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特集企画

パーフェクトロン – ICCキッズ・プログラム「ひかり・くうかん じっけんしつ」

August 2012

対談 – 蓮沼執太・畠中実
音楽家・蓮沼執太による、音楽を用いた観客の巻き込み方とは

August 27, 2012(Mon)



パーフェクトロン(クワクボリョウタ+山口レイコ)による「ひかり・くうかん じっけんしつ」が東京・初台のICCにてスタート。3回に分けてこの展覧会の魅力を紐解くシリーズをお届けする。

第二回は、この展覧会を企画したICCの主任学芸員、畠中実と、会場の音楽を手がけた音楽家、蓮沼執太の対談だ。蓮沼さんは「蓮沼執太フィル/チーム」を率いてのライブパフォーマンス、自ら企画・構成を手掛ける音楽祭「ミュージック・トゥデイ」の開催、東京都現代美術館での展示「蓮沼執太 have a go at flying from music part 3」、シアター・プロダクツのコレクションへの楽曲提供など、あらゆるジャンルで多角的な活動を展開する音楽家。かたや畠中さんは現代音楽からロックまで音楽全般に精通し、サウンド・アートに関する展覧会を数多く企画してきた人物。この組み合わせだけでも、かなり面白いコラボレーションになりそうだ。



会場には5つのブースがあり、天井にグリッド状に設置された16個のスピーカーから複数チャンネルでサウンドを出力し、鑑賞者はサウンドそのものと、それが異なるサウンドと混じり合うさまのどちらも聞くことができる。サウンドの内容は、ポップな音からドローンまで、バリエーションに富んだ心地良い音の20分間のループ。自分のお気に入りの場所を見つけてとどまり、作品を眺めながら音楽に耳を傾けるのも良い。


サイレントな作品にどう音楽をつけるか?


畠中実(以下 畠中):最初に依頼を受けた時にどう思われましたか?

蓮沼執太 (以下 蓮沼):「やった、 嬉しいな」と思いました。ICCの展覧会は高校生ぐらいの頃から見ていましたので、そのICCからオファーを頂けるなんて光栄でしたね。

畠中:子供向けのプログラムで、かつ「会場が暗い」のを緩和する要素として音楽を導入できないか、という話から始まっているんだよね。それでぱっと蓮沼くんが浮かびました。クワクボさんに提案したら、かなり気に入ってもらえて、実現したというわけです。

蓮沼:クワクボさんの作品「10番目の感傷(点・線・面)」はICCで見ました。音が無い空間でじんわり光が動いていく、サイレントな作品というイメージが強かったんですよ。静かなところから起こりえる現象に感動するという印象があって。それが、畠中さんからオファーを頂いた時、YouTubeに上がっていた「10番目〜」の映像に自分の曲を合わせてみたら、どの曲でも電車の動きと音楽がマッチしたんです。これは作品自体の寛容性が高くて、フレキシブルに音と合うんじゃないか、と。

畠中:美術においては、イメージを限定しないように、あえて音楽をつけない、という考え方もあるので、もしかしたら「10番目~」も抑えていたのかもしれないんだよね。実際に「10番目~」を見ていると、あの動き自体が既に音楽じゃないか、と思えたりする。影の動きとか、電車のゆっくりとした進み方が、まるでリズムを目で見る音楽みたいな感じもあったと思う。

蓮沼:僕、彫刻や絵画の展覧会ではイヤホンで音楽を聞きながらに作品を見る時もあるんです。

畠中:僕はそういう見方をしたことは一度もないんですけれど、新しい見方かもしれないですね。


偶然みつけたやり方




作品と音楽の制作は同時進行で進められた。そのため、アーティスト同士が何を作るのかわからないところで作品を提出しあい、会場で初めて作品と音楽が結びつけられた。

畠中:既に完成された作品に音楽をつけるのとは制作プロセスがちょっと違うよね。それができて良かったなと思っていて。その辺りはどうだった?

