shock

麻雀ってあるじゃないですか。最近の私はああいうものをつくりたいんですよ。
この話は、どこかに一度書かせていただいたような気もするし、よく引き合いに出すのだが、これはとても大事なことだと思っている。
これは、私がイメージソースに入るちょっと前に、その頃イメソにいらっしゃったトムさんが、何かの取材で話されていたことの言い換えでしか無いのだけど、トムさんは、「インタラクティブだったら、『中華料理屋の壁の油が沁みてベタベタした感じ』を表現できるはずだ」と仰っていて、9年くらい前の私はそれにふんわりと感銘を受けたんだけど、長い間あんまり深い意味がわかっていなかった。



そこからしばらく(どころか結構最近まで)広告仕事が中心になっていて、それを中心に据えた価値観の中で生きていたものだから、わりとその考え方と相反する教えもあったりして、なかなか理解に至らなかったのだ。
今の私はその「中華料理屋の壁の油が沁みてベタベタした感じ」≒「麻雀の面白さ」であると思っていて、それは要するに「一言でなど説明できない」ということだ。

広告の仕事だと、「アイデアはひとことに集約できなくてはならない」みたいなことを教わる。私も師匠である伊藤さんにそう教わったし、そもそも伊藤さんの本にそう書いてある。
そしてそれは別に間違っていないと思うけど、今はそもそも伊藤さんがつくってきたものにしたって世の中で楽しまれているものにしたって、多くの「良い体験」というものは、そもそも「ひとことになんか集約できていない部分」に良いものが詰まっているものだと思う。というか伊藤さんは「ひとことで」とか言っといてそのへんの「ひとことでは済まない部分」にすごく時間をかける人だと思うし、むしろそこが素晴らしいのであろうと思う。

BigShadow

たとえば、すごい懐かしいけど、「BIG SHADOW」なんかは、「自分の影が巨大化してビルに映る」みたいに一言で言える部分というよりは、子供の頃の影遊びの体験をたぐり寄せる感じになっていることとか、四隅にちゃんとぼかしを入れてプロジェクションっぽさを消したりとかプロジェクターがずれちゃってちょっとぼやけたたりとか、そういう細かいところが全然重要なわけであって、別に「自分の影が巨大化してビルに映るXBOXのゲームのキャンペーン」とか言わなくてもあれは普通に「楽しそう」に見えたはずだ。

ものごとを「一言で説明できる」のはとてもお得だ。なぜかというと、情報の圧縮効率が良く、伝達されやすいからだ。その一言の中に高濃度の「面白そう」とか「楽しそう」が入っていれば、さらに転送効率が良くなって人が集まる。これらのことは超重要だと思うのだけど、あくまで手段の1つだ。

麻雀に話を戻すと、麻雀は全くもって「一言で説明できない」ものだ。「絵が書いてある14枚の直方体の絵柄を揃えてその絵柄を競うゲーム」とか、もはや全然意味がわからないし面白そうでもなんでもない。

ただ、麻雀は「一言で説明できない」くせに人の興味を引くに十分なほど「面白そう」だし、実際にとても面白いものだ。ニューヨークで働いていると、言葉の問題もあるし、文化の違いもあるし、結構な頻度で落ち込んだりするが、そんなときに私が見るのが、「麻雀でプロの人がすごい役でアガった瞬間の動画」だ。
これを見れば、あんまり麻雀に興味がない人でも、何か麻雀に対して引っかかりが生まれるはずだ。音とか、最高ですよ。



要するに、「一言で説明できる」のはお得ではあるが、必ずしもそうじゃなくても良いだろう、というか、世の中一言で説明できないことのほうが99%以上を占めるような気がするので、1%以下のリソースに縛られずにその他の99%以上でいかに勝負するかのほうが大事なのではないか。

私たちがやってるような、いわゆる「インタラクティブ」とか言われるようなものは特に、時と場合によってはそういう「麻雀性」がとても重要な気がするし、コンテンツプラットフォームとしての麻雀は間違いなく人類の歴史上でもトップクラスのものだ。音も感触も、ルールも何もかも、何かよくわかんないけどすごくいい。
だから私は、麻雀に憧れる。


