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過去と未来のまんなかで広がり続けるいまの「本」を考える、メディアなんでも書店 「TRANS BOOKS」情報媒体に向かい合う
編集者・都築響一トークイベントレポート<前半>

November 5, 2019(Tue)|



今年も2019年11月23日(土)、24日(日)の2日間、開催が決定しているブックフェア「TRANS BOOKS」。(開催情報はこちら

「TRANS BOOKS 2018」作品レポートに引き続き、昨年のトークイベントに関しても前半後半に渡って振り返っていく。




あえて水に濡らして乾かすことでダメージを加えた雑誌、詩が書かれたステッカーの貼られたコッペパン、USBに収録された写真集。会場内には本と呼んでいいのか迷ってしまう自主制作本が陳列される。

一般の書店だけでなく既存のブックフェアでも並ばない、本にまつわる情報媒体の可能性を拡張させるブックフェア「TRANS BOOKS」が、2018年11月24日(土)、25日(日)に開催された。会場は初回に引き続き、神保町のコワーキングスペース「TAM COWORKING TOKYO」。

時代の変化によって現れるリアリティをメディアに落とし込みたいという思いから始まったこのブックフェア。ここで扱われる少部数の自主制作のZINEやミニコミは、編集方針や形状も自由だ。運営メンバーによって選出された作家による、この日のために制作された本(のようなもの)が数多く販売された。

このブックフェアの面白い点は、展示スペースに置かれた作品を共通レジで購入する仕組み。多くのブックフェアは、ブースに制作した本人が座って頒布する枠組みだが、本人がいないゆえに立ち読みがしやすい。また作品が厳選されているので、すべてを1時間あれば立ち読みできるのも魅力のひとつだ。

2010年代、音楽シーンではカセットテープのリバイバルがあり、旧来のメディアを新たに捉え直す動きもある。また、今年12月にはニューヨークでテクノロジーを用いたZINEフェア「New York Tech Zine Fair」が初開催されたということもあり、今の時代と呼応する催しに捉えられる。

新興メディアに挑戦する先人の経験談

他にないブックフェアの開催を記念して、出展作家の一人、編集者であり写真家の都築響一氏をゲストに、トークイベント「本―溶解するメディア」が11月24日に行われた。

都築氏は、編集者としてキャリアが長く、紙媒体だけでなくメールマガジンなどの電子書籍にも果敢に取り組み、各メディアの特性を理解しながら編集を続ける。その経歴もあって、会場は立ち見が出るほど満員になった。まずは本人のキャリアから始まって、雑誌、メルマガ、電子書籍(Kindle/iBook)、USBメモリなど関わったメディアの違いについて語った。

都築:キャリアの最初は20代の頃から雑誌『ポパイ』でバイトを始めて、最初の10年間は雑誌を担当して、それから書籍を作るようになった。雑誌で連載をしてそれを単行本にすることをずっと繰り返してきた。だんだん自分の企画を編集部に説得するのが難しくなってきて、嫌になった。全国で流通する雑誌を作るには数千万円かかる。それで、2012年からメルマガ『ROADSIDERS’ Weekly』を始めた。毎週水曜日の朝にメールで届く。画像だけで200点入っていて、文字も一万字は入っている。週に一回送って月に1000円貰っていて、なんとかやってきて8年目になった。そのスピンオフとして単行本を作ろうと思って作り始めたのが電子書籍。とにかく画像がいっぱいある本を作りたかった。昔作った写真集を復刊してと版元に言っても全然対応してくれないこともあった。




共有しやすい媒体としてUSBメモリを選択

都築:今、電子書籍の出し方は二つしかない。KindleかiBooks。Kindleの致命的な欠点はテキストに最適化していること。高解像度で綺麗な本を作りたいなら、AppleのiBooksしかない。でもiBooksはAppleの検閲が入るからエログロはダメ。それはデジタルの思想に反してる。それと電子書籍には古本という概念がない。つまり友達に貸すことも売ることもできない。基本的に自分のところに囲い込もうとしている。囲い込みというのはデジタルと正反対。音楽はいまタダで聴けて、良いと思ったらCDを買ったりライブに行くというように商売が拡がっている。でも本は逆行している感じがする。

だから自分で作るしかないということで、『ROADSIDE LIBRARY』を作った。アプリ内の販売は囲い込みだからやりたくなかった。アプリなしで見れるPDFで作ろうと思った。高精細な写真を拡大して見ることもできる。コピープロテクトはつけなかったのでコピペし放題。CD買うのと一緒。どんなにデータが大きくてもいい。泣く泣く落としたカットをいくらでも入れられる。だからフィルムで撮った昔のカットをスキャンして追加した。USBメモリに入ってる本のデータは1GBぐらいある。最初はダウンロードにしようと思ったが、iPhoneには入らない。そしたらUSBメモリ版でしか売ることができなかった。普段から使えるUSBメモリとしても使えるし、あと、世界中で同じ値段が売れるのが嬉しい。




