omote3d

先ごろ、下記のようなツイートを、わざわざ写真までつけてしてみた。



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やってることも同じだけど、ケースがそのまんますぎる・・・。運営している会社は「クリエイティブwww」とか標榜しているみたいだけど、それで良いのかね http://aoyama3dsalon.jp

aoyama

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どういうことかというと、弊社(PARTY社)で昨年の11月から今年の1月にかけてやった「OMOTE 3D SHASHIN KAN」でつくったものとほぼ同じ形状であり、同じ目的で用いられる製品が、全く無関係の類似サービス(AOYAMA 3D SALON)で売り物になってしまっているよね、ということで突っ込みを入れてみた、ということである。けど、これはちゃんと書いといた方が良いな、と思ってしまったのでちゃんと書こうと思う。このツイートのほとぼりが覚めたら、何も無かったことになってしまいそうだからである。

実は、こういうことは初めてどころではなくて、ここまでに多々あった話なのだけれど、まずは「OMOTE 3D SHASHIN KAN」を知らない方も多いかと思うので、ちゃんと説明しておく。下記の映像をご覧頂くと大体わかるのだが、要するに、ハンディの3Dスキャナを使って人の身体の形状データを取り、そのデータを3Dプリントにかけて「立体記念写真」をつくります、というサービスである。



ラスコーの壁画の時代から、人間には何かの姿を「ビジュアルで残したい」という欲求があって、やがて写真というものが発明された。「写真館」という業態は、それを受けて発生したもので、今でも続いている文化でもある。
結婚や子供の入学など、人生における「ここぞ!」というシーンの自分たちの姿は、綺麗な形で残したい。だから写真のプロフェッショナルに撮影してもらって、綺麗にプリントして残す。そういう需要があって、写真館というものは成立している。

私たちがつくったのは、「未来の写真館」だ。通常の写真では捉えることができないその人の空気、後ろ姿や服の皺に至るまで、その人の姿を記念写真ならぬ「記念3Dフィギュア」として残す。そしてそれは、現代の3Dスキャナと3Dプリンタを使用すれば実現できる。
というわけで、表参道GYREの展示スペースでフィギュアのギャラリーと実際に撮影と販売を行う「写真館」スペースを二ヶ月限定で展開した。
表参道にあるから、「OMOTE 3D」。
3Dスキャナで取得した形状の情報を3Dプリントするだけなら、今までにもやられてきたことだし、大して新しいことでも無いと思うのだが、それを実際に撮影できる「写真館」としてサービス展開したのは新しくて興味を引くことだったのだと思う。

実際に、うちの伊藤がこのサービスについてTwitterで発信してからというもの、世界中からものすごく大きな反応を頂いて、今でもひっきりなしに問い合わせのメールを頂戴している状況だ。

「イノベーション」って何なのか。つまらん話だけど、例えば「自動車」はイノベーションそのものなのだと思う。なぜかというと、自動車はいま現在、私たちの生活の中で当たり前になっているものだからだ。本当の「イノベーション」は、それが起こった後に当たり前の存在になってしまうものだ。
それは昔からある。「言葉」だって「文字」だってそう。「農耕」もそうだし「民主主義」もそう。Civilizationに出てくる技術とか思想とかは全部そういうものだ。アルファケンタウリにだって行けてしまうのだ。

そういう意味での「イノベーション」に少しでも関わってみたくて、「将来当たり前になるだろうなー」と思われるサービスを展開することにしたわけである。
このプロジェクトは、PARTYの自社プロジェクトで、クライアントがいない。ゆえに投資を行って実現したプロジェクトだ。

