました。」(クワクボ)


実験2 うかぶ・しずむ

制作協力:堀尾寛太,秋葉幸生(株式会社ギャジット)



おたまや洗濯かごなど、プラスチック製のキッチュな日常品が天体模型のように円状に吊られている。その中心には、天井に丸く空いた穴から垂直に上下するライトが。そのライトがオブジェを映し出すと、上下に動く影のアニメーションが映しだされる。機構はライゾマティクス作品などにおいて機構を手がける秋葉さんと、クワクボさんと交流のあるアーティストの堀尾寛太によるもの。実験1が水平移動なのに対し、2は垂直移動。

「垂直移動は以前からやってみたかったんですけど、なかなか機構的に難しくて出来なかったんです。それで今回この機会に、ということで堀尾君に相談したのですが、垂直にまっすぐ上下させるような動きなら秋葉さんに頼んだ方がいい、という言うので秋葉さんにもご協力頂きました。垂直移動の場合は、どうしても揺れて振り子状態になってしまうので、ブレないようにするのが結構大変でした。今までに見たことがないような、不思議な動きのある作品になりましたね」(クワクボ)

「今回はキッズ・プログラムということで、全体的に暗めの会場のなか子どもが怖くならないような展示を目指し、モチーフは全体を通して楽しく明るいものを選ぶように心がけました。この作品はポップでキッチュなものが浮いているスペーシーなイメージは最初からあったので、あとは中心に沿って、エレベーターのように輪っかが動くのをイメージしつつ、かたちにしていきました。会場の天井高が決まっていたので、わりと低い位置に吊ることになってしまったんですけれど」(山口)


実験3 そとから・なかから

制作協力:堀口淳史



ジオラマで作られたモノトーンの町の中を、ライトを搭載した二台の車が走っている。二台の車は違うスピードで走っているので、互いの姿が壁に映し出される。鑑賞者は町を俯瞰して、自分がどっちの車に乗り込むのかを決める。鑑賞者の内面にフォーカスした作品だ。

「「10番目〜」では、電車が動いていくのを外から眺めているのに、電車に乗っているような気分になる、という感想を聞いていました。どこかで一人称と三人称の入れ替わりが起きるんですよね。それを意識的に体験する試みです。まずジオラマがあって、車が走っていて、それを鳥瞰してるという自分と、主観=車から見た視点に感情移入していく自分がいる。さらに、車が二台走っているので、どっちの車に自分が乗り込むか、という気持ちが交錯するんです。僕自身の作品では、建造物を思わせるものでも具体的なものはあまり使わないのですが、今回は建物は建物として、わかりやすく作っています」(クワクボ)

建物のデザインは山口さん。ヨーロッパの郊外にも似た街並みだ。

「構成は小さな家の住宅街とビル街、それから牛がいる牧草街、とエリア別になっています。モチーフのデザインは少し抽象的な、例えば家といえば三角屋根、ビルと言えば四角くて窓がいっぱい、みたいな割と多くの人が思い浮かべられるようなアイコン的な意味合いを意識しました。あと家が影になった時に窓が無いと黒いかたまりになってしまうので、窓を沢山つくりました。」(山口)


小さな作品1 スノードーム




LEDのライト入りのスノードーム。手に持って振るとLEDの明かりが付いて、舞い降りる雪の結晶の影が壁に映る。

「作品の構想自体は以前からあって、試作品を作ってみたんですが、吹きガラスのムラが映ってしまったりしてあまり綺麗に出来ず。今回はアクリルの部品を組み合わせて作りました。かくはん機を使う手もありましたが、今回は ”体験の短いシナリオ” みたいなものが欲しくて、あえて手動にしました。最初から自動で回っていると、絵的には綺麗なものが出来るけれども、個人の体験の起伏がなくなってしまうので。見る人に「何だろう?」と思ってもらう”導き”をつくりたかったんです」(クワクボ)


小さな作品2 ポップアップ・ルックアップ




「field」、「house」、「cage」3種類の飛び出す絵本。草原の木、草原に立つ家、家の中の鳥かご、その中の鳥と入れ子構造になっている。真っ白な表紙を開くとモチーフがポップアップし、本に埋めこまれたLEDがモチーフの影を壁に映し出す。本を開くたびに影の中の世界に入りこんだような感覚になる。