電子化をきっかけに消えゆく文化をアーカイブ

都築:北海道から九州までの秘宝館をずっと撮ってきた。これ以上の秘宝館のデータはこの世に存在しない。なぜなら潰れてるから。作って面白かったので、次はラブホテルを作った。データにするためにフィルムのスキャンをし直した。当時の8割くらいのラブホテルがすでに廃業しているのでここでしか見れない。一昨年出したのは巨大なグランドキャバレーのベラミから発掘された、60年代のキャバレーの踊り子さんの1500枚の写真が見つかって、全部スキャンして全部載せた。ちなみに、東京からもキャバレー文化が消えようとしている。グランドキャバレーの踊り子さんたちは、それぞれ特技があって、ほかの踊り子と差別化を図っていた。逆立ちして踊ったり、サックスを拭きながら脱いだり、金粉ショーをしたり、マジックするとか夜光落書きショーとかで仕事をもらっていた。






出世作である初めての写真集も電子化

都築:この間、『TOKYO STYLE』をUSBメモリ版で出した。最初に出した大型本の版元も倒産した。文庫本は小さいので、落とした写真もたくさんある。そこで全部スキャンし直してUSBメモリで出した。金持ちの部屋はパーソナリティがわからない。狭い部屋はその人のパーソナリティがわかるのが面白い。写真は拡大すれば、持ってるカセットテープのタイトルまでも読めるくらい高精細になる。USBメモリに1000カットくらいは入っている。PDFをコピープロテクトしてないからどうにでも使える。紙の本は金の勝負で、でかくていい本が勝つから、金が無い人ならそこを考えなくちゃいけない。ただ、デジタル化によってサイズの呪縛から逃れた。文庫本は1メートルの本に負けるけれど、デジタルデータは写真を拡大できるからどれで見ても一緒。デバイスや金の優劣から逃れられるのはすごく大きい。既存の大企業の仕組みから逃れられないと、本当に面白い電子書籍は作れない。そういうことはやり始めてわかった。それと、この間、渋谷のアツコバルーで18禁の世界のグロだけを集めた展覧会「渋谷残酷劇場」を行った。壁全体を巨大なプリントで埋め尽くして800枚の写真を出して、20メートルのデータも作った。「THE TOKYO ART BOOK FAIR」では、何百ブースもあるのに電子書籍のブースがうちしかなかった。紙の本にこだわるのはアート業界だけ。紙でしか出来ない表現はあると思うけれど、多くのアートブックは趣味だと思う。僕のやっていることは報道だと思っていて、手触りとかイメージとか言ってられないわけで、1文字でも多く1枚でも多く写真を載せたい。そうやっていくと、電子化しかありえなかった。もっと違う世界が広がっているということを伝えていきたい。





運営メンバーから編集者への問いかけ

都築のキャリアを通してメディアごとの差異が伝わるプレゼンテーションから、TRANS BOOKS運営委員会のメンバー(飯沢未央/畑ユリエ/萩原俊矢/齋藤あきこ)との対話へと続いた。

齋藤:コピープロテクトを掛けずに販売をして、二次利用してしまう人がいることは心配にならないか?
都築:そんな事を考えている時点で負け。その程度ということ。音楽の人はそんな事考えていない。音楽のほうがはるかに先に行っている。そんなことよりも一人でも多くの人に聞いてもらうようにしないと。コピープロテクトについて考えるのはベストセラー作家になってからにしてほしい。

萩原:Webメディアはデータがいくらでも入ったり、永遠とスクロールできるから、きりがなく編集が難しい。Web メディアを編集するとはどういうことか?
都築:スクロールを止めなくていいのがWebメディア。いまの多くのWebメディアは、ベースに金があってクリック数を稼ぎたいだけ。ページが分かれていて読みにくいものが多い。若いライターは、1ページ目に売れるものを入れろと言われる。Webの特質と逆行している。商売の論理もあるかもしれないけれど、これから始める人はその反対を行ってほしい。つまり編集しなくていいのがWeb。本と同じ編集方法をWebに適応させようとすること自体が間違っていると僕は思う。本のデザイナーとWebデザイナーが両立できないのは、方法論がぜんぜん違うから。

