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新津保 建秀『\風景+』を考察する Vol.1

January 11, 2013(Fri)|

現在、写真家・新津保建秀の個展『\風景+』が代官山ヒルサイドテラスで開催されている。新津保は広告や雑誌、Webなど多数のメディアでの撮影で多忙を極める一方、複雑系科学研究者・池上高志とのコラボレーションや渋谷慶一郎、東浩紀らとの交流など、様々なフィールドで多様な顔を見せる写真家だ。2012年4月に発行された写真集『\風景』(角川書店)および本展覧会では、新津保のある到達点とも呼ぶべき新たな挑戦を見ることができた。


当然のことながら、これまで写真家の「色」を決定づけるものといえば、被写体の選択や手法を伴うその作風にあっただろう。他に類を見ない独自のカラーを見出すことが写真家を写真家たらしめる重大な要素であるとすれば、もちろん新津保もそのひとりだ。ある人物の一瞬が時間軸を超えた透明な空間に誘われるようなポートレートや、柔らかな光とその場の静寂な空気を繊細に写し出す新津保独自の「色」に魅された者は数多い。しかし、『\風景』シリーズには、まるで写真家本人が築いたその色をも無効化するような異質な空間が漂っていた。

プロセッサの処理限度を超えて画像の一部が失われたラップトップ画面、Google Maps、ハードディスクに収められた膨大な画像を読み込む際のワンシーンなど、一見「写真」とは呼びがたいイメージが続く。それは都市に生きる人間にとって、山や河などの自然物を差す大文字の「風景」よりも、よっぽど目に慣れた景色かもしれない。しかし、ここに続く景色はある種の匿名性をはらんでいる。ページトップに掲載した写真を見てほしい。私たちが「新津保らしい」と感じる美しいグリーンの景色が一部見えるも、その半分以上がグレーで覆われてしまっている。まるで自らを否定するようなこの写真は、タイトル「\風景」に込められた意味を充分に示唆している(「\(バックスラッシュ)」とは、その後に続く対象を無効化する意味を持つプログラミング用語だ)。

本展『\風景+』はこうした写真家自身の態度も含め、写真という視点から、デジタル/ネットワークと深く交わる私たちの環境を問う示唆に富んだ展覧会である。本稿後半では、展覧会2日目(2012年12月19日)に開催されたトークショー(登壇者は新津保、クリエイティブ・コモンズ理事兼株式会社ディヴィジュアル代表のドミニク・チェン、「美術手帖」編集長の岩渕貞哉、モデレーターは本展キュレーターの四方幸子)から、新津保が提示したいくつかの問いを読み解いていきたい。


トークショー「風景を記述する試み」
新津保建秀、岩渕貞哉、ドミニク・チェン、四方幸子


新津保建秀、「見えないもの」を撮るとは?



新津保: 今回は、2012年の春に発表した写真集を軸に新作のカメラ・オブスクーラとこれまでの池上高志さん、岡瑞起さん、橋本康弘さんたちとの恊働作業との集積、雑誌「思想地図β2」で東浩紀さん、藤村龍至さんたちと取材した原子力災害対策特別措置法に基づいて警戒区域に設定される直前の福島県浪江町の写真、渋谷慶一郎さんやevalaさん、相対性理論の皆さんとの作業など、ここ数年に複数の場に発表してきた作品が相互に関連しあう構成の展覧会になっています。
まず今回の写真集についてお話したいと思います。 写真集自体の着想は2002年に取り組んでいた都市の中の生活圏とそうでない場の境界を捉えた連作です。そのとき考えていたのは僕たちの生活環境のなかにある光学的にとらえるのが困難な不可視のもの、たとえばその場にまつわる言葉の連鎖や、ネットワーク上の膨大な情報の流れなどをある種の自然として抽象化することで、非光学的な無意識の風景が立ちあがるのではないか、ということでした。
その一年前の2001年から取り組んでいた写真による図形楽譜の連作も大きかった気がします。90年代の終わりごろ、ラップトップの処理速度がどんどん高くなってMax/MSPJitterやさまざまなオープンソースのプログラムで音から映像を生成したり映像から音響を生成することなどが容易になってきました。表現形式の境界が一気に溶解し始めた環境の中で、音楽の変容と写真の歴史を対比させて制作していた作業が伏線としてあったように思えます。