「ポップアップブックはかなり前からやりたいと思っていました。昨年齋藤さん(A4A)に話したらいきなりプロに話を聞きに行こうということになって(笑)。「pop up look up」というタイトルが決まったときに、本を開くと上に飛び出して、それを自分が見上げたら、自分が中に居た、という順番に落ち着きました。あとは、複数の風景を組み合わせたシークエンスみたいなものをつくりたかったんです。本を開くと、LEDが少しの間だけ光って消える、という ”マッチ売りの少女方式”の時間設定にしました。消えたままの本をいくつか並べて、さらに新しい本を開くと、かごの中から木や家が見える、という仕掛けにしています」(クワクボ)


パーフェクトロンとは




メディアアーティストのクワクボリョウタとパートナーでアーティスト、デザイナーの山口レイコによるアートユニット。最初の作品は結婚式の引き出物!共同で「ノーズパスファインダー」を制作した。スイスのローザンヌで2回の個展を開催するほか、ICCでは,2006年のオープン・スペースで「onebuttongame」シリーズを出品している。

パーフェクトロンが考えていたのは「子供たちが親しみやすい楽しい空間を作りたい」ということ。こどもたちが暗がりを怖がらないために、山口さんによるプロローグのようなイラストをあしらった。息子のともるくんに良く似たかわいらしいキャラクターだ。

「今回、実験室という点では、見に来た子供たちが実験をする、という意味もあるんですが、僕たち自身もかなり実験しながらつくったところがあります。作品として体裁をまとめるというよりも、多少のリスクがあっても、こうやったら面白い、面白いことにチャレンジしていこう、そういう態度があったと思います」(クワクボ)

山口さんはこどものためのアートユニット「ハハコラボ」としても活動中だ。ハハコラボは「子供の成長を楽しく残す」をコンセプトに、プロダクト制作や親子向けのワークショップを行っているユニット。メンバーは、かつてデザインや美術系の仕事をしていたが、現在は子育てをしている江口よしこさん、石崎奈緒子さんら3人。

「この3人はそもそも友達で、何かあると集まっていたんですけど、子供と一緒じゃないと動けないよねという話になって、親子でできるものづくりやワークショップといったアイデアが出てきました」(山口)




ハハコラボのプロダクトは大変ユニーク。子供が描いた数字を時計にリデザインした「こどもじとけい」、リストバンドが迷子札になっている「マイゴフダ」やなど個性的な作品ばかりだ。

「こども達が作った絵や文字ってかわいいけど、紙なんかに描かれたものだったりすると増えてしまっていずれ捨てられてしまうじゃないですか。でもそれを美術やデザイン経験のある人が少し手を貸して、使えるものに落とし込めば、捨てずに残していける。残せるものにしていこう、ということなんです」(山口)

本展覧会においては、8月26日にワークショップ「じぶんちずバッグをつくろう!キラリ・夜の地図」も開催(募集は既に終了)。子供たちが自分のうちの周りを思い出しながら、バッグの上に自分だけの地図を表現する。

「今回のワークショップではあらかじめ私たちがアイコンをある程度用意して、ちょっと大人がお手伝いしています。子供たちに体験して欲しいことは、「考える」ということ。手を動かしてつくり上げるというよりは、コンセプトを理解するとか、色んな発見をして帰ってもらうことが重要なんです。」(山口)

次回は本展覧会のキュレーターである畠中実と、会場の音楽を担当した蓮沼執太の対談をお届けする。


取材・編集・文章:齋藤あきこ(A4A)
取材・文章協力:宮越裕生
写真:高橋志津夫

Information


ICC キッズ・プログラム 2012
パーフェクトロン(クワクボリョウタ+山口レイコ)
ひかり・くうかん じっけんしつ

http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2012/KidsProgram2012/top_j.html

会期:2012年8月14日(火)—9月2日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 4階特設会場
開館時間:午前11時—午後6時
休館日:月曜日
入場無料
主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
協力:A4A,株式会社TASKO,合同会社フリートランスレーション
後援:渋谷区教育委員会,新宿区教育委員会

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