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ダンスがプログラミングで進化する ー YCAM RAM プロジェクト | サマーキャンプ・レポート – 2015年1月にはダンス公演発表へ

December 24, 2014(Wed)|

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ダンスがプログラミングで進化する3日間のサマーキャンプを実施


山口情報芸術センター[YCAM]とザ・フォーサイス・カンパニーの中心的ダンサーである安藤洋子とともに2010年より継続的に進んでいる共同研究開発プロジェクト「Reactor for Awareness in Motion(リアクター・フォー・アウェアネス・イン・モーション/略称:RAM)」。

昨年、以下の記事でもRAMの仕組みやプロジェクトの取り組みについて紹介している。本プロジェクトについてまだご存知でない方はぜひご覧いただければと思う。

ram_top-640x360メディアテクノロジーを介した身体と知覚の新しい回路
YCAM InterLab+安藤洋子 共同研究開発プロジェクト「Reactor for Awareness in Motion」レポート



そして昨年に引き続きRAMのワークショップが「RAM SUMMER CAMP 2014」と題して今年の夏、3日間に渡り7月19日から開催された。今回はゲストによるレクチャーのほか、ダンスやプログラミングのワークショップとさらに濃密で多面的な内容となった。

ゲスト講師にはモントリオールのコンコルディア大学でデザイン、コンピューテーション・アーツの分野で教鞭をとり、自身もアーティストとして活動するクリス・サルター氏、慶應義塾大学環境情報学部准教授でインタラクティブメディア研究者・デザイナーの筧康明氏、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授で様々な分野で人の感覚・知覚に関わるデバイスを開発する稲見昌彦氏が参加。
プログラマー陣には昨年に続き大西義人氏、清水基氏、新たに開発メンバーとしてアーティスト・プログラマーとして活動する神田竜氏、ひつじ氏、魚住勇太氏らが参加した。

少し時間が経ってしまったが、プロジェクトの歩みやRAMの主要構成要素などの詳細は上記の記事を参照いただき、今回はサマーキャンプの模様をレポートしつつ、現状そして今後のRAMプロジェクトについてお伝えしたい。

また来年の1月24日、25日にはRAMの成果発表が予定されており、興味ある方はそちらもチェックしてほしい。


RAMの現在地


メディアテクノロジーを介した身体と知覚の新しい回路を見出すことを目的として2010年から開始したRAMプロジェクト。2011年にインスタレーション作品「Reacting Space for Dividual Behavior」がYCAMにて発表され、その後も国内外のプロジェクトメンバーが加わり、継続的にツール開発や実験を実施し、ワークショップやシンポジウムなどを重ねてきた。

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2013年2月に開催されたRAMの研究開発チームによる成果発表。写真は安藤と同じくザ・フォーサイス・カンパニーのダンサーであるシリル・バルディによるダンスデモンストレーションの様子。詳しくはCBCNET内の記事へ

RAMではダンスとメディアテクノロジーそれぞれの専門家がコンセプトを共有し、テクノロジーが単なる舞台作品の演出のためではなく、ダンスの一つの本質を捉え、新たな身体表現への昇華させることを模索している。

その主要構成要素となるのは、RAMチームが独自開発したモーションキャプチャシステム「MOTIONER」とそこから得られたデータを扱いやすくし、ビジュアライズに特化したOpenFrameworksで制作されたツールキット「RAM Dance Toolkit」である。このツールキット上では様々なエフェクトやルールをプログラムすることができ、リアルタイムにスクリーンに描写することによってダンサーにフィードバックをもたらすことが出来る。その「ルール」がある環境のことをRAMでは「シーン」と定義している。

これらのツールはYCAM InterLabが中心となり、外部のエンジニア・プログラマーとともに開発されてきた。これまで関わったチームメンバーはこちらで確認することができる。またRAM Dance Toolkitのアプリケーション一式とMOTIONERの制作方法は一般にもオープンソースとして公開されている。(詳しくはRAM特設ウェブサイトへ)

土台となるこれらのツールは数年に渡る研究開発により既に一定の安定感と機能性を獲得しており、現在はこのツールたちを使い、実際にどういった表現や意識への働きかけることができるのか、というアウトプットへ向けての実践段階に入ってきている。そうしたなか、今回のサマーキャンプが実施された。

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今回のワークショップでは6人分用のMOTIONERが用意された

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モーションデータを扱いやすくし、ビジュアライズに特化したOpenFrameworksで制作されたツールキット「RAM Dance Toolkit」 。各種ツールの詳細はRAMのウェブサイトへ。

RAM SUMMER CAMP 2014


ダンサー/振付家とプログラマー、合計約30名が参加した今回のサマーキャンプでは昨年より参加者に対して明確にRAMが目指している方向性が提示された。
まずRAMプロジェクトが想定するダンスとは予め決められた振付や演出から生まれるものではなく、「ダンサーが環境からの情報に対してリアクトする状態を見せること」とし、RAMはダンサーとコミュニケートし、ダンサーの動きを促す環境を生み出すリアルタイムのシステムとして機能するものであるとしている。今回のワークショップでは課題が以下のように設定された。