その後、代官山にあるヒルサイドテラスにアトリエを移したご縁で、オーナーの朝倉家の皆さんや朝倉不動産の方から猿楽町にまつわる古い写真やアーカイブ資料を見せていただいたり、私家版の本をいただいたことでも作業が大きく進みました。2006年にこの場に事務所を構えるGRAPHの北川一成さんと仕事で出会った際、そのとき取り組んでいた一連の作品を見せた時にこの場を撮ることを勧められました。ヒルサイドテラスのある猿楽町は知れば知るほど興味深い空間で、古い歴史を持った古墳と隣り合わせに今のような建築空間があります。土地、建造物、そして人の生活の営みの痕跡、音や匂いそれぞれのレイヤーが多層的に重なる人と環境の間にある見えない部分にこそこの場と建築空間の本質があると感じました。北川さんはデザインの「余白」の概念を重視していると話されていましたが、それは自分が写真のなかで探っていたことと近く嬉しかった記憶があります。またクラブヒルサイドの前田礼さんから、越後妻有の古い集落をご案内いただいたことも新鮮でした。2007年にリスボン建築トリエンナーレという展覧会に参加したとき、場所に連なる人々の営みや感情、言葉の堆積、そうした土地の「見えない」部分や分節化が難しい層を軸に捉えることができないかと考えるようになったんです。


新津保: 2008年に角川書店の社長の井上伸一郎さんから乙一さんの小説とのコラボレーション依頼が来たことがあります。この本は架空のストーリーに僕の写真を添えるというものだったのですが、言葉によって紡がれた風景に実際ある風景の写真を重ねていくという試みは、そのとき考えていたこととリンクするものがありました。(『GOTH モリノヨル』乙一、新津保建秀/角川グループパブリッシング)
そして2009年に池上さんと「Rugged TimeScape」という連作と、彼が2010年にYCAMで発表した「MTM [Mind Time Machine]」というインスタレーションでの映像部分を一緒に取りくんだ直後から一気に完成に進みました。

実は写真集の画像のセレクトと構成が完成したのは2011年3月11日の午前0時をちょうどまわったときでした。その日の午前中に角川書店で打ち合わせを終えたものの、午後に発生した震災の影響で刊行は翌年になってしまうのですが、最終的にはその後に行った「思想地図β」で福島県での取材での浪江町の写真を加え入稿としたことによって、全く期せずして3.11前後の社会の時間軸と生活圏域の断層が入ってしまった気がしています。ちょうど地震があったとき僕がいた場所が今回この展覧会が開催されているこのヒルサイドフォーラムでしたので、ここで展示の機会をいただいたことは不思議な必然性を感じています。


……以降、岩渕貞哉氏、ドミニク・チェン氏との対談は[Vol.2]につづく。

新津保 建秀『\風景+』を考察する Vol.2

*参照「カルチュラル・ランドスケープ・アーキテクチャ・バイ・ロー / 第3回 Between images and us」
http://antenna7.com/dialogue/2012/12/clabl_3_between_images_and_us.html
クリエイティブ・コモンズ水野祐氏による、現代の著作権や肖像権を巡るカルチャー論。Vol.3ではWebと写真の関係から様々な写真家を紹介している。ぜひご参照を。


Text by Arina Tsukada

Information

新津保 建秀 個展「\風景+」
http://shintsubo.clubhillside.jp/
2012年12月18日(火)– 2013年1月14日(月・祝)
年末年始(12月28日–1月7日)休
11:00–19:00
ヒルサイドフォーラム(代官山ヒルサイドテラスF棟)
http://www.hillsideterrace.com/access/
入場無料

「風景を記述する試み」
12月19日(水) 19:30-21:30
出演:ドミニク・チェン(株式会社ディヴィデュアル共同創業者)
   岩渕貞哉(『美術手帖』編集長)
   新津保建秀
司会:四方幸子
会場:ヒルサイドフォーラム(定員70名)
主催:クラブヒルサイド


電子書籍版写真集
BOOK☆WALKERにて発売中
Amazonにて近日発売予定

『\landscape』
*写真集『\風景』をふまえて再編集された電子書籍版。
著者:新津保建秀
希望小売価格:735 円 ( 税込 )
グラフィック:田中良治 (Semitransparent Design)
発行元:角川書店
http://bookwalker.jp/pc/detail/0594884a-84f9-4436-a81c-6853b6366795/

『\landscape_archive_7.5』
*個々の写真から新たな風景を作り出すという、電子書籍というメディア空間を考察して生まれた実験的な作品集。 アーカイブの集積をiPadの画面上で切り取り、重層化したイメージの習作。
著者:新津保建秀
希望小売価格:735 円 (税込)
グラフィック:田中良治 (Semitransparent Design)
発行元:角川書店
http://bookwalker.jp/pc/detail/c595ccb6-6fd9-4c08-9b71-2f361eabce92/


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