蓮沼:「子供たちが恐くならないように」などのリクエストに応えるということ、ICCの環境においてサウンドシステムでできるかな、ということを把握して、自分の想像と合わせて制作していったという感じです。

畠中:今回のやり方って「これしか出来ない」という中で偶然見つけたやり方だね。ブースがあって、天井にスピーカーがあって…そのスピーカーをグループ分けしたら、空間を音で分割出来るんじゃないかという、非常にローテクな、というか、限られた条件の中で作り方を探っていったんです。これはアイデアとして結構功を奏してると思っていて。きっちり作りこんで綿密にデザインしたという訳ではないんだけど、必然のように聴こえるところで出来上がっているという気がしますね。

蓮沼:ファッションショーにせよ映画にせよ、すべての依頼されるプロジェクトには制約があります。僕は基本的にはそれらをすべて受け入れて、制限があるからこそ何かが生まれるような発想で作っています。

畠中:オリジナルアルバムをつくる蓮沼執太と、会場に合わせて音楽を考える蓮沼執太はちょっと違っていると思います。会場に流れる子供のための企画だと言われれば、子供がきゃっきゃと言っているところが環境として見えていて、子供たちが遊ぶための容れ物を作るみたいな感じで。子供達が音楽の中に入って遊ぶ場みたいな、「音楽で公園を作れるか」みたいなアイデアを感じました。

蓮沼:まさしくそういう結果になっていますよね。

畠中:うん、音楽で公園つくろうよ、それはいいアイデア(笑)。

蓮沼:ははは(笑)。僕は結果よりも作るまでのプロセスを大切にしています。僕は音楽を始めた時から、「ありものでやる」というの姿勢があるんです。平たくいうとヒップホップ精神のようなものなんですけど、「身近なもので最大限の効果を出す」という。そのスタンスが根底にあるので、それはCDになろうとライブの場であろうと、今回のプロジェクトであろうと一緒で、素材があって、じゃあどう料理しましょうか、みたいな発想に近いんでしょうね。

畠中:結局はCDであれ、何であれ、容れ物に収まるようにつくっているわけだからね。

蓮沼:だけどその容れ物も、出来上がる迄の歴史や文脈があって、いい味も詰まっているから、そこが面白くてやっている楽しみもあるんです。まあ考えようによっては、そこが制限にもなっているので、制限を考えるということと、委託制作でプロセスを考えるということは同じ感覚でやっています。


オリジナルアルバムはまだ?


舞台音楽やファッションショーなど、あらゆるジャンルにおいて支持される蓮沼さん。近年の活動は蓮沼執太アンサンブルなどでのライブ活動と、ユニクロのWebサイト「UNIQLO 88 COLORS」など依頼ベースのクライアントワークが中心になっている。オリジナルアルバムは4年前に出た「POP OOGA 」(2008) が最後だ。

蓮沼:「POP OOGA」は制作に1年かかっています。オリジナルアルバムの作品には、一つのアルバムに一つ発明を入れたいんですよ。たとえばこれだったら、持てるメソッドを全部出して、歌も唄ってみた、というのが発明でした。自分の中での革新的なことを入れていきたいと思っているので、まだ次のアルバムのアイデアを考える余裕もないですね。

畠中:わりとじっくり作っているという感じなのかな。きっと自分のアンサンブルを持ってライブをやっていると、そこから出て来る発明っていうのもあるよね。そのバンドはライブをするためのユニットなのか、それともパーマネントなバンドなのか? 今は4年ぐらい同じメンバーでやっているよね。

蓮沼:そうですね、徐々に増えていったんですけどね。僕は本当に「音楽の人じゃない」と今だに思っているので、プレーヤー気質が本当に無い人間なので、、。

畠中:そうなの?

蓮沼:そうですね。やっぱりアンサンブルメンバーのイトケンさんや大谷能生さんとか、ベテランの方を見ると、僕なんてもう、ミュージシャンシップのかけらもないな、と思います。僕は作曲をして発表するという気質の方が強いので。

畠中:ミュージシャンって二通りあるよね。プレーヤー気質と言ったように、ミュージシャン的なタイプと、アイデアやコンセプトで表現するタイプ。

蓮沼:僕は後者ですね。

畠中:多くの人は、後者をアーティストと呼んだりするよね。

蓮沼:僕はアーティストではないですね。

畠中:じゃあ何ですか?