このサービスを展開した後、我々のお店は期間限定だったこともあって、類似のサービスがいくつか始まった。
これに始まり、これとか、あと冒頭に挙げたこれ

先日、カンヌ国際クリエイティビティーフェスティバル(旧・カンヌ国際広告祭)でスピーチをさせて頂いた際にもこれらのサービスに触れて、お話したことなのだけれど、基本的には「将来的に当たり前になると思って始めたわけだし、何にも言われないのはちょっとアレだけど、良いんじゃない?」くらいに考えている(少なくとも私は)。
だって、こういうサービスは3Dスキャナと3Dプリンタとデータ修正のノウハウがあれば(基本的には)実現できるわけだし、初めて実用的な自動車をつくったのはベンツとかなわけだけど自動車をつくってる会社なんて世の中にたくさんあるわけである。

ただ引っかかったのは、これらの類似サービスが、ウェブサイト等における手順の説明の仕方なりプレゼンテーション映像なり「OMOTE 3Dを参考にした」レベルではない似通った表現でプレゼンテーションをしていたからだ。
2つめのやつなんて、知り合いが始めたものなので、なかなかにショックだった。
だからカンヌでは「コピーキャット」という表現を使ったが、別にサービスそのものというよりも、それを表現する方法がそういうわけだったので、「タダ乗られ感」を感じてしまったからなのである。

hikaku

冒頭のケースの件で私が自発的に主張しようと思ったのも、この「表現」に近い部分の話だからだ。
この透明ケースにクラシックな額をつけたケースは、伊藤を中心としたうちのスタッフやタイムトロンの福山さんが、OMOTE 3Dのために時間をかけて考えてデザインしたものなのであって、「最近流行りの3D写真事業に手を出してみました」みたいな話とは違うレベルの話だ。
それでも百歩譲って、この形のケースが将来3D写真ケースのスタンダードにでもなっていくのであれば、良いことなのかもしれない。
しかし、このサービスの運営母体であるサンフライド社廣橋博仁氏平等之博氏は、「クリエイティブコンサルティング」を標榜して、テレビの取材やウェブサイトなどで、自らの「クリエイティブ作品」としてこういった一連の表現をプレゼンしてしまっている。
それは看過できない。私たちは「つくり手」としてつくったもので仕事をさせて頂いているからだ。他の方に「こういうのを自分たちでこういうコンセプトで考えてつくりました」などと言わせておくわけにはいかないのだ。

「3D記念写真」のプロトタイプ、つまり最初のフィギュアは、一昨年の年末にでき上がった。私が仕切っていたプロジェクト、これはクライアントがある案件だったのだが、「3Dフィギュアで家族の記念写真をつくる」というコンセプトのもと、実施に向けて検証を進めていた。
私自身は、3Dスキャンと3Dプリントについて疎かったのもあり、エンジンフィルムの皆様にプロデュースをして頂き、ライゾマティクスの斎藤さんと石橋さんに技術的なリサーチをして頂き、プロジェクトを進めていった。

まずは、人体をなるべく精度の高い形でスキャンするために、スキャナを策定する必要があった。そして、コストに合う3Dプリント業者さんを探す必要があった。
石橋さんにスキャナを探していただき、毎日のように様々なスキャナのテストに出向いたものだ。
そして数週間かけてようやく、一番精度が高く、コストにも見合う形で実現できる撮影〜プリントの流れを見出して、最初のプロトタイプをつくることができた。

「これは面白い!」
プロジェクトの成功を確信した。
そのプロトタイプはエンジンフィルムの千原さん一家のフィギュアをプリントしたものだったのだけれど、どう見てもそれらは千原さん一家そのものであり、千原さんが一生大事にしたくなるような、「写真では残せないもの」が残ったものだったのだ。

しかし、諸々の事情があってプロジェクトが停止してしまった。これには非常に落ち込んだ。しかし、既に3Dスキャナを購入していたのもあり、自分たちのプロジェクトとして必ず実現しよう、と当時のスタッフに宣言していた。
そして数ヶ月後に「写真館」というコンセプトをつくり、表参道のGYREでの店舗展開が決まり、新しいプロジェクト「OMOTE 3D SHASHIN KAN」としてスタートを切ったのだ。