二年ぶりに東京モーターショーのトヨタブースのコンセプトカーの仕事をしている。もうオープンして帰ってきているが、先週は一週間東京にいて、「東京帰ったのにほとんどお台場島から出れない」という日本らしい蟹工くさい労働環境だった(そんなことを言ったら実際に実装しているチームはもっと大変で、その前から泊まりこんだりしている)。

この「FCV PLUS」は、15年後のクルマで、15年後のエネルギー社会を変えるべき水素自動車だ。なので、体験の対象が二種類いるな、と思った。すなわち、15年後にその社会に参加する現在の子どもたちと、15年後に向けてその社会を実現する立場にある現在の大人たちだ。

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展示されているクルマの周りで、会場にいる子どもたちが走り回ったりジャンプしたり、壁に触ったり風船みたいのぶつけたり、とにかく遊んでもらう。
動きに反応してその子どもたちにクルマからエネルギーがシェアされたり(電気がビコーンと発射されたり)、空間全体が反応して子供の動きを入力にしたビジュアライズが展開される。それを大人が外から見ていると、ナレーションに合わせてコンセプトカーの説明になってる、というものだ。

だから今回は、「お母さんといっしょ」とアーロン・コブリンの融合だ、なんてスタッフには説明してきた(そして混乱させた)。
子供の動きは全然コントロールが効かないので、演出がわりと毎回違う。
もちろんコンセプトカーがどういうものかとか、説明としてはちゃんと機能するようにしてあるが、基本的には、中で遊んでいる子供が楽しく遊んでて、外で見ている親がそれを見て目を細めてくれれば、あんまり忘れない思い出になるようにつくっている。

幼いころ、35年とかそのくらい前に私は一度仮面ライダーショーでショッカーに連行されてステージに上って仮面ライダーに救出されたことがある。まあ、自分が死ぬときに走馬灯の中の一枚になるくらいには覚えてる(一番上の写真は実はそのときの写真で、ショッカーにほっぺたをつままれているこの瞬間のことは今も鮮明に覚えていたりする)。
何十万人や何百万人に情報を伝えることは大事だけれど、そんなふうに誰か1人の走馬灯の一枚になるくらいの残し方ができたら、実は仕事としての価値は同じくらいあるような気がする。

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うちの寺島監督白組さんがつくった映像、1-10の坪倉さん・赤川さん・山中さんのそっち系チームがものすごい数のセンサーを仕込んだインタラクティブ部分。もちろん不眠不休で私のよくわからない要求に応え続けてくれた弊社のみなさん。ひろきさん。予想がつかない動きの子供に臨機応変に対応してくださる運営のみなさんと3人のお姉さん(鈴丘さん田中さん児玉さん、全員ネットストーキングしてブログを見つけて気持ち悪がられたが、今回のブースのことを書いてくれた)。
音楽はこの企画を思いついてから「この人しかいない」と思っていたマニュエラの片岡知子さんと、サウンドスケープは山口優さん。数々の子供番組に、子供向けながらものすごい耳に残る変わった音楽を提供してきた方々だ(「みいつけた!」とか)。
ナレーションは椎名林檎さん。世の中でどうしても一度お会いしてお礼を言いたい尊敬の対象は何人かいるけれども、その中の1人だ。ナレーションをお願いできることになったにもかかわらず、NYにいて録音に立ち会えなかった・・・。しかし、最高の声で説明をして頂いています。
ということで、スタッフィング・キャスティングを含めて、麻雀性にこだわってつくった。細かいものがいろいろ積み上がってできている。
私の子供たちはニューヨークなので無理なのだけど、惜しいことがあるとするならば、自分の子供にやらせたかった・・・。

この土日がラストチャンス。クルマに興味が無い人も、子供がいる人は是非、一緒にビッグサイトにお越しください。一言では説明できない思い出になること請け合いです。
ノンクレ問題が熱いので、[PR]つけてみた。