蓮沼:音楽家です。

音楽をやることだけでは音楽は成立しない


畠中さんが書いた、蓮沼さんの紹介文がある。そのなかで、蓮沼さんは「音楽をやっているけど、その音楽を実現する手段というのは音楽じゃなくてもいい」と表現されていた。

畠中:つまり、蓮沼君は音楽をやることだけで音楽が成立するとは思っていないようなところがあるんじゃないかな。だから、CDやライブだけじゃない、音楽を中心にした観客の巻き込み方みたいなことを考えている。音楽だけでは物足りなく感じている、あるいは音楽だけがその手段じゃない、というか。例えば東京都現代美術館で行われた展示「have a go at flying from music part 3」も音楽だと思うんですよ。

蓮沼:はい、あれは音楽です。

畠中:だけれども、どんな手段を持ってしても、あれが音楽だっていう確信みたいなものがあって、もしかしたら文章を書くことも演劇やることも、美術やることも音楽の一つだ、という。でもそれって「自分は音楽家だ」と思ってないとできないじゃない。そこがきっと、いわゆるミュージシャンとは違う、ということにつながっているんじゃないかな。


最後に


蓮沼:僕は家ではドローンや電子音を作曲しているんですけど、まったく発表する機会がないんです。そういう断片のような音がこの機会に発表できるのは、素晴らしいチャンスを頂けたと思っています。

畠中:蓮沼くんはいい大人たち、ベテランの人達をちゃんと指揮していますね。今日もクワクボさんに初めて対面した訳だけど、初対面で、「なんだこの親密さ」と思いました。(蓮沼フィルなどで)あれだけのメンバーを従えてコンダクター的なことが出来るのはそういう才能があるんだね。

蓮沼:ははは、パーソナルなものですか(笑)。

畠中:うん、パーソナリティとしてあるのかな、という気もします。僕は結構、異色な組み合わせというのが好きでそれを仕込むのが面白かったりするんですけど。今回はちょっと異色な組み合わせかな?

蓮沼:異色だと思います。僕が言うのもなんですけれど。

畠中:異色というか、ありそうでなかった。ありそうでなかった組み合わせ、ということで自信を持ってお届けするプログラムです。クワクボリョウタは知らないけれども蓮沼執太は知っている、あるいは蓮沼執太は知らないけれどクワクボリョウタは知っている、という人が来るということがあると良いですね。蓮沼君の多面的な活動に触れる機会っていうのはあまり無いので、この機会に(笑)。





そもそも、パーフェクトロンが蓮沼さんに出したリクエストの一つは「子供達のファンタジーを規定せずに活性化する音楽」というもの。

「子供たちが風景を思い浮かべるとしたら、色々な風景があり得るので、そこを規定するような感じではなく、想像を活発にするような音楽が欲しかったんです。それで例えば、ブライアン・イーノの「Music for Airports」のような音楽構造を持つ音にしてください、とリクエストしたら、素晴らしいサウンドスケープになりました。あの部屋にいると時間を忘れて居れてしまうんですよ。今回の展示は、蓮沼さんの音楽を聞きにくるだけでもいいと思います」(クワクボ)

クワクボさんと山口さんは、蓮沼さんの音楽が鳴る空間にいると、長時間の設営作業でも疲れを感じなかったと口を揃えて語る。音楽家、蓮沼執太の意欲的な試みである本展覧会を是非お見逃しなく。


編集・文章:齋藤あきこ(A4A)
取材・文章協力:宮越裕生
photo:
Billa Baldwin(ポートレイト)
高橋志津夫(展示会場)
宮越裕生(対談風景)

プロフィール


蓮沼執太
1983年,東京都生まれ.
「蓮沼執太フィル/チーム」を組織し,国内外のコンサート公演,展示作品の発表,舞台作品の制作を行なう.エッセイなどの文章寄稿も多数.映画,展覧会,CF音楽,舞台芸術,ファッションとあらゆるジャンルとのコラボレーションを展開するほか,自ら企画・構成を行なう音楽祭「ミュージック・トゥデイ」を主催.
主な展覧会に「have a go at flying from music part3」(東京都現代美術館|ブルームバーグ・パヴィリオン,2011),舞台作品に《TIME|タイム》(神奈川芸術劇場,2012),最新アルバムに4枚組CD『CC OO|シーシーウー』(HEADZ/UNKNOWNMIX,2012).
2013年2月にアサヒ・アートスクエアで個展開催予定.
http://www.shutahasunuma.com/

Information


撮影:木奥惠三
ICC キッズ・プログラム 2012
パーフェクトロン(クワクボリョウタ+山口レイコ)
ひかり・くうかん じっけんしつ

展覧会公式ページ

会期:2012年8月14日(火)—9月2日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 4階特設会場
開館時間:午前11時—午後6時
休館日:月曜日
入場無料
主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
協力:A4A,株式会社TASKO,合同会社フリートランスレーション
後援:渋谷区教育委員会,新宿区教育委員会


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