お店の開店日時が決まっている中、急ピッチで実際の店舗運用の準備とサービス展開するための技術検証を進めた。
撮影方法のリサーチ、撮影した3Dデータを3Dプリントするために必要な修正作業の方法策定と人員確保やコストダウン。
ロゴ、店舗を印象づけるポリゴンライクなテクスチャや小物、ウェブサイト。売り物となるケース。内装のデザイン、映像や店舗のインスタレーション、PRまで、伊藤を中心にエンジンさんやライゾマティクスさん含め多くのパートナーとともに、PARTYは社内総動員で追い込んでいった。

どうにかこうにか、本当にギリギリで開店を迎えることができた。
何が言いたいのかというと、私はそうでもなかったが、スタッフはみんな、本当に大変だったのだ。間に合うか間に合わないかギリギリの、胃に穴が空きそうな状況の中でどうにかこうにかこのプロジェクトを船出させることができたのだ。

その先ももちろん大変だった。店舗スタッフもデータ修正スタッフも、ついこの間までものすごく頑張って作業をし続けていた。
制作作業の見積もりが甘く、お客様への説明も不十分となってしまい、納期を遅らせざるを得なくなって一人一人のお客様にお詫びをさせて頂いたりもした。
非常にシビアな運営の中で、私はスタッフとの関係が悪化してしまい、落ち込んでしまって、モチベーションを維持できなくなってしまった時期もあった。打ち上げにも行かなかった。

ともあれ、OMOTE 3D SHASHIN KANをつくったのは、間違いなくアルバイトの皆さんも含めた内外のスタッフみんなだ。OMOTE 3Dでつくったプロセスや表現は、彼らがつくりあげたもので、彼らの作品だと思う。
大阪の水道屋さんからPARTYの3Dデザイナーに転身した市塲くんは、6月にこんなツイートをしていた。

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おわった。
全部終わりましたよ。
やりきりました。
意味わかる人へ
ありがとね。

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要するにOMOTE 3Dのデータ納品がすべて終わった、ということだと思うのだが、事実このとき「やりきった!」という感覚に到達したのは私ではなくて彼らなわけで、彼らにこそ祝杯を挙げる権利があるのだ。

一方、伊藤や私は責任者だから、テレビやらラジオやら雑誌やら講演やらで、「こういうものをつくりました」なんてこのプロジェクトについてお話することも多い。それで注目して頂いて、褒めて頂いて、「おいしい思い」をすることだってある。

その代わり、みんなでつくったものを守る責任もある。
クリエイティブディレクターなんて、良いものをつくるためではあるけれど、基本的にはスタッフに難題を突きつけて解決してもらうようなことばかりだ。
たとえば映像制作で言ったら、普段偉そうに指示を出しながら編集室のカントリーマアムを人よりもたくさん食ったりしているくせに、いざというときにつくったものを守れないような人間は、ただの嫌われ者になるしかない。

だから、こういうレベルで同じ表現を使用している類似サービスを看過してはいけない。日頃からあまりキナ臭いことは考えたくないし、許されるならばずっとCandy Crush Sagaでもやっていたいところだが、仕事上、看過してはいけない。看過すると仕事にならない。

何が問題なのか。プロデューサーの廣橋博仁氏にしても、ディレクターの平等之博氏にしても、「クリエイティブ」という看板でお仕事をされているように見受けられるからだ。
「クリエイティブ」とは、他人が考えてつくったものを何の苦労せずに、工夫も無くそのまま利用することではない。
そもそも、こんなんばっかりだからこの言葉にうさん臭い感じが出てしまうのだ。「私はクリエイターですwww」なんて言っていると、人から信用を失ってしまいそうな感じすらある。実際私も親戚とかからは、全然信用されていない。

ともあれ彼らはそれを、テレビ等のマスメディアで展開している。
そういったメディアやらウェブサイトやらで、「『自分や大切な人のフィギュアなら作ってみたい』という、人間のごくエモーショナルな、アナログな部分に訴える商品を具現化するのがデジタル技術」みたいに「クリエイターwwww」っぽいことを言ってしまっているわけである。