Webには完成はなくていい。どんどん変わっていけるから着地点だけあればいい。印刷本は変えられないから完成させなくてはならない。究極的に行くと、本とWebの違いは俳句とラップだと思う。17文字に削ぎ落とすのは俳句。Webは千行でいい。長い方がかっこいい。短く完結した現代詩じゃないんだからビートに乗せて言っていくこと。だからクリック稼ぎはやめてほしい。自分で作るものは他の人と違うものを作ってほしい。ここ変えたいとか間違いがあったと場合には、買ってくれた人に修正したデータを送る。DVDと一緒にQRコードを入れてアップデート情報を送っている。音楽もリミックスができる。本もそういう風になった。

畑:紙には権威がある。Webで執筆している人のテキストが本になると「おめでとう」と言われるのはなぜなのか? 
都築:本の場合は国会図書館がある。残すことへの意識が何百年も前からあった。Webは出来たばっかりなので、残していこうというムーブメントは少ない。そういうことをしている団体は少しある。だから自分のメルマガでも「絶滅サイト」という連載をやっていた。本の方が重きを置かれるのは、作るのに覚悟がいるからだと思う。

飯沢:日本の Web メディアの強度はどうやったら出せるのか?
都築:海外は苦しいから身売りになったりしているけれど、まだ日本は売れている。海外の新聞社がなんとか生き残ろうとしてたどり着いたのがWebである。日本の新聞社は余裕があるから動かない。出版社もそう。世界で一番簡単に本が出せるのが日本。アメリカだと厳しい。ヨーロッパは学閥の世界。日本では「飲んで盛り上がって本出そうぜ」みたいになるぬるま湯。コミケに大量に客が集まったり、日本は恵まれているということをわかってほしい。台湾は自主で一番綺麗な本を作っているけれど日本のマーケットの100分の1。なぜかというと大手の出版社がぜんぜんないから。ひどいところから良いものは生まれてくる。だから日本は環境がいいから、あんまり努力しなくてもいい。

萩原:以前のウェブ表現は自由度が高く、初期衝動でWebサイトをつくる人がおおかったけれど、いまはユーザのあらゆる行動をトレースできるので、デザインが美しいとか内容が面白いではなく、クリック数などのコンバージョン数が正義のようになっている面がある。そこに対する違和感がある。欧州では GDPR が施行されたり、企業優位に評価と解析がされる現状に不安を覚えるひともいるのでは。
都築:電子書籍とWebは分けた方がいいと思う。ただ、電子書籍とWebがシームレスにつながっているものもある。世界で一番すごいと思うWebマガジンは『ナショナルジオグラフィック』。アメリカ版は安いからみんな買って。よく出来てる。コンバージョンとか解析とかそういうことも乗り越えた先の完成度を目指しているメディアは少なからずある。いつかこういうものを作りたいと思う。DVDとかではなく、Webという世界の巨大な本棚と繋がっている良さがある。ただ、Kindle版は唖然とするくらい売れない。本を作ってきたのでよく分かるけれど、本の限界がすごくわかった。電子化で出来ないことが出来るようになった。この歳になって武器が2個に増えて嬉しい。

飯沢:電子メディアを買えるブックフェアがないことは気になっていた
都築:でも、ここでも手焼きDVDを売っていない。昔ZINEという言葉がなかった頃、パンクなどコピー本は価値があった。風合いを求めていたわけでなく、安く作れたから。その時に一番安く作れる方法で作るのがいい。今一番金のないやつが本をつくるとしたらどうするかを僕は考えている。簡単なデジタル書籍にしてPaypalで売る人たちが何人もいて、なんだこうやりゃいいんじゃんと思った。日本のベテランエロ漫画家が、再販してくれない昔の漫画を手焼きのCD-Rで売っていたりもした。その時で一番安いメディアを探すべし。プラットフォームはいきなり消滅するから、noteはよくできていると思うけど、あんまりひとつのシステムに頼るのは危険だと思う。いま地下アイドルの取材をしていて、彼女たちはだいたい手焼きのCD。

萩原:いまブックフェアが増えてる。売り手と買い手が対面することの有用性は?
都築:電子本も対面が基本。ブックフェアが増えてるのは本屋がつまらなくなったから。この辺の古本屋も9割ダメ。努力してない。旧態然の本屋が古本屋の街になってる。新刊屋もそう。面白い本にアクセスできる環境が少なくなってる。amazonの検索では出会えない本がある。選書は選ばれてるからダメだけど、本屋はあいうえお順になってるのがいい。そこで出会いが生まれる。




text:高岡謙太郎
会場風景写真・作品写真: 市岡祐次郎


(後半に続く)


Profile

都築響一
1956年東京生まれ。ポパイ、ブルータス誌の編集を経て、全102巻の現代美術全集『アート・ランダム』(京都書院)を刊行。以来現代美術、建築、写真、デザインなどの分野での執筆・編集活動を続けている。93年『TOKYO STYLE』刊行(京都書院、のちちくま文庫)。96年刊行の『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』(アスペクト、のちちくま文庫)で、第23回木村伊兵衛賞を受賞。その他『賃貸宇宙UNIVERSE forRENT』(ちくま文庫)、『現代美術場外乱闘』(洋泉社)『珍世界紀行ヨーロッパ編』『夜露死苦現代詩』『珍日本超老伝』(ちくま文庫)『ROADSIDE USA 珍世界紀行アメリカ編』(アスペクト)『東京スナック飲みある記』(ミリオン出版)『東京右半分』(筑摩書房)など著書多数。最新刊は『捨てられないTシャツ』(筑摩書房、2017年)。現在、個人で有料メールマガジン『ROADSIDERS’ weekly』を毎週水曜日に配信中。
http://www.roadsiders.com/

齋藤あきこ
フリーランスのライター/エディター/コーディネーター。比類なき「ゲーム帝国」で本名明かしの刑を受けた実績を持つ手負いの獣。
https://note.mu/akiko_saito

飯沢未央
アーティスト/会社員。時間と生命についての、哲学・科学・美学的リサーチと考察を背景として、電子デバイス、映像作品、空間インスタレーションなど、多彩な作品を制作してきた。 が、最近は本の制作に興味が移行。最新作は市販のチキンからDNAを取得し、元の鶏の性別を判定し、アーカイブした「the Male or Female」を発表。現在は生命の個体差、個性に着目し、次回作に向けてリサーチ中。TRANS BOOKSでは出展者とのコミュニケーションなど、イベント運営に伴う諸々な業務を担当。
http://iimio.com/

畑ユリエ
グラフィックデザイナー。美術関連の展覧会/教育普及/作品集などのアートディレクション・デザインを行う。TRANS BOOKSにおいても、グラフィックデザイン全般を担当。アートディレクション側からコンセプトを考え、毎年違うクリエイティブの提案を行う。
http://www.hatayurie.com/

萩原俊矢
プログラムとデザインの領域を横断的に活動しているウェブデザイナー/プログラマ。ウェブデザインやネットアートの分野を中心に企画・設計・ディレクション・実装・デザイン・運用など、制作にかかわる仕事を包括的におこなう。2015 年より多摩美術大学統合デザイン学科非常勤講師。 Cooked 、 flapper3 、 cbc-net 、 IDPW などいくつかの団体にも所属。TRANS BOOKSのウェブサイトの制作も担当。斬新なレスポンシブサイトが毎回話題を呼んでいる。
http://shunyahagiwara.com/


開催情報

「TRANS BOOKS」
https://transbooks.center/2018/
日程:2018年11月24日(土)、25日(日)
入場料:無料
オープン:11:00〜18:30
トークイベント:24日(土) 18:30〜

会場:TAM COWORKING TOKYO (神保町)
https://www.tam-tam.co.jp/coworking/
住所:〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-28-9三東ビル1F

◎出展作家一覧(敬称略)
・阿児つばさ、雨宮庸介、飯沢未央、梅田哲也、九鬼みずほ、さわひらき、辰巳量平、西光祐輔、hyslom、船川翔司、堀尾寛太、松井美耶子、山本麻紀子、柳本牧紀(船先案内人)
・飯田竜太 (彫刻家・美術家)
・伊東友子+時里充(制作・執筆+アーティスト)
・UMISHIBAURA(パブリッシャー)
・edition.nord consultancy + poncotan w&g (本作りの相談業務+レーザープリント印刷・製本工房)
・olo(架空紙幣作家)
・齋藤祐平(古書店員)
・mmm(サンマロ)(解釈者)
・鹿(会社員)
・新津保建秀(写真家)
・stone(テキストエディタ)
・TADA+STUDIO PT.(Photographer+Design Studio)
・永田康祐(アーティスト)
・Hand Saw Press(リソグラフ印刷スタジオ)
・パーフェクトロン(アートユニット)
・hitode909(プログラマー)
・福永信+仲村健太郎(小説家+グラフィックデザイナー・ブックデザイナー)
・PROTOROOM(MetaMedia Collective)
・山中澪+池亜佐美(アニメーション作家)
・ROADSIDERS 都築響一(有料メールマガジン発行 / 編集者・写真家)
・youpy(プログラマ)
・渡邉朋也(美術家 / タレント)


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