ダンサーを刺激し、ルールが創発されるシーンを作る。
その際、空間との対話を意識すること。
また、発表はRAMで想定するダンスになっていること。



昨年のワークショップをもとに作成されたプロジェクト紹介ビデオ

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初日にはRAMの全体の説明があったあと、「ワールド・カフェ」というグループを組み替えながら議論をし、参加者同士の知識の共有とつながりを作っていくワークショップを通じ、チーム編成を行っていった。まだこの段階では「RAMが想定するダンス」という部分への理解がなかなか難しいのもあり、それぞれ何かを見出そうとしていた。

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イントロダクション・ワークショップとしてYCAM InterLabの大脇氏によるダンスワークショップが行われた。いくつか簡単な準備運動を経て、小型カメラとモニター、ボールがついた棒などを使い、自身が見える視点とそれに対する意識の持ち方などについて体験するに内容となっていた。

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安藤氏によるダンス・ワークショップ。
身体や空間の捉え方、そして意識の持ち方について、基本的だが日常では意識することが無い感覚を呼び覚ましながら進行していく。

たとえば、単純なゴム紐を両手に持ち「ゴム紐が緩まないように引っ張り、そのテンションを保ちながら移動する」というルールが設けられた。すると舞台上にいる参加者は迷いがなく移動していく。単純なゴム紐ではあるがそれが身体に与える「ルール」が明確であり、同時多発的に複数の事象を意識しないといけない。この自身と他者が共有できる「ルール」を直感的に感じれられる内容となった。

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清水基氏によるプログラミングワークショップではプログラミングを全くやったことがないひとに向けて、コンピューターの仕組みからopenFrameworksを使った簡単な描画方法、そしてRAM Dance Toolkitに実際にその描画が反映されるところまで行われた。プログラミングの経験がないダンサーも数行のプログラムを書くことによりコンピューターの動作やインタラクションが起こすことが出来る仕組みを理解し、各自が楽しそうに実験していたのが印象的であった。

レクチャー


続いて、サマーキャンプでのゲスト講師によるレクチャー。

自身もアーティストとして活動し、パフォーマンス作品を発表しているクリス・サルター氏によるレクチャーでは新たなメディア環境においての動きと時間の体験というテーマで、パフォーマンスの歴史を振り返りながらどのような変容を遂げてきたかを伝える内容となった。フセヴォロド・メイエルホリドやオスカー・シュレンマー、マース・カニンガム、ウィリアム・フォーサイスなどが発表してきた著名なパフォーマンス作品の数々にどのような特性や時代背景があり現在へと繋がっているのか、RAMのコンセプトを考えていく上で貴重な資料が多く見られた。

その内容は2010年にMIT Pressよりリリースされた「Entangled: Technology and the Transformation of Performance」にもまとめられている。(参照リンク

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コンコルディア大学でデザイン、コンピューテーション・アーツの分野で教鞭をとり、自身もアーティストとして活動するクリス・サルター氏。


二日目には筧氏と稲見氏によるレクチャーが行われた。

昨年のRAMワークショップにも参加していた筧康明氏のレクチャーでは人間の五感や物理素材の特性とテクノロジーを掛け合わせることにより、感覚やコミュニケーションを拡張するインタラクティブメディアの可能性を作品の実例とともに紹介された。
YCAMも参加していた触感をテーマとした「TECHTILE」や今年のICCでのオープンスペースで発表されている「HABILITATE」などのプロジェクトが紹介され、人間の身体とその外側ににある他者や社会との関わりを再考し拡張する様々なヒントが散りばめられていた。

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最近ではJINS MEMEなどの取り組みが話題となった稲見氏のレクチャーではのようにヒューマンインタフェース、ロボットを専門とするだけによりドラスティックなテクノロジーによる人間の機能拡張の話となった。

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テクノロジー、環境、人間、他者、などの関係性について多岐に渡る内容となり、多くの点でRAMのプロジェクトを考える上で繋がるところがあった。また、ワークショップとレクチャーを重ねるごとに参加者の意識もどこか拡張し、最終日の発表に向けて講師含めて議論が次第に活発化していくのが顕著に見て取れる日々となった。

3日間を終えての成果発表


RAMプロジェクトの可能性であり同時に難しさでもあるのは、ダンサーがどのようにフィードバックを感じて、どういった感覚が刺激され、リアクトの思考と動作に繋がるのか、というのは実際に試してみないと分からないところだろう。プログラマーがMOTIONERを身につけみると想像と全く異なるフィードバックが感じられることもあるという。
さらには、プログラマーが作ったシーンからフィードバックを得て、ダンサーがシーンに影響を与える「フィードフォワード」という行為の循環を絶えず作り出だしていくにはどういうシステムが有効なのだろうか。

議論と作業は連日深夜まで続き、最後にそれぞれのチームによる成果発表が行われた。各チームからは「スピード」、「バグ」、「時間」などキーワードを軸に様々なフィードバックを与えるシーンが披露された。プログラムの実装には時間を要するため、実際にシーンをダンサーに試してもらい、そのフィードバックの具合を確認し合う時間は十分には無かったのだが、それでも短期間とは思えない内容のものとなった。

安藤氏、クリス・サルター氏、開発陣から各チームへの具体的な感想や提案があり、参加者はさらに制作に取り組みたい様子であった。こうした短時間でもダンサーとプログラマーらが描く視点を擦り合わせていき、RAMが持つ可能性を広げられたのは今後のプロジェクトの発展を期待させるものであった。

以下は発表されたいくつかのシーン。

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体の部位を平面として一反木綿のようになるシーン

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フィードバックが書体になっているシーン。意外にもこのシンプルなアイディアは開発チームでは上がったことがなかったいう。

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ダンスでは「スピード」をどう表現するかという重要な要素になることから、体の部位の移動速度に着目しビジュアライズしたシーン。

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もっとダンサーの人にプログラマーを意識してほしい、という思いから、ダンサーの動きに応じてプログラマーに微量の電流を流すというシーン。痛そうなプログラマーの顔に参加者は大ウケであった。

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「バグ」をテーマにしたシーン。ダンサーの意識を「バグらせる」というテーマのもといくつかシーンが提案された。これは上半身と下半身の距離関係が極端に離れてしまうシーン。

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最後は参加者みんなで「山口」ハンドサインで記念撮影。


RAMの今後、1月には新作ダンス公演


以前のレポートでも記載したが、RAMにはいくつかの課題点もある。
現状のMOTIONERは舞台空間での絶対位置が取ることができない。それにより複数のダンサーがいる場合や空間上に物理オブジェクトがある場合はスムーズにインタラクトできる情報を提供することが難しい。またダンサーからするとMOTIONERを身につけることに抵抗感を感じることもあるであろうし、現状はスクリーンを通じてのフィードバックが中心となっているのも議論の要点となっていた。

もちろん空間の位置情報の取得は光学式センサーやKinectを使った仕組みを利用することで改善は可能であるが、MOTIONERが一定の機能性を有してるからこそ今回のような成果があったのも一面としてある。こうした議論からRAMの次の展開を見出していく必要がある。




20141127_ycam-ramそして来年の1月、RAMプロジェクトの成果を新作ダンス公演として発表されることになった。
発表される作品ではデジタルシステムに加えて、箱庭と呼ばれる小さな実験室が登場するという。新たなコラボレーターとして空間構成には田根剛氏、音楽・サウンドプログラミングにはevala氏を新たに迎え、発表に向けて制作が続いている。この公演からRAMの一つの形が見られるのを楽しみにしたい。

RAMは現在も研究開発が続いているオンゴーイングなプロジェクトであり、興味があるダンサーやプログラマーはプロジェクトサイトからぜひ詳細をご覧頂きたい。

1月の公演の詳細はこちらから。
YCAM RAM「Dividual Plays(ディヴィジュアル・プレイズ)身体の無意識とシステムとの対話」1月24日(土)、25日(日)開催


Article by Yosuke Kurita



「RAMサマーキャンプ2014」
http://www.ycam.jp/performingarts/2014/07/ram-summer-camp.html
http://ram.ycam.jp/
講師:YCAM InterLab、安藤洋子(ダンサー/ザ・フォーサイス・カンパニー)、清水基(プログラマー)、筧康明(インタラクティブメディア研究者・デザイナー/慶應義塾大学環境情報学部准教授)、稲見昌彦(慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授)、クリス・サルター(アーティスト/コンコルディア大学[カナダ]准教授)ほか
日付/時間 :
2014-07-19(土)
2014-07-20(日)
2014-07-21(月)

場所 :
スタジオA /

Information

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YCAM InterLab+安藤洋子
共同研究開発プロジェクト Reactor for Awareness in Motion (RAM) 2014-15成果公演
「Dividual Plays―身体の無意識とシステムとの対話」

http://www.ycam.jp/performingarts/2015/01/dividual-plays.html
http://ram.ycam.jp/

日付/時間 :
2015-01-24(土)19:00開演
2015-01-25(日)14:00開演
会場:山口情報芸術センター[YCAM]スタジオA
料金 :
前売 一般2,500円/any会員・特別割引2,000円、25歳以下1,800円
当日 3,000円
チケット発売日:11月29日(土)

プロジェクト・ディレクション:YCAM InterLab
ダンスコンセプト・ディレクション:安藤洋子(ザ・フォーサイス・カンパニー)

研究開発:
プログラミング・デバイスデザイン:大西義人 神田竜 ひつじ
研究開発コンサルティング:筧康明(慶應義塾大学)
ダンス:川口ゆい 小㞍健太 笹本龍史(METHOD B)

スペシャル・コラボレーター:
空間構成:田根剛(DORELL.GHOTMEH.TANE/ARCHITECTS)
音楽・サウンドプログラミング: evala(port, ATAK)

主催:公益財団法人山口市文化振興財団
後援:山口市、山口市教育委員会、大阪ドイツ文化センター
平成26年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業
本事業は宝くじの助成を受けて実施しています。
協賛:資生堂
共同開発:YCAM InterLab
企画制作:山口情報芸術センター[YCAM]


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