廣橋氏などは、

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大口発注キター!テレビ効果〜〜(⌒▽⌒) http://aoyama3dsalon.jp/

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などという天真爛漫なツイートをされていて、自分が第三者だったらこんなに面白いウォッチ対象はいないであろうというほどのアレな感じなのだが、残念ながら私は当事者だ。とても面倒だ。ちなみに、職業はコアファイターなのだそうだ。
こういう記事を書いて多少なりかかずり合いにならなくてはいけないかもしれないことを考えると、3日くらい会社休んでワンピースを全巻読破したりしたくなってしまう。

平等氏は、自身のfacebookで、OMOTE 3Dのことを取り上げてくださっている。
思わずコメントしてしまった笑。

core

「3D写真館」事業をやるな、なんて思わない(少なくとも私は)。
私たちにとってはそういうものを最初にきちんとやることが1つの目標だった。それはたぶん「つくり手」として、だ(もちろん、この事業はちゃんとビジネスにもつながっている)。
だから、明らかに私たちがつくった表現をそのまま利用しているくせに、それをもって「クリエイターwwww」として承認欲求を満たすようなことを止めて欲しいのだ。

その表現は、テレビにも雑誌にも出ないけど、やるべきことをちゃんと「やりきった」OMOTE 3Dのスタッフがつくったものだからだ。

「PARTY必死だな」とか「パクリと継承の違いは云々」とか「この事件は要するに・・・」とか、いろいろ言う人もいる世界だけど、私にしてみれば、これは大事なものを守るための仕事だ。
相手はテレビなりで多くの人にアピールするし、している。名前と会社名を出してテレビに出ているわけである。
そういうことから大事なものを守るためには、こうしてきちんとお名前やリンクを明記した上で「こういうことがあったよ」ということを残しておかなくてはならないと考えて、こういう記事を書いている。
だから、なるべく拡散して欲しいと思っている。このことの是非は、これを読んだ方にご判断を頂ければ良い。

最近の小学校では、親の名前をインターネットで検索する、という授業があるらしい。弊社の中村洋基なんて大変である。ちょっと検索すれば、うんこ漏らした記事が出てきてしまう。友人として、今から心配で仕方がない。

廣橋氏にしても、平等氏にしても、AOYAMA 3D SALONにしても、サンフライド社にしても、検索してこの記事を発見した彼らの子供たちは、何を考えるのだろう。

私は、自分の名前で仕事をするということは、そういうことだと思っている。
「こういうこと」が特に恥ずかしくも無いのであれば別に良いのだろうけど、恥ずかしいと思うなら単純な話、名前を出して仕事をするのは辞められた方が良いかと思う。

私は、自分の名前で仕事をしたいと思いますし、この記事を大きくなった息子が読んでも恥ずかしいとは思わないと考えていますよ。


=======7/17追記=======

公開してからいろいろな反応を目にしつつも、「特許取ってないお前が悪い」みたいなご意見を頂いてます。
今回は、あまりそこを論点にしてなくって、先方が「クリエイティブ」としてプレゼンテーションしちゃってるところを問題にしていたので、特許については言及しませんでした。

しかしすみません。ここで話題にしている意匠についてではありませんが、今回うちのチームで開発した、3Dスキャナで取得したデータからカラーの3Dプリンタで利用できるデータ修正工程の部分に関しては、結構前に特許出願してます(特許、時間かかるんですよね)。

これらの類似サービスが同じ工程を取っているかどうかは不明ですけど、ここの部分は、私たちがこのプロジェクトを始めた段階では誰も解決策を持っていなかった部分です。正直、これの開発が一番時間かかりました。

上で、「3Dスキャナと3Dプリンタがあれば誰でもできる」って端折って書きましたが、本当のところは「そう簡単なものではない」です。
そういう意味では、各社さんでそこの方法を独自に開発されて、ソリューションに到達しているのだとすると、そこには凄いご苦労があったはずなので、素直に尊敬します。しかし、出願中っちゃあ